NISAで銀行預金は減るのか 貯蓄から投資への流れが金融機関の預金獲得競争を変える理由編

FP
緑 赤 セミナー ブログアイキャッチ - 1

2024年から新しいNISAが始まり、投資信託や株式を購入する人が増えています。

これまで銀行預金として置かれていたお金の一部が、NISAを通じて投資へ向かえば、銀行や信用金庫の預金が減るのではないかという見方もあります。

特に信用金庫にとっては、相続による預金流出やネット銀行との金利競争に加えて、投資商品まで預金の競争相手になることを意味します。

ただし、NISAで投資が増えた金額だけ銀行システム全体の預金が消えるわけではありません。

預金から投資への資金移動は、少し丁寧に考える必要があります。

NISAは投資の利益を非課税にする制度

通常、株式や投資信託への投資によって得た売却益や配当などには税金がかかります。

NISAでは、一定の条件のもとでこうした運用益が非課税になります。

2024年から始まった新しいNISAでは、非課税で保有できる期間が無期限となり、制度も恒久化されました。

年間投資枠は、つみたて投資枠が120万円、成長投資枠が240万円で、合計360万円です。

生涯に利用できる非課税保有限度額は1800万円となっています。

長期的な資産形成を税制面から後押しする制度といえます。

預金から投資信託へお金を移す人が増える

NISAで投資するには、どこかから投資資金を用意する必要があります。

毎月の給与から積み立てる人もいれば、それまで銀行口座に置いていた預金を使う人もいます。

例えば、銀行に1000万円の預金を持つ人が、そのうち300万円を使ってNISA口座で投資信託を購入するとします。

その人自身の資産構成を見ると、預金が300万円減り、その代わりに300万円分の投資信託が増えます。

現金中心だった金融資産の一部が投資商品へ変わったことになります。

これが家計から見た貯蓄から投資への資金移動です。

投資したお金が金融システムから消えるわけではない

ただし、ここで注意したい点があります。

投資信託を300万円購入したからといって、日本の銀行システム全体から必ず300万円の預金が消えるわけではありません。

例えば、そのお金で株式を購入すれば、最終的には株式を売った人など別の経済主体へ資金が渡ります。

売り手が受け取った代金を銀行口座に置けば、別の場所に預金が存在することになります。

投資信託でも、集めた資金は株式や債券などの購入に使われます。

つまり、預金から投資へという言葉は、個人の資産構成を考える場合と、銀行システム全体の預金残高を考える場合では意味が異なります。

NISAによる投資額と同額だけ日本全体の預金が機械的に減るわけではないのです。

個別の金融機関から預金が流出することはある

一方、特定の銀行や信用金庫という単位で見れば話は変わります。

例えば、地方の信用金庫に1000万円を預けている人が、ネット証券へ300万円を送金してNISAで投資したとします。

信用金庫から見れば、300万円の預金が流出します。

そのお金が最終的に別の銀行の預金になったとしても、元の信用金庫に戻ってくるとは限りません。

したがって、NISAの普及は個々の金融機関にとって預金獲得競争に影響する可能性があります。

特に預金を主な顧客接点としてきた地域金融機関にとっては重要な変化です。

預金と投資では役割が違う

もっとも、預金と投資信託は単純な競争関係ではありません。

預金には、日常生活の支払いや近い将来に使うお金を安全性と流動性を重視して保管する役割があります。

一方、株式や投資信託は価格が変動します。

長期的に資産を増やせる可能性がある反面、必要になった時点で元本を下回っている可能性もあります。

そのため、生活費や近いうちに使う予定のあるお金までNISAへ移すことが適切とは限りません。

生活防衛資金など必要な現金を確保したうえで、長期間使う予定のない余裕資金を投資へ振り向けるという考え方が基本になります。

預金か投資かという二者択一ではなく、それぞれの役割を分けることが重要です。

金利上昇は預金の魅力も高める

NISAが普及している一方、日本では金利環境も変化しています。

日本銀行が2024年3月にマイナス金利政策を解除したことで、銀行の預金金利も上昇するようになりました。

預金金利がほぼゼロだった時代には、長期間預金を持つことの機会費用が意識されやすい状況でした。

しかし、預金にも一定の利息が付くようになれば、安全性を重視する資金にとって預金の魅力は高まります。

つまり現在は、NISAによって投資の魅力が高まる一方、金利上昇によって預金の魅力も回復するという興味深い状況になっています。

金融機関はこの両方の変化に対応しなければなりません。

相続資金がNISAへ向かう可能性もある

さらに今後注目されるのが相続との関係です。

日本では高齢者が多額の金融資産を保有しています。

親が亡くなり、子どもがまとまった預金を相続した場合、そのお金をすべて預金として持ち続けるとは限りません。

例えば、地方の信用金庫にあった2000万円を都市部に住む子どもが相続したとします。

子どもが自分の銀行口座へ資金を移し、その一部をNISAで投資信託や株式へ振り向けることも考えられます。

この場合、地域金融機関から見ると、相続と投資が同時に預金流出のきっかけになります。

世代が変われば、金融資産の持ち方も変わる可能性があるのです。

若い世代ほど金融機関との付き合い方が変わる

親世代は、給与振込から定期預金、住宅ローンまで一つの金融機関を長期間利用してきた人も多いでしょう。

しかし、スマートフォンを使い慣れた世代では金融サービスを目的別に使い分けることが容易になっています。

給与受取は銀行、預金は金利の高いネット銀行、NISAはネット証券、住宅ローンは別の銀行という使い方もできます。

一つの金融機関にすべての資産を預ける必要性は小さくなっています。

相続によって金融資産の所有者が高齢の親から子どもへ変わることは、金融サービスの利用方法まで変える契機になる可能性があります。

銀行や信用金庫も投資商品との接点を強める

こうした環境では、銀行や信用金庫も預金だけを提供していればよいわけではありません。

顧客の資産形成ニーズに応じて、投資信託などを含めた金融サービスを提供する必要があります。

ただし、金融機関にとって重要なのは預金を投資商品へ移してもらうこと自体ではありません。

顧客の年齢、資産状況、投資経験、資金を使う時期などに応じて、預金と投資を適切に組み合わせることが求められます。

高齢者や相続人との長期的な関係を維持できれば、預金が投資商品へ変わったとしても顧客との関係そのものを維持できる可能性があります。

預金残高だけではなく、顧客の金融資産全体を見ることが重要になっているのです。

預金獲得競争から資産獲得競争へ変わる

これまで金融機関は、どれだけ多くの預金を集めるかを重視してきました。

しかし、NISAの普及によって家計が預金だけでなく投資信託や株式を保有するようになれば、競争の対象も変わります。

銀行、信用金庫、証券会社、ネット証券などが、家計の金融資産をめぐって競争することになります。

重要なのは、預金を自社に置いてもらえるかだけではありません。

顧客が持つ金融資産全体について、どれだけ長期的な関係を築けるかです。

NISAは家計の資産形成を変えるだけでなく、金融業界の競争の形まで変える可能性があります。

結論

NISAの普及によって、銀行預金の一部が投資信託や株式へ振り向けられる動きは今後も続くと考えられます。

ただし、NISAで300万円投資したから日本の銀行預金全体が300万円消えるという単純な関係ではありません。

投資されたお金は別の経済主体へ移り、別の銀行預金になることもあります。

一方、個々の金融機関から見れば、顧客が預金をネット証券などへ送金することで預金が流出する可能性があります。

特に相続によって地方の高齢者から都市部の子どもへ金融資産が移れば、金融機関だけでなく預金と投資の配分まで見直される可能性があります。

これからの金融機関の競争は、預金をどれだけ集めるかという競争から、顧客の金融資産全体とどれだけ長く関係を持てるかという競争へ変わっていくのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年9月10日 朝刊 信金の個人預金、初の2年連続減 昨年度

タイトルとURLをコピーしました