2026年10月から変わった住宅の現物給与価額|社宅の社会保険料計算と企業が注意すべき実務対応

経営

2026年10月1日から、社会保険における「住宅の現物給与価額」の算定方法が変更されました。

今回の変更は、企業が従業員に提供する社宅や借上げ社宅などについて、健康保険や厚生年金保険の保険料計算に用いる現物給与価額の算定基準を見直すものです。

従来は住宅の「居住用の室の畳数」を基準としていましたが、変更後は「住宅の総面積(㎡)」を基準とする方法になりました。

この変更によって、従来は計算対象に含まれていなかった玄関、台所、浴室、廊下などの面積も算定対象となります。

企業にとって重要なのは、単に計算方法が変わるだけではないという点です。

現物給与価額の変更は社会保険上の固定的賃金の変動に該当するため、従業員によっては標準報酬月額の随時改定が必要になる可能性があります。

今回は、住宅の現物給与価額の基本的な仕組みから、2026年10月の変更内容、具体的な計算方法、企業の実務対応まで整理します。

社会保険における現物給与の基本的な仕組み

健康保険や厚生年金保険では、保険料の計算に用いる報酬に、現金で支払われる給与だけでなく、労働の対償として提供される現物給与も含まれます。

現物給与とは、企業が従業員に金銭以外の方法で提供する経済的利益のことです。

代表的なものとして、食事や住宅の提供があります。

企業が従業員に社宅を無償または低額で提供している場合、その住宅の提供によって従業員が受ける経済的利益を、社会保険上の報酬として評価する必要があります。

この評価に用いる金額が「住宅の現物給与価額」です。

現物給与価額は厚生労働大臣が定める基準に基づいて算定され、都道府県ごとに異なる価額が設定されています。

なお、社会保険における住宅の現物給与価額と、所得税における社宅の経済的利益の評価は、別の制度です。

したがって、所得税の計算で使用する社宅の賃貸料相当額を、そのまま社会保険の計算に使用することはできません。

2026年10月から住宅の広さの算定基準が変更

今回の変更で最も重要なのは、住宅の広さを測定する基準が変更されたことです。

2026年9月30日までは、住宅の現物給与価額を算定する際、居住用の室の畳数を使用していました。

対象となるのは、居間、茶の間、寝室、客間、書斎、応接間、仏間、食事室などです。

一方、玄関、台所、トイレ、浴室、廊下などは算定対象に含まれていませんでした。

2026年10月1日以後は、この取扱いが変更され、居住する住宅の床面積の合計である「総面積」を使用します。

これにより、従来は対象外だった玄関、台所、トイレ、浴室、廊下なども含めて計算することになります。

ただし、別棟の物置や車庫の面積、共同で使用する部分の面積は含まれません。

今回の変更は、住宅の現物給与価額を社会保険上の報酬として取り扱う制度そのものを変更するものではありません。

あくまでも、その金額を算定するための住宅の広さの基準を見直すものです。

新しい現物給与価額の具体的な計算方法

2026年10月1日以後の住宅の現物給与価額は、次の方法で計算します。

住宅の現物給与価額=都道府県別の総面積1㎡当たりの価額×住宅の総面積(㎡)

例えば、東京都に所在する事業所で、総面積40㎡の社宅を従業員に提供している場合を考えます。

資料で示されている東京都の現物給与価額は、総面積1㎡当たり1,330円です。

したがって、計算結果は次のようになります。

1,330円×40㎡=53,200円

この場合、1か月当たり53,200円が住宅の現物給与価額となります。

従来の計算では居住用の室の畳数を基準としていましたが、新しい計算では住宅全体の総面積を使用するため、評価額が変わる可能性があります。

なお、この53,200円は住宅全体の現物給与価額であり、従業員から社宅使用料を徴収している場合には、その負担額を考慮して社会保険上の報酬に算入する金額を判断する必要があります。

実際の給与計算では、住宅の評価額と従業員の自己負担額を区別することが重要です。

月の途中で社宅に入居した場合の計算

住宅の現物給与価額は、1か月当たりの価額として定められています。

そのため、従業員が月の途中から社宅に入居した場合には、日割り計算が必要になります。

計算方法は次のとおりです。

日割りの現物給与価額=1か月当たりの現物給与価額×入居日以降の日数÷その月の総日数

例えば、1か月当たりの現物給与価額が53,200円で、30日ある月の11日から入居した場合を考えます。

入居日以降の日数は20日です。

53,200円×20日÷30日=35,466.666…円

1円未満を切り捨てるため、現物給与価額は35,466円となります。

月の途中で入居または退去する従業員がいる企業では、現物給与価額の計算期間にも注意が必要です。

適用する都道府県は住宅の所在地とは限らない

住宅の現物給与価額は都道府県ごとに異なります。

ここで注意したいのは、必ずしも社宅が所在する都道府県の価額を使用するわけではないという点です。

日本年金機構の取扱いでは、勤務地がA県、社宅がB県にある場合、原則として勤務地であるA県の価額を使用します。

例えば、東京都に本社があり、北海道にも支店がある企業を考えます。

東京都本社の従業員については東京都の価額を使用し、北海道支店の従業員については北海道の価額を使用する場合があります。

資料では、総面積51㎡の住宅について、北海道の1㎡当たり530円を使用した計算例が示されています。

530円×51㎡=27,030円

同じ企業に所属する従業員でも、適用する都道府県によって現物給与価額が異なることになります。

また、派遣労働者については、実際の勤務地である派遣先ではなく、派遣元の事業所が所在する都道府県の価額を使用する取扱いが示されています。

複数の事業所を持つ企業では、人事管理上の所属先や社会保険の適用事業所の関係を確認することが重要です。

現物給与価額の変更は固定的賃金の変動に該当

今回の変更で、企業の社会保険実務に大きな影響を与えるのが標準報酬月額の随時改定との関係です。

日本年金機構は、今回の住宅の現物給与価額の変更について、社会保険上の「固定的賃金の変動」に該当することを明らかにしています。

固定的賃金とは、基本給や各種固定手当など、支給額や支給条件があらかじめ定められている報酬です。

通常、固定的賃金に変動があり、その後の報酬の状況が一定の要件を満たす場合には、標準報酬月額の随時改定が必要になります。

今回の住宅の現物給与価額の変更についても、同様の確認が必要です。

ただし、現物給与価額が変更された従業員全員について、直ちに月額変更届を提出するわけではありません。

一般に、随時改定では、固定的賃金の変動後の継続した3か月の報酬、従前の標準報酬月額との等級差、各月の支払基礎日数などの要件を確認します。

また、固定的賃金の増減方向と報酬全体の増減方向の関係にも注意が必要です。

したがって、今回の変更によって現物給与価額が増加した場合でも、必ず標準報酬月額が引き上げられるとは限りません。

企業は従業員ごとに随時改定の該当性を確認する必要があります。

社宅の現物給与価額が社会保険料に与える影響

住宅の現物給与価額は、健康保険や厚生年金保険の標準報酬月額を決定する際の報酬に含まれます。

そのため、今回の変更によって現物給与価額が増加し、標準報酬月額が上がった場合には、従業員と企業の社会保険料負担が増加する可能性があります。

一方、標準報酬月額が変わらなければ、現物給与価額が増加しただけで直ちに保険料が増えるわけではありません。

社会保険料への影響を判断する際には、住宅の現物給与価額の増減額だけでなく、従業員の給与全体と標準報酬月額の等級を確認する必要があります。

また、標準報酬月額は保険料だけでなく、将来の厚生年金額や健康保険の傷病手当金、出産手当金などの給付にも関係します。

したがって、今回の変更は企業の給与計算だけでなく、従業員の社会保障にも関係する制度変更といえます。

企業が確認すべき実務対応

社宅や借上げ社宅を提供している企業では、今回の変更に対応するため、次の事項を確認する必要があります。

  1. 現在、従業員に提供している社宅や借上げ社宅を把握すること
  2. 住宅ごとの総面積(㎡)を確認すること
  3. 適用する都道府県の現物給与価額を確認すること
  4. 2026年10月1日以後の新しい現物給与価額を算定すること
  5. 従業員が負担する社宅使用料を確認すること
  6. 固定的賃金の変動としての取扱いを確認すること
  7. 月額変更届が必要となる従業員を確認すること
  8. 対象となる従業員に制度変更の内容を周知すること

特に注意したいのは、従来の給与計算システムに登録されている住宅の面積情報です。

これまで居住用の室の畳数だけを登録していた企業では、新たに住宅の総面積を確認する必要があります。

賃貸借契約書や住宅の図面などを確認し、算定に必要な情報を整備することが求められます。

また、給与計算システムや社会保険管理システムが新しい算定方法に対応しているかも確認する必要があります。

税務と社会保険の取扱いを混同しないことが重要

企業が社宅を提供する場合、所得税と社会保険では異なる取扱いが適用されます。

所得税では、役員社宅や使用人社宅について、一定の方法で計算した賃貸料相当額と従業員等が負担する家賃との関係によって、給与課税の有無を判断します。

一方、社会保険では、都道府県ごとに定められた現物給与価額を使用して報酬に算入する金額を判断します。

このため、所得税上は給与課税が生じない社宅であっても、社会保険上は現物給与として報酬に算入する必要が生じる場合があります。

逆に、社会保険上の現物給与価額を使用して、所得税上の社宅の経済的利益を判定することもできません。

企業の経理部門、人事部門、給与計算部門では、所得税と社会保険のそれぞれの基準を正しく理解しておく必要があります。

結論

2026年10月1日から、住宅の現物給与価額の算定基準が「居住用の室の畳数」から「住宅の総面積(㎡)」へ変更されました。

今回の変更は、社宅や借上げ社宅を提供している企業にとって、社会保険の給与計算実務に直接関係する重要な制度変更です。

特に重要なのは、住宅の総面積を正確に把握すること、適用する都道府県の価額を確認すること、固定的賃金の変動として随時改定への影響を確認することの3点です。

また、所得税における社宅の経済的利益の評価と、社会保険における現物給与価額の算定は異なる制度であるため、両者を混同しないことも重要です。

企業は今回の変更を契機として、社宅管理台帳、給与計算システム、社会保険の届出管理を改めて点検することが望まれます。

制度変更を正確に理解し、必要な対応を適切に行うことが、企業の社会保険実務の適正化と従業員の安心につながります。

参考

企業実務 2026年11月号「10月から変更となった算定方法を整理『住宅の現物給与価額』の変更に伴う留意点」(水城弘之氏)

日本年金機構「全国現物給与価額一覧表」

日本年金機構「現物給与の価額に関する取扱い」

厚生労働省「健康保険法及び厚生年金保険法における現物給与の取扱い」

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