給与を減らすと厚生年金はいくら減るのか――10年・20年・30年の長期試算

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企業年金を活用して老後資金を準備する際、見落とされやすいのが将来の厚生年金への影響です。

給与の一部を企業年金の掛け金に振り替える「選択制企業年金」では、現在の社会保険料が軽減される場合があります。

しかし、社会保険料の計算基礎となる標準報酬月額が下がると、将来受け取る老齢厚生年金も減少する可能性があります。

厚生年金は原則として生涯にわたって支給されるため、毎年の減額が小さくても、長期間では大きな差になります。

例えば、年間4万円の年金減額でも、20年間では80万円、30年間では120万円になります。

厚生労働省は、選択制の確定給付企業年金について、こうした公的年金の減額リスクを従業員に説明するよう事業主に求める方針です。

今回は、給与の一部を企業年金に振り替えた場合、10年・20年・30年の加入期間によって厚生年金がどの程度減少するのかを具体的に検証します。

厚生年金の受給額を決める仕組み

会社員が加入する厚生年金は、国民年金に上乗せされる公的年金制度です。

老齢厚生年金の報酬比例部分は、原則として加入期間中の報酬と加入月数によって決まります。

2003年4月以降の加入期間について、基本的な計算式を簡略化すると、次のようになります。

平均標準報酬額×5.481÷1,000×加入月数

平均標準報酬額は、標準報酬月額と標準賞与額を基に計算されます。

実際の年金額の計算では、過去の報酬を現在の価値に換算する再評価なども行われます。

したがって、ここで紹介する計算は制度の影響を理解するための概算です。

重要なのは、標準報酬月額が低くなる期間が長いほど、将来の厚生年金への影響も大きくなるという点です。

標準報酬月額と実際の給与の違い

厚生年金保険料は、毎月の給与額をそのまま使って計算するわけではありません。

給与などの報酬を一定の等級に区分した「標準報酬月額」を使用します。

例えば、毎月の報酬が40万円の場合、通常は標準報酬月額41万円の等級に該当します。

給与の一部を企業年金の掛け金に振り替え、社会保険上の報酬が37万円になった場合には、標準報酬月額38万円の等級に該当します。

この場合、標準報酬月額は3万円低くなります。

ただし、給与が3万円減少しても、必ず標準報酬月額が3万円下がるわけではありません。

等級の境界によっては変化が生じない場合や、異なる金額の変化となる場合があります。

また、給与変更後の標準報酬月額がいつから適用されるかは、定時決定や随時改定などの仕組みによって異なります。

以下では、標準報酬月額が3万円低い状態が継続するものとして試算します。

10年間給与を減らした場合の年金減額

まず、標準報酬月額が3万円低い状態で10年間勤務した場合を考えます。

10年間は120カ月です。

年金額への影響を簡略化した計算式に当てはめると、次のようになります。

3万円×5.481÷1,000×120カ月=約1万9,732円

将来の老齢厚生年金が、年額約2万円減少する計算です。

月額に換算すると約1,644円です。

この金額だけを見ると、それほど大きな負担ではないと感じるかもしれません。

しかし、厚生年金は原則として生涯受け取る年金です。

65歳から85歳まで20年間受給した場合、減額の累計は約39万円になります。

65歳から95歳まで30年間受給した場合には、約59万円になります。

10年間の給与減額でも、老後の受給期間によっては数十万円の差が生じることになります。

20年間給与を減らした場合の年金減額

次に、20年間勤務した場合を考えます。

20年間は240カ月です。

3万円×5.481÷1,000×240カ月=約3万9,463円

将来の老齢厚生年金は、年額約3万9,000円減少する計算です。

月額では約3,289円です。

65歳から85歳まで20年間受給すると、累計約79万円の差になります。

65歳から95歳まで30年間受給すると、累計約118万円です。

20年間の積立期間は、30代や40代から企業年金に加入する従業員にとって現実的な期間です。

例えば、40歳から60歳まで給与の一部を企業年金に振り替えた場合、老後の厚生年金にこうした影響が生じる可能性があります。

一方、企業年金には20年間にわたって掛け金が積み立てられます。

そのため、年金減額だけで制度の有利不利を判断することはできません。

企業年金の給付内容と、公的年金の減少を合わせて評価する必要があります。

30年間給与を減らした場合の年金減額

さらに、30年間継続した場合を考えます。

30年間は360カ月です。

3万円×5.481÷1,000×360カ月=約5万9,195円

将来の老齢厚生年金は、年額約5万9,000円減少する計算です。

月額では約4,933円になります。

65歳から85歳まで20年間受給すると、累計約118万円です。

65歳から95歳まで30年間受給すると、累計約178万円になります。

例えば、30歳から60歳まで選択制企業年金を利用した場合、標準報酬月額の低下が30年間続く可能性があります。

若い世代ほど積立期間を長く確保できることはメリットですが、公的年金への影響も長期間に及ぶことになります。

長期加入による企業年金の積立効果と、公的年金の減額を総合的に考える必要があります。

掛け金の金額によって変わる年金減額

ここまでは、標準報酬月額が3万円低くなる場合を試算しました。

しかし、企業年金に振り替える金額は、従業員や制度によって異なります。

標準報酬月額の低下幅が大きくなれば、将来の厚生年金の減額も大きくなります。

例えば、標準報酬月額が1万円、3万円、5万円低下した場合について、20年間継続したと仮定します。

年金額への影響は次のとおりです。

標準報酬月額が1万円低下した場合、年額約1万3,000円の減額です。

3万円低下した場合、年額約3万9,000円の減額です。

5万円低下した場合、年額約6万6,000円の減額です。

65歳から95歳まで30年間受給した場合、累計の差はそれぞれ約39万円、約118万円、約197万円となります。

これらは標準報酬月額の低下幅を一定とした概算であり、実際の給与から振り替える掛け金の金額と必ずしも一致しません。

また、厚生年金には標準報酬月額の上限があるため、給与水準によって影響の現れ方が異なります。

社会保険料の軽減額との比較

厚生年金の減額を考える際には、現役時代の保険料軽減額との比較が必要です。

厚生年金保険料率は18.3%で、原則として労使折半です。

本人負担割合は9.15%となります。

標準報酬月額が3万円下がる場合、本人負担の厚生年金保険料は月額2,745円軽減されます。

年間では3万2,940円です。

この状態が10年間続けば、本人負担の軽減額は約33万円です。

20年間では約66万円、30年間では約99万円となります。

一方、将来の老齢厚生年金の減額累計は、65歳から85歳まで20年間受給すると仮定した場合、それぞれ約39万円、約79万円、約118万円です。

この比較では、厚生年金保険料の軽減額よりも、将来の年金減額累計が大きくなります。

ただし、健康保険料や税金の軽減、企業年金の給付額などは含まれていません。

また、将来の給付を現在の金銭価値に割り引く計算も行っていません。

したがって、この比較だけで制度の損得が確定するわけではありません。

長生きするほど影響が大きくなる理由

公的年金の大きな特徴は、原則として生涯にわたって受給できることです。

企業年金や個人の貯蓄には、制度や受取方法によって給付期間や資金残高に限りがあります。

一方、老齢厚生年金は受給者が生存している限り支給されます。

そのため、長生きするほど、公的年金の年額減少が生涯の受給総額に与える影響は大きくなります。

例えば、年額4万円の減額であれば、10年間では40万円、20年間では80万円、30年間では120万円になります。

もちろん、将来何歳まで生きるかを正確に予測することはできません。

だからこそ、長寿に備える所得保障として、公的年金の役割は重要です。

企業年金を増やすために公的年金の受給額が減る場合、その影響を十分に理解する必要があります。

公的年金と企業年金の役割の違い

公的年金と企業年金は、どちらも老後の所得を支える制度ですが、役割には違いがあります。

公的年金は、老齢、障害、死亡といった生活上のリスクに備える社会保険制度です。

老齢基礎年金や老齢厚生年金は、原則として生涯にわたって支給されます。

一方、企業年金は、公的年金に上乗せする形で老後所得を充実させる私的年金です。

確定給付企業年金では、制度の規約に基づいて給付額や受取方法が定められます。

企業年金によっては、一時金や一定期間の年金として受け取る仕組みもあります。

そのため、企業年金の積立額と公的年金の減額を単純に比較するだけでは、保障内容の違いを十分に評価できません。

公的年金の生涯保障を維持しながら、企業年金によって老後所得を上乗せすることが、本来の制度の考え方です。

加入前に確認したい年金シミュレーション

選択制企業年金への加入を検討する場合には、加入前後の年金見込額を比較することが重要です。

まず、現在の標準報酬月額を確認します。

次に、企業年金の掛け金に振り替えた場合、標準報酬月額がどの程度変化するかを確認します。

その上で、定年までの加入予定期間を設定し、将来の老齢厚生年金への影響を試算します。

さらに、65歳から85歳までの20年間、95歳までの30年間など、複数の受給期間を想定することが望まれます。

実際の年金見込額については、日本年金機構の「ねんきんネット」なども活用できます。

ただし、将来の給与や制度改正を正確に予測することはできません。

シミュレーションは一定の前提条件に基づく参考値として利用する必要があります。

結論

選択制企業年金では、給与の一部を掛け金に振り替えることで、現在の社会保険料が軽減される場合があります。

一方、標準報酬月額が下がると、将来の老齢厚生年金も減少する可能性があります。

標準報酬月額が3万円低い状態が続いた場合、将来の老齢厚生年金の減額は、10年間で年額約2万円、20年間で年額約3万9,000円、30年間で年額約5万9,000円という概算になりました。

厚生年金は原則として生涯にわたって支給されるため、受給期間が長くなるほど減額の累計は大きくなります。

ただし、選択制企業年金の有利不利は、公的年金の減額だけでは判断できません。

企業年金の給付内容、社会保険料や税金の軽減額、退職時の受取方法などを総合的に比較する必要があります。

税理士・FPの視点から重要なのは、現在の負担軽減と将来の所得保障を同じ時間軸で評価することです。

人生100年時代の老後資金形成では、企業年金の積立額だけでなく、生涯にわたって受け取る公的年金の価値を十分に理解することが大切です。

参考

日本経済新聞 2026年11月2日 朝刊

「給与削る確定給付年金、厚労省『社員に説明』要請へ 公的年金減る恐れ」

厚生労働省「確定給付企業年金制度」

日本年金機構「報酬比例部分」

日本年金機構「厚生年金保険の保険料」

日本年金機構「ねんきんネット」

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