生成AIの普及によって、企業とコンサル会社の関係が変わろうとしています。これまで外部のコンサルタントへ依頼していた市場調査、競合分析、資料作成などを、企業の社員自身が生成AIを使って行えるようになってきたからです。
企業内部に専門人材を置き、自社で経営課題を分析して改革を進めるコンサルティングの内製化も進む可能性があります。
しかし、内製化が進めば外部コンサルが不要になるわけではありません。
重要になるのは、何を自社で行い、何を外部の専門家へ依頼するのかという役割分担です。
コンサルティングの内製化とは何か
コンサルティングの内製化とは、これまで外部のコンサル会社へ依頼していた業務を企業内部の人材で行うことです。
例えば経営戦略の立案、業務改革、データ分析、DX、新規事業開発などを担当する専門チームを社内に設置します。
こうした組織は社内コンサルやインハウスコンサルなどと呼ばれることがあります。
通常の事業部門が日々の業務を担当するのに対し、社内コンサル組織は部門横断的な経営課題に取り組みます。
営業部門だけを見るのではなく、営業、製造、経理、人事、ITなど複数の部門を横断して問題を分析する役割です。
外部コンサル会社が担ってきた機能の一部を、企業自身が持つという考え方です。
なぜ企業は外部コンサルを利用してきたのか
企業が外部コンサルを利用する理由はいくつもあります。
代表的なのが専門知識です。
新しい市場へ参入する場合、自社には十分な知識がないことがあります。
海外進出、M&A、DX、AI導入などでは、経験のある専門家から助言を受けることで失敗の可能性を下げられます。
もう一つが人材不足です。
大規模な改革を行うためには、通常業務とは別に多くの人員が必要になります。
しかし改革のためだけに社員を大量採用することは現実的ではありません。
そこで必要な期間だけ外部のコンサルタントを利用します。
さらに第三者としての客観性にも価値があります。
社内では当たり前になっている慣行について、外部の人間だからこそ問題を指摘できることがあります。
生成AIが専門知識へのアクセスを変える
生成AIが大きく変えたのが、専門知識へのアクセスです。
以前は特定分野について調べるために、大量の資料を探して読み込む必要がありました。
専門家へ相談しなければ分からないことも多くありました。
生成AIを利用すれば、膨大な情報を整理し、短時間で概要を把握できます。
例えば新しい市場について、
市場規模はどの程度なのか
主要企業はどこなのか
どのような規制があるのか
海外ではどのような事例があるのか
といった基本的な情報を社員自身が調べられます。
もちろんAIの回答をそのまま信用することはできません。
それでも情報収集に必要な時間とコストは大幅に下がります。
専門知識を持っている人と持っていない人との情報格差が縮小していくのです。
調査だけを外部へ依頼する必要性は低下する
生成AIの影響を最も受けやすいのが調査型のコンサルティングです。
例えば経営者が新しい市場への参入を検討するとします。
従来ならコンサル会社へ市場調査を依頼し、数週間後に報告書を受け取ることもありました。
しかし生成AIや各種データベースを活用すれば、企業内部でも一定水準の初期調査を行えます。
市場環境を整理する。
競合企業を比較する。
論点を洗い出す。
仮説を作る。
会議資料のたたき台を作る。
こうした業務まで自社で行えるようになれば、外部コンサルへ依頼する範囲は狭くなります。
今回の記事でアクセンチュアの浜岡大社長が調査だけの従来型コンサルについて厳しい見方を示している背景にも、こうした構造変化があります。
社内データとAIを組み合わせる効果は大きい
企業の内製化をさらに進める可能性があるのが、社内データと生成AIの組み合わせです。
企業には外部のコンサル会社が簡単には持てない情報があります。
顧客情報。
販売実績。
原価情報。
過去の会議資料。
社内規程。
製造データ。
問い合わせ履歴。
過去のプロジェクト資料。
こうした情報を安全な環境でAIに活用できれば、自社専用の知識基盤を構築できます。
一般的な情報を知っている外部専門家より、自社の事情を理解したAIの方が日常的な業務支援には便利になる可能性があります。
これはコンサルティングの内製化を進める大きな要因になります。
社内コンサル組織には強みがある
社内コンサルには外部コンサルにはない強みがあります。
最大の強みは会社を深く知っていることです。
企業文化。
社内政治。
過去の失敗。
経営者の考え方。
各部門の力関係。
現場の業務。
こうした情報は、外部の人間が短期間で完全に理解することは難しいものです。
さらに改革後も会社に残ります。
外部コンサルの場合、プロジェクトが終了すれば契約も終わります。
しかし社内人材であれば、その後の運用や改善まで継続できます。
改革のノウハウが社内へ蓄積されることも大きなメリットです。
内製化にも弱点がある
一方、すべてを内製化すればよいわけではありません。
社内にいるからこそ見えなくなる問題があります。
長年続いている制度について、
昔からこうしている
この会社では変えられない
この部署には言えない
と考えてしまうことがあります。
組織内部の常識に縛られるためです。
また専門家を社内で抱えるコストもあります。
M&A、サイバーセキュリティー、海外規制など、頻繁には発生しない専門課題のために多数の専門家を常時雇用するのは効率的とは限りません。
必要な時だけ外部専門家を利用する方が合理的な場合があります。
外部コンサルの価値はなくならない
内製化が進んでも、外部コンサルには重要な役割が残ります。
一つは他社の経験です。
社内人材が詳しいのは基本的に自社です。
一方、コンサルタントは複数企業のプロジェクトを経験しています。
他社では何が成功したのか。
何が失敗したのか。
同じ業界でどのような変化が起きているのか。
こうした横断的な知見には価値があります。
もう一つは高度な専門性です。
特殊な税務問題、大型M&A、海外法規制、大規模システム刷新などでは、その分野を繰り返し経験している専門家の知識が重要になります。
外部だから言えることもある
コンサルタントには第三者としての役割もあります。
例えば経営者が大規模な組織改革を進めたいと考えていても、社内だけでは議論が進まないことがあります。
部門間で利害が対立している。
過去の経緯がある。
経営陣の意見が割れている。
こうした場合、外部の専門家が客観的なデータや他社事例を示すことで議論を進められることがあります。
場合によっては、社内の人間には言いにくいことを外部コンサルが指摘する役割もあります。
外部性そのものが付加価値になるのです。
内製か外注かではなく組み合わせる
これから重要になるのは、内製か外注かという二者択一ではありません。
日常的な分析は社内で行う。
AIを使った情報収集も社内で行う。
会社固有の業務改善は社内人材が中心になる。
一方で、高度な専門知識が必要な問題は外部へ依頼する。
大規模改革では外部専門家を利用する。
第三者の客観的な意見が必要な場合にも外部を利用する。
こうした使い分けが進むでしょう。
企業側にも、外部コンサルを使いこなす能力が求められます。
コンサル会社にも知識移転が求められる
企業の内製化が進めば、コンサル会社の役割も変わります。
外部の専門家だけが知識を持ち続けるモデルでは、顧客企業から支持されにくくなる可能性があります。
プロジェクトを実施するだけではなく、
社員を教育する
業務の進め方を教える
AIの利用方法を伝える
社内チームを育てる
仕組みを顧客企業へ移管する
といった知識移転が重要になります。
顧客を自分たちに依存させるのではなく、顧客自身が問題を解決できる状態へ近づけることが、新しいコンサルティングの価値になる可能性があります。
AIは企業とコンサルの情報格差を縮める
これまでコンサル会社が持っていた大きな強みの一つが情報格差でした。
専門家を多数抱え、大量の事例や情報へアクセスできること自体が競争力でした。
生成AIは、この格差を小さくします。
顧客企業側も大量の情報を整理できるようになるからです。
その結果、
情報を持っているから依頼される
という関係から、
自社だけでは解決できない問題を解決できるから依頼される
という関係へ変わります。
これはコンサル会社にとって厳しい変化ですが、本来のコンサルティングへ戻る変化ともいえます。
結論
生成AIによってコンサルティングの内製化は進む可能性があります。
市場調査、情報整理、競合分析、資料作成などは企業自身でも行いやすくなります。
さらに社内データとAIを組み合わせれば、自社専用の知識基盤を構築することもできます。
その結果、単純な情報提供を外部コンサルへ依頼する必要性は低下するでしょう。
しかし外部コンサルが不要になるわけではありません。
他社での経験。
高度な専門性。
第三者としての客観性。
大規模改革を進める実行力。
こうした価値は企業内部だけでは簡単に代替できません。
これから企業に必要なのは、何でも外部へ依頼することでも、何でも内製化することでもありません。
AIでできることはAIへ任せる。
自社でできることは自社で行う。
そして自社だけでは解決できない問題に外部専門家を使う。
生成AI時代には、コンサル会社の能力だけでなく、企業側のコンサルタントを使いこなす能力も問われるようになるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年8月11日朝刊
AIでコンサルもう不要?(上)調査だけなら時代遅れ
日本経済新聞 2026年8月11日朝刊
30年ごろピークアウト
日本経済新聞 2026年8月11日朝刊
選別進み再編起こる
日本経済新聞 2026年8月11日朝刊
記者の目 問われる人間力、人材育成がカギ