2027年1月から始まる「こどもNISA」は、0歳から利用できる新しい資産形成制度です。
年間投資上限は60万円、非課税保有限度額は600万円です。
制度だけを見れば、子どもの将来に向けて投資信託などを積み立てる仕組みに見えます。
しかし、こどもNISAには家計の資産形成を超えた意味があります。
日本の家計が保有する巨額の預貯金を投資へ動かすこと。
高齢世代に集中している金融資産を若い世代へ移すこと。
子どもの頃から金融教育を始めること。
そして家計のお金を企業の成長資金へつなげることです。
こどもNISAが広く利用されれば、日本のお金の流れそのものを変える可能性があります。
日本には約2,500兆円の家計金融資産がある
日本の家計金融資産は約2,500兆円に達しています。
世界的に見ても非常に大きな金融資産です。
問題は、そのお金がどのように保有されているのかです。
1,100兆円超、全体の約45%が現金や預金として保有されています。
現預金は生活資金や緊急資金として必要です。
一方、長期間使う予定のない資金まで預金として保有されているのであれば、その一部を長期投資へ向ける余地があります。
日本経済にとって重要なのは、金融資産の総額だけではありません。
蓄積されたお金がどのように使われているのかという点です。
金融資産の6割超を60歳以上が持っている
日本の家計金融資産には、もう1つ大きな特徴があります。
60歳以上が6割超を保有していることです。
長年働いて資産を形成してきた高齢世代に金融資産が集中すること自体は不自然ではありません。
しかし、若い世代には大きな資金需要があります。
教育。
結婚。
住宅。
子育て。
資格取得。
若い時期ほどお金が必要なのに、資産は高齢世代に集中しています。
こどもNISAは、この時間的なずれを小さくする可能性があります。
相続を待たずに孫へ資金を移す
これまで世代間の資産移転の中心は相続でした。
しかし、長寿化が進めば、相続する側の年齢も高くなります。
親から財産を相続したときには、子ども自身が60歳代になっていることもあります。
そのころには、住宅購入や子育てなど資金需要の大きな時期を過ぎている可能性があります。
そこで、生前に若い世代へ資産を移すという考え方が重要になります。
祖父母が孫へ資金を贈与し、その資金をこどもNISAで長期運用することも1つの方法です。
相続が発生するまで待つのではなく、お金を必要とする世代へ早く移すことができます。
高齢世代の預金が孫世代の投資資金になる
例えば祖父母が預金として保有している60万円を孫へ贈与したとします。
その60万円を孫のこどもNISAで投資します。
すると、高齢世代の預金だった60万円が、若い世代の投資資金へ変わります。
さらに、その資金は投資信託などを通じて国内外の株式や債券などへ向かいます。
1つの家庭だけなら小さな金額です。
しかし、多くの家庭で同じような資金移動が起これば、大きな流れになります。
こどもNISAは「高齢世代から若い世代へ」と「預貯金から投資へ」という2つの資金移動を同時に促す可能性があります。
家計のお金が企業の成長資金につながる
投資されたお金は、金融市場を通じて経済活動につながります。
企業には成長するための資金が必要です。
研究開発。
設備投資。
人工知能などの新しい技術。
脱炭素投資。
新規事業。
海外展開。
家計の長期資金が資本市場へ流れれば、企業が成長資金を調達する環境にも影響します。
もちろん、NISAへの投資が増えれば自動的に日本企業が成長するわけではありません。
海外資産へ投資する商品もあります。
企業自身が投資家から選ばれる経営を行うことも必要です。
それでも、家計から資本市場へ向かう長期資金が増えることには大きな意味があります。
投資による成長が家計へ戻る循環が重要になる
望ましい資金循環は、家計から企業へお金が流れるだけではありません。
企業が投資資金を使って成長する。
利益が増える。
賃金が上がる。
配当が増える。
企業価値が高まる。
その成果が再び家計へ戻る。
この循環が重要です。
家計が投資家になれば、企業の成長は働く人の賃金だけでなく、保有する金融資産の価値を通じても家計に関係するようになります。
こどもNISAによって若い世代まで投資家の裾野が広がれば、企業と家計の関係も変わる可能性があります。
0歳から投資を経験する意味は大きい
こどもNISAの最大の特徴は、投資を始められる年齢を0歳まで引き下げることです。
0歳の子どもが自分で投資判断をすることはできません。
最初は親などが管理することになります。
しかし、子どもが成長するにつれて、自分の資産について学ぶことができます。
投資信託とは何か。
なぜ価格が変動するのか。
なぜ分散するのか。
なぜ長期間積み立てるのか。
インフレとは何か。
企業はどのように利益を生み出すのか。
こうしたことを自分の資産を見ながら学ぶことができます。
日本人の投資行動を長期的に変えるうえでは、制度以上に金融教育が重要になる可能性があります。
18歳から自分自身の資産形成へつながる
こどもNISAは18歳で終わるわけではありません。
18歳になれば通常のNISAへつながります。
子どもの頃は親や祖父母が用意した資金で投資していた人が、就職後は自分の給与から積み立てるようになるかもしれません。
0歳から18歳までは家族による資産形成。
18歳以降は本人による資産形成。
この流れができれば、投資は一時的なものではなく、生涯の資産形成につながります。
若い時期から長期投資を経験する人が増えることは、日本の家計金融資産の構造を長期的に変える可能性があります。
資産格差という課題も残る
一方、こどもNISAには課題もあります。
投資するためには元手が必要です。
年間60万円を投資できる家庭もあれば、投資する余裕がない家庭もあります。
祖父母から多額の資金援助を受けられる子どももいます。
家族から資金援助を受けられない子どももいます。
長期投資では時間が資産形成の力になります。
そのため、幼少期の資産額の違いが長期間を通じて拡大する可能性もあります。
こどもNISAによる資産形成支援と、子育て支援や教育支援、社会保障は別の政策として考える必要があります。
投資を増やすこと自体を目的にしてはいけない
こどもNISAが普及したとしても、投資額が増えれば成功というわけではありません。
投資には価格変動があります。
元本保証もありません。
金融商品によって手数料やリスクも異なります。
家計が十分に理解しないまま投資額だけを増やせば、相場下落時に混乱が起きる可能性があります。
重要なのは、長期、積み立て、分散投資という基本を理解したうえで、自分の家計に合った金額を投資することです。
投資する余裕のない家庭が無理をして投資する必要もありません。
生活資金や緊急資金を確保することが先です。
こどもNISAが変えるのはお金の流れだけではない
こどもNISAの本当の影響は、投資額だけでは測れないかもしれません。
祖父母が孫の将来について考える。
親が子どもとお金について話す。
子どもが企業や経済に興味を持つ。
18歳になった本人が自分の資産形成を考える。
こうした行動が広がれば、日本人とお金の関係そのものが変わります。
預金するだけではなく、目的に応じて預金と投資を使い分ける。
相続まで財産を持ち続けるだけではなく、必要な世代へ生前に資金を移す。
資産を残すだけではなく、お金についての知識も次世代へ引き継ぐ。
こどもNISAには、こうした変化を促す可能性があります。
結論
こどもNISAだけで日本経済が変わるわけではありません。
しかし、日本が抱えているいくつかの大きな課題をつなぐ制度になる可能性があります。
日本の家計金融資産は約2,500兆円あります。
そのうち1,100兆円超が現金や預金として保有され、金融資産の6割超を60歳以上が持っています。
こどもNISAを通じて高齢世代の預貯金の一部が若い世代へ移り、さらに長期投資へ向かえば、新しい資金循環が生まれる可能性があります。
そして、その資金が企業の成長につながり、成長の成果が賃金や配当、資産価値を通じて家計へ戻れば、投資と経済成長を結びつける循環になります。
同時に、0歳から18歳までの長い時間を金融教育に使うことができます。
こどもNISAの本当の意味は、子どもの口座にいくら資産がたまるかだけではありません。
高齢世代から若い世代へ。
預貯金から投資へ。
家計から企業へ。
そして企業の成長から再び家計へ。
日本に蓄積されたお金を世代を超えて循環させることができるのか。
こどもNISAは、その大きな実験の入口になる制度といえそうです。
参考
日本経済新聞 2026年9月29日 朝刊 「こどもNISA」を経済活性化の契機に