「東京一極集中の是正」という言葉は、長年、日本の地方政策を語るうえで当然の前提のように使われてきました。しかし、その前提そのものが少しずつ変わり始めています。
2026年の骨太の方針では、例年盛り込まれてきた「東京一極集中」という表現が姿を消しました。東京都はこれを歓迎し、国との連携による成長戦略へ議論を移そうとしています。
これは単なる言葉の変更ではありません。地方政策の考え方そのものが、「分配重視」から「成長重視」へ転換する可能性を示しています。
東京一極集中とは何だったのか
東京一極集中とは、人口や企業、本社機能、大学、雇用などが東京へ集中し、地方との格差が広がる現象を指します。
これまで政府は地方創生を進めるため、税制や補助金、行政機関の地方移転など様々な政策を実施してきました。
地方税の再配分もその一つです。
東京で生まれた税収の一部を地方へ移すことで、地域間の財政格差を縮小する仕組みが整備されてきました。
東京都が主張する「パイを大きくする発想」
東京都は今回、「限られた税収を分け合う議論ではなく、日本全体の成長を優先すべきだ」と主張しています。
企業が集まり、新しい産業が生まれ、世界から投資を呼び込めれば、税収全体も拡大します。
その結果として地方にも恩恵が及ぶという考え方です。
つまり、「配分の議論」よりも「成長の議論」を優先しようという発想です。
実際には東京だけが伸びているわけではない
東京都は、人口動態を見ても東京だけに人が集まっているわけではなく、大阪、福岡、名古屋など複数の都市へ人口や企業が集積していると説明しています。
デジタル産業や半導体、スタートアップなども地域ごとに特色ある産業集積が進みつつあります。
地方と東京という単純な対立構造ではなく、「複数の成長拠点」が形成される時代へ移行しているとの見方です。
成長戦略と地方政策は対立しない
地方を支援することと、東京を成長させることは必ずしも矛盾しません。
例えば、
・研究開発拠点の整備
・空港や港湾などのインフラ整備
・AIや半導体への投資
・大学や研究機関との連携
こうした投資は東京だけでなく全国へ波及効果をもたらします。
重要なのは、どこから税収を取るかではなく、どのように経済全体を成長させるかという視点です。
地方税の偏在是正は終わったわけではない
今回の骨太の方針でも、偏在性の小さい地方税体系を目指す方針自体は維持されています。
つまり、税収再配分の議論がなくなったわけではありません。
秋以降の税制改正論議では、
・法人課税の見直し
・固定資産税のあり方
・地方交付税制度
・地方財政全体の仕組み
などが改めて議論される見込みです。
東京都と地方自治体の意見の隔たりは依然として大きく、今後も調整が続くでしょう。
税理士として注目したいポイント
税制は経済政策を反映します。
企業がどこへ投資し、どこに本社を置き、どこで人材を採用するかは、税制の影響を大きく受けます。
今後もし政府が「成長重視」の姿勢を強めれば、
・法人税制
・研究開発税制
・スタートアップ支援
・設備投資促進税制
などにも影響が広がる可能性があります。
税理士としても、単なる税率変更だけでなく、その背景にある経済政策まで理解しておくことが、企業への助言の質を高めることにつながります。
結論
「東京一極集中の是正」という言葉が骨太の方針から外れたことは、単なる文言の修正ではありません。
日本全体の成長をどのように実現するかという政策の軸足が、「再分配」から「成長戦略との両立」へ移り始めた象徴ともいえます。
もちろん地方との格差解消は引き続き重要な課題ですが、これからは「どこから取るか」よりも「どうやって新しい富を生み出すか」が政策の中心になっていくでしょう。
税制改正の議論を読み解く際にも、この視点を持つことがこれまで以上に重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年7月31日 朝刊
都、税収偏在是正の軌道修正へ 成長戦略で国と連携強化 骨太の方針巡り小池知事「一極集中」念仏消えた