第3号被保険者制度は本当に不公平なのか 専業主婦だけを見ても答えが出ない理由編

FP
緑 赤 セミナー ブログアイキャッチ - 1

国民年金の第3号被保険者制度をめぐる議論では、「不公平」という言葉がよく使われます。

第3号被保険者は、厚生年金に加入する会社員などに扶養される一定の配偶者です。

本人が国民年金保険料を直接納めなくても、第3号であった期間は原則として保険料納付済期間として扱われます。

そのため、

保険料を払っていないのに年金を受け取れるのは不公平ではないか

という疑問が生まれます。

特に独身会社員、共働き世帯、自営業者世帯などと比較すると、負担の違いが目立ちます。

しかし、第3号制度の公平性は専業主婦だけを見ても判断できません。

誰と誰を比較するのか。

保険料だけを見るのか。

育児や介護などの役割まで考えるのか。

何を公平と考えるかによって結論が変わります。

なぜ第3号は不公平だといわれるのか

第3号被保険者制度が不公平だといわれる最大の理由は、本人による国民年金保険料の直接負担がないことです。

第1号被保険者である自営業者などは、原則として自分で国民年金保険料を納めます。

第2号被保険者である会社員などは、給与などに応じて厚生年金保険料を負担します。

一方、第3号被保険者は本人が国民年金保険料を直接納付しません。

それでも第3号期間は、原則として老齢基礎年金につながります。

この違いだけを並べれば、

保険料を負担する人

直接負担しない人

が同じ基礎年金制度に存在していることになります。

不公平だという疑問が生まれるのは自然です。

独身会社員と比較するとどう見えるのか

まず、独身会社員と第3号被保険者のいる会社員世帯を比べてみます。

独身会社員は厚生年金保険料を負担します。

会社も事業主負担分を負担します。

一方、会社員の配偶者が一定の要件を満たして第3号被保険者になっている場合、その配偶者本人は国民年金保険料を直接納めません。

しかも、会社員本人の厚生年金保険料が、

配偶者が第3号だからその人の分だけ上乗せされる

という仕組みではありません。

同程度の給与であれば、配偶者がいることだけを理由に厚生年金保険料率が高くなるわけではありません。

そのため独身会社員から見れば、

自分も保険料を負担して制度を支えているのに、第3号の配偶者がいる世帯には追加負担なしで基礎年金の権利が生まれる

ように見えます。

これが不公平論の一つです。

共働き夫婦と比較すると違いがさらに分かる

次に、共働き夫婦と比較してみます。

夫婦とも会社員として厚生年金に加入している世帯では、夫も妻も第2号被保険者です。

それぞれの給与などに応じて厚生年金保険料を負担します。

一方、夫が会社員で妻が第3号被保険者という世帯では、夫は厚生年金保険料を負担しますが、妻本人には国民年金保険料の直接負担がありません。

つまり同じ夫婦2人でも、

夫婦とも保険料を負担する世帯

と、

一方が保険料を直接負担しない世帯

があります。

共働き世帯が増えるほど、この違いが目につきやすくなります。

第3号制度が作られた時代と比べて公平性の議論が強くなった理由の一つです。

自営業者の配偶者と比べるとさらに大きな違いがある

第3号制度の公平性を考えるうえで、特に分かりやすいのが自営業者世帯との比較です。

例えば夫が自営業者で妻が専業主婦という世帯を考えます。

夫は国民年金の第1号被保険者です。

妻も原則として第1号被保険者になります。

会社員の配偶者ではないため、第3号被保険者になることはできません。

つまり、妻に収入がなくても原則として自分の国民年金保険料を負担します。

一方、会社員の夫に扶養される専業主婦で一定の要件を満たせば、第3号被保険者となり、本人による国民年金保険料の直接負担はありません。

同じ専業主婦でも、

夫が会社員なのか

夫が自営業者なのか

によって年金保険料の扱いが違うのです。

ここは第3号制度の公平性を考えるうえで非常に重要な論点です。

無収入なら全員第3号になれるわけではない

第3号被保険者について、

収入がない人のための制度

と理解すると、この違いが分かりにくくなります。

第3号は単なる低所得者支援制度ではありません。

収入がないことだけで第3号になれるわけではないからです。

独身で無収入の人は、第3号にはなれません。

自営業者の無収入の配偶者も、第3号にはなれません。

第3号になるには、厚生年金に加入する第2号被保険者に扶養される一定の配偶者である必要があります。

つまり第3号制度は、

所得が低いから保険料を負担しなくてよい

という制度ではなく、

一定の会社員などの配偶者だから特別な区分になる

という制度です。

ここが不公平論の根本にあります。

それなら第3号は完全に不公平なのか

ここまでを見ると、第3号制度は明らかに不公平だと思えるかもしれません。

しかし、制度が作られた背景も考える必要があります。

第3号被保険者制度が始まったのは1986年です。

当時は現在よりも、夫が会社員として働き、妻が家事や育児を担う世帯が多く存在しました。

専業主婦には賃金収入がありません。

しかし家庭の中では家事、育児、家族の世話などを担っていました。

こうした配偶者にも本人名義の基礎年金を保障する必要があるという考え方が、第3号制度の背景にあります。

つまり第3号制度は、

何もしていない人を優遇する制度

として作られたわけではありません。

当時の家族と働き方を前提として、配偶者の年金権を保障する役割がありました。

家事や育児をどう評価するのか

公平性を考えるときに難しいのが、家庭内の無償労働をどう評価するかです。

育児や介護、家事には通常、給与が支払われません。

しかし、社会にとって必要な活動です。

例えば乳幼児を育てているために仕事を離れた人について、

働いていないのだから年金保険料を全額負担すべきだ

と単純に考えてよいのかという問題があります。

介護についても同じです。

家族の介護を担うために仕事を辞めたり、勤務時間を減らしたりする人がいます。

こうした人への社会保障上の配慮には一定の合理性があります。

問題は、その支援を、

会社員の配偶者であること

によって行うべきなのかという点です。

配偶者という身分で支援することへの疑問

現在の第3号制度では、育児や介護をしているかどうかが直接の要件ではありません。

会社員などの第2号被保険者に扶養される一定の配偶者であれば、第3号になることができます。

逆に、育児や介護をしていても、第2号被保険者の配偶者でなければ第3号にはなれません。

例えば自営業者の妻が育児に専念していても、原則として第1号被保険者です。

独身者が親の介護のために仕事を辞めても、第3号にはなれません。

このため、

育児や介護を支援する必要がある

ことと、

第3号制度を現在のまま維持する必要がある

ことは必ずしも同じではありません。

支援が必要なら、配偶者という立場ではなく、育児や介護という事情そのものを基準に支援する方法も考えられます。

世帯単位の公平と個人単位の公平

第3号制度には、もう一つ重要な視点があります。

社会保障を世帯単位で考えるのか、個人単位で考えるのかという問題です。

夫婦を一つの生活単位として考えれば、

夫が保険料を負担して家族全体を支える

という考え方には一定の分かりやすさがあります。

しかし個人単位で考えると、

妻本人は保険料を直接負担していない

という点が目立ちます。

共働き世帯が増え、夫婦それぞれが働き、それぞれの収入を持つ社会になるほど、個人単位の考え方が強くなります。

その結果、第3号制度と現在の社会とのずれが大きく見えるようになります。

男女の問題だけでもない

第3号被保険者には女性が多いため、第3号制度は専業主婦の問題として語られがちです。

しかし制度上は性別だけで決まるものではありません。

妻が会社員として厚生年金に加入し、夫が一定の扶養要件を満たせば、夫が第3号被保険者になることもあります。

したがって本質的な問題は、

女性を優遇しているか

ということだけではありません。

厚生年金に加入する人の配偶者を、社会保険上どのように扱うのかという問題です。

ただ、実際には第3号被保険者に女性が多いため、女性の働き方や就業調整との関係が特に大きな政策課題になっています。

公平には負担だけでなく給付の視点もある

社会保険の公平性を考える際には、保険料だけを見ることもできません。

第2号被保険者は保険料を負担しますが、基礎年金に加えて厚生年金を受け取ることができます。

第3号被保険者には、第3号であることによる本人名義の厚生年金の上乗せはありません。

第1号被保険者は国民年金保険料を負担しますが、原則として基礎年金が中心です。

つまり、

誰がいくら負担するのか

と同時に、

誰がどのような給付を受けるのか

を見る必要があります。

さらに障害や死亡などに対する保障もあります。

社会保険の公平性は、一つの保険料だけを比較して結論を出せるほど単純ではありません。

公平と働き方への中立性は別の論点

第3号制度には、公平性とは別に「働き方への中立性」という問題もあります。

第3号でいられる範囲を意識して勤務時間や収入を抑える人がいれば、制度が働き方に影響していることになります。

本人が本当はもっと働きたいのに、

扶養から外れると負担が増えるから働かない

という行動が起きれば、人手不足の企業にとっても問題です。

したがって制度改革では、

誰が得をして誰が損をしているのか

という公平性だけでなく、

制度が働き方を不自然に変えていないか

という視点も必要になります。

社会が変われば公平の基準も変わる

1986年に第3号被保険者制度が始まったころと現在では、日本の家族や働き方が大きく変わりました。

当時は専業主婦世帯が現在より一般的でした。

現在では共働き世帯が専業主婦世帯を上回り、単身世帯も増えています。

短時間労働者への厚生年金の適用も広がっています。

同じ制度でも、社会の多数派が変われば公平性に対する評価も変わります。

かつては多くの家庭に当てはまった仕組みが、現在では一部の世帯だけに有利な仕組みに見えることもあります。

第3号制度の見直しが議論される背景には、こうした社会構造の変化があります。

結論

第3号被保険者制度が公平か不公平かは、専業主婦だけを見ても答えを出すことはできません。

独身会社員と比べれば、第3号の配偶者がいることによる追加の保険料負担がない点に不公平感が生じます。

共働き世帯と比べれば、夫婦とも保険料を負担する世帯との違いがあります。

自営業者世帯と比べれば、同じ無収入の配偶者でも第1号として保険料を負担するケースがあることが分かります。

一方、第3号制度には、専業主婦などにも本人名義の基礎年金を保障してきた歴史的な役割があります。

育児や介護などの無償労働を社会保障上どのように評価するのかという問題もあります。

したがって、本当の論点は、

第3号は得をしているから廃止すべきだ

という単純な話ではありません。

誰を支援するのか。

何を理由に支援するのか。

保険料負担をどのように分けるのか。

働き方にできるだけ影響しない制度をどう作るのか。

これらを一緒に考える必要があります。

第3号被保険者制度の公平性をめぐる議論は、専業主婦の是非を問う議論ではありません。

共働きや単身世帯が増えた社会で、社会保険を家族単位で支える仕組みから個人単位で支える仕組みへどこまで転換するのかを問う議論なのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月5日朝刊 厚労省「年金3号」縮小へ調査 働き控えの実態把握

タイトルとURLをコピーしました