企業年金には、会社が一定の給付を約束する確定給付企業年金であるDBと、従業員自身が運用する確定拠出年金であるDCがあります。
そのDBの中に、少し特徴的な仕組みがあります。
キャッシュバランスプランです。
キャッシュバランスプランでは、従業員ごとに仮想的な口座を設け、会社から付与される金額と利息に相当する金額を積み上げて将来の給付額を計算します。
その利息部分を国債利回りなどに連動させることができるため、金利が上昇すると将来の企業年金の給付額にも影響する場合があります。
インフレと金利上昇の時代に注目したい企業年金の仕組みです。
キャッシュバランスプランはDBの一種
キャッシュバランスプランという名称から、DCに近い制度と思うかもしれません。
しかし基本的にはDBの一種です。
一般的なDBでは、給与や勤続年数、ポイントなどを使って将来の給付額を計算します。
キャッシュバランスプランでは、従業員ごとに仮想的な個人口座があると考え、その口座に毎年一定額を積み上げていきます。
実際に従業員名義の銀行口座へ現金が入金されるわけではありません。
あくまで将来の給付額を計算するための仕組みです。
この点が重要です。
仮想口座には2つの金額が積み上がる
キャッシュバランスプランを理解するポイントは、仮想口座に積み上がる金額を2つに分けることです。
一つは会社から毎年付与される金額です。
給与や職位、勤続年数などを基準として決められることがあります。
もう一つが利息に相当する金額です。
これまで積み上がった残高に対して一定の率を使い、利息に相当する金額を加えていきます。
この2つを毎年積み重ね、退職時などの残高を基に一時金や年金の給付額を決めます。
預金残高が利息によって増えていくような形に見えるため、従業員にとって将来の給付額を比較的イメージしやすい仕組みです。
国債利回りなどを基準にできる
キャッシュバランスプランの大きな特徴が、利息に相当する部分の決め方です。
一定の固定利率を使う方法もありますが、国債利回りなど一定の客観的な指標を基準にすることもできます。
金利が上昇すれば、仮想口座へ加算される利息相当額が増える方向に働く場合があります。
反対に金利が低下すれば、その金額が小さくなることがあります。
そのためキャッシュバランスプランでは、市場金利の変化が将来の給付額に反映される仕組みを作ることができます。
長期間の低金利から金利のある世界へ変化すると、この特徴がより分かりやすくなります。
金利上昇で給付額が増える可能性がある
例えば仮想口座に1,000万円相当の残高があるとします。
利息に相当する率が1%なら、単純化すると1年間で10万円相当が加算されます。
2%なら20万円相当です。
長期間積み上げれば、この差はさらに大きくなります。
もちろん実際の制度では、使用する指標や利率の決定方法、上限や下限などが定められている場合があり、単純に市場金利がそのまま適用されるとは限りません。
それでも金利上昇が将来の給付改善につながる経路を持っている点が、キャッシュバランスプランの特徴です。
通常のDBとの違い
一般的な給与連動型のDBでは、給与や勤続年数などが給付額を左右します。
例えば基本給が上昇すれば、将来の企業年金も増える場合があります。
一方、キャッシュバランスプランでは、毎年付与される金額に加えて利息相当額が積み上がります。
その利息相当額が国債利回りなどに連動していれば、給与が変わらなくても金利変動によって将来の給付額が変わる可能性があります。
つまり給与連動型では賃金が重要で、キャッシュバランスプランでは賃金などに加えて金利も重要になります。
DCとは何が違うのか
仮想的な個人口座に残高を積み上げるという説明を聞くと、DCとよく似ています。
しかし大きな違いがあります。
DCでは、会社などが拠出した掛金を従業員自身が運用します。
株式投資信託を選ぶのか、債券型の商品を選ぶのかなどを加入者が判断します。
その運用結果によって将来受け取る金額が変わります。
一方、キャッシュバランスプランでは従業員自身が仮想口座の資産を運用するわけではありません。
給付額は制度で定められた計算方法によって決まります。
実際の年金資産を運用する責任も基本的に企業側にあります。
個人口座のように見えても、運用責任の所在がDCとは違います。
企業側にもメリットがある
キャッシュバランスプランは、従業員だけではなく企業側にも意味があります。
従来型のDBでは、給付額が固定的である一方、市場金利が大きく変化すると企業年金の財政負担が変動することがあります。
キャッシュバランスプランでは、給付額の計算に市場金利の動きを一定程度取り入れることができます。
資産運用環境と給付設計をある程度連動させることで、企業側の金利変動リスクを抑えやすくする効果が期待できます。
従業員に一定の給付を提供しながら、企業側の財務リスクにも配慮した制度設計といえます。
金利が下がれば給付の伸びも小さくなる
金利連動にはメリットだけがあるわけではありません。
金利が上昇すれば利息相当額が増える可能性がありますが、金利が低下すれば反対の動きになります。
低金利が続けば、仮想口座の残高が増えるペースも鈍くなる可能性があります。
ただし、実際の制度では一定の下限を設けるなど、急激な変化を抑える仕組みが採用される場合があります。
どの金利指標を使うのか。
どの期間の平均を使うのか。
上限や下限があるのか。
同じキャッシュバランスプランでも制度設計によって金利変動の影響は異なります。
インフレへの完全な対応ではない
金利上昇によって給付額が増える可能性があるため、キャッシュバランスプランはインフレにも強いように見えるかもしれません。
しかし、物価上昇率と企業年金の給付額が必ず同じように動くわけではありません。
物価が3%上昇しても、給付額の計算に使われる率が1%しか上昇しなければ、実質的な購買力は低下する可能性があります。
キャッシュバランスプランは物価連動年金そのものではありません。
金利変動を給付額へ反映できる仕組みと考える方が分かりやすいでしょう。
自分の会社の計算方法を確認する
キャッシュバランスプランを採用している場合には、制度名だけを見るのではなく計算方法を確認することが重要です。
毎年どのような基準で金額が付与されるのか。
利息相当額はどの指標に連動するのか。
金利の上限や下限はあるのか。
退職時には一時金で受け取れるのか、年金として受け取れるのか。
こうした条件によって将来の給付額は大きく変わります。
企業年金の見える化が進めば、自分の勤務先の制度を理解する重要性はさらに高まります。
結論
キャッシュバランスプランは、DBの一種でありながら、従業員ごとの仮想口座に毎年の付与額と利息相当額を積み上げて将来の給付額を計算する仕組みです。
利息相当額を国債利回りなどに連動させる制度では、金利が上昇すると将来の給付額が増える方向に働く可能性があります。
一方、金利が低下すれば給付額の伸びが小さくなる場合もあります。
また、個人口座のように見えても、従業員自身が資産を運用するDCとは異なります。
インフレと金利上昇の時代には、企業年金についてDBかDCかを見るだけでは十分ではありません。
DBの中でも給付額がどのような仕組みで決まり、金利変動がどこまで反映されるのかを確認することが重要です。
参考
日本経済新聞 2026年9月25日朝刊 インフレ下の企業年金(1)「企業、給付額増を検討」