2027年3月から、OTC類似薬を処方された患者に追加負担を求める新しい制度が始まります。
しかし、今回の制度導入ですべての議論が終わるわけではありません。
政府は2026年の経済財政運営と改革の基本方針で、2027年度以降の対象範囲の拡大に向けて検討する方針を示しています。
つまり、最初の制度は今後の改革につながる出発点でもあります。
一方で、対象を広げれば必ず医療費をさらに削減できるとは限りません。
患者負担、必要な医療へのアクセス、処方シフト、公的医療保険財政への影響などを確認しながら検討する必要があります。
まず77成分から始まる
2027年3月からの制度では、保湿剤や抗アレルギー薬、解熱鎮痛薬など77成分の1042品目が対象となります。
対象となるOTC類似薬を処方された患者は、薬剤費の4分の1を追加で負担します。
そのうえで、残りの部分について通常の保険診療と同様に1割から3割を負担します。
OTC類似薬を公的医療保険から完全に外す仕組みではありません。
保険給付を残しながら、一定の追加負担を求める方式です。
まず一定の範囲から制度を始め、その影響を確認していくことになります。
なぜ対象拡大が議論されるのか
背景には増え続ける社会保障費があります。
高齢化などによって医療費が増えれば、公費だけでなく健康保険料などの負担にも影響します。
そこで政府は、比較的市販薬で対応しやすい分野について患者負担のあり方を見直し、公的医療保険の支出を抑えることを目指しています。
最初の制度で一定の医療費抑制効果が確認できれば、同じ考え方をほかのOTC類似薬にも広げるという議論が出てきます。
対象範囲を広げれば、理論上は見直しの対象となる薬剤費も大きくなります。
ただし、対象品目を増やすことと実際の医療費削減額が同じ割合で増えるとは限りません。
制度導入後の検証が重要になる
対象拡大を考えるうえで重要なのが、2027年3月以降に何が起きるかです。
患者がOTC類似薬の処方を受ける代わりに市販薬を購入するようになれば、制度が想定するセルフメディケーションへの移行が進んだと考えることができます。
一方で、追加負担を避けるために医療機関そのものを受診しなくなる人が増える可能性もあります。
さらに医師がOTC類似薬ではなく、追加負担の対象外となる別の医療用医薬品を処方する可能性もあります。
そのため厚生労働省は、制度導入後に患者の受療行動や医師の処方などへの影響を検証する方針です。
対象拡大を考える前に、最初の制度がどのような結果をもたらしたのかを確認する必要があります。
処方シフトが対象拡大の鍵になる
特に注目されるのが処方シフトです。
今回の対象となる薬には、比較的価格の安い後発医薬品が多く含まれています。
ところが追加負担を避けるため、対象外となる比較的新しく価格の高い薬へ処方が変われば、公的医療保険から支払う金額が増える可能性があります。
対象を広げるほど、このような行動変化がどの程度起こるのかが重要になります。
OTC類似薬への支出だけを見て削減効果を判断することはできません。
代わりにどの薬の処方が増えたのかまで確認し、薬剤費全体で評価する必要があります。
患者負担とのバランスも必要になる
医療費を減らすことだけを考えるのであれば、患者が負担する範囲を広げるほど公的医療保険からの支出を減らしやすくなります。
しかし公的医療保険には、病気になったときの経済的負担を社会全体で支える役割があります。
対象を広げれば、継続的に薬を必要とする患者の負担が増える可能性があります。
特に長期間にわたって治療を続ける人にとっては、1回当たりの負担が小さくても年間では大きな金額になることがあります。
そのため今回の制度でも、子どもや生活保護受給者、がんや難病で治療中の患者などについて一定の例外が設けられます。
対象拡大を検討するときにも、誰にどの程度の負担を求めるのかという問題を避けることはできません。
市販薬があれば保険は不要とは限らない
OTC類似薬を考えるときに注意したいのは、市販薬が存在することと医療上の必要性がないことは同じではないという点です。
同じような成分の市販薬があっても、患者の病状によっては医師による診断や継続的な管理が必要になります。
長期使用が必要な場合もあります。
ほかの病気や服用している薬との関係を確認する必要がある患者もいます。
そのため、単純に市販薬が存在する薬をすべて追加負担の対象にすればよいわけではありません。
医療上の必要性と患者負担の公平性をどう両立させるかが重要になります。
保険適用そのものの議論もある
OTC類似薬を巡っては、追加負担方式だけが考え方ではありません。
公的医療保険の給付範囲そのものをどこまでにするのかという議論もあります。
今回の改革では、OTC類似薬を一律に保険適用外とするのではなく、保険給付を残したまま患者に追加負担を求める方式が採用されます。
この違いは重要です。
保険適用外にすれば患者負担は大きく変わります。
一方、保険給付を残せば医療上必要な患者への配慮をしやすくなりますが、公的医療費の削減効果とのバランスを考える必要があります。
今後の改革では、何を保険で支え、何を患者自身の負担とするのかという公的医療保険の基本的な役割も論点になります。
医療保険改革は段階的に進む
社会保障制度は、多くの人の生活に直接影響する制度です。
そのため、大きな変更を一度に実施するのではなく、一定の範囲から始めて結果を検証し、必要に応じて修正するという方法があります。
OTC類似薬の改革も、そのような段階的な制度改革として見ることができます。
2027年3月に制度を開始します。
その後、患者の行動や医師の処方、実際の医療費削減効果などを確認します。
問題があれば制度を見直します。
そのうえで対象範囲をどこまで広げるのかを検討することになります。
制度開始時の対象品目だけでなく、その後の検証と見直しまで追いかけることが重要です。
結論
OTC類似薬の追加負担は、2027年3月の制度開始がゴールではありません。
政府は2027年度以降の対象範囲の拡大に向けた検討を進める方針です。
ただし、対象を広げればそのまま医療費削減効果が大きくなるとは限りません。
市販薬への移行が進む一方で、必要な受診まで減る可能性があります。
追加負担を避けるために高価な医薬品への処方シフトが起これば、医療費削減効果が小さくなることも考えられます。
そして患者負担をどこまで増やすのかという問題もあります。
重要なのは、最初から対象拡大ありきで考えることではなく、制度導入後の実際のデータを確認することです。
患者の受療行動、医師の処方行動、薬剤費全体への影響、必要な医療へのアクセスなどを検証し、その結果を次の改革につなげる必要があります。
OTC類似薬の改革は、限られた財源のなかで公的医療保険がどこまで医療を支えるのかという、これからの社会保障制度そのものを考えるテーマでもあります。
参考
日本経済新聞 2026年9月16日 朝刊 OTC類似薬に回避リスク
内閣府 2026年 経済財政運営と改革の基本方針2026