震災から社員と会社を守るために知っておきたい公的支援制度と経理・総務の実務対応

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大規模な地震や豪雨などの自然災害が発生した場合、企業には従業員の安全確保と事業の早期復旧という2つの重要な課題が生じます。

建物や設備が損壊し、取引先との物流が途絶え、従業員が出勤できなくなるなど、災害による影響は広範囲に及びます。

こうした事態に備えて、多くの企業が事業継続計画(BCP)の策定を進めています。

しかし、災害発生後に利用できる公的支援制度まで十分に把握している企業は、必ずしも多くありません。

日本には、被災した企業の事業再建や従業員の生活再建を支えるため、さまざまな公的支援制度が設けられています。

重要なのは、これらの制度の多くが申請主義であり、制度を知らなければ支援を受ける機会を逃してしまう可能性があることです。

経理・総務担当者には、平時から支援制度を把握し、災害発生時に迅速に活用できる体制を整えておくことが求められます。

BCPの策定だけでは十分ではない震災対策

帝国データバンクが2026年5月に実施した調査によると、企業のBCP策定率は21.4%でした。

大企業では39.9%である一方、中小企業では18.3%にとどまっています。

BCPでは、重要業務の選定、指揮命令系統の確立、代替拠点の確保、資金繰り対策などを事前に検討します。

しかし、事業を継続するための準備と、被災後の再建に必要な公的支援制度の活用は、必ずしも同じものではありません。

例えば、被災した建物の解体費用を誰が負担するのか、設備の復旧に補助金が利用できるのか、休業した従業員の雇用をどのように維持するのかといった問題があります。

これらについて事前に確認しておくことで、災害発生後の資金負担や復旧までの期間を大きく変えられる可能性があります。

BCPには、事業継続だけでなく、被災後の公的支援制度を活用するための準備も組み込むことが重要です。

公費解体制度による建物解体費用の負担軽減

震災によって事業所や倉庫が損壊した場合、建物の解体費用が企業経営の大きな負担となります。

こうした場合に検討したいのが、公費解体制度です。

公費解体制度は、環境省の災害等廃棄物処理事業費補助金などを活用し、自治体が被災建物等の解体・撤去を実施する仕組みです。

住宅だけでなく、一定の要件を満たす中小企業等の事業所や倉庫も対象となる場合があります。

原則として全壊建物が対象ですが、特定非常災害への指定など一定の条件を満たす場合には、半壊以上の建物に対象が拡大されることがあります。

また、建物の解体そのものが公費解体の対象にならない場合でも、解体後の廃棄物の運搬や処分について公費負担が認められる場合があります。

経理・総務担当者が注意したいのは、被害状況を証明する書類の取得です。

事業所については、自治体による被害調査を受け、被災証明書などの書類を取得することが制度利用の出発点となります。

さらに、自治体による解体を待たず、企業が自費で解体した後に費用の償還を求める方法が認められる場合もあります。

ただし、支払った費用の全額が償還されるとは限りません。

事前に自治体の対象要件や償還基準を確認し、写真、見積書、契約書、請求書などの証拠資料を保存することが重要です。

なりわい再建支援補助金による設備復旧

被災企業の事業再建を支える代表的な制度として、なりわい再建支援補助金があります。

この制度は、被災した中小企業や個人事業者などが行う施設・設備の復旧を支援するものです。

従来のグループ補助金から制度が発展し、単独事業者による申請が可能となるなど、利用要件の緩和が進んでいます。

一定の条件の下では、単なる原状復旧だけでなく、設備の機能向上、事業所の移転、施設の統廃合などが補助対象となる場合もあります。

2024年の能登半島地震における石川県の制度では、補助上限額が15億円、中小企業等の補助率が4分の3とされました。中堅企業等については2分の1でした。

さらに、市町村による上乗せ支援が実施される場合もあります。

例えば、能登町では一定の条件を満たす事業者に対して独自の補助金を設け、国・県の補助金と合わせて高い補助率となる仕組みが用意されました。

ただし、補助率や補助上限額、対象経費などは災害ごとに異なります。

また、補助金は申請すれば必ず交付されるものではありません。

申請に必要な復旧図面、見積書、被害状況の記録などを整える必要があり、災害発生後には建築士や施工業者が不足することも想定されます。

平時から建築士、中小企業診断士、税理士などの専門家との連携体制を整えておくことが、迅速な事業再建につながります。

災害復旧貸付と信用保証制度による資金繰り支援

災害による売上減少や設備損壊が発生すると、企業の資金繰りは急速に悪化する可能性があります。

特に中小企業では、固定費の支払いが続く一方、営業活動が停止することで手元資金が不足する場合があります。

こうした場合には、日本政策金融公庫や商工中金などによる災害復旧貸付が重要な選択肢となります。

また、信用保証協会によるセーフティネット保証や災害関係保証なども、金融機関からの資金調達を支える制度です。

災害の種類や指定状況によって適用される制度が異なるため、自治体、金融機関、信用保証協会などへの確認が必要です。

経理担当者は、平時から資金繰り表を作成し、売上が一定期間停止した場合の必要資金を試算しておくことが望まれます。

加えて、借入金の返済予定、給与支払額、仕入債務、税金や社会保険料の納付予定などを一覧化しておくことも重要です。

災害時には、融資制度の利用と併せて、税金の申告・納付期限の延長や納税猶予などの適用可能性も確認する必要があります。

雇用調整助成金による従業員の雇用維持

震災によって事業所が使用できなくなった場合や、取引先の被災によって操業停止を余儀なくされた場合には、従業員の雇用維持が課題となります。

このような場合、雇用調整助成金を利用できる可能性があります。

雇用調整助成金は、経済上の理由によって事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、従業員に休業手当を支払うなどして雇用を維持する場合に、一定の助成を行う制度です。

ただし、災害による休業であれば、すべて助成対象になるわけではありません。

直接的な被災による事業所の使用不能と、取引先の被災などに伴う経済上の理由による事業縮小では、取扱いが異なる場合があります。

災害時に特例措置が設けられることもあるため、厚生労働省や労働局、ハローワークの公表情報を確認することが重要です。

また、休業手当の支払義務と助成金の受給要件は別の問題です。

経理・総務担当者は、労働基準法上の取扱いを確認しながら、従業員への説明と雇用維持策を検討する必要があります。

従業員の生活再建を支える公的支援制度

企業の事業継続に欠かせないのは、建物や設備だけではありません。

従業員自身の生活基盤が維持されていることも重要です。

震災によって自宅が損壊したり、家族が被災したりした従業員に対して、平時と同じ働き方を求めることは困難です。

被災した個人に対しては、被災者生活再建支援金、義援金、自治体独自の給付金、被災者向け融資制度などが設けられる場合があります。

また、住宅ローンなどの返済が困難になった場合には、自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインの利用を検討できることがあります。

税務面でも、災害による住宅や家財などの損失について、雑損控除や災害減免法による所得税の軽減措置などが適用される可能性があります。

これらは、それぞれ対象者や適用要件、申請先が異なります。

被災した従業員が自力ですべての制度を調べることは容易ではありません。

企業が支援制度の情報を整理して提供することには、大きな意味があります。

企業による従業員の生活継続支援

企業のBCPに対して、従業員の生活再建や生活継続を支える考え方として、LCP(生活継続計画)があります。

企業が従業員の生活再建を支援することは、単なる福利厚生にとどまりません。

従業員が安心して生活を立て直せる環境を整えることは、結果として企業の事業継続にもつながります。

具体的には、社内ネットワークを活用した公的支援情報の提供、専門家による生活再建説明会、被害の大きい従業員への申請支援、金融機関と連携した優遇融資などが考えられます。

特に重要なのは、情報提供を一度で終わらせないことです。

災害関連の支援制度は、発災後に順次創設されたり、対象要件が変更されたりする場合があります。

総務担当者が継続的に情報を収集し、従業員へ周知する仕組みを整えておくことが求められます。

災害時の安全配慮義務と人命最優先の原則

公的支援制度の活用と同じくらい重要なのが、災害発生直後の安全確保です。

企業には、労働契約法第5条に基づき、従業員の生命や身体の安全に配慮する義務があります。

大規模災害では、建物の倒壊、火災、ガス爆発、津波など、さまざまな危険が発生する可能性があります。

こうした状況で、売上金や重要書類、設備などを守るために従業員へ危険な作業を指示することは、安全配慮義務との関係で重大な問題となり得ます。

災害時の判断において、企業資産の保全よりも人命の保護を優先する原則を徹底する必要があります。

また、BCPと災害発生直後の初動マニュアルは、目的を区別して整備することが重要です。

BCPの主な目的は事業継続ですが、初動マニュアルや避難マニュアルの目的は人命保護です。

初動マニュアルは、従業員が上司の指示を待たずに適切な避難行動を取れるよう、簡潔で分かりやすい内容にすることが望まれます。

そして、実際の災害時に機能するよう、定期的な訓練を実施する必要があります。

経理・総務担当者が平時から準備すべき事項

災害対応の実効性を高めるためには、経理・総務部門が中心となって平時から準備を進めることが重要です。

まず、企業が利用できる可能性のある公的支援制度を整理し、申請窓口、対象要件、必要書類などを一覧化します。

次に、建物や設備の取得価額、固定資産台帳、保険契約、借入金残高、取引先情報などを、災害時にも確認できるよう管理します。

特に、固定資産台帳と設備の写真、取得時の契約書や請求書などを対応させて保存しておくことは、被害額の把握や補助金申請に役立ちます。

また、重要データのバックアップを確保し、事業所が使用できなくなった場合でも給与計算や支払業務を継続できる体制を検討する必要があります。

さらに、従業員向けの生活再建支援情報を提供する担当部署を明確にし、必要に応じて外部専門家へ相談できる体制を整えます。

災害発生後に初めて制度を調べるのではなく、平時から支援制度の存在と利用手順を把握しておくことが、迅速な復旧につながります。

結論

震災対策は、建物の耐震化や備蓄品の確保、BCPの策定だけで完結するものではありません。

被災後に企業と従業員がどのように事業や生活を立て直すのかという視点が欠かせません。

公費解体制度、なりわい再建支援補助金、災害復旧貸付、雇用調整助成金などの制度は、被災企業の資金負担を軽減し、事業再建を支える重要な手段となります。

また、従業員の生活再建を支えることは、企業の事業継続にも直結します。

一方、どれほど充実した支援制度があっても、その存在を知らなければ十分に活用することはできません。

経理・総務担当者には、制度の情報収集、必要書類の整備、資金繰り対策、従業員への情報提供など、幅広い役割が期待されます。

そして、災害対応における最優先事項は、何よりも従業員や顧客の生命と安全を守ることです。

人命を守る初動対応、企業の事業継続、被災後の公的支援制度の活用を一体的に準備することが、社員と会社を守る実効性の高い震災対策につながります。

参考

企業実務 2026年11月号「社員と会社を守るために 経理・総務担当者が知っておくべき“震災対応”に使える支援策」(永野海氏)

環境省「公費解体・撤去マニュアル」

中小企業庁「なりわい再建支援補助金」

厚生労働省「雇用調整助成金」

内閣府「被災者生活再建支援制度」

静岡県弁護士会「被災者支援チェックリスト」

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