こども家庭庁が2027年度の創設を目指す新しい子育て支援企業の認定制度では、子ども食堂など収益につながりにくい事業も念頭に置かれています。
ここには、企業を活用した子育て支援を考えるうえで重要な問題があります。
企業は基本的に、商品やサービスを提供して売上を得て、利益を上げることで事業を続けます。
ところが、子育て支援の中には社会的な価値が非常に高い一方で、利用者から十分な料金を受け取ることが難しい分野があります。
子ども食堂は、その代表的な例です。
社会に必要だから企業に支援してもらうだけでは、長期間続けることが難しい場合があります。
そこで法人減税や補助金、公共調達などを組み合わせ、社会的価値を生み出す企業が経済的にも活動を続けられる環境をつくろうとしているのです。
子ども食堂とは何か
子ども食堂は、子どもたちなどに無料または低額で食事を提供する地域の取り組みです。
名称には食堂と付いていますが、単に食事を提供する場所だけではありません。
子どもが安心して過ごせる居場所になったり、地域の人と交流する場所になったりすることもあります。
家庭以外の大人や子どもとつながる機会にもなります。
子育て世帯にとっては、食事の準備にかかる負担を軽くできる場合もあります。
そのため、食事支援、居場所づくり、地域交流など、複数の社会的な役割を持っています。
子どもの貧困だけを対象とするものではない
子ども食堂という言葉から、経済的に困窮している家庭の子どもだけが利用する施設というイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし、地域の子どもや保護者など、幅広い人を対象とする取り組みもあります。
利用者を特定の所得層だけに限定しなければ、経済的な事情を周囲に知られたくない家庭も参加しやすくなります。
また、共働きやひとり親世帯など、時間的な負担を抱える家庭にとっても食事を提供してもらえる場所には意味があります。
子ども食堂を地域全体の子育てインフラとして考えることもできるわけです。
企業が参入しにくい理由
一方、子ども食堂には通常の飲食店とは大きく異なる特徴があります。
利用者から十分な料金を受け取りにくいことです。
通常の飲食店であれば、食材費、人件費、家賃、光熱費などを価格に反映し、利益が出る水準で料理を販売します。
しかし子ども食堂が同じような価格を設定すれば、利用しにくくなる家庭が出てきます。
無料や低価格で提供するほど利用者にはメリットがありますが、運営側の収入は少なくなります。
つまり、社会的な役割を大きくしようとすると、事業としての収益性が低くなりやすいという難しさがあります。
社会的価値と収益性は一致するとは限らない
ここで重要になるのが、社会的価値と企業の利益は必ずしも一致しないという点です。
例えば、1000円の商品を販売して十分な利益が得られる事業であれば、企業は政府から支援されなくても参入します。
利益を得られるからです。
一方、社会にとって非常に必要なサービスでも、利用者から100円しか受け取れず、提供するために500円かかるのであれば、企業だけで継続することは難しくなります。
提供するほど赤字になるからです。
しかし、そのサービスによって子どもの孤立を防いだり、子育て世帯の負担を軽減したりできるのであれば、社会全体から見ると大きな価値があります。
企業の利益として表れない価値を、どのように経済的に支えるかという問題になります。
企業にはさまざまな支援方法がある
企業が子ども食堂を支援する方法は、自ら食堂を運営することだけではありません。
食品会社やスーパーであれば、食材を提供する方法があります。
飲食店であれば、調理設備や料理のノウハウを提供できるかもしれません。
不動産会社であれば、活動場所を提供する方法があります。
物流会社なら食材の配送を支援できます。
金融機関であれば資金面から地域の活動を支えることも考えられます。
企業が本業で持っている設備、人材、商品、物流網などを活用すれば、単純な寄付とは違った形で子ども食堂を支援できます。
これは企業にとっても、自社の強みを生かした社会貢献になります。
なぜ税制や補助金が必要になるのか
ただし、企業による支援にも費用がかかります。
食品を無償提供すれば、本来販売できた商品を提供することになります。
従業員を活動に参加させれば人件費が発生します。
施設を提供すれば、そのスペースを別の事業に利用する機会を失う場合もあります。
企業の善意だけに頼れば、景気が悪化したときや業績が悪くなったときに支援を続けられなくなる可能性があります。
そこで税制や補助金によって企業の負担を軽減する意味が出てきます。
子育て支援に取り組む企業に経済的なメリットを与えれば、企業が長期間活動を続けやすくなります。
寄付から事業へ変えられる可能性もある
企業の子ども食堂支援を考えるとき、寄付だけに限定しないことも重要です。
例えばスーパーが地域の子ども食堂と連携すれば、販売できなかった食品を有効活用できる可能性があります。
飲食企業が地域の子ども食堂を支援すれば、地域住民との接点が増えることも考えられます。
企業が持つ店舗や施設を地域の子育て拠点として活用する方法もあります。
社会貢献と本業を完全に分離するのではなく、本業の中に子育て支援を組み込むわけです。
こうした取り組みが新しい認定制度で評価されれば、企業側にも継続する理由が生まれます。
認定制度が企業の行動を変える
新しい子育て支援企業認定制度では、企業の取り組みを見える化することにも意味があります。
企業が子ども食堂を支援していても、その事実を消費者や求職者が知らなければ、企業価値にはつながりにくいでしょう。
国の認定制度によって子育て支援企業として評価されれば、社会的な取り組みを外部に示しやすくなります。
さらに法人減税や補助金、公共調達での加点などが組み合わされれば、企業の支援活動に経営上のメリットも生まれます。
社会的な活動を行うほど企業にも一定の利益が返ってくる構造をつくることができます。
地域企業だからできる支援もある
子ども食堂は地域との結び付きが強い活動です。
そのため、全国展開する大企業だけでなく、地域の中小企業にも重要な役割があります。
地域の飲食店、スーパー、食品会社、不動産会社、金融機関などが連携すれば、それぞれの強みを持ち寄ることができます。
一社だけで大きな負担を抱える必要もありません。
新しい認定制度や補助金がこうした地域企業の連携まで支援できれば、子ども食堂を地域の持続的な子育て基盤として育てられる可能性があります。
子育て支援企業の認定制度を大企業だけの制度にしないためにも、地域企業が参加しやすい仕組みが重要になります。
結論
子ども食堂は、低額または無料で食事を提供するだけでなく、子どもの居場所づくりや地域交流などにもつながる子育て支援の一つです。
一方、利用者から十分な料金を受け取りにくいため、社会的な価値が高くても事業として利益を上げにくいという特徴があります。
そのため、企業の善意だけに依存していては継続的な支援が難しくなる場合があります。
法人減税や補助金などによって企業の負担を軽くし、認定制度や公共調達などによって企業側にもメリットを生み出すことが重要になります。
企業が利益になる事業だけを行い、利益にならない社会課題は政府だけが担うという分担ではありません。
企業が持つ商品、人材、店舗、設備、物流などを社会課題の解決に活用し、その活動を政府が政策的に支える。
子ども食堂への企業支援は、社会的価値と企業活動をどのように結び付けるかを考える代表的な事例といえます。
参考
日本経済新聞 2026年8月25日 朝刊 子育て向け商品・サービス提供企業に法人減税