相続税対策として利用されてきた不動産小口化商品が、大きな転換点を迎えています。
2027年1月から相続税や贈与税の評価方法が見直され、市場価格をより反映する方向となっているためです。
これまでのような大幅な評価圧縮が難しくなれば、「次は何を使って節税すればよいのか」と考える人もいるでしょう。
しかし、ここで次の節税商品を探すだけでは、同じことを繰り返す可能性があります。
これからの相続対策では、節税だけでなく、生前贈与、生命保険、不動産、納税資金、遺産分割などを組み合わせ、家族全体の資産承継を設計する視点が重要になります。
相続対策は節税だけではない
相続対策という言葉から、相続税を減らすことを最初に考える人は少なくありません。
もちろん、適法な範囲で税負担を抑えることは重要です。
しかし、相続対策には大きく分けて複数の目的があります。
財産を誰に渡すのか。
相続人同士でどのように分けるのか。
相続税をどのように支払うのか。
家族にできるだけ多くの財産を残すにはどうするのか。
事業や不動産を誰に引き継ぐのか。
税金だけ減らしても、遺産分割でもめたり、納税資金が不足したりすれば、相続対策として成功したとは言えません。
生前贈与は時間を味方につける
相続対策の基本的な選択肢の1つが生前贈与です。
生前贈与の特徴は、相続が発生するまで待つのではなく、本人が元気なうちから財産を次世代へ移せることです。
特に長期間をかけて計画的に財産を移転できれば、資産承継を段階的に進めることができます。
ただし、単純に毎年一定額を贈与すればよいという話ではありません。
贈与税の負担だけでなく、相続時の取り扱いや相続時精算課税制度との関係なども考える必要があります。
重要なのは、短期間で大きな節税効果を得ようとするのではなく、時間を利用して資産承継を進めることです。
生命保険には納税資金という役割がある
生命保険も相続対策では重要な手段です。
生命保険には一定の非課税枠がありますが、節税効果だけがメリットではありません。
大きな特徴は、相続発生後に現金を準備しやすいことです。
例えば、財産の大部分が土地や建物であれば、相続税を支払うための現金が不足することがあります。
不動産を急いで売却すれば、希望する価格で売れない可能性もあります。
生命保険金を納税資金として準備しておけば、不動産を慌てて処分する必要性を抑えられます。
誰に保険金を渡すのかを指定できる点も、資産承継を考えるうえでは重要です。
不動産そのものが不要になるわけではない
不動産小口化商品の評価方法が見直されるからといって、不動産を利用した相続対策がすべて意味を失うわけではありません。
賃貸不動産には、家賃収入を生み出すという本来の経済的機能があります。
長期的に需要のある立地で適正な価格で取得した不動産であれば、相続後も家族の収入源になる可能性があります。
重要なのは、評価額を下げるためだけに不動産を購入しないことです。
節税効果がなくても、その不動産を購入するのか。
この問いに答えられることが重要になります。
自宅についても確認しておきたい
相続財産の中で大きな割合を占めやすいのが自宅です。
一定の要件を満たす宅地については、小規模宅地等の特例によって相続税評価額を大きく減額できる場合があります。
ただし、適用には細かな要件があります。
誰が自宅を相続するのか。
相続後も居住を続けるのか。
被相続人と相続人の居住状況はどうだったのか。
こうした条件によって取り扱いが変わります。
相続が発生してから考えるのではなく、家族構成や将来の居住計画を踏まえて確認しておくことが大切です。
法人活用は節税だけで判断しない
資産規模が大きい場合には、資産管理会社などの法人を利用する方法が検討されることもあります。
法人を利用すれば、個人とは異なる形で資産を管理したり、家族に所得を分散したりできる場合があります。
一方で、法人を設立すれば継続的な維持費が発生します。
法人税などの申告も必要です。
不動産を法人へ移転する場合には、税金や登記費用などが発生することもあります。
法人化すれば必ず相続税が減るわけではありません。
資産規模、収益、家族構成、事業承継などを含め、長期的にメリットがあるのかを判断する必要があります。
納税資金の確保を忘れない
相続対策で意外に見落とされるのが納税資金です。
相続税は原則として現金で納付します。
財産評価額を下げることばかり考え、不動産など換金しにくい資産を増やしすぎると、相続発生後に現金が足りなくなる可能性があります。
例えば1億円の財産があっても、その大部分が不動産なら自由に使える現金が十分あるとは限りません。
そのため、
預金をどの程度残すのか。
生命保険でいくら準備するのか。
どの資産なら売却できるのか。
相続人自身に納税資金があるのか。
こうした確認が必要です。
節税対策と納税対策はセットで考えるべきです。
遺産分割は税金以上に重要になることがある
財産をどのように分けるかも重要です。
例えば親が1億円の不動産と1,000万円の預金を持ち、子どもが2人いる場合を考えてみます。
財産総額だけを見れば十分な資産があります。
しかし、不動産を長男が相続すると、次男へ渡せる現金が不足する可能性があります。
そこで不動産を共有すると、今度は将来の管理や売却で意見が合わなくなるかもしれません。
相続税を減らすことには成功しても、家族関係に問題を残しては意味がありません。
誰に何を残すのかという分割設計は、節税と同じくらい重要です。
税制変更に強い相続対策を考える
不動産小口化商品の評価見直しから得られる大きな教訓があります。
現在認められている節税策が、10年後も同じように利用できるとは限らないということです。
相続税制は社会情勢や資産価格、利用状況によって変わります。
そのため、1つの制度や商品だけに依存した相続対策には制度変更リスクがあります。
現金。
不動産。
有価証券。
生命保険。
生前贈与。
これらを組み合わせれば、特定の制度が変更された場合の影響を抑えることができます。
資産運用と同じように、相続対策にも分散という考え方が必要です。
相続対策の目的をもう一度考える
相続対策を始めると、どうしても「相続税をいくら減らせるか」という数字に目が向きます。
しかし、本当の目的は税金を最小化することではありません。
家族に財産を円滑に引き継ぐことです。
例えば1,000万円節税できても、投資した資産が2,000万円値下がりすれば意味がありません。
逆に相続税を一定額支払ったとしても、価値の高い資産を円滑に家族へ残すことができれば、合理的な相続になる場合があります。
税金は相続対策の重要な要素ですが、すべてではありません。
結論
不動産小口化商品の評価方法が見直されれば、これまで大きな節税効果を期待していた人は別の方法を検討することになります。
しかし、そこで「次に節税できる商品は何か」と探すだけでは十分ではありません。
生前贈与。
生命保険。
不動産。
納税資金。
遺産分割。
必要に応じた法人活用。
これらを家族の状況に合わせて組み合わせることが、これからの相続対策では重要になります。
税制は変わります。
節税商品も変わります。
しかし、家族へ財産を円滑に引き継ぎたいという目的は変わりません。
不動産小口化商品の評価見直しは、相続対策を「税金を減らすための商品選び」から「家族の資産承継をどう設計するか」へ戻すきっかけになるのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年10月8日朝刊 相続節税の不動産小口化、ルール改正で需要消失 FPGなど戦略転換