日本のREIT市場では、上場する58銘柄の時価総額が合計約16兆円となっています。
一方、REITが保有している不動産の取得価格は合計約25兆円です。
25兆円の不動産を持っているのに、なぜ市場では16兆円程度と評価されているのでしょうか。
一見すると、9兆円も割安になっているように見えます。
しかし、この2つの数字をそのまま比較することはできません。
REITには不動産という資産だけではなく、借入金などの負債があるからです。
REITの時価総額とは何か
REITは証券取引所に上場しています。
投資家は株式と同じように、REITの投資口を市場で売買できます。
投資口価格に発行済み投資口数を掛けたものが、そのREITの時価総額です。
例えば、投資口価格が10万円で、発行済み投資口数が100万口なら、時価総額は1000億円です。
時価総額はREITが保有している不動産の価格そのものではありません。
投資家が、そのREITの投資主に帰属する価値を市場でいくらと評価しているのかを示す数字です。
そのため、投資口価格が下落すれば、保有不動産が変わっていなくても時価総額は減少します。
保有不動産価格とは何か
REITは投資家から集めた資金だけで不動産を購入しているわけではありません。
銀行などから資金を借りて物件を取得します。
保有不動産の取得価格とは、REITがオフィス、住宅、ホテル、物流施設などを取得したときの価格を合計したものです。
今回の記事では、日本のREITが保有する不動産の取得価格は合計約25兆円とされています。
ここで注意したいのは、25兆円が投資主の財産そのものではないということです。
不動産を取得するために利用した借入金などを考える必要があります。
25兆円と16兆円を単純比較できない理由
例えば、あるREITが1000億円の不動産を保有しているとします。
しかし、その物件を購入するために400億円を借りていたとします。
単純化すれば、1000億円の不動産をすべて売却しても、400億円の借入金を返済しなければなりません。
投資主に帰属する価値を考える場合、1000億円をそのまま使うことはできません。
資産から負債を差し引く必要があります。
この考え方が、前回取り上げたNAVにつながります。
したがって、J REITの保有不動産取得価格約25兆円と時価総額約16兆円との差である約9兆円を、そのまま割安額と考えることはできません。
取得価格と現在の不動産価値も違う
もう1つ注意したいのが、取得価格と現在の不動産価値の違いです。
REITが10年前に100億円で取得したビルが、現在も100億円の価値とは限りません。
周辺の地価が上昇し、賃料も上昇していれば、現在の価値は120億円や150億円になっているかもしれません。
反対に、建物の老朽化や地域の需要低下などによって価値が下がっている場合もあります。
そのためREITを評価するときには、取得価格だけを見るのではなく、現在の不動産価値を考える必要があります。
不動産価格が大きく上昇している局面では、この違いは特に大きくなります。
借入金を使う理由
それでは、なぜREITは借入金を利用するのでしょうか。
理由の1つは、投資家から集めた資金だけに頼るより、多くの不動産を取得できるからです。
例えば、投資家から600億円を集め、さらに400億円を借りれば、1000億円の不動産を取得できます。
不動産から得られる収益率が借入金利を上回っていれば、借入金を利用することで投資主に帰属する収益を増やせる可能性があります。
これがレバレッジの効果です。
ただし、金利が上昇すると借入金の利息負担が増えます。
借入金はREITの成長を支える一方で、金利上昇時にはリスクにもなります。
市場価格には将来が反映される
時価総額と不動産価値が一致しない最大の理由の1つが、市場は現在だけでなく将来を評価していることです。
例えば、現在1000億円の価値がある不動産を保有していても、今後賃料が下落すると予想されれば、REITの投資口は売られる可能性があります。
反対に、現在の資産価値がそれほど大きくなくても、賃料上昇や新しい物件取得による成長が期待されれば高く評価されることがあります。
投資家が見ているのは、今日不動産をいくら持っているかだけではありません。
その資産を使って将来どれだけの利益や分配金を生み出せるのかも見ています。
金利も市場評価を左右する
現在のJ REITを考える場合、長期金利の上昇を無視できません。
金利が上昇すれば、REITの借入金の調達コストが将来的に上昇する可能性があります。
利益や分配金が圧迫される懸念が強まります。
さらに、国債などの利回りが上昇すれば、投資家はREIT以外でも利回りを得られるようになります。
REITには不動産価格の下落や投資口価格の変動というリスクがあります。
そのリスクを取るのであれば、投資家はより高い収益を求めます。
その結果、現物不動産の価値が高くても、REITの市場価格が低く評価されることがあります。
成長期待も重要になる
株式市場では、現在保有している資産以上に将来の成長力が評価される企業があります。
REITも同じです。
将来性のある物件を取得できるのか。
賃料を引き上げられるのか。
収益性の低い物件を売却して、収益性の高い物件へ入れ替えられるのか。
データセンターやヘルスケア施設など、新しい成長分野へ投資できるのか。
こうした将来の成長力が市場価格に影響します。
日本のREITが保有する不動産の価値に比べて低く評価されている背景には、単なる不動産価値の問題だけでなく、成長期待の弱さもあると考えられます。
16兆円という数字が示しているもの
J REIT市場の時価総額約16兆円という数字は、保有する不動産全体の価格を示しているわけではありません。
市場が投資口に対して付けている価格の合計です。
そこには不動産価値だけでなく、借入金、金利、賃料、物件の将来性、スポンサー、資産運用会社の能力、成長期待などが反映されています。
したがって、保有不動産取得価格約25兆円に対して時価総額が約16兆円だから、約9兆円分がそのまま割安だと考えることはできません。
この違いを理解することが、REITを正しく見る第一歩になります。
結論
REITの時価総額と保有不動産価格は、そもそも意味の違う数字です。
保有不動産価格はREITが持っている不動産の規模を示します。
一方、時価総額は市場が投資主に帰属する価値をどの程度と評価しているのかを示します。
REITには借入金などの負債があるため、約25兆円の不動産を保有しているからといって、そのすべてが投資主の価値になるわけではありません。
さらに、取得価格と現在の不動産価値も違います。
そして市場は現在の不動産価値だけではなく、将来の賃料、金利、借入コスト、物件の成長性なども織り込んで投資口価格を決めています。
重要なのは25兆円と16兆円の差そのものではありません。
なぜ市場がREITをその価格で評価しているのかを考えることです。
そのための重要な手掛かりとなるのが、資産から負債を差し引いたNAVと、市場価格を比較するNAV倍率なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月15日 朝刊 不動産高騰でもREIT低迷
日本経済新聞 2026年9月15日 朝刊 REIT(不動産投資信託)