内部牽制とは何か 一人の社員が不正をしても別の人が気づける仕組み編

経営

会社のお金を守るためには、経理担当者を信用するだけでは十分ではありません。

かといって、経営者が経理担当者の仕事を毎日すべてやり直して確認するのも現実的ではありません。

そこで重要になるのが内部牽制という考え方です。

内部牽制とは、一人が間違った処理や不正を行った場合でも、別の人の仕事を通じて発見できるようにする仕組みです。

前回取り上げた職務分掌とも深く関係しています。

一人に仕事を集中させず、お互いの仕事が自然にチェックされるようにすることで、不正の予防と早期発見につなげます。

内部牽制とは何か

内部牽制とは、会社の業務を複数の人が分担することによって、一人の間違いや不正を別の人が発見できるようにする仕組みです。

例えば経理担当者が100万円の支払いデータを作成したとします。

別の人が請求書を確認して振込を承認する仕組みなら、金額や振込先が間違っていれば、その段階で気づく可能性があります。

さらに会計帳簿と銀行口座を別の人が照合すれば、不自然な支払いを後から発見できる可能性もあります。

一つのチェックをすり抜けても、次の仕事で異常が見つかる。

このように業務そのものにチェック機能を組み込むのが内部牽制です。

ダブルチェックとは何が違うのか

内部牽制と似た言葉にダブルチェックがあります。

例えば経理担当者が作った給与計算表を上司が確認するのはダブルチェックです。

もちろん、これも重要です。

ただし内部牽制は、単に同じ書類を二人で見ることより広い考え方です。

給与計算をする人と振込を承認する人を分ける。

現金を管理する人と帳簿を記録する人を分ける。

売上を計上する人と売掛金を回収する人を分ける。

こうすることで、それぞれの仕事がお互いをチェックする関係になります。

つまり内部牽制では、確認作業を一つ追加するだけでなく、仕事の流れそのものにチェック機能を持たせます。

一人経理では内部牽制が働きにくい

経理担当者が一人しかいない会社では、この仕組みが働きにくくなります。

例えば一人の担当者が、

給与を計算する

給与データを変更する

振込データを作る

銀行振込を実行する

会計ソフトに記録する

という仕事をすべて担当していたとします。

給与を不正に100万円増やしたとしても、自分で銀行振込を行い、その内容を自分で帳簿に記録できます。

途中に別の人が入らないため、異常に気づく機会がありません。

これが一人経理の大きなリスクです。

経理担当者と経営者の役割を分ける

中小企業では経理担当者を何人も配置できないことがあります。

その場合は、経営者自身が内部牽制の一部になる方法があります。

例えば給与について、

経理担当者が給与を計算する

経営者が従業員別の給与一覧を確認する

経理担当者が振込データを作成する

経営者が銀行振込を承認する

振込後の結果を経営者が確認する

という役割分担が考えられます。

経営者が給与計算そのものを行う必要はありません。

最終的なお金の移動について、経理担当者だけでは完結できないようにすることがポイントです。

社長が承認していても不正が起きることがある

参考記事で紹介された大阪市の人材派遣会社では、唯一の経理担当者だった男性社員が約11年間にわたり給与を水増しし、総額5108万円を不正に受け取っていました。

会社には社長による決裁がありました。

それでも不正は続きました。

男性は全従業員の給与合計額を記載した振込依頼書を作成し、社長の決裁を得た後、自分の給与を水増しした依頼書を銀行へ送っていました。

つまり社長が承認した内容と、実際に銀行へ依頼された内容との間に違いが生じていたわけです。

承認という手続きがあっても、その後の実行を同じ担当者に任せきりにすれば、内部牽制が十分に働かない場合があります。

承認後に変更できない仕組みが重要

ここで重要になるのが、承認したデータと実際に実行されるデータを一致させることです。

例えばインターネットバンキングなら、担当者が振込データを登録した後、経営者が別のIDで承認しなければ振込できないようにします。

経営者が承認した後、担当者が金額や振込先を自由に変更できる仕組みでは意味がありません。

変更した場合には、もう一度承認が必要になる仕組みにします。

紙の振込依頼書を二人で見るより、システム上の権限そのものを分ける方が強い牽制になる場合があります。

預金口座を別の人が見るだけでも牽制になる

人員の少ない会社では、すべての業務を完全に分けることは難しいでしょう。

それでも簡単にできる内部牽制があります。

例えば経営者が毎月、会社の銀行口座を見ることです。

経理担当者が作った会計資料だけを見るのではなく、銀行が提供する取引明細そのものを確認します。

誰にいくら振り込まれているのか。

毎月同じ取引先への支払いが突然増えていないか。

見覚えのない振込先がないか。

給与支給日に特定社員への振込額だけ大きくなっていないか。

こうした確認だけでも、不正を長期間続けることは難しくなります。

不正を発見するだけでなく予防する

内部牽制には、不正を発見するだけでなく、不正を思いとどまらせる効果もあります。

例えば経理担当者が、

振込データは毎回社長が確認する

銀行口座は毎月別の人がチェックする

給与額は前月と比較される

と分かっていれば、不正を行うハードルは高くなります。

誰も確認していないと思えば不正の誘惑が生まれるかもしれません。

しかし、どこかで別の人が確認すると分かっていれば、発覚する可能性を意識します。

不正が起きてから見つけるより、最初から起こしにくくする方が会社にとってははるかに重要です。

人を疑うのではなく仕組みで防ぐ

内部牽制という言葉には、社員同士を監視させるような印象があるかもしれません。

しかし本来の目的は、特定の社員を疑うことではありません。

誰でも間違える可能性があります。

また、長年まじめに働いてきた社員でも、置かれた状況によって不正に手を染める可能性を完全には否定できません。

だからこそ、人の性格や善意だけに会社のお金を預けない仕組みが必要です。

同時に内部牽制は経理担当者を守ります。

複数の人が確認していれば、問題が起きたときに一人の担当者だけが疑われることも防ぎやすくなります。

小さな会社ほど単純な仕組みでよい

大企業のような複雑な内部管理制度を中小企業がそのまま導入する必要はありません。

重要なのは、一人で完結する仕事を減らすことです。

例えば、

振込を作る人と承認する人を分ける

現金を扱う人と帳簿を確認する人を分ける

給与を計算する人と給与額を承認する人を分ける

銀行口座を経理担当者以外も定期的に確認する

といった方法があります。

経理担当者が一人しかいなくても、社長や役員をチェックの流れに入れることで内部牽制を作ることはできます。

結論

内部牽制とは、一人の社員が間違いや不正を行っても、別の人の仕事を通じて発見できるようにする仕組みです。

単純に二人で同じ書類を見るだけではありません。

給与を計算する人と振込を承認する人を分ける。

現金を扱う人と帳簿を確認する人を分ける。

振込後の銀行口座を別の人が確認する。

このように仕事そのものを組み合わせて、お互いが自然にチェック機能を果たす状態を作ります。

中小企業では十分な人数を配置できないことがあります。

それでも、経営者が振込承認や銀行口座の確認に加わるだけで、一人経理のリスクは減らせます。

大切なのは、信用できる社員を探すことだけではありません。

誰が担当しても、一人だけでは間違いや不正を隠し続けられない仕組みにすることです。

それが内部牽制の基本なのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月3日朝刊 中小企業リーガル処方箋 給料水増し5000万円 「お一人様」経理、振込依頼操作

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