2027年3月から導入予定のOTC類似薬の追加負担制度によって、日本の医薬品政策に新たな矛盾が生じる可能性があります。
今回の制度では、市販薬と成分や効能が似ている医療用医薬品について、薬剤費の25%を保険外の追加負担とする仕組みが予定されています。
一方、日本では2024年10月から、後発医薬品が存在する先発医薬品を患者が希望した場合に、通常の自己負担とは別に追加負担を求める制度が導入されています。
この制度は、後発医薬品の利用を促進し、医療費を抑制することを目的としています。
ところが、今回のOTC類似薬制度では、対象となる医薬品について患者が先発品を希望した場合、OTC類似薬に係る追加負担だけを求め、先発品の選定療養に係る追加負担は免除する方針が示されています。
つまり、後発医薬品の利用を促進するために導入された追加負担制度が、一部の医薬品では適用されなくなる可能性があるのです。
さらに、先発医薬品の選定療養に係る追加負担には消費税が課される一方、OTC類似薬の追加負担については非課税とすることが要望されています。
今回は、先発医薬品と後発医薬品の追加負担制度を整理し、新制度によって生じる医薬品政策と消費税制度の矛盾について解説します。
先発医薬品と後発医薬品の基本的な違い
医療用医薬品には、大きく分けて先発医薬品と後発医薬品があります。
先発医薬品は、新たに開発され、有効性や安全性などについて承認を受けた医薬品です。
新薬の開発には長い期間と多額の研究開発費が必要となるため、一定期間は特許などによって開発企業の権利が保護されます。
一方、後発医薬品は、先発医薬品の特許期間終了後などに製造販売される医薬品です。
一般にジェネリック医薬品と呼ばれています。
後発医薬品は、先発医薬品と有効成分、含量、用法、用量、効能、効果が原則として同じであり、必要な品質や生物学的同等性などについて審査を受けています。
先発医薬品と比較して開発費用を抑えられるため、薬価が低く設定される傾向があります。
国は、後発医薬品の利用を促進することで、公的医療保険の給付費用を抑制する政策を進めてきました。
患者にとっても、後発医薬品を選択することで薬代を抑えられる場合があります。
ただし、医薬品によって添加物や剤形などが異なる場合があり、患者の状態によっては先発医薬品を使用する必要があることもあります。
そのため、単純に価格だけで医薬品を選択すればよいというものではありません。
2024年10月から始まった先発医薬品の追加負担制度
2024年10月から、後発医薬品が存在する一部の先発医薬品について、患者が希望して使用する場合に追加負担を求める制度が始まりました。
これは、長期収載品の選定療養と呼ばれる仕組みです。
長期収載品とは、後発医薬品が発売されている先発医薬品のうち、一定の条件に該当するものです。
制度の対象となる長期収載品について、患者が特別な理由なく先発医薬品を希望した場合、通常の保険診療に係る自己負担とは別に特別の料金が発生します。
この追加負担には消費税が課されます。
一方、医療上の必要性が認められる場合や、後発医薬品の供給が困難な場合などには、追加負担の対象外となることがあります。
制度の目的は、患者が医薬品を選択する際に価格差を意識できるようにし、後発医薬品の利用を促進することです。
後発医薬品への切り替えが進めば、患者負担の軽減だけでなく、公的医療保険の給付費用の抑制にもつながると期待されています。
長期収載品の追加負担はどのように計算するのか
長期収載品の追加負担制度では、先発医薬品と後発医薬品の価格差が重要になります。
2024年10月の制度開始時には、対象となる先発医薬品と後発医薬品の価格差の4分の1を特別の料金とする仕組みが導入されました。
その後、制度の見直しが進められ、今回の記事では価格差の2分の1を追加負担とする仕組みが示されています。
ここでは、価格差の2分の1を追加負担とする場合を例に考えます。
例えば、先発医薬品の薬価が1,000円、比較対象となる後発医薬品の薬価が600円の場合です。
両者の価格差は400円です。
この価格差の2分の1に当たる200円が、選定療養に係る追加負担となります。
さらに、この200円には消費税10%が課されるため、消費税額は20円です。
残りの800円については、保険診療部分として患者の自己負担割合を適用します。
自己負担割合が3割の場合、保険診療部分の自己負担額は240円です。
したがって、患者が支払う薬剤費相当額は、追加負担200円、消費税20円、保険診療部分240円の合計460円となります。
一方、後発医薬品を選択した場合、薬価600円の3割に当たる180円が患者負担となります。
この例では、先発医薬品を希望することで、患者負担額に280円の差が生じます。
ただし、実際の追加負担額は、適用時点の制度、対象医薬品、薬価差の算定方法などによって異なります。
OTC類似薬の追加負担制度との違い
2027年3月から導入予定のOTC類似薬制度では、追加負担の計算方法が異なります。
長期収載品の選定療養では、先発医薬品と後発医薬品の価格差が追加負担の基礎になります。
一方、OTC類似薬では、対象となる医薬品の薬剤費そのものを基礎として、25%を追加負担とします。
例えば、薬剤費が1,000円で自己負担割合が3割の場合、OTC類似薬の追加負担は250円です。
残り750円の3割に当たる225円と合わせて、患者負担額は475円となります。
ここで重要なのは、両制度の政策目的が異なることです。
長期収載品の選定療養は、先発医薬品から後発医薬品への切り替えを促すことを目的としています。
これに対して、OTC類似薬の追加負担制度は、公的医療保険の給付を抑制するとともに、処方薬と市販薬の負担格差を縮小することを目的としています。
どちらも医療費の抑制を目指す制度ですが、追加負担を求める理由と計算方法が異なります。
この違いが、両制度を同時に適用する場合の問題につながります。
OTC類似薬では先発医薬品の追加負担が免除される
今回の制度改正で注目されているのが、OTC類似薬と長期収載品の選定療養が重複する場合の取扱いです。
厚生労働省は、対象となるOTC類似薬について患者が先発医薬品を希望した場合、OTC類似薬に係る追加負担のみを求める方針を示しています。
つまり、長期収載品の選定療養に係る追加負担は重ねて求めない仕組みです。
厚生労働省は、制度が複雑になることを避けるためと説明しています。
確かに、同じ医薬品について異なる理由による追加負担を重複して求めれば、患者にとって分かりにくい制度になる可能性があります。
医療機関や薬局でも、追加負担の計算や窓口での説明が複雑になります。
しかし、この取扱いには別の問題があります。
先発医薬品を希望した場合の追加負担を免除することで、後発医薬品への切り替えを促す効果が弱まる可能性があるからです。
医療費削減を目的とする制度同士が、結果として政策効果を打ち消し合うことになれば、制度全体の整合性が問われます。
後発医薬品の利用促進政策に逆行する可能性
長期収載品の選定療養制度は、患者が先発医薬品を希望した場合に追加負担を求めることで、後発医薬品の利用を促進する仕組みです。
患者が後発医薬品を選択すれば、追加負担を避けられる場合があります。
ところが、OTC類似薬の対象となる医薬品について、長期収載品の追加負担が免除されれば、先発医薬品と後発医薬品の負担差が縮小する可能性があります。
例えば、先発医薬品と後発医薬品の薬価差が大きい場合、従来の選定療養制度では先発医薬品を選択することによる追加負担が発生します。
しかし、OTC類似薬制度が優先される場合には、長期収載品の選定療養に係る特別の料金が発生しません。
もちろん、先発医薬品と後発医薬品の薬価そのものが異なるため、患者負担が完全に同じになるとは限りません。
それでも、後発医薬品を選択する経済的な動機が弱まる可能性があります。
これは、後発医薬品の利用促進を進めてきた国の政策と整合しない面があります。
医療費を抑制するという共通の目的を持つ制度であれば、互いの効果を損なわない設計が必要です。
追加負担に対する消費税の取扱いも異なる
もう1つの重要な問題が、消費税の課税関係です。
長期収載品の選定療養に係る追加負担は、消費税の課税対象です。
患者が先発医薬品を希望して支払う特別の料金には、原則として消費税10%が課されます。
一方、OTC類似薬の追加負担については、厚生労働省が恒久的な消費税非課税を要望しています。
その理由は、OTC類似薬が医師の処方に基づくものであり、保険診療との一体性があるという考え方です。
しかし、どちらも保険給付の対象外となる追加負担であることに変わりはありません。
患者が希望した先発医薬品には消費税が課される一方、医師が処方したOTC類似薬には消費税が課されないという制度になれば、課税関係の違いを合理的に説明する必要があります。
消費税法では、社会保険医療に該当する診療や調剤などが非課税とされています。
一方、保険外の医療サービスについては、取引の内容や法令上の位置付けによって課税関係が異なります。
したがって、今回のOTC類似薬の追加負担を非課税とする場合には、既存の選定療養制度との違いを法令上明確にすることが重要です。
医療機関と薬局の実務負担はどうなるのか
今回の制度改正は、医療機関や薬局の実務にも影響します。
特に重要なのは、同じ医薬品について複数の追加負担制度が存在することです。
医療機関や薬局では、処方された医薬品がOTC類似薬の対象となるかどうかを確認する必要があります。
さらに、長期収載品の選定療養にも該当する場合には、どちらの制度を適用するのかを判断しなければなりません。
患者への説明も重要になります。
なぜ追加負担が発生するのか、先発医薬品と後発医薬品で負担額がどう異なるのか、消費税が課されるのかといった点について、分かりやすい説明が求められます。
また、会計処理においても課税売上げと非課税売上げの区分が問題になります。
長期収載品の選定療養に係る追加負担は課税売上げとして処理されます。
一方、OTC類似薬の追加負担が非課税とされれば、非課税売上げとして処理することになります。
同じ薬局で取り扱う医薬品について、制度の違いによって消費税区分が異なる可能性があります。
そのため、レセプトコンピューターや会計システムの対応、職員への研修、患者への説明資料の整備などが必要になると考えられます。
制度の複雑化による事務負担が、医療現場の生産性を低下させないようにすることも重要です。
医薬品政策は患者負担だけで評価すべきではない
医薬品政策を考える際には、患者負担の軽減と医療費の抑制だけでなく、医薬品の安定供給や研究開発への影響も考慮する必要があります。
後発医薬品の利用促進は、医療費の抑制に有効な政策の1つです。
しかし、後発医薬品の供給体制が十分でなければ、患者が希望する医薬品を安定的に入手できない可能性があります。
また、先発医薬品の開発には多額の研究開発費が必要であり、新薬開発を支える仕組みも重要です。
一方、患者にとっては、医薬品の価格だけでなく、治療効果や副作用、服薬のしやすさなども重要な判断材料になります。
したがって、医薬品政策は、単純に先発医薬品を減らして後発医薬品を増やせばよいという問題ではありません。
医療上の必要性を確保しながら、限られた医療財源を効率的に活用することが求められます。
今回のOTC類似薬制度についても、患者負担の増加が適切な治療を妨げないようにする必要があります。
医療費削減という財政上の目的と、医療の質を維持するという政策目的を両立させることが重要です。
今後の制度設計で求められる3つの視点
今回の制度改正では、3つの視点が重要になると考えられます。
第1は、追加負担制度の整合性です。
長期収載品の選定療養とOTC類似薬の追加負担について、なぜ負担を求めるのかという政策目的を明確にする必要があります。
両制度が重複する場合には、患者負担が過度に複雑にならないよう配慮しながら、後発医薬品の利用促進という政策目的も維持することが重要です。
第2は、消費税制度との整合性です。
同じ保険外負担であっても課税関係が異なる場合には、その理由を法令上明確にする必要があります。
税制の公平性と医療政策上の必要性を両立させる制度設計が求められます。
第3は、患者と医療現場への影響です。
制度の複雑化によって患者が負担額を理解できなくなったり、医療機関や薬局の事務負担が過度に増えたりすることは避けなければなりません。
制度改正の目的を達成するためには、現場で無理なく運用できる仕組みを整えることが不可欠です。
結論
2027年3月から導入予定のOTC類似薬の追加負担制度は、医療費の抑制と患者負担の公平性を目指す改革です。
しかし、既存の長期収載品の選定療養制度との関係では、新たな課題が生じています。
長期収載品の選定療養は、後発医薬品の利用を促進するため、先発医薬品を希望する患者に追加負担を求める仕組みです。
一方、OTC類似薬制度では、対象となる先発医薬品について、長期収載品の選定療養に係る追加負担を免除する方針が示されています。
この取扱いによって、後発医薬品の利用促進効果が弱まる可能性があります。
さらに、長期収載品の追加負担には消費税が課される一方、OTC類似薬の追加負担については非課税とすることが要望されています。
医療費を抑制するという共通の目的を持つ制度でありながら、患者負担や消費税の取扱いに違いが生じることになります。
重要なのは、個々の制度を別々に設計するのではなく、医薬品政策全体として整合性を確保することです。
患者の経済的負担、医療保険財政、後発医薬品の利用促進、医薬品の安定供給、消費税制度との関係を総合的に考える必要があります。
今回の制度改正は、日本の医薬品政策が抱える複雑な課題を浮き彫りにしています。
医療費削減という目標を達成するためには、単に患者負担を増やすのではなく、制度全体の合理性と公平性を高めることが求められるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年10月9日朝刊「OTC類似薬の新たな負担は非課税に 厚労省要望、似た制度とは矛盾」
厚生労働省 長期収載品の選定療養に関する資料
厚生労働省 OTC類似薬に係る患者負担の見直しに関する資料
厚生労働省 後発医薬品の使用促進に関する資料
国税庁 社会保険医療及び選定療養に係る消費税の取扱いに関する資料