年末調整や法定調書の作成業務を担当していると、「法定調書は電子提出しなければならない」と聞く機会が増えています。
かつては紙で提出することが一般的でしたが、近年は行政のデジタル化が進み、一定規模以上の事業者には電子提出が義務付けられています。
しかし、実際には「何枚から電子提出になるのか」「どの法定調書が対象なのか」「給与支払報告書との関係はどうなっているのか」を正確に理解している担当者は意外と多くありません。
今回は、法定調書の電子提出義務について整理してみます。
法定調書とは何か
法定調書とは、企業や個人事業主が支払ったお金の内容を税務署へ報告するための書類です。
代表的なものとして次のような書類があります。
・給与所得の源泉徴収票
・退職所得の源泉徴収票
・報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
・不動産の使用料等の支払調書
・不動産等の譲受けの対価の支払調書
・不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書
企業はこれらの支払内容を翌年1月末までに税務署へ提出します。
税務署は提出された法定調書をもとに、個人や法人の申告内容との整合性を確認しています。
電子提出義務が導入された背景
従来は紙による提出が一般的でした。
しかし、法定調書は全国で膨大な件数が提出されるため、税務署側にも大きな事務負担が発生していました。
そこで国は行政手続の効率化を進めるため、一定規模以上の提出者について電子提出を義務化しました。
電子提出には次のようなメリットがあります。
・提出作業の効率化
・記載誤りの減少
・税務署側の入力作業削減
・データ活用の高度化
・保管コストの削減
近年の税務行政DXの流れの中で、電子提出は標準的な手続へと変わりつつあります。
何枚から電子提出が必要なのか
現在の基準は30枚です。
提出する年の前々年(基準年)に提出すべきであった同種類の法定調書が30枚以上であった場合、その法定調書は電子提出しなければなりません。
例えば令和9年1月に提出する法定調書の場合、基準年は令和7年です。
令和7年に提出すべきであった法定調書が30枚以上であれば、令和9年に提出する法定調書は電子提出義務の対象となります。
ここで注意したいのは、
「実際に提出した枚数」
ではなく、
「提出すべきであった枚数」
で判定することです。
この点は近年の税制改正でも繰り返し強調されています。
給与支払報告書との関係
給与所得については、市区町村へ提出する給与支払報告書にも電子提出義務があります。
給与支払報告書については、基準年に税務署へ提出すべきであった源泉徴収票の枚数によって判定します。
令和9年以後は源泉徴収票のみなし提出特例が導入されます。
この制度では、市区町村へ給与支払報告書を提出した場合、税務署へ源泉徴収票を提出したものとみなされます。
そのため、実際に税務署へ提出する源泉徴収票がなくても、
「基準年に提出すべきであった源泉徴収票」
が30枚以上であれば電子提出義務は継続します。
実際の提出枚数がゼロだから義務もなくなる、というわけではありません。
電子提出の方法
法定調書の電子提出は主にe-Taxを利用します。
電子提出の方法としては次のようなものがあります。
・e-Taxソフトによる提出
・市販の税務ソフトからの送信
・クラウド会計ソフトとの連携
・ASPサービスの利用
近年は給与計算ソフトや会計ソフトから直接送信できるケースも増えています。
企業規模によっては、年末調整から法定調書作成、電子提出まで一連の流れをシステム化している場合もあります。
電子提出義務違反になるとどうなるのか
電子提出義務があるにもかかわらず紙で提出した場合、その提出自体が無効になるわけではありません。
しかし、税務署から電子提出への切り替えを求められる可能性があります。
また、電子提出を前提とした運用が進む中で、紙提出を続けることは事務効率の面でも不利になります。
近年は税務手続全体がデジタル化へ向かっており、将来的にはさらに電子化の範囲が拡大する可能性があります。
経理担当者が確認しておきたいポイント
法定調書作成時には次の事項を確認しておきたいところです。
・自社が電子提出義務の対象か
・基準年の提出枚数を把握しているか
・給与支払報告書の提出方法は適切か
・利用している給与システムが対応しているか
・e-Tax利用環境が整備されているか
・電子証明書や利用者識別番号の管理ができているか
特に担当者の異動や退職がある場合は、利用者識別番号やログイン情報の引継ぎも重要な管理項目です。
結論
法定調書の電子提出義務は、税務行政のデジタル化を支える重要な制度です。
現在は基準年に30枚以上の法定調書を提出すべき事業者が対象となっており、給与支払報告書についても同様の考え方が採用されています。
令和9年からは源泉徴収票のみなし提出特例が始まりますが、電子提出義務の判定は引き続き「提出すべきであった枚数」で行われます。
経理担当者としては、提出枚数の把握だけでなく、自社のシステムや運用体制が電子提出に対応しているかを定期的に確認しておくことが重要です。
参考
・国税庁「法定調書の提出方法に関する資料」
・国税庁「給与所得の源泉徴収票等のみなし提出特例に関するQ&A」
・地方税共同機構「給与支払報告書の電子的提出に関する資料」
・税のしるべ 2026年5月25日号「源泉徴収票のみなし提出特例での給与支払報告書の電子的提出義務の判定は『提出すべき源泉徴収票』で枚数は改正前の提出範囲」