東京湾岸エリアの中古マンション市場で、価格調整が進んでいます。
2026年8月の湾岸エリアの平均値下げ率は10.21%となり、都心5区や東京23区のその他の地域を上回りました。
中古マンションの平均成約価格も、2025年12月の1億4,484万円から2026年8月には1億2,273万円へ下落しています。
こうした市場環境の変化で注意したいのが、マンション価格と住宅ローン残高の関係です。
マンション価格が上昇している間は、住宅ローンを利用した購入によって資産形成が進んでいるように見えることがあります。
しかし、価格が下落すると、不動産の市場価値が住宅ローン残高を下回る可能性があります。
特に1億円を超える住宅ローンを組んでいる場合、10%の価格下落でも1,000万円以上の資産価値の減少につながります。
今回は、マンション価格が10%、20%、30%下落した場合を想定し、住宅ローン残高、売却損、住み替え、老後資金への影響を具体的に考えます。
マンション価格と住宅ローン残高は別々に動く
住宅ローンを利用してマンションを購入した場合、家計には不動産という資産と住宅ローンという負債が生じます。
例えば、1億2,000万円のマンションを購入し、頭金2,000万円を支払い、残りの1億円を住宅ローンで借り入れたとします。
購入時の不動産価値は1億2,000万円です。
住宅ローン残高は1億円です。
したがって、不動産価値から住宅ローン残高を差し引いた金額は2,000万円になります。
ただし、実際には購入時の諸費用も発生するため、家計全体の純資産を考える際には、これらの費用も考慮する必要があります。
その後、マンション価格が上昇すれば、不動産価値と住宅ローン残高との差額は拡大します。
一方、価格が下落すれば、その差額は縮小します。
重要なのは、マンション価格が下落しても、住宅ローン残高が自動的に減るわけではないという点です。
住宅ローン残高は、原則として契約に基づく元金返済によって減少します。
マンション価格が10%下落した場合
1億2,000万円で購入したマンションが10%下落した場合を考えます。
市場価格は1億800万円になります。
購入時の価格との差額は1,200万円です。
仮に購入直後で住宅ローン残高が1億円であれば、不動産価値から住宅ローン残高を差し引いた金額は800万円になります。
購入時には2,000万円あった差額が、800万円まで縮小する計算です。
つまり、マンション価格が10%下落したことで、当初の頭金2,000万円に相当する持ち分のうち、1,200万円が失われたことになります。
自己資金に対する減少率は60%です。
住宅ローンを利用した不動産購入では、不動産価格の下落率よりも、自己資金に対する損失率が大きくなることがあります。
これが借入金によるレバレッジ効果の特徴です。
マンション価格が20%下落した場合
次に、マンション価格が20%下落した場合を考えます。
1億2,000万円のマンションの市場価格は9,600万円になります。
購入直後で住宅ローン残高が1億円であれば、不動産価値が住宅ローン残高を400万円下回ります。
この状態は、一般に担保割れやオーバーローンと呼ばれます。
仮に9,600万円で売却できたとしても、売却代金だけでは住宅ローンを完済できません。
さらに、不動産仲介手数料などの売却費用も発生します。
売却時の仲介手数料が法定上限額で計算される場合、9,600万円の売買では税込で約323万円となります。
このほかにも抵当権抹消費用などが発生します。
したがって、住宅ローンを完済して売却するためには、数百万円以上の追加資金が必要になる可能性があります。
十分な金融資産がなければ、売却そのものが難しくなる場合があります。
マンション価格が30%下落した場合
さらに、マンション価格が30%下落した場合を考えます。
1億2,000万円のマンションの市場価格は8,400万円になります。
住宅ローン残高が1億円であれば、不動産価値を1,600万円上回る借入金が残ります。
売却費用を考慮すれば、必要な追加資金はさらに増加します。
この状態で転勤や離婚、失業などによって売却が必要になった場合、家計への影響は大きくなります。
特に高額マンションでは、価格下落率が同じでも金額ベースの損失が大きくなります。
ただし、ここで示した数字は、購入直後で住宅ローン残高がほとんど減っていない場合の試算です。
実際には、購入からの経過年数や返済状況によって住宅ローン残高は異なります。
価格下落による影響を判断する際には、現在の市場価格と実際の住宅ローン残高を比較する必要があります。
住宅ローンを返済していれば担保割れのリスクは減る
住宅ローンは、毎月の返済によって元金が減少します。
そのため、購入から時間が経過すれば、価格下落に対する耐久力が高まる場合があります。
例えば、1億円を金利1.5%、35年間の元利均等返済で借り入れた場合を考えます。
金利が変わらず、繰り上げ返済をしないと仮定すると、毎月の返済額は約30万6,000円です。
10年後の住宅ローン残高は約7,600万円になります。
仮に購入価格1億2,000万円のマンションが20%下落し、9,600万円になっていたとしても、不動産価値は住宅ローン残高を約2,000万円上回ります。
この場合、購入直後に20%下落したケースとは状況が異なります。
住宅ローンの元金返済が進んでいれば、価格下落による担保割れのリスクは小さくなります。
ただし、変動金利型住宅ローンでは、金利上昇によって元金の減少ペースが遅くなる場合があります。
将来の住宅ローン残高を試算する際には、金利変動も考慮する必要があります。
担保割れになっても直ちに住宅を失うわけではない
マンション価格が住宅ローン残高を下回った場合、直ちに住宅を売却しなければならないと考える人もいるかもしれません。
しかし、住宅ローンの返済を契約どおり継続できている場合、担保割れだけを理由に直ちに住宅を手放す必要が生じるとは限りません。
問題になるのは、売却が必要になった場合や、住宅ローンの返済が難しくなった場合です。
例えば、転勤によって住み替えが必要になった場合、売却代金で住宅ローンを完済できなければ、不足額を自己資金などで補う必要があります。
また、失業や収入減少によって返済が困難になった場合には、金融機関との相談が必要になります。
担保割れそのものよりも、担保割れと家計の資金不足が重なることが大きなリスクなのです。
住み替え計画が価格下落によって崩れる
マンション購入者の中には、将来の住み替えを前提としている人もいます。
例えば、30代で都心のマンションを購入し、子どもの成長に合わせて広い住宅へ住み替えるという計画です。
購入したマンションの価格が上昇していれば、売却代金を次の住宅購入資金に充てることができます。
しかし、価格が下落すると状況は変わります。
例えば、1億2,000万円で購入したマンションを10年後に1億円で売却する場合を考えます。
住宅ローン残高が7,600万円であれば、売却代金から借入金を返済した後に約2,400万円が残ります。
ただし、売却費用を差し引く必要があります。
また、購入時に支払った頭金や諸費用、10年間の住宅ローン返済額も考慮しなければ、住宅購入全体の損益は判断できません。
住み替えでは、売却後に手元に残る資金と、新たな住宅購入に必要な資金を一体で考える必要があります。
住宅ローン金利の上昇が問題を複雑にする
マンション価格の下落と住宅ローン金利の上昇が同時に起きると、家計への負担はさらに大きくなります。
例えば、変動金利型住宅ローンを利用している場合、金利上昇によって利息負担が増える可能性があります。
一方、マンション価格が下落していれば、売却によって住宅ローンを返済することも難しくなる場合があります。
住宅を保有し続ける場合には返済負担が増え、売却する場合には資金不足が生じるという状況です。
特に高額マンションでは、毎月の返済額が数万円増えるだけでも、年間では数十万円の負担増になります。
教育費や生活費が増加する時期と重なれば、家計の余裕が小さくなる可能性があります。
住宅ローンの金利上昇リスクと不動産価格下落リスクは、別々ではなく同時に検討する必要があります。
退職後の住宅ローン残高にも注意する
人生100年時代には、住宅ローンの完済年齢も重要です。
例えば、40歳で35年間の住宅ローンを組めば、完済予定年齢は75歳です。
65歳で退職する場合には、退職後も10年間の返済が続きます。
現役時代には返済できていても、退職後に収入が減少すると負担が重くなる可能性があります。
また、退職金を利用して住宅ローンを完済する場合には、その分だけ老後の金融資産が減少します。
マンション価格が下落している場合、売却によって老後資金を確保する計画にも影響します。
例えば、老後にマンションを売却して地方へ移住する予定であっても、想定より売却価格が低ければ、移住後の生活資金が不足する可能性があります。
老後の住まいを考える際には、住宅ローン残高だけでなく、売却可能額と金融資産残高を確認する必要があります。
価格下落に備えるための資金計画
マンション価格の下落に備えるためには、購入時から複数のシナリオを想定することが重要です。
例えば、購入価格から10%、20%、30%下落した場合の市場価格を計算します。
そのうえで、5年後、10年後、15年後の住宅ローン残高と比較します。
また、売却時の仲介手数料などを考慮し、売却後に手元資金がどの程度残るかを確認します。
さらに、生活防衛資金を確保しておくことも重要です。
住宅ローンの繰り上げ返済によって借入残高を減らすことは有効な選択肢ですが、手元資金を使いすぎると、収入減少や予期せぬ支出に対応しにくくなります。
価格下落への備えでは、住宅ローン残高を減らすことと、十分な金融資産を保有することのバランスが重要になります。
返済が難しくなった場合には早めの相談が必要
住宅ローンの返済が難しくなった場合には、延滞が長期化する前に金融機関へ相談することが重要です。
金融機関によっては、返済期間の延長や一定期間の返済額軽減などについて相談できる場合があります。
ただし、返済条件の変更が必ず認められるわけではありません。
また、返済期間を延長すれば、毎月の返済額が減少する一方で、総返済額が増える場合があります。
住宅ローンの返済が困難になった場合には、家計全体の収支を見直し、必要に応じて専門家へ相談することも考えられます。
返済が滞ってから対応するよりも、早い段階で選択肢を検討することが重要です。
結論
マンション価格の下落は、住宅ローンを利用して購入した人に大きな影響を与える可能性があります。
特に高額マンションでは、10%の価格下落でも1,000万円以上の資産価値の減少につながります。
住宅ローン残高が不動産価値を上回る担保割れの状態になると、売却や住み替えが難しくなる場合があります。
ただし、担保割れになったからといって、直ちに住宅を失うわけではありません。
重要なのは、住宅ローンの返済を継続できる家計の余力と、必要な場合に対応できる金融資産を確保していることです。
東京湾岸マンション市場の価格調整は、住宅購入における借入金のリスクを改めて考える機会となっています。
住宅価格が上昇している間は見えにくかった問題も、価格下落局面では明確になります。
人生100年時代の住宅購入では、将来の値上がり益を期待するだけでなく、価格が下落しても生活を維持できる資金計画が必要です。
住宅ローンは長期間にわたる負債です。
不動産価格の変動に左右されず、家計の安定と将来の生活の選択肢を守ることが、最も重要な住宅購入戦略になるのです。
参考
日本経済新聞 2026年10月17日 東京湾岸マンションの中古価格、成約までに1割下げ 高値で鈍る買い
国土交通省 住宅ローンに関する情報
住宅金融支援機構 住宅ローンの返済に関する情報