NISAはなぜ非課税なのか 政府が税収を減らしてまで投資を促す理由編

FP
緑 赤 セミナー ブログアイキャッチ - 1

NISAの最大の特徴は、投資によって得た利益に税金がかからないことです。

投資する側から見ればありがたい制度ですが、少し視点を変えると不思議にも見えます。

本来なら国が受け取れるはずだった税金を、あえて取らないからです。

NISAの利用者が増え、運用資産が大きくなれば、それだけ非課税となる利益も増える可能性があります。

では、なぜ政府は税収を減らしてまでNISAを設けているのでしょうか。

その背景には、単なる投資家への優遇ではなく、家計の資産形成や日本経済のお金の流れを変えようとする政策目的があります。

通常の投資には税金がかかる

まず、NISAを使わずに株式や投資信託へ投資する場合を考えてみましょう。

例えば100万円で買った株式を120万円で売却したとします。

利益は20万円です。

通常の課税口座であれば、この20万円の利益には所得税や住民税などがかかります。

上場株式等の譲渡益や配当などに対する税率は、原則として20.315パーセントです。

20万円の利益なら、単純計算では約4万630円の税負担になります。

税引き後に残る利益は約15万9370円です。

投資によって20万円増えたとしても、その全額を自分の資産として残せるわけではありません。

これが通常の投資です。

NISAなら運用益が非課税になる

ところがNISA口座で対象商品を購入した場合は違います。

NISAでは一定の範囲内で得た売却益や配当、分配金などが非課税になります。

先ほどと同じように20万円の売却益が出たとしても、NISAの対象となる取引であれば、原則としてその20万円をそのまま受け取ることができます。

通常の課税口座なら約4万円の税金がかかるところが、NISAならゼロになるわけです。

投資期間が長くなり、利益が大きくなるほど、この違いは無視できなくなります。

さらに現在のNISAでは非課税保有期間が無期限となっています。

長期的な資産形成との相性が非常によい制度になっています。

非課税とは政府が税金を取らないということ

投資家から見ると、NISAは単純に得な制度です。

しかし政府側から見ると少し意味が変わります。

本来なら徴収できた税金を、政策的に徴収しない制度だからです。

例えば課税口座なら4万円の税収を得られるところを、NISAなら徴収しません。

つまり政府は税収の一部をあえて手放しています。

なぜそんなことをするのでしょうか。

重要なのが税制の持つもう一つの役割です。

税金には国や自治体の財源を集める役割だけではありません。

人や企業の行動を変える役割もあります。

税制優遇によって人の行動を変える

例えば、二つの金融商品があったとします。

一方には利益に約20パーセントの税金がかかります。

もう一方は利益が非課税です。

その他の条件が同じなら、非課税の商品を選びたいと考える人は増えるでしょう。

これが税制による政策誘導です。

政府が、

「長期的な資産形成につながる行動を増やしてほしい」

と考えれば、その行動に税制上のメリットを与えることができます。

NISAもその仕組みの一つと考えることができます。

単に投資家の税負担を軽くしているのではありません。

税金を軽くすることで、人々のお金の使い方や保有方法を変えようとしているのです。

日本の家計には巨額の金融資産がある

NISAを考えるうえで重要なのが、日本の家計が持っている金融資産です。

日本の家計は巨額の金融資産を保有しています。

ただし、そのすべてが株式や投資信託などに向かっているわけではありません。

現金や預金として保有されている部分も非常に大きくなっています。

現金や預金は安全性や流動性という点では重要です。

一方、それだけでは企業などへ直接リスクマネーを供給する働きは限定的です。

そこで長年掲げられてきたのが、

「貯蓄から投資へ」

という政策です。

家計のお金を株式や投資信託などへ振り向けることで、家計の資産形成と企業の成長を結びつけようという考え方です。

NISAはそのための重要な仕組みになっています。

なぜ政府が個人の資産形成を支援するのか

もちろん、投資するかどうかは本来個人の判断です。

それでも政府が資産形成を後押しする背景には、日本社会の構造変化があります。

代表的なのが長寿化です。

人生が長くなれば、老後に必要となる資金も長期間にわたります。

公的年金は老後生活を支える重要な柱ですが、それだけですべての生活設計が決まるわけではありません。

預貯金、退職金、企業年金、個人年金、投資などを組み合わせながら、自分自身でも資産を形成していく重要性が高まっています。

NISAは、その選択肢の一つを税制面から支援する制度です。

長期投資では非課税の効果が大きくなる

NISAと長期投資の相性がよい理由は、複利にもあります。

投資によって得た利益を再び投資すれば、その利益からさらに利益が生まれる可能性があります。

運用期間が長くなるほど、この積み重ねが資産形成に大きな影響を与える可能性があります。

途中で税金が差し引かれる場合と、非課税で運用できる場合では、再投資できる金額にも違いが生じます。

そのためNISAの非課税措置は、短期間で売買を繰り返すためというより、長期間にわたる資産形成を支援する意味が強いのです。

現在のNISAが非課税保有期間を無期限としていることも、この考え方とつながっています。

税収を減らしてでも将来の効果を期待する

ここまで考えると、NISAの非課税には一つの政策的な考え方が見えてきます。

政府は目先の税収の一部を手放す代わりに、家計の長期的な資産形成を促そうとしているのです。

家計の金融資産が成長企業などへ向かえば、企業の資金調達にもつながります。

企業が成長すれば、利益や賃金、雇用が増える可能性があります。

さらに家計が株式や投資信託を保有していれば、企業や経済の成長による利益を家計も受け取ることができます。

政府にとってNISAは、

税収を単純に放棄する制度

というより、

税制を使って家計のお金の流れを変える制度

と考える方が分かりやすいでしょう。

非課税なら何でもNISAに入れてよいわけではない

ここで重要な問題が出てきます。

NISAの非課税には政策上のコストがあります。

本来なら得られた税収を国が受け取らないからです。

そうであれば、どんな金融商品でもNISAに入れればよいということにはなりません。

税制優遇によって、国民のお金をどこへ向かわせるのかという政策判断が必要になります。

株式や投資信託を優遇するのか。

国債を優遇するのか。

あるいは預金まで対象にするのか。

対象商品を変えれば、人々のお金の流れも変わる可能性があります。

だからこそ、NISAの商品範囲を広げる議論では、

「その商品がお得になるか」

だけではなく、

「なぜ国がその商品を税制で優遇するのか」

を見る必要があります。

結論

NISAが非課税なのは、単に投資家を優遇するためではありません。

通常なら株式や投資信託の利益などには原則として20.315パーセントの税金がかかります。

NISAではその税金を取らないことで、長期的な資産形成へ人々のお金を向かわせようとしています。

つまりNISAの非課税は、政府が税収の一部を手放して、人々の行動を変えようとする政策でもあります。

家計の資産形成を支援し、現金や預金に偏った金融資産を投資へ振り向け、経済成長の成果を家計にも還元する。

そこにNISAの大きな政策目的があります。

ただし、非課税には必ずコストがあります。

だからこそ今後NISAの対象商品を拡大するときには、

「非課税だから得か」

だけではなく、

「なぜ国が税収を手放してまで、その金融商品を買ってもらいたいのか」

という視点が重要になります。

NISAを理解することは、投資制度を理解するだけではありません。

税制を通じて政府が国民のお金をどこへ動かそうとしているのかを理解することでもあるのです。

参考

日本経済新聞 2026年9月6日 朝刊 「なんでもNISA」の陥穽

タイトルとURLをコピーしました