東京では「1億円の住宅」が特別な存在ではなくなりつつあります。
これまでは1億円を超える住宅というと、都心の高級マンションを意味する「億ション」が代表的でした。
しかし現在では、戸建て住宅でも1億円を超える物件が増えています。
東京カンテイによると、2026年7月の東京23区における新築小規模戸建て住宅の平均希望売り出し価格は9321万円でした。
さらに東京23区のうち10区では、新築戸建ての平均希望売り出し価格が1億円を超えています。
まさに「億戸建て」の時代が始まりつつあります。
なぜ東京の戸建ては1億円を超えるようになったのでしょうか。
その背景には土地価格、建築費、マンション価格、そして住宅購入者の変化があります。
億戸建てとは何か
億戸建てという言葉に法律上の定義があるわけではありません。
一般的には、販売価格が1億円以上となる戸建て住宅を分かりやすく表現した言葉と考えればよいでしょう。
以前であれば1億円を超える戸建てというと、広い土地に建てられた豪邸を想像する人が多かったかもしれません。
しかし現在の東京では事情が違います。
必ずしも広大な土地や豪華な建物だから1億円になるわけではありません。
土地そのものが高額になり、さらに建築費も上昇した結果、一般的なファミリー向けの戸建てでも1億円に近づくケースが出てきています。
「1億円だから豪邸」とは限らないのが現在の東京の住宅市場です。
東京23区では平均価格そのものが1億円に近づいている
2026年7月の東京23区の新築小規模戸建て平均希望売り出し価格は9321万円です。
平均で9000万円を超えているということは、1億円を超える住宅が一部の特殊な物件だけではなくなっていることを意味します。
前年同月と比べると価格は14.6%、金額では1184万円上昇しました。
わずか1年間の変化としては非常に大きな上昇です。
平均価格がこのまま上昇すれば、東京23区全体で1億円という水準がさらに身近になる可能性があります。
住宅市場における「高級住宅」の基準そのものが変わり始めています。
土地価格が億戸建てを生み出す
戸建て住宅の価格は、大きく土地と建物に分けられます。
東京では、このうち土地価格が非常に大きな割合を占めるケースがあります。
例えば、
土地7000万円
建物3000万円
なら、それだけで住宅価格は1億円です。
建物が特別に豪華でなくても、土地が高ければ億戸建てになります。
特に駅から近い場所や都心への交通利便性が高い地域では土地需要が強く、土地価格が住宅価格を押し上げます。
東京の億戸建てを考えるときには、建物より土地を見ることが重要です。
目黒区や世田谷区などで高額戸建てが増える理由
高価格帯の戸建ては、住宅地として人気の高い地域で供給されやすくなっています。
元記事では、目黒区、世田谷区、文京区などが挙げられています。
これらの地域には、ファミリー世帯から評価されやすい条件があります。
都心への交通利便性。
住宅地としての環境。
教育環境。
買い物などの生活利便性。
こうした条件が重なる地域では、住宅を購入したい世帯が多くなります。
需要が強ければ土地価格も高くなります。
結果として、その土地に新築住宅を建てれば販売価格が1億円を超えやすくなります。
住宅会社も高価格帯へシフトする
建築費の上昇も億戸建てが増える理由です。
木材や住宅設備などの資材価格が上昇しています。
建設現場の人件費も上がっています。
住宅会社からすると、住宅を建てるための原価そのものが高くなっています。
その状況で利益を確保するためには、安い住宅を大量に供給するだけでは難しくなる場合があります。
そこで好立地の土地を取得し、高価格帯の住宅を供給する戦略が考えられます。
住宅会社が採算を確保しやすい高価格帯へ商品構成を移すことも、平均価格を押し上げる要因になります。
マンション高騰が億戸建てを割安に見せる
興味深いのは、1億円の戸建てが必ずしも極端に高く見えなくなっていることです。
その理由がマンション価格の高騰です。
東京カンテイが2015年1月から3月期を100として価格を指数化したところ、2026年4月から6月期には、新築戸建てが173だったのに対し、新築マンションは207、中古マンションは263となりました。
マンション価格の上昇が戸建てを大きく上回っています。
例えばマンションが1億2000万円、戸建てが1億円なら、戸建てのほうが2000万円安く見えます。
1億円という絶対的には非常に高い住宅が、別の住宅と比較すると「割安」になるわけです。
これが現在の東京住宅市場の特徴です。
同じ1億円なら広い戸建てを選ぶという判断
マンションと戸建てでは、同じ価格でも得られる居住空間が違う場合があります。
例えば1億円のマンションでは専有面積が限られていても、1億円の戸建てなら3階建てなどによって、より広い延べ床面積を確保できるケースがあります。
子どもがいる家庭では、
子ども部屋が欲しい
収納を増やしたい
仕事部屋が欲しい
駐車スペースが欲しい
といった需要があります。
マンション価格が高騰するほど、「同じ1億円なら戸建て」という選択が現実味を帯びてきます。
億ションの増加が、逆に億戸建ての需要を支える構造になっているのです。
戸建ては実需が中心である
マンションと戸建てでは購入者の性格にも違いがあります。
マンションには自分で住む人だけでなく、投資目的の購入者も参加します。
賃貸に出す。
値上がり後に売却する。
資産として保有する。
こうした投資需要が価格を押し上げることがあります。
一方、戸建ては基本的に自分や家族が住むための実需が中心です。
そのため購入者の所得や住宅ローン借入能力が価格の上限になりやすい特徴があります。
億戸建てが増えるということは、実際に住む目的で1億円前後の住宅を購入できる世帯が一定数存在することも意味します。
共働き世帯が億戸建てを支える
1億円の住宅を一人の所得だけで購入できる会社員は限られます。
そこで重要になるのが共働き世帯です。
例えば、
夫の年収1000万円
妻の年収800万円
なら世帯年収は1800万円です。
1億円の住宅価格は世帯年収の約5.6倍になります。
さらに夫婦でペアローンを利用すれば、それぞれの収入を住宅ローン審査に活用できます。
共働きの高所得世帯が増えることで、1億円前後の住宅にも購入可能な層が生まれます。
東京の住宅価格高騰とペアローンの普及は無関係ではありません。
親世代の資産も購入力になる
億戸建ての購入力を考える場合、給与所得だけでは説明できないケースもあります。
親から住宅購入資金の援助を受ける。
相続した資産を使う。
以前所有していたマンションを売却する。
長期間積み立てた金融資産を頭金にする。
こうした資金を持つ世帯なら、住宅ローンを1億円借りる必要はありません。
例えば1億円の住宅でも3000万円の自己資金があれば、借入額は7000万円です。
住宅価格が所得以上の速度で上昇すると、年収だけでなく保有資産の差が住宅購入力に影響するようになります。
億戸建てでも土地が小さい場合がある
東京の億戸建てで特徴的なのは、1億円を超えていても土地が必ずしも広くないことです。
土地単価が高い地域では、50平方メートルや60平方メートル程度の土地でも高額になることがあります。
その上に3階建て住宅を建てて居住面積を確保します。
つまり現在の億戸建てには、
広い土地
巨大な庭
豪華な邸宅
という従来の1億円住宅のイメージが当てはまらないケースがあります。
高級住宅というより「高い土地の上に建っている普通の都市型住宅」という性格を持つ物件もあります。
億ションと億戸建てでは資産の中身が違う
同じ1億円でも、マンションと戸建てでは資産の構造が異なります。
戸建てでは土地と建物を所有します。
建物は年月とともに老朽化しますが、土地はその場所への需要が続けば価値が残る可能性があります。
マンションでも土地に対する権利を持ちますが、敷地は区分所有者で共有する形が一般的です。
またマンションでは建物全体の管理状況や修繕積立金なども資産価値に影響します。
1億円という販売価格だけで比較するのではなく、「1億円で何を所有するのか」を考えることが重要です。
1億円が普通になることの怖さもある
住宅価格が上昇し続けると、購入者の金銭感覚も変化します。
8000万円の住宅を見た後に1億円を見ると非常に高く感じます。
しかし1億3000万円のマンションを何度も見た後なら、1億円の戸建てが安く感じるかもしれません。
これは比較対象によって価格の感じ方が変わるためです。
しかし1億円という金額そのものが小さくなったわけではありません。
住宅ローンを利用すれば、長期間にわたって返済する巨額の負債です。
「マンションより安い」という理由だけで、1億円の戸建てが家計にとって安いとはいえません。
結論
億戸建てとは、一般に1億円を超える戸建て住宅を表す言葉です。
東京23区では2026年7月、23区のうち10区で新築戸建ての平均希望売り出し価格が1億円を超えました。
背景には土地価格の上昇があります。
さらに資材費や人件費など建築コストも上昇し、住宅会社が好立地で高価格帯の住宅を供給する動きも価格を押し上げています。
そしてもう一つ重要なのがマンション価格です。
マンションが戸建て以上に高騰したことで、1億円の戸建てでさえ相対的には割安に見えるようになりました。
共働き世帯の増加、ペアローン、親からの資金援助なども高額住宅の購入力を支えています。
しかし、億戸建てが増えたからといって1億円が安くなったわけではありません。
重要なのは、マンションより安いかどうかではなく、その1億円の住宅が自分たちの所得と資産に見合っているかです。
億ションが定着した東京では、次に億戸建てが日常的な存在になる可能性があります。
それは住宅が豊かになったというより、東京で住宅を所有するために必要な金額そのものが一段上がったことを意味しているのかもしれません。
参考
日本経済新聞 2026年8月13日朝刊「新築戸建て9000万円台続く 7月東京23区 マンション高騰で需要増」