キャッシュバランスプランと確定拠出年金であるDCは、一見するとよく似ています。
どちらも従業員ごとに残高を積み上げていくように見えるからです。
しかし、両者には大きな違いがあります。
キャッシュバランスプランは確定給付企業年金であるDBの一種であり、DCは従業員自身が運用商品を選んで資産を運用する制度です。
特に重要なのが、誰が運用リスクを負うのかという違いです。
キャッシュバランスプランはDBの一種
キャッシュバランスプランでは、従業員ごとに仮想的な個人口座を設定します。
そこへ会社が毎年付与する金額と利息に相当する金額を積み上げ、将来の給付額を計算します。
仮想口座に1,000万円と表示されていたとしても、従業員本人の銀行口座や証券口座に1,000万円が保管されているわけではありません。
企業年金の制度上、将来の給付額を計算するための残高です。
実際の年金資産は企業年金全体として運用されています。
この点がDCとの大きな違いです。
DCには実際の個人別資産がある
DCでも、従業員ごとに資産残高があります。
ただし、こちらはキャッシュバランスプランの仮想的な残高とは性格が異なります。
会社などが拠出した掛金を加入者ごとの資産として管理し、従業員自身が用意された商品の中から運用先を選びます。
投資信託を選ぶこともできます。
元本確保型の商品を選ぶこともできます。
その運用結果が個人別の資産残高に反映されます。
運用が好調なら資産は大きく増える可能性がありますが、投資商品の価格が下落すれば資産額が減ることもあります。
最大の違いは誰が運用リスクを負うか
キャッシュバランスプランとDCの違いを理解するとき、最も重要なのが運用リスクです。
キャッシュバランスプランはDBです。
従業員の給付額は制度で定められた計算方法に基づいて決まります。
実際の年金資産の運用が想定より悪かった場合でも、その運用結果がそのまま従業員個人の給付額に反映される仕組みではありません。
企業側が年金財政について一定の責任を負います。
一方、DCでは実際の運用結果によって将来受け取る資産額が変わります。
運用商品の選択によるリスクを加入者自身が負う点が大きな違いです。
金利上昇の影響も違う
金利上昇が企業年金へ与える影響も両者では異なります。
キャッシュバランスプランでは、利息相当額を国債利回りなどに連動させている場合があります。
その場合、金利が上昇すると仮想口座へ加算される金額が増え、将来の給付額が増える方向に働く可能性があります。
加入者が自分で国債を購入する必要はありません。
一方、DCでは金利が上昇したからといって個人の資産が自動的に増えるわけではありません。
どの運用商品を保有しているかによって影響が変わります。
株式型の投資信託、債券型の商品、元本確保型の商品など、それぞれ金利変動への反応が違うからです。
DCでは加入者が商品を選ぶ
DCでは、加入者自身による運用商品の選択が非常に重要です。
会社などが用意した商品ラインアップの中から、自分で商品を選びます。
複数の商品へ資産を分散することもできます。
さらに年齢や資産状況などに応じて運用商品の配分を変更することもできます。
つまり同じ会社で同じ金額の掛金を拠出しても、どの商品を選んだかによって退職時の資産額が異なる可能性があります。
キャッシュバランスプランでは、従業員自身がこうした運用判断をする必要は基本的にありません。
株価上昇の恩恵も違う
株価が大きく上昇した場合を考えてみます。
DCで株式型投資信託を多く保有している人は、その上昇によって資産が大きく増える可能性があります。
反対に株価が急落すれば、大きな損失を受ける可能性もあります。
キャッシュバランスプランでは、実際の年金資産の一部が株式で運用されていたとしても、その年の株価上昇がそのまま個人の仮想口座へ反映されるわけではありません。
制度で定められた計算方法によって給付額が決まります。
大きな値上がり益を直接得にくい代わりに、市場急落の影響も直接受けにくい仕組みです。
将来の金額の見え方も違う
キャッシュバランスプランでは、仮想口座の残高や計算ルールを確認することで将来の給付額を比較的イメージしやすい特徴があります。
もちろん金利などによって将来の金額は変化します。
それでも給付額の計算方法そのものは制度で決められています。
DCの場合、将来の資産額は運用成績によって大きく変わります。
現在500万円の資産があっても、10年後にいくらになるかは分かりません。
どの程度の利回りで運用できるかによって結果が変わるからです。
将来の給付額の予測可能性という点でも両者には違いがあります。
転職時の扱いにも違いがある
DCの特徴の一つが年金資産を持ち運びやすいことです。
転職した場合でも、一定の手続きを行うことで転職先の企業型DCやiDeCoなどへ資産を移換できる場合があります。
働く会社が変わっても、自分の老後資産として引き継ぎやすい仕組みです。
一方、DBを中途脱退した場合には、制度や条件によって企業年金連合会などへ年金資産を移す仕組みがあります。
同じ企業年金でも、転職したときの取り扱いは異なります。
転職が一般的になるほど、企業年金のポータビリティは重要になります。
どちらか一方だけとは限らない
企業によっては、DBとDCの両方を導入している場合があります。
例えば老後給付の一定部分をDBで確保し、別の部分をDCで積み立てるという組み合わせです。
この場合、DB部分では企業側が一定の給付責任を負い、DC部分では従業員自身が運用します。
安定性を重視する部分と、自分の判断で運用する部分を組み合わせることができます。
企業年金を確認するときには、勤務先にDBかDCのどちらがあるかだけでなく、両者がどのような割合で組み合わされているかを見ることも重要です。
DCが増えるほど金融教育が重要になる
2026年3月末時点で、企業型DCの加入者数はDBの加入者数を上回りました。
DCでは従業員自身の運用判断が将来の老後資産に影響します。
そのため企業には、制度を導入するだけでなく、従業員が適切に商品を選べるよう投資教育を行う役割があります。
加入者側も、会社が企業年金を用意してくれているから安心と考えるだけでは十分ではありません。
DCであれば、自分が何の商品を保有し、どの程度のリスクを取っているのかを定期的に確認する必要があります。
結論
キャッシュバランスプランとDCは、どちらも従業員ごとに残高を積み上げていくように見えますが、仕組みは大きく異なります。
キャッシュバランスプランはDBの一種で、制度で決められた計算方法によって将来の給付額が決まります。
国債利回りなどに連動して給付額が変わる場合はありますが、従業員自身が年金資産を運用するわけではありません。
一方、DCでは加入者自身が運用商品を選び、その運用結果によって将来の資産額が変わります。
両者の最大の違いは、誰が運用リスクを負うのかという点です。
企業年金を考えるときには、将来いくら受け取れるのかだけではなく、その金額が誰の判断と誰のリスクによって決まるのかまで確認することが重要です。
参考
日本経済新聞 2026年9月25日朝刊 インフレ下の企業年金(1)「企業、給付額増を検討」