人口減少や高齢化が進むなか、地方自治体には多くの課題があります。
老朽化した公共施設を更新する。
豪雨などの災害に備える。
地域交通を維持する。
子育て環境を整える。
脱炭素に向けた設備投資を進める。
地域を維持するだけでも大きなお金が必要です。
一方、人口が減れば税収を増やすことは簡単ではありません。
国からの補助金にも限りがあります。
そこで注目されるのが、個人のお金を地域づくりへ直接つなげる仕組みです。
2027年4月から発行できるようになるデジタル地方債は、その新しい選択肢になる可能性があります。
地方創生にはお金が必要になる
地方創生というと、観光振興や移住促進などを思い浮かべることがあります。
しかし、地域を活性化するにはさまざまな投資が必要です。
例えば観光客を増やすのであれば、交通や観光施設などの整備が必要になることがあります。
子育て世代を呼び込むのであれば、学校や子育て環境を整える必要があります。
企業を誘致するのであれば、道路や通信環境などの基盤整備も重要です。
地方創生はアイデアだけでは進みません。
そのアイデアを実現するための資金が必要になります。
自治体の基本的な財源は税金
自治体が行政サービスを提供するための基本的な財源の一つが地方税です。
住民税。
固定資産税。
地方消費税など。
こうした税収を使って住民サービスを提供します。
しかし人口減少が進めば、地域によっては税収の確保が難しくなります。
特に現役世代が減少すれば、地域経済そのものが縮小する可能性があります。
その一方で、高齢化やインフラの老朽化によって必要な支出が増えることもあります。
収入が増えにくいのに、必要なお金は増える。
多くの自治体が直面する課題です。
国からのお金だけに頼ることにも限界がある
自治体の財源は地方税だけではありません。
地方交付税や国庫支出金など、国から自治体へ移転する財源も重要です。
地方創生に関する事業でも、国の補助制度が利用されることがあります。
ただし、すべての地域事業を国からのお金だけで実施できるわけではありません。
補助金には対象となる事業や条件があります。
期間が限定される場合もあります。
地域が必要とする事業と補助制度の内容が一致するとは限りません。
自治体自身が資金調達の選択肢を持つことも重要になります。
地方債はもともと重要な資金調達手段
そこで使われてきたのが地方債です。
地方債は自治体が資金を借りるために発行する債券です。
道路。
学校。
公共施設。
防災設備。
こうした長期間利用する施設などの整備に活用されます。
将来世代も利用する施設について、現在の住民だけが税金ですべて負担するのではなく、地方債によって費用を長期間に分ける考え方があります。
地方債は地方創生のために突然生まれた制度ではありません。
以前から自治体財政を支える重要な仕組みです。
これまでは個人のお金がほとんど入っていなかった
問題は地方債を誰が保有しているかです。
2024年度末の地方債証券の残高は69兆4,000億円です。
このうち個人の保有額は約980億円にすぎません。
割合にするとわずか0.14%です。
つまり、地方債市場では個人のお金がほとんど活用されていないことになります。
家計には大きな金融資産があります。
そのごく一部でも地域の事業へ向かえば、自治体にとって新しい資金の流れになります。
デジタル地方債は個人マネーへの入口になる
デジタル地方債で期待されているのが、個人投資家の裾野を広げることです。
従来より小さな単位で発行しやすくなれば、1万円などから購入できる商品をつくることも考えられます。
100万円なら購入できない人でも、1万円なら購入できるかもしれません。
さらに、
何のための地方債なのか。
集めたお金をどこに使うのか。
事業がどこまで進んだのか。
どのような成果が出たのか。
こうした情報を分かりやすく伝えれば、地域への投資という意味を持たせることができます。
地域住民のお金を地域に残す
地方創生を考えるときには、地域で生まれたお金をどこへ向けるかも重要です。
住民の預金や投資資金が地域外の企業や金融商品へ向かうことは自然なことです。
資産運用では分散投資も重要です。
一方、その一部を自分が暮らしている地域へ投資するという選択肢があってもよいでしょう。
例えば住民1万人が1万円ずつデジタル地方債を購入すれば1億円になります。
5万人なら5億円です。
一人ひとりの金額は小さくても、多くの住民が参加すれば大きな資金になります。
地域外のお金も呼び込める
さらにデジタル地方債には、地域外のお金を呼び込める可能性があります。
故郷を離れて都市部で暮らしている人。
以前その地域に住んでいた人。
観光で何度も訪れている人。
地域の商品を購入している人。
将来移住したい人。
こうした人たちが地方債を購入できれば、地域外の家計資金を地域づくりへ取り込めます。
ふるさと納税が寄付によって地域外のお金を動かしたように、デジタル地方債は投資によって地域外のお金を動かす可能性があります。
民間資金を活用する意味は税金を減らすことではない
ここで注意したいのは、個人投資家から資金を集めれば税金が不要になるわけではないことです。
地方債は借金です。
自治体は利息を支払い、満期には元本を返済する必要があります。
したがって、地方債を発行すれば自治体の財源が無条件に増えるわけではありません。
重要なのは、税金と地方債の役割を使い分けることです。
日常的な行政サービスには税収を使う。
長期間利用する施設などには地方債を活用する。
事業の性質に合わせた財源構成を考える必要があります。
補助金と組み合わせることも考えられる
地域プロジェクトの資金を一つの財源だけで賄う必要はありません。
例えば総事業費10億円の防災事業があるとします。
国からの補助金。
自治体の一般財源。
地方債。
こうした複数の財源を組み合わせることがあります。
その地方債の一部をデジタル地方債として個人に購入してもらうという方法も考えられます。
税金か補助金か地方債かという二者択一ではありません。
さまざまな資金を組み合わせて地域事業を実現するという考え方です。
お金だけでなく住民参加を生み出せる
デジタル地方債には、資金調達以上の意味があります。
例えば住民が地域の防災事業に1万円を投資したとします。
その後、工事の進捗情報が届きます。
完成した設備の見学会に参加します。
実際に豪雨が発生したとき、設備が地域を守ったことを知ります。
こうなれば、住民は単なる納税者ではありません。
自分のお金を出して地域プロジェクトに参加した投資家でもあります。
地方創生に必要なのは資金だけではなく、地域に関わる人を増やすことでもあります。
若い世代を地域づくりに巻き込める可能性
東京都の個人向け都債では、購入額の約80%を60歳以上が占めています。
デジタル地方債では、若い世代を地方債市場に取り込めるかも重要になります。
1万円から購入できる。
資金の使い道が分かる。
スマートフォンなどで情報を確認しやすい。
地域プロジェクトの進捗が届く。
こうした仕組みが整えば、これまで地方債に関心がなかった世代が地域づくりに参加するきっかけになる可能性があります。
資金が集まればよいわけではない
一方、デジタル地方債でお金が集まるからといって、必要性の低い事業まで実施してよいわけではありません。
地方債は将来返済する必要があります。
事業の必要性。
費用対効果。
将来の維持管理費。
自治体の財政状況。
人口動態。
こうした点を十分に検討する必要があります。
特に人口が減少する地域では、施設をつくった後の維持費まで考えなければなりません。
資金調達が簡単になることと、財政規律を緩めることは別です。
人気投票のようにしてはいけない
個人から資金を集める場合、分かりやすい事業に人気が集中する可能性があります。
観光施設。
子育て施設。
環境事業。
こうした事業は投資家の共感を得やすいでしょう。
一方、下水道の更新など目立たないインフラにも多額の資金が必要です。
地方行政は人気のある事業だけでは成り立ちません。
デジタル地方債は住民参加の手段ではありますが、地方財政を人気投票にする仕組みではありません。
行政として必要な事業を判断することが前提になります。
地方創生の資金調達を多様化する
地方創生では、地域の課題そのものが多様です。
人口減少。
高齢化。
防災。
環境。
交通。
教育。
観光。
自治体によって必要な事業は異なります。
だからこそ資金調達も一つの方法だけに頼らないことが重要です。
税金。
国からの財源。
地方債。
民間資金。
寄付。
そして個人が購入するデジタル地方債。
さまざまな資金を地域の課題に応じて組み合わせる時代になっていく可能性があります。
結論
デジタル地方債は、地方創生のすべての資金問題を解決するものではありません。
地方債は借金であり、利息と元本を将来返済する必要があります。
税金や国からの財源が不要になるわけでもありません。
それでも大きな可能性があります。
現在、69兆4,000億円ある地方債証券のうち、個人保有は約980億円、わずか0.14%です。
これまで地方債市場にほとんど入っていなかった個人のお金を、1万円などの小口投資によって地域づくりへ向けられる可能性があります。
地域住民が自分の地域に投資する。
故郷を離れた人が出身地に投資する。
地域のファンが好きな自治体に投資する。
そして自治体が、そのお金を防災や環境、教育など具体的な地域課題の解決に使う。
税金を払うだけでもない。
寄付をするだけでもない。
地域に投資するという新しい参加方法です。
デジタル地方債の本当の可能性は、自治体の借金をデジタル化することではありません。
地域づくりに必要なお金を、行政だけではなく個人も一緒に支える新しい資金の流れをつくれるかどうかにあります。
参考
日本経済新聞 2026年9月29日朝刊 「デジタル地方債の可能性 地域に投資、裾野広げる 個人の購入、増やす契機」