国民年金の第3号被保険者は、大きく減少しています。
2024年度末の第3号被保険者は約640万人となり、30年間でほぼ半分になりました。
この数字を見ると、
専業主婦が減って共働きが増えたからではないか
と考える人も多いでしょう。
もちろん、それは大きな理由の一つです。
しかし、第3号被保険者が減少している理由はそれだけではありません。
女性の就業拡大、非正規雇用の増加、短時間労働者への厚生年金の適用拡大など、複数の変化が重なっています。
つまり、第3号被保険者の減少は、日本の家族の形だけでなく、働き方と社会保険制度そのものが変化していることを表しているのです。
第3号被保険者は約640万人まで減った
第3号被保険者制度が始まったのは1986年です。
第3号被保険者とは、厚生年金に加入している第2号被保険者に扶養されている一定の配偶者です。
代表的なのは、会社員の夫に扶養されている専業主婦です。
一定の収入範囲で働くパート労働者なども第3号被保険者になる場合があります。
第3号被保険者本人は国民年金保険料を直接納付しませんが、その期間は原則として保険料納付済期間として扱われます。
この第3号被保険者が長期的に減っています。
2024年度末には約640万人となり、30年間でほぼ半分になりました。
なぜこれほど減ったのでしょうか。
最大の変化は共働き世帯の増加
まず考えられるのが、共働き世帯の増加です。
第3号被保険者制度が始まった1980年代には、
夫が会社員として働く
妻が専業主婦として家事や育児を担う
という世帯が現在より多く存在しました。
このような世帯では、妻が第3号被保険者になるケースが多くなります。
しかし、その後は女性の就業が進み、夫婦ともに働く世帯が増えました。
妻自身が会社員として厚生年金に加入すれば、妻は第3号被保険者ではありません。
自分自身が第2号被保険者になります。
つまり共働き世帯の増加は、そのまま第3号被保険者を減らす方向に働きます。
女性が結婚後も働き続けるようになった
かつては女性が結婚や出産を機に会社を退職し、その後は専業主婦になるという働き方が珍しくありませんでした。
例えば、独身時代には会社員として第2号被保険者だった女性が、結婚や出産によって退職し、会社員の夫の扶養に入れば第3号被保険者になります。
しかし現在では、結婚後も働き続ける女性が増えています。
出産後に育児休業を利用し、その後職場へ復帰する働き方も広がりました。
この場合、厚生年金への加入を続けるため、基本的に第2号被保険者のままです。
結婚したから第3号になる。
出産したから第3号になる。
こうした流れそのものが以前より弱くなっています。
専業主婦が減っただけでは説明できない
ただし、第3号被保険者の減少を専業主婦の減少だけで説明すると、重要な変化を見落とします。
第3号被保険者には、まったく働いていない専業主婦だけでなく、パートなどで働いている人も含まれます。
一定の条件のもとで配偶者の社会保険上の扶養に入っていれば、働いていても第3号被保険者になる場合があるからです。
つまり、
働いているか
働いていないか
だけでは第3号かどうかは決まりません。
重要なのは、本人が勤務先の厚生年金に加入しているかどうかです。
このため、第3号被保険者の減少を考えるうえでは、厚生年金の適用範囲がどのように変わってきたのかを見る必要があります。
パートにも厚生年金が広がってきた
以前は、短時間で働くパート労働者などについて、勤務先の厚生年金に加入しないケースが現在より多くありました。
その場合、会社員の配偶者で一定の扶養要件を満たしていれば、第3号被保険者になることができました。
しかし政府は、短時間労働者への社会保険の適用を段階的に拡大してきました。
一定の要件を満たしたパート労働者などについて、勤務先の厚生年金や健康保険に加入する範囲を広げてきたのです。
勤務先の厚生年金に加入すれば、その人は第2号被保険者になります。
第3号被保険者ではなくなります。
したがって、第3号被保険者の減少には、
専業主婦が働き始めた
という変化だけでなく、
すでに働いていたパート労働者が第3号から第2号へ移った
という変化も含まれています。
社会保険の適用拡大とは何か
社会保険の適用拡大とは、簡単にいえば、
会社の社会保険に加入する労働者の範囲を広げること
です。
従来は正社員を中心に厚生年金や健康保険へ加入する仕組みが作られていました。
しかし、非正規雇用や短時間労働が増える中で、正社員かどうかだけで社会保障に大きな違いが生じることが問題になりました。
そこで、一定の労働時間や賃金などの条件を満たす短時間労働者にも、厚生年金などへの加入を広げてきました。
この改革によって、それまで配偶者の扶養に入っていた人が自分自身の社会保険に加入するケースが増えています。
第3号被保険者の減少は、こうした制度改革の結果でもあります。
第3号から第2号へ移ると何が変わるのか
第3号被保険者から第2号被保険者になると、最も分かりやすい変化は社会保険料です。
第3号被保険者本人は国民年金保険料を直接負担しません。
一方、第2号被保険者になると、給与や賞与などに応じて厚生年金保険料を負担します。
健康保険料の本人負担も発生します。
そのため、短期的には手取りが減ることがあります。
しかし、負担だけが増えるわけではありません。
厚生年金保険料は勤務先も負担します。
さらに、本人の給与や加入期間に応じた老齢厚生年金を積み上げられます。
つまり、第3号から第2号への移行は、
無料だった社会保険が有料になる
とだけ捉えると実態を十分に表していません。
本人自身の社会保障を厚くする変化でもあります。
人手不足も第3号減少を後押しする
日本企業の人手不足も、第3号被保険者の減少に関係します。
企業が働き手を確保するには、現在働いている人に勤務時間を増やしてもらうことも重要です。
しかし、第3号被保険者の中には社会保険上の扶養を外れないように勤務時間や収入を調整する人がいます。
いわゆる働き控えです。
企業側から見ると、
もっと働いてほしい
という需要があります。
働く側には、
扶養から外れると社会保険料が発生するので勤務時間を増やしたくない
という事情があります。
この問題を解消するためにも、働く人自身が社会保険に加入する方向への制度改革が進められています。
その結果として、第3号被保険者はさらに減っていく可能性があります。
第3号が減ることと制度廃止は違う
ここで注意したいのは、
第3号被保険者が減っている
ことと、
第3号被保険者制度が廃止された
ことはまったく違うという点です。
現在も第3号被保険者制度は存在しています。
一定の条件を満たす人は第3号被保険者になることができます。
しかし、共働きの増加や厚生年金の適用拡大によって、第3号になる人そのものが減っています。
つまり、法律で一度に制度を廃止しなくても、
第3号になる人を徐々に減らす
ことは可能です。
現在の改革を見るうえで非常に重要なポイントです。
第3号縮小には2つの方法がある
第3号被保険者を減らす方法を大きく分けると、2つあります。
一つは、第3号被保険者制度そのものの要件を厳しくしたり、制度を廃止したりする方法です。
もう一つは、厚生年金の加入対象を広げる方法です。
後者の場合、第3号の資格を直接取り上げなくても、働いている人が勤務先の厚生年金に加入することで自然に第2号へ移っていきます。
現在進んでいる重要な流れはこちらです。
働いている人について厚生年金への加入を広げれば、第3号被保険者の対象者は徐々に少なくなります。
その意味で、厚生年金の適用拡大と第3号被保険者制度の縮小は表裏一体の関係にあります。
それでも第3号はなくならない
一方、厚生年金の適用を広げるだけでは、第3号被保険者がゼロになるわけではありません。
例えば育児や介護などの事情で働いていない人がいます。
働きたくても十分に働けない人もいます。
こうした人については、勤務先そのものがなければ厚生年金の適用拡大だけでは第2号に移すことができません。
そのため、第3号被保険者制度を本格的に見直すのであれば、
働いている第3号
と
働いていない第3号
を分けて考える必要があります。
さらに働いていない理由についても、育児、介護、本人や家族の事情などさまざまです。
第3号縮小が簡単ではない理由がここにあります。
約640万人という数字が示しているもの
第3号被保険者が約640万人まで減ったという数字は、単に専業主婦が減ったことを示しているだけではありません。
日本社会の構造変化を映しています。
共働き世帯が増えました。
女性の就業が拡大しました。
結婚や出産後も働き続ける人が増えました。
短時間労働者への厚生年金の適用も広がりました。
そして、人手不足を背景として、より多く働ける環境を作る必要性も高まっています。
こうした変化が重なった結果、第3号被保険者は長期的に減少しているのです。
結論
第3号被保険者は2024年度末で約640万人となり、30年間でほぼ半分になりました。
大きな理由の一つは、専業主婦世帯が減り、共働き世帯が増えたことです。
しかし、それだけではありません。
女性が結婚や出産後も働き続けるようになったことに加えて、これまで第3号だったパート労働者などが厚生年金に加入し、第2号へ移る動きも進んでいます。
つまり、第3号被保険者の減少には、
家族の変化
働き方の変化
社会保険制度の変化
という3つの流れがあります。
特に今後重要になるのが、厚生年金の適用拡大です。
働いている第3号被保険者を第2号へ移していけば、第3号制度そのものを一度に廃止しなくても対象者は徐々に減っていきます。
一方、育児や介護などによって働くことが難しい人をどうするのかという問題は残ります。
第3号被保険者が30年間で半減したという事実は、単なる人数の変化ではありません。
1986年に制度が作られたころの家族と働き方を前提とした年金制度が、共働きを中心とする新しい社会へ少しずつ移行していることを示しているのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月5日朝刊 厚労省「年金3号」縮小へ調査 働き控えの実態把握