AI時代の若手コンサルタントはどう育てるのか 下積み仕事がなくなる問題編

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生成AIによってコンサルティング会社の仕事は急速に効率化しています。

市場調査、資料の要約、議事録の作成、データ整理、提案書のたたき台作成など、これまで若手コンサルタントが多くの時間を費やしてきた仕事をAIが短時間で処理できるようになってきました。

会社にとっては大きな生産性向上です。

しかし、ここには見落としやすい問題があります。

現在のベテランコンサルタントは、まさにそうした下積み仕事を経験することで能力を身につけてきたということです。

AIが若手の仕事を代替したとき、10年後のベテランを誰がどのように育てるのでしょうか。

AI時代のコンサルティング業界では、業務効率化と人材育成を同時に考える必要があります。

若手は何をして育ってきたのか

新人コンサルタントが入社直後から企業経営について高度な助言をできるわけではありません。

最初は比較的基礎的な仕事を担当します。

市場について調べる。

競合企業を分析する。

企業の財務情報を整理する。

顧客へのインタビュー内容をまとめる。

会議の議事録を書く。

先輩が作った資料を修正する。

プレゼンテーション資料を作る。

一見すると単純な作業に見えるかもしれません。

しかし、こうした仕事を何度も経験することによって、若手はコンサルタントとして必要な感覚を身につけてきました。

議事録を書くことにも意味があった

例えば会議の議事録です。

現在では生成AIによる自動作成が非常に得意な分野です。

音声を文字にして、重要な論点を整理し、担当者や期限までまとめることができます。

人間が作るより速い場合もあるでしょう。

しかし若手が議事録を書くことには、単なる記録以上の意味がありました。

経営者がどの発言に反応したのか。

誰と誰の意見が対立していたのか。

上司がどの質問をしたのか。

どの数字を重要視したのか。

どの提案が顧客に受け入れられたのか。

会議を注意深く聞きながら記録することで、若手は経営判断の現場を学んでいました。

議事録作成は作業であると同時に、教育だったのです。

資料作成も思考訓練だった

提案資料の作成についても同じことがいえます。

PowerPointを作ること自体に価値があるわけではありません。

重要なのは、その過程です。

大量の情報の中から何を残すのか。

何を捨てるのか。

最初にどの数字を見せるのか。

経営者が知りたいことは何か。

一枚の資料で何を伝えるのか。

どの順番なら意思決定しやすいのか。

資料を何度も作り直すことで、若手は情報整理や論理構成の能力を身につけてきました。

AIが完成度の高い資料を数分で作ってしまえば、その試行錯誤を経験する機会が減ります。

効率化すると学習機会が減るという矛盾

ここにAI時代の難しい問題があります。

企業から見れば、若手に2日かけて資料を作らせるより、AIに数分で作らせた方が効率的です。

顧客にとっても、短時間で高品質な成果物が出てくる方がよいでしょう。

しかし教育という観点では逆です。

失敗しながら資料を作る。

先輩から何度も修正される。

自分の分析が間違っていることに気づく。

顧客から厳しい質問を受ける。

こうした経験によって専門家は育ちます。

AIによって失敗する機会までなくなると、人間が学習する機会も減る可能性があります。

短期的な生産性向上と長期的な人材育成が衝突するわけです。

AIの答えを評価できない若手が生まれる可能性

さらに深刻なのが、AIの回答を評価する能力です。

生成AIは非常にもっともらしい回答を作ります。

しかし、常に正しいとは限りません。

数字の意味を取り違えることがあります。

重要な前提条件を見落とすことがあります。

企業固有の事情を十分理解できない場合もあります。

経験豊富なコンサルタントなら、AIの回答を見て違和感を覚えることがあります。

過去の経験と比較できるからです。

しかし最初からAIを使って仕事をしてきた若手は、その違和感を持てるのでしょうか。

自分自身で調べたり分析したりした経験が乏しければ、AIが作ったもっともらしい誤答を見抜けない可能性があります。

AIを使う能力だけではなく、AIを疑う能力をどう育てるかが重要になります。

若手を早く顧客の前に出す必要がある

下積み仕事がAIに代替されるのであれば、人材育成の方法そのものを変える必要があります。

一つの方向は、若手をより早い段階から顧客との仕事に参加させることです。

経営者へのインタビューに参加する。

顧客企業の会議で発言する。

現場社員から話を聞く。

提案内容を説明する。

顧客からの反論に答える。

こうした経験です。

従来は調査や資料作成を十分経験した後に担当していた仕事を、より早く経験させる必要が出てきます。

AIが仕事の階段の下半分をなくすのであれば、人間を早く上の段へ移さなければならないということです。

先輩の仕事を見る機会を意図的に作る

従来は、若手が先輩と一緒に仕事をすることで自然に学習できました。

同じ資料を作り、同じ会議に出席し、同じプロジェクトに長時間関わっていたからです。

AIによって仕事が効率化すると、この接触時間そのものが減る可能性があります。

そこで、先輩の判断過程を意図的に見せる必要があります。

なぜこの提案を選んだのか。

なぜ別の案を捨てたのか。

なぜこの経営者にはこの説明をしたのか。

なぜAIの分析を修正したのか。

完成した成果物だけを若手に見せるのではなく、そこに至る判断過程を共有することが重要になります。

専門家の暗黙知を意識的に言語化して伝える教育です。

AIに答えを作らせる前に自分で考える

教育目的では、AIをすぐに使わせない方法も考えられます。

例えばケーススタディーを行う場合、最初から生成AIに答えを聞かせるのではなく、まず若手自身に仮説を作らせます。

その後でAIに分析させます。

そして、

自分の分析とAIの分析はどこが違うのか。

AIが見落としている点は何か。

自分が見落としていた点は何か。

どちらの結論が妥当なのか。

を検討します。

AIを答えを出す機械として使うのではなく、自分の思考を比較する相手として利用するわけです。

こうすればAIを使いながら思考力を鍛えることができます。

AIを部下として管理する訓練も必要になる

AI時代の若手には、新しいマネジメント能力も求められます。

生成AIを一種の部下として考えると分かりやすいでしょう。

仕事の目的を説明する。

必要な情報を与える。

作業を指示する。

途中の成果物を確認する。

間違っていれば修正させる。

最終的な品質について自分が責任を持つ。

これは人間の部下を管理するときと似ています。

AIは短時間で大量の仕事を処理できますが、指示する人間が問題を理解していなければ、質の低い成果物を大量に作るだけです。

若手であっても、AIという強力な作業能力を管理する立場になるわけです。

対人能力の教育がさらに重要になる

AIが調査や資料作成を担当するほど、人間には人間にしかできない能力が求められます。

相手の表情を読む。

反対意見を聞く。

経営者が本当に心配していることを理解する。

異なる部門の利害を調整する。

会議で議論をまとめる。

改革に消極的な社員を説得する。

こうした能力です。

そのため若手教育でも、分析力だけではなくコミュニケーションやファシリテーションの重要性が高まります。

オフィスで先輩や同僚と仕事をする経験が改めて重視される可能性があるのも、このためです。

失敗できる環境を意図的に残す

専門家の成長には失敗も必要です。

自分で考えた仮説が外れる。

作った資料を全面的に修正される。

顧客から答えられない質問をされる。

説明しても相手が納得しない。

こうした経験によって、自分に何が足りないのかを理解します。

AIによって最初から高品質な成果物が出てくる環境では、この失敗経験が減ります。

だからこそ企業側が意図的に、若手が考え、判断し、失敗できる場を作る必要があります。

短期的には非効率に見えても、長期的な人材育成には必要な投資になります。

育成コストを誰が負担するのかという問題

ここには経済的な問題もあります。

顧客企業は、若手コンサルタントの教育費を払いたいわけではありません。

AIを使えば1時間でできる仕事を、教育のために若手が1日かけて行い、その時間を料金として請求すれば、顧客は納得しにくいでしょう。

これまで人月型の料金体系の中には、結果として若手の育成機会も含まれていました。

AIによってそれが難しくなると、コンサル会社自身が教育コストを負担する必要性が高まります。

社内研修。

模擬プロジェクト。

ケーススタディー。

ベテランとの同行。

AIを利用したシミュレーション。

こうした教育への投資が重要になります。

人材育成を顧客案件の副産物として行う時代から、会社が明確な投資として行う時代へ変わる可能性があります。

これはすべての専門職に共通する問題

若手育成の問題はコンサルティング業界だけではありません。

税理士なら、資料を調べながら税法の考え方を学びます。

弁護士なら、判例を調べながら法的思考を身につけます。

会計士なら、監査現場で資料を確認しながら企業を見る力を養います。

金融機関でも、企業分析や資料作成を経験しながら融資や投資判断を学びます。

こうした仕事を生成AIが代替すると、同じ問題が起こります。

AIによって新人の作業を減らすことと、将来の専門家を育てることをどう両立させるか。

これは知識労働全体が直面する課題です。

結論

生成AIは、若手コンサルタントが担当してきた市場調査、議事録、データ整理、資料作成などを急速に効率化しています。

企業にとっては歓迎すべき変化です。

しかし、これらの仕事は単なる作業ではありませんでした。

若手が情報の見方を覚え、先輩の判断を学び、失敗を経験しながら専門家へ成長するための訓練でもありました。

AIが下積み仕事を代替するのであれば、コンサル会社は新しい育成の仕組みを作らなければなりません。

若手を早く顧客の前に出す。

ベテランの判断過程を言語化して伝える。

AIを使う前に自分で仮説を作らせる。

AIの回答を検証させる。

人を説得し、組織を動かす経験を積ませる。

こうした教育がこれまで以上に重要になります。

AI時代の最大の人材問題は、新人の仕事がなくなることだけではありません。

新人の仕事と一緒に、専門家へ成長するための道までなくなってしまうことです。

AIで仕事を効率化しながら、人間が成長するための非効率をどこまで意図的に残せるか。

それが、10年後にも優秀なコンサルタントを生み出せる会社と、そうでない会社を分ける可能性があります。

参考

日本経済新聞 2026年8月 AIでコンサルもう不要?(下)代替される危機感ない

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