人工知能(AI)の急速な普及が、企業のIT関連費用に大きな影響を及ぼしています。
生成AIの活用が広がるなか、世界各国でデータセンターへの投資が拡大し、半導体や関連部品の需要が急増しています。
その結果、AIを直接活用していない企業にも、パソコンやサーバーなどの調達価格上昇という形で影響が及んでいます。
特に中小企業では、パソコンの購入費用、ソフトウェア利用料、クラウドサービス料金などが積み重なり、IT関連経費が経営上の負担になることがあります。
これまでIT投資は、業務効率化や生産性向上のための支出として考えられてきました。
しかし、AIブームによってIT関連費用そのものが上昇するなか、企業には設備投資の必要性と費用対効果を改めて検討することが求められています。
今回は、AI関連投資が半導体市場やパソコン価格に与える影響を整理し、中小企業がITコストの上昇にどのように対応すべきかを考えます。
AI投資の拡大が半導体市場を変える
生成AIの普及によって、世界の半導体市場では大きな構造変化が進んでいます。
従来、半導体需要の中心は、スマートフォン、パソコン、自動車、産業機器などでした。
しかし現在は、AIの学習や推論に使用するデータセンター向け半導体の存在感が高まっています。
特に画像処理半導体(GPU)や高性能メモリーへの需要が拡大しています。
AIの学習には大量の計算処理が必要であり、その処理を支えるために高性能な半導体が使用されます。
また、AIの利用者が増えると、学習だけでなく、利用者からの質問に回答する推論処理にも計算資源が必要になります。
このため、AI関連の半導体需要は、データセンターの新設だけでなく、既存設備の増強によっても拡大しています。
半導体メーカーは、需要が強く収益性の高いAI関連製品への投資や生産配分を増やしています。
その結果、一般的なパソコン向け部品の供給にも影響が及んでいます。
AI投資の拡大は、特定の半導体メーカーだけの問題ではなく、IT機器市場全体の価格形成に影響する要因となっています。
DRAMの供給不足がパソコン価格を押し上げる
パソコン価格の上昇に大きく関係しているのが、DRAMと呼ばれる半導体メモリーです。
DRAMは、パソコンが処理するデータを一時的に保存するために使用されます。
メモリー容量が不足すると、複数のソフトウェアを同時に使用する際などに、処理速度が低下することがあります。
一方、AIデータセンターでは、高性能なメモリーが大量に必要になります。
特にGPUと組み合わせて使用される高帯域幅メモリー(HBM)は、AI関連設備に欠かせない部品です。
半導体メーカーがHBMなどの高付加価値製品への生産配分を増やすと、一般的なパソコン向けDRAMの供給にも制約が生じる場合があります。
その結果、汎用DRAMの需給が逼迫し、価格が上昇することがあります。
パソコンメーカーにとって、DRAMは製品を構成する重要な部品です。
メモリー価格が上昇すれば、製造原価が増加します。
メーカーが原価上昇分を製品価格に転嫁すれば、企業が購入するパソコンの価格も上昇します。
AI向け半導体への投資拡大が、一般企業の事務用パソコンの価格にまで波及する構造です。
SSD価格の上昇も企業の負担に
パソコン価格の上昇には、SSDの価格動向も関係しています。
SSDは、OSや業務ソフトウェア、文書、画像などのデータを保存する記憶装置です。
従来のハードディスクと比較して、データの読み書きが高速であることが特徴です。
現在の業務用パソコンでは、SSDを搭載する製品が一般的になっています。
SSDには主にNAND型フラッシュメモリーが使用されています。
NAND型フラッシュメモリーの市場では、メーカーの生産調整、設備投資、データセンター向け需要など、複数の要因によって価格が変動します。
AI関連設備の拡大によってデータ保存需要が増えることも、市場に影響する要因の一つです。
パソコンメーカーにとって、DRAMとSSDの価格が同時に上昇すると、製造原価への影響が大きくなります。
さらに、CPUや電源関連部品などの価格変動も加われば、製品価格の引き上げにつながる可能性があります。
中小企業がパソコンを購入する際には、こうした部品市場の変化が最終的な調達価格に反映されていることを理解する必要があります。
新品パソコンの平均単価が約20%上昇
日本経済新聞によると、電子情報技術産業協会(JEITA)のメーカー出荷金額と出荷台数から算出したノートパソコンの平均単価は、2026年1〜8月に12万7,166円となりました。
前年同期と比較すると約20%の上昇です。
ただし、平均単価の上昇には、部品価格の変化だけでなく、販売される製品の性能や構成の変化なども影響する可能性があります。
そのため、平均単価の上昇率が、そのまま同一機種の値上がり率を示すわけではありません。
それでも、企業がパソコンを調達する際の費用負担が増していることは重要です。
例えば、従来10万円で購入できたパソコンが12万円になった場合、1台当たり2万円の負担増になります。
社員50人分を更新すれば、購入費用は500万円から600万円に増加します。
100万円の追加支出です。
社員100人分であれば、追加支出は200万円になります。
こうした費用増加は、大企業では吸収できる場合があっても、中小企業にとっては無視できない金額になることがあります。
特に、利益率が低い企業では、IT設備投資の増加が資金繰りに影響する可能性があります。
中古パソコン市場にも値上がりが波及
新品パソコンの価格が上昇すると、企業は調達費用を抑えるために中古品を選択するようになります。
しかし、中古品への需要が増加すれば、中古市場の価格も上昇します。
日本経済新聞によると、東京都内のITサービス会社が2026年1月から9月14日までに購入した中古パソコンの平均価格は4万2,611円でした。
2025年の平均価格より9%上昇し、2023年と比較すると14%上昇しています。
通常、パソコンは新製品が発売されると旧型製品の価格が下がる傾向にあります。
しかし、新品価格の上昇によって中古品の需要が強まると、従来の価格下落が起こりにくくなります。
特に、日常業務に十分な性能を備えた中古パソコンには需要が集まりやすくなります。
中古市場では、2019〜2021年製のパソコンが人気を集めています。
ただし、古い製品を導入する場合には、OSのサポート状況やセキュリティ対策、バッテリーの劣化などを確認する必要があります。
中古品の価格が安いという理由だけで選択すると、修理費用や更新費用が増える可能性があります。
レンタル料金の上昇と固定費への影響
パソコンの価格上昇は、レンタル市場にも波及しています。
レンタルバスターズによると、2026年8月の中古パソコンの短期レンタル料金は、1台当たり月額平均7,626円となりました。
前年同月比19%の上昇です。
レンタル会社にとっても、貸し出すパソコンの仕入価格が上昇すれば、料金を引き上げる必要が生じます。
また、保守費用やソフトウェア利用料なども、レンタル料金に影響する可能性があります。
企業がパソコンをレンタルしている場合、料金の上昇は継続的な経費負担につながります。
例えば、50台を月額5,000円でレンタルしている企業では、年間支払額は300万円です。
月額料金が10%上昇すれば、年間支払額は330万円となり、30万円の負担増になります。
こうした固定的な支出の増加は、企業の利益率を押し下げる要因になります。
レンタル契約を更新する際には、料金だけでなく、契約期間、保守内容、代替機の提供条件なども確認する必要があります。
クラウドとソフトウェア費用の増加
企業のIT関連費用は、パソコン本体の購入費用だけではありません。
Microsoft 365などの業務ソフトウェア、クラウドストレージ、セキュリティサービス、オンライン会議システムなど、継続的な利用料も発生します。
近年、こうしたサービスでは、買い切り型からサブスクリプション型への移行が進んでいます。
サブスクリプション型は、初期費用を抑えながら必要なサービスを利用できる一方、契約を継続する限り費用が発生します。
また、サービス内容の拡充や価格改定によって、利用料金が上昇する場合があります。
例えば、社員100人が利用する業務ソフトウェアの月額料金が1人当たり300円上昇した場合、年間の追加負担は36万円になります。
複数のサービスで同様の値上がりが発生すれば、年間のIT関連経費はさらに増加します。
AI機能が追加された上位プランなどでは、従来より高い利用料金が設定されることもあります。
企業は、新しい機能が追加されたという理由だけで契約を変更するのではなく、実際の業務で必要かどうかを判断する必要があります。
IT関連費用の増加と中小企業の利益
IT関連費用の上昇が企業の利益に与える影響を考えます。
例えば、年間売上高5億円、営業利益2,000万円の中小企業を想定します。
営業利益率は4%です。
この企業で、パソコンの更新費用、ソフトウェア利用料、保守費用などが年間合計200万円増加したとします。
増加額がすべて当期の営業費用として計上され、他の条件が変わらなければ、営業利益は1,800万円になります。
営業利益率は3.6%に低下します。
利益額では10%の減少です。
ただし、実際にはパソコン購入費用が固定資産に計上され、減価償却によって複数年度に配分される場合があります。
そのため、購入時の資金支出と営業利益への影響は一致しません。
それでも、IT関連費用の上昇が利益や資金繰りに影響することは明らかです。
特に中小企業では、IT関連費用を一括して把握していない場合があります。
各部署が個別に契約したクラウドサービスやソフトウェアが積み重なり、全社の費用負担が見えにくくなることもあります。
経理部門には、IT関連費用を横断的に把握する役割が求められます。
IT投資を抑えるだけでは競争力が低下する
IT関連費用が上昇すると、企業は設備投資やソフトウェア利用料を削減しようとすることがあります。
しかし、IT投資を一律に抑制することが合理的とは限りません。
例えば、処理速度の遅いパソコンを使い続けることで、社員の作業時間が増える可能性があります。
また、古いOSやソフトウェアを使用し続ければ、情報セキュリティ上の問題が生じることもあります。
一方、AIを活用することで、文書作成、情報整理、データ分析などの業務を効率化できる可能性があります。
重要なのは、IT関連費用を単なる削減対象として扱わないことです。
業務に必要な投資と、十分な効果が得られていない支出を区別する必要があります。
例えば、使用頻度の低いソフトウェア契約を見直し、その削減額を業務効率化に役立つ設備投資へ振り向ける方法が考えられます。
IT投資の総額を増やさなくても、資金の配分を変えることで生産性を高められる可能性があります。
経理部門が担うITコスト管理
AI時代のITコスト管理では、経理部門と情報システム部門の連携が重要になります。
情報システム部門は、機器の性能、セキュリティ、システムの安定性などを評価します。
一方、経理部門は、設備投資額、減価償却費、ソフトウェア利用料、保守費用、資金繰りなどを把握します。
両部門が連携することで、IT投資の必要性と費用対効果を総合的に判断できます。
例えば、パソコンの更新計画を5年間で作成し、毎年度の必要台数と予算を明確にする方法があります。
また、クラウドサービスやソフトウェアについては、契約内容、利用人数、更新時期、年間支払額などを一覧化することが有効です。
さらに、IT関連費用を固定費と変動費に区分し、将来の価格上昇を想定した予算管理を行うことも考えられます。
IT関連費用を単なる経費として処理するだけでなく、経営資源の配分という視点から管理することが重要です。
結論
AIブームによる半導体需要の拡大は、パソコンや関連部品の価格上昇を通じて、中小企業のIT関連費用に影響を及ぼしています。
特にDRAMやSSDなどの主要部品の価格上昇は、新品パソコンの製造原価を押し上げる要因となっています。
さらに、新品価格の上昇によって中古パソコンへの需要が高まり、中古品の販売価格やレンタル料金にも値上がりが波及しています。
企業にとっては、パソコンの購入費用だけでなく、ソフトウェア利用料、クラウドサービス料金、保守費用などを含めたIT関連経費の管理が重要になっています。
ただし、費用上昇への対応として、IT投資を一律に削減することは適切ではありません。
必要な設備投資を抑制すれば、業務効率の低下や情報セキュリティ上の問題につながる可能性があります。
重要なのは、業務に必要な投資と、十分な効果が得られていない支出を区別することです。
AI時代の企業経営では、IT関連費用を単なる経費ではなく、生産性や競争力を左右する経営資源として捉える必要があります。
経理部門と情報システム部門が連携し、設備投資、固定費、資金繰り、業務効率を総合的に管理することが、中小企業の持続的な成長につながります。
参考
日本経済新聞 2026年10月29日 朝刊「法人向け中古パソコン1割高 AIブームで新モデル高騰、代替需要高まる」