日本の家計が保有する株式と投資信託の残高は、2026年6月末時点で678兆9608億円となりました。
前年同期比では44パーセントという大幅な増加です。
この背景には株価上昇や新NISAを通じた資金流入がありますが、もう1つ重要な要因があります。
円安です。
海外株式や海外債券などの外貨建て資産を保有している場合、その資産を日本円に換算するときの金額は為替相場によって変わります。
海外資産そのものの価格がまったく上昇していなくても、円安になるだけで円換算した金融資産残高が増えることがあります。
外貨建て資産とは何か
外貨建て資産とは、米ドルやユーロなど円以外の通貨で価値が表示される金融資産です。
代表的なものには海外株式、海外債券、外貨預金などがあります。
さらに、日本で販売されている投資信託でも、実際の運用先が海外株式や海外債券であれば為替変動の影響を受けることがあります。
例えば米国企業の株式を1万ドル分保有しているとします。
米国では、この資産は1万ドルです。
しかし、日本の家計金融資産として考える場合には円に換算する必要があります。
そこで為替相場が重要になります。
1ドル140円と160円では20万円違う
1万ドルの海外資産を持っている場合を考えてみます。
1ドル140円なら、円換算した資産価値は140万円です。
ところが1ドル160円まで円安になると、同じ1万ドルでも円換算額は160万円になります。
海外資産そのものは1万ドルのままです。
それでも日本円で見ると20万円増えます。
新しく投資したお金は0円です。
海外の株価も上昇していません。
それでも為替相場が円安になっただけで、日本円で見た金融資産残高は増えるのです。
円安とは円の価値が下がること
円安という言葉は、数字だけを見ると少し分かりにくいところがあります。
1ドル140円から160円になると数字は大きくなりますが、これは円の価値がドルに対して低下したことを意味します。
以前は140円あれば1ドルを買えました。
円安後には1ドルを買うために160円必要になります。
逆に考えると、1ドルを日本円へ交換したときに受け取れる金額は140円から160円へ増えます。
そのため、ドル建て資産を持っている人にとっては、円安になると円換算した資産価値が増えやすくなります。
海外株式投信も円安の影響を受ける
自分は外国株を直接買っていないから円安とは関係がないと思う人もいるかもしれません。
しかし、投資信託を通じて海外資産を保有しているケースがあります。
例えば米国株式に投資する投資信託や、世界各国の株式へ投資する投資信託です。
こうした商品では、投資信託の中にドルなどで評価される海外資産があります。
為替ヘッジをしていない投資信託であれば、円安は一般に円換算した資産価値を押し上げる方向に働きます。
新NISAを利用して海外株式型の投資信託を積み立てている人にとっても、為替相場は資産残高を左右する重要な要素になります。
株高と円安が同時に起きるとどうなるのか
海外株式の場合には、株価と為替の2つが同時に動きます。
例えば1万ドル分の海外株式を保有しているとします。
1ドル140円なら円換算額は140万円です。
その後、海外株式が20パーセント上昇すると、ドル建ての資産価値は1万2000ドルになります。
さらに1ドル160円まで円安になれば、円換算額は192万円になります。
140万円だった資産が192万円になったことになります。
増加額は52万円です。
この場合、新しいお金を追加投資していなくても、海外株式の値上がりと円安が重なることで金融資産残高が大きく増えます。
円換算額の増加と実際の資金流入は違う
ここで注意したいのが、円換算した資産額が増えることと、新しい資金が投資へ流れたことは違うという点です。
先ほどの例では140万円だった海外資産が192万円になりました。
しかし、家計が新しく52万円を投資したわけではありません。
株価と為替が動いた結果です。
家計の株式や投資信託の残高が急増している数字を見るときには、実際の購入だけでなく、こうした価格変動と為替変動も含まれていることを理解しておく必要があります。
円高になれば逆のことが起きる
円安で海外資産の円換算額が増えるのであれば、円高になれば逆のことが起こります。
例えば1万ドルの資産を持っているとします。
1ドル160円なら160万円です。
その後1ドル130円まで円高になれば130万円になります。
海外資産そのものは1万ドルのままでも、円換算すると30万円減ります。
海外株式が値上がりしていても、それ以上に円高が進めば、円換算した投資成果が小さくなることもあります。
海外投資では株価だけを見ればよいわけではありません。
為替ヘッジの有無でも違う
投資信託には、為替ヘッジありと為替ヘッジなしの商品があります。
為替ヘッジとは、為替変動による影響を一定程度抑えるための仕組みです。
為替ヘッジなしの商品では、円安になると円換算した資産価値が押し上げられやすい一方、円高になると押し下げられやすくなります。
為替ヘッジありの商品では、こうした為替変動の影響を抑えることを目指します。
ただし、ヘッジにはコストが生じることがあります。
同じ海外株式へ投資する投資信託でも、為替ヘッジの有無によって値動きが異なることがあります。
海外資産が増えるほど為替の影響も大きくなる
家計が現預金だけを保有していた時代には、為替相場が家計金融資産全体に与える直接的な影響は比較的小さいものでした。
しかし、海外株式や世界株式へ投資する投資信託を保有する家計が増えると状況は変わります。
資産形成の国際化が進むほど、家計の金融資産残高は日本国内の株価だけでは説明できなくなります。
海外株価と為替相場の両方を見る必要があります。
これは、家計の資産構成が変わったことで生まれた新しい特徴の1つです。
円安で資産が増えても購買力まで同じように増えるとは限らない
もう1つ考えておきたいのが、円換算した金融資産額と生活上の豊かさは必ずしも同じではないということです。
円安になると海外資産の円換算額は増えます。
一方で、輸入品や海外旅行などの円換算価格は上昇しやすくなります。
海外資産が増えたように見えても、円の購買力が低下している側面があります。
したがって、円安によって金融資産残高が増えたという数字だけで、家計がその分だけ豊かになったと判断することはできません。
資産価値と購買力は分けて考える必要があります。
結論
円安になると家計の金融資産が増えることがあるのは、海外資産を日本円に換算したときの金額が大きくなるからです。
1万ドルの資産は、1ドル140円なら140万円ですが、1ドル160円なら160万円になります。
新しく投資していなくても、円換算した金融資産は20万円増えます。
さらに海外株式の価格上昇と円安が同時に起これば、家計の金融資産残高は大きく膨らむ可能性があります。
2026年6月末の株式と投資信託の残高が678兆9608億円まで増えた背景を見る場合にも、実際の資金流入、株価上昇、為替変動を分けて考えることが重要です。
家計の投資先が国内から世界へ広がるほど、為替は家計金融資産を左右する重要な要素になります。
海外資産を見るときには、外国の株価だけでなく、円に換算するとどうなるのかという視点を持つことが大切です。
参考
日本経済新聞 2026年9月18日 朝刊 家計、株式・投信へシフト