オルタナティブ投資を積極的に活用している投資家の代表例が、海外の大学基金です。
大学基金とは、大学への寄付金などを原資として長期的に運用し、その運用収益を大学の教育や研究などに活用する仕組みです。
記事では、資産運用で知られる米ハーバード大学では、PEへの配分比率が約40%と上場株式より高いことが紹介されています。
なぜ大学基金は、これほど多くの資金をPEなどのオルタナティブ資産へ投資できるのでしょうか。
重要なのは、大学基金が非常に長い時間軸で運用できる投資家だということです。
大学基金とは何か
大学基金は、大学が受け取った寄付金などをまとめて運用する資金です。
すべての資金をすぐに教育や研究へ使うのではなく、長期的に運用しながら、その収益の一部を大学運営に利用します。
個人の場合には、住宅購入、教育費、老後資金など、お金を使う時期があります。
一方、大学そのものは長期間存続することを前提としています。
そのため、大学基金の運用期間も非常に長くなります。
この長い運用期間が、大学基金の資産運用に大きな特徴をもたらします。
短期間で資産を売る必要がない
大学基金の強みの1つが、すべての資産を短期間で現金化する必要がないことです。
例えば、株式市場が大きく下落したとしても、すべての資産をすぐに売却しなければならないとは限りません。
長期間保有しながら市場の回復を待つこともできます。
さらに、資産の一部を数年間売却できない投資へ振り向けることも可能です。
この特徴と相性がよいのがPEなどのオルタナティブ投資です。
PEは簡単に売却できない代わりに、長期的な企業価値向上によるリターンを狙います。
長期間待てる投資家ほど、この仕組みを利用しやすいのです。
流動性を手放すことができる
投資資産には流動性があります。
現金や上場株式のように簡単に換金できる資産は流動性が高く、PEや一部の不動産などは流動性が低くなります。
一般的には、流動性が高い方が投資家にとって便利です。
必要なときに現金へ戻せるからです。
しかし、大学基金では、すべての資産に高い流動性を持たせる必要はありません。
長期間使う予定のない資金については、換金性をある程度手放すことができます。
その代わりに、流動性リスクを引き受けることによる追加的なリターンを期待できます。
これが流動性プレミアムを狙う考え方です。
ハーバード大学ではPEへの配分比率が高い
記事では、米ハーバード大学の資産運用が紹介されています。
PEへの配分比率は約40%で、上場株式より高いとされています。
ここで重要なのは、「PEを40%持てばよい」ということではありません。
なぜ大学基金がこれほど大きな比率をPEへ振り向けられるのかを考えることです。
大学基金は長期的な運用ができます。
短期間で資金をすべて引き出す必要もありません。
そのため、流動性の低い資産を多く保有する余地があります。
PEへの高い配分比率は、大学基金が持つ長期投資家としての特徴と関係しているのです。
長期投資できること自体が強みになる
資産運用では、情報量や資金量だけが強みになるわけではありません。
時間も重要な強みになります。
短期間で資金を回収しなければならない投資家は、流動性の高い資産を多く持つ必要があります。
一方、10年、20年という単位で資金を運用できる投資家は、短期間では換金できない資産にも投資できます。
つまり、他の投資家が避ける流動性リスクを引き受けることができます。
その対価として追加的なリターンを得られれば、長期的な運用成果を高められる可能性があります。
「待てること」そのものが投資上の強みになるわけです。
個人も長期投資家だが大学基金とは違う
個人投資家も、老後資金などでは20年、30年という長期運用が可能です。
その意味では大学基金と共通する部分があります。
しかし、大きな違いもあります。
大学基金は長期間存続することを前提としていますが、人には寿命があり、人生の各段階で資金を使います。
住宅購入や教育費だけではありません。
退職後には、運用資産を生活費として取り崩す時期もやってきます。
そのため、個人の場合は「長期投資だから流動性は必要ない」と単純に考えることはできません。
機関投資家の資産配分をそのまま真似しない
大学基金がPEを多く保有しているという事実を見ると、個人も同じようにPEやオルタナティブ資産を増やした方がよいように感じるかもしれません。
しかし、資産配分は投資家の目的や条件によって変わります。
大学基金と個人では、運用期間、資金需要、必要な流動性が違います。
したがって、重要なのは資産配分の数字を真似することではありません。
なぜその投資家がその資産を保有できるのかを考えることです。
大学基金の運用から学ぶべきなのは、PEへの配分比率そのものではなく、投資期間と流動性を一致させるという考え方です。
個人では使わないお金を見極める
個人が長期投資を考える場合にも、大学基金の考え方から学べる部分があります。
まず、自分のお金をすべて同じものとして考えないことです。
近いうちに使う生活資金。
数年後に使う可能性がある資金。
10年、20年以上使う予定のない長期資金。
このように分けて考えることができます。
短期間で使う可能性がある資金には流動性が必要です。
一方、長期間使わないことが明確な資金であれば、ある程度の流動性リスクを取れる可能性があります。
投資期間と資産の性質を合わせることが重要なのです。
結論
大学基金がPEなどのオルタナティブ投資を積極的に利用できる大きな理由は、非常に長い時間軸で資産を運用できることです。
短期間で資金をすべて現金化する必要がないため、流動性の低い資産を保有することができます。
その結果、流動性リスクを引き受け、その対価となる追加的なリターンを狙うことができます。
ただし、個人投資家が大学基金と同じ資産配分をそのまま真似することが適切とは限りません。
大学基金と個人では、資金を使う時期や必要な流動性が違うからです。
大学基金の運用から学ぶべき重要な点は、PEへの配分比率ではありません。
自分がどれだけ長く待てるのかを考え、その期間に合った資産へ投資することです。
資産運用では、資金量だけではなく「時間を持っていること」も大きな投資資源になるのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月26日朝刊 何のためのオルタナ投資か