銀行から融資を受ければ、あとは約束した日に元本と利息を返していけばよい。
通常はそのように考えるでしょう。
しかし、融資契約によっては、返済だけでなく一定の条件を守ることを企業に求める場合があります。
例えば、金融機関へ定期的に決算情報を報告することや、一定の財務状態を維持することなどです。
こうした融資契約上の約束をコベナンツと呼びます。
2026年5月に始まった企業価値担保権では、企業の事業全体の価値や将来キャッシュフローが重要になります。
その価値が融資後も維持されているかを確認するためにも、企業と金融機関が継続的に情報を共有することが重要になります。
コベナンツとは何か
コベナンツとは、融資契約などで借り手に一定の行動や財務状態などを求める契約上の条項です。
日本語では財務制限条項などと呼ばれることがあります。
例えば銀行が会社へ1億円を融資したとします。
銀行が確認したいのは、融資した時点で返済能力があるかどうかだけではありません。
3年後や5年後にも返済能力を維持できているかが重要です。
そこで契約の中で一定の条件を定めることがあります。
企業はその条件を守りながら事業を続けることになります。
どのような条件が設定されるのか
コベナンツの内容は融資契約によって異なります。
例えば、一定の財務指標や純資産水準を維持することを求める場合があります。
利益について一定の条件を設けることもあります。
金融機関へ定期的に決算書や試算表などを提出することを求める場合もあります。
重要な資産の処分や大規模な借り入れなどについて条件を設けることも考えられます。
つまりコベナンツには、単に一つの決まった条件があるわけではありません。
企業や融資の内容、金融機関が重視するリスクなどに応じて設定されます。
なぜ銀行は融資後まで確認するのか
銀行が融資を実行した時点では、企業の経営状態に問題がなかったとします。
しかし、5年間の融資なら、その間に経営環境が大きく変化する可能性があります。
主要取引先を失うかもしれません。
原材料価格が急上昇するかもしれません。
新規事業が計画通りに進まないかもしれません。
大量の在庫を抱えることもあります。
融資したときには優良企業だったとしても、その状態が返済終了まで続く保証はありません。
そこで金融機関は融資後も企業の状況を確認します。
コベナンツは、経営状態の変化を早く把握するための仕組みとして利用できます。
売上を見る理由
企業の経営状況を判断する基本的な数字の一つが売上高です。
例えば銀行へ提出した事業計画では、年間売上高1億円を2年後に2億円へ増やす予定だったとします。
ところが実際には1億1000万円にしか増えていないとします。
計画との間に大きな差があります。
なぜ売上が伸びなかったのか。
新規顧客を獲得できなかったのか。
新商品が予定通り発売できなかったのか。
市場そのものが縮小したのか。
原因を早く確認すれば、事業計画を修正できる可能性があります。
金融機関が売上の推移を見るのは、単に企業を監視するためだけではありません。
事業計画が予定通り進んでいるかを確認する意味があります。
在庫を見る理由
在庫も企業の経営状態を知る重要な数字です。
例えば売上がほとんど増えていないのに、在庫だけが急増しているとします。
商品が売れ残っている可能性があります。
需要を読み違えて大量に生産した可能性もあります。
在庫には会社のお金が使われています。
商品を1000万円分仕入れて倉庫に置いている間、その1000万円は現金として使えません。
在庫が増えすぎると、利益が出ていても資金繰りが悪化することがあります。
そのため金融機関が売上と在庫を合わせて確認すると、企業の経営状態の変化を早く把握できる場合があります。
コベナンツに抵触するとどうなるのか
コベナンツで定められた条件を満たせなくなることを、一般にコベナンツへの抵触といいます。
ただし、抵触した場合に何が起きるかは契約内容によって異なります。
一定の報告や改善策を求められる場合があります。
金融機関との協議が必要になる場合もあります。
契約によっては融資条件などに影響する可能性もあります。
そのため企業は、融資を受けるときに金利だけを見るのではなく、どのようなコベナンツが設定されているのかを確認することが重要です。
どの数字を維持する必要があるのか。
どのくらいの頻度で報告するのか。
条件に抵触した場合に何が起きるのか。
契約時点で理解しておく必要があります。
企業価値担保権との関係
企業価値担保権では、不動産など個別の資産だけではなく、会社の事業全体の価値が重要になります。
金融機関が、
この会社は今後売上が伸びる
安定した顧客基盤がある
ブランド力がある
将来キャッシュフローを生み出せる
と判断して融資したとします。
しかし、その前提が数年後も維持されているとは限りません。
だからこそ融資後のモニタリングが重要になります。
企業価値を見て融資する以上、その企業価値がどう変化しているのかも継続的に見る必要があるわけです。
Kokageでは3カ月に1回確認する
参考記事では、クラフトジン製造のKokageが東邦銀行から企業価値担保権に基づく融資を受けた事例が紹介されています。
同社の融資には財務制限条項が設けられ、銀行が3カ月に1回、売上高や在庫の推移を確認します。
以前は税理士が年に1回確認する体制だったものが、銀行との継続的な対話によって、より頻繁に経営状況を確認する仕組みになりました。
企業側から見ると、金融機関へ報告する手間は増えます。
しかし、経営状態を定期的に外部から確認してもらえるというメリットもあります。
監視されるだけではない
コベナンツという言葉から、銀行が会社を厳しく監視する仕組みという印象を持つかもしれません。
確かに金融機関が融資リスクを管理する目的があります。
しかし企業側にもメリットがあります。
例えば売上が計画を下回り始めたとします。
3カ月ごとに銀行と数字を確認していれば、問題を早い段階で把握できます。
在庫が急増している場合も同じです。
銀行から、
在庫が増えています
資金繰りに影響しませんか
事業計画を修正する必要はありませんか
といった指摘を受けることで、経営者自身が気付いていなかった問題が見える可能性があります。
金融機関との定期的な対話を経営改善に利用することもできます。
金利だけで融資を選べなくなる
企業が銀行融資を比較するとき、最も分かりやすい条件は金利です。
A銀行は年1パーセント。
B銀行は年1.5パーセント。
それならA銀行から借りた方が有利だと考えたくなります。
しかしコベナンツがある融資では、それだけでは判断できません。
どのくらいの頻度で資料を提出する必要があるのか。
どのような財務条件を維持する必要があるのか。
経営上の自由度にどの程度影響するのか。
金融機関からどのような支援を受けられるのか。
こうした条件まで含めて考える必要があります。
融資は単なるお金の値段だけではなく、金融機関との関係を含めて選ぶものになっていきます。
企業側にも管理能力が求められる
コベナンツを活用した融資では、企業側にも数字を管理する能力が求められます。
年に1回決算書を作るだけでは十分でない場合があります。
毎月の売上を把握する。
在庫を管理する。
資金繰りを予測する。
利益計画と実績を比較する。
事業計画との差異を分析する。
こうした管理を日常的に行う必要があります。
企業価値担保権による融資が広がれば、中小企業にもより精緻な経営管理が求められる可能性があります。
結論
コベナンツとは、融資契約などで企業に一定の行動や財務状態などを求める契約上の条項です。
銀行が融資時点だけでなく、その後も企業の返済能力や経営状態を確認するために利用されます。
売上や利益、純資産、在庫などの数字を継続的に確認すれば、経営悪化の兆候を早く発見できる可能性があります。
2026年5月に始まった企業価値担保権では、会社の将来キャッシュフローやブランド、技術、顧客基盤などを含めた事業全体の価値を見ることが重要になります。
だからこそ、融資した瞬間の企業価値だけを見るのではなく、その後も事業計画通りに経営できているかを確認する必要があります。
企業側から見ると、銀行への情報提供や経営管理の負担は増えます。
その一方で、金融機関と定期的に経営状況を確認することで、問題を早く発見し、経営改善につなげられる可能性があります。
コベナンツは単なる銀行による監視ではなく、企業価値を維持しながら金融機関と長く付き合うための約束という側面も持っているのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月2日朝刊 小さくても勝てる 企業価値担保に借り入れ 資産に頼らずブランド評価