海外資産や国際取引への税務監視が強まる――租税条約と国際情報交換の仕組み

税理士
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海外に保有する金融資産や国外法人との取引について、国税当局が情報を把握する仕組みが整備されています。

2026年10月6日と7日に開催された全国国税局調査査察部長会議では、査察における国際化への対応が重要な議題となりました。

企業活動や個人の資産運用が国境を越えて広がる中で、海外の金融口座、国外法人、国際的な資金移動などを利用した取引が増えています。

こうした取引では、国内の申告書や会計帳簿だけでは、所得や資産の全体像を把握できない場合があります。

そのため、国税当局は租税条約などに基づく情報交換制度を活用し、外国税務当局との連携を進めています。

また、金融口座情報の自動的情報交換や国外財産調書制度など、海外資産に関する情報を把握する仕組みも整備されています。

海外に資産を保有することや国外法人と取引すること自体に問題があるわけではありません。

重要なのは、海外取引に関する税務上の義務を正しく理解し、適正な申告・納税を行うことです。

国際化する企業活動と税務上の課題

企業活動の国際化によって、所得が発生する場所と課税される国・地域との関係は複雑になっています。

日本企業が海外に製造拠点や販売子会社を設置することは、現在では珍しくありません。

また、中小企業でも海外の取引先と直接契約し、商品やサービスを提供することが可能になっています。

個人についても、海外の金融機関に口座を開設したり、外国株式や海外不動産を保有したりする機会が広がっています。

こうした取引では、日本と外国の双方で税務上の問題が生じる場合があります。

例えば、日本の居住者が海外の金融機関から利子を受け取った場合、日本での課税関係を確認する必要があります。

また、日本企業が海外子会社と取引する場合には、移転価格税制などへの対応が必要になることがあります。

国際課税では、国内法だけでなく、租税条約や外国の税制も関係するため、適用関係を慎重に確認することが重要です。

租税条約が果たす役割

租税条約は、国際的な二重課税の排除や脱税・租税回避への対応などを目的として、国と国との間で締結される条約です。

例えば、日本の企業が外国で事業活動を行う場合、日本と外国の双方で課税関係が生じることがあります。

租税条約では、一定の所得について課税権の配分や税率の軽減などが定められています。

また、租税条約には、税務当局間の情報交換に関する規定が設けられている場合があります。

この情報交換制度によって、外国税務当局が保有する税務上必要な情報を、日本の国税当局が一定の条件の下で入手できる場合があります。

反対に、日本の国税当局が外国税務当局へ情報を提供することもあります。

ただし、租税条約に基づく情報交換は、無制限に行われるものではありません。

条約や関係法令に定められた条件に従い、税務上必要な範囲で実施されます。

国際情報交換の主な仕組み

税務当局間の情報交換には、いくつかの方法があります。

代表的なものとして、要請に基づく情報交換、自発的情報交換、自動的情報交換があります。

要請に基づく情報交換は、一方の税務当局が特定の事案について必要な情報を相手国の税務当局に求める仕組みです。

例えば、海外の金融機関との取引内容などについて、税務上必要な情報の提供を求める場合があります。

自発的情報交換は、税務当局が相手国にとって有用と考えられる情報を、自ら提供する仕組みです。

自動的情報交換は、一定の種類の情報を、あらかじめ定められた方法で定期的に交換する仕組みです。

これらの制度によって、国境を越える取引に関する情報を把握しやすくなっています。

ただし、情報交換によって得られた資料が、そのまま脱税の証拠になるとは限りません。

実際の課税判断には、個別の事実関係や適用される法令を確認する必要があります。

CRSによる海外金融口座情報の交換

海外金融資産の把握に関して重要なのが、CRSと呼ばれる共通報告基準です。

CRSは、金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際的な基準です。

各国・地域の金融機関が、所定の手続に従って口座保有者の税務上の居住地国などを確認し、報告対象となる金融口座情報を税務当局へ報告する仕組みです。

その情報が、関係する国・地域の税務当局間で交換されます。

交換される情報には、一定の口座保有者情報、口座残高、利子や配当などに関する情報が含まれます。

これによって、日本の居住者が海外の金融機関に保有する口座について、日本の国税当局が情報を入手する場合があります。

ただし、すべての海外口座について、すべての取引情報が自動的に交換されるわけではありません。

対象となる金融機関、口座、情報の範囲などは制度上の要件によって決まります。

海外口座を保有する個人や企業は、こうした制度を踏まえ、申告内容と実際の資産・所得の状況に相違がないか確認することが重要です。

国外財産調書制度による資産情報の把握

日本では、一定の国外財産を保有する居住者に対して、国外財産調書の提出を求める制度が設けられています。

原則として、その年の12月31日において価額の合計額が5,000万円を超える国外財産を保有する一定の居住者は、国外財産調書の提出対象となります。

対象となる国外財産には、海外の預貯金、外国株式、海外不動産などが含まれる場合があります。

ただし、国外財産に該当するかどうかは、財産の種類や所在の判定方法によって異なります。

また、国外財産調書の提出義務と、所得税や相続税の申告義務は別の問題です。

国外財産調書を提出しているからといって、海外資産から生じた所得について申告が不要になるわけではありません。

反対に、国外財産調書の提出対象にならない場合でも、海外所得について申告が必要になることがあります。

制度ごとの要件を確認し、適切に対応することが重要です。

財産債務調書制度との違い

海外資産に関する情報を把握する制度としては、財産債務調書制度も重要です。

財産債務調書は、一定の所得や財産を有する個人に対して、保有する財産と債務の状況について報告を求める制度です。

国外財産調書が国外財産に着目した制度であるのに対し、財産債務調書は国内外の財産や債務を対象とする点に特徴があります。

ただし、提出義務の判定基準や記載内容は異なります。

また、一定の要件を満たす場合には、両方の調書について提出義務が生じることがあります。

海外資産を保有する個人は、所得税の確定申告だけでなく、これらの調書制度への対応も確認する必要があります。

特に、海外不動産や外国株式などを複数保有している場合には、財産の評価や所在の判定が複雑になることがあります。

必要に応じて専門家に相談し、提出漏れを防ぐことが望まれます。

海外法人を利用した取引と税務リスク

海外法人を利用した取引についても、国税当局は適正な課税の確保を重視しています。

日本企業が海外子会社を設立し、製造、販売、研究開発などの機能を分担することは、通常の企業活動として広く行われています。

しかし、国外関連者との取引価格が適切でない場合には、移転価格税制の問題が生じることがあります。

また、一定の外国関係会社については、外国子会社合算税制の適用を検討する必要があります。

これらの制度は、海外法人を設立したこと自体を問題とするものではありません。

取引の実態や所得の帰属、適用要件などに基づいて課税関係を判断する仕組みです。

企業としては、海外法人の設立目的、事業活動の実態、取引条件、資金の流れなどを適切に記録しておくことが重要です。

海外法人との取引について、形式的な契約書だけでなく、実際の事業活動を説明できる資料を整備することが求められます。

査察における国際情報交換の重要性

今回の全国国税局調査査察部長会議では、査察における国際化への対応も議論されました。

悪質な脱税事案では、複数の国・地域に関係する取引や資金移動が問題になる場合があります。

例えば、海外の法人や金融口座を介して資金が移動する場合には、国内の資料だけで取引の全体像を把握することが難しいことがあります。

こうした事案では、外国税務当局との情報交換が重要な役割を果たす場合があります。

ただし、国際情報交換制度が利用できることと、犯則調査に必要な証拠がすべて取得できることは同じではありません。

情報の取得や利用には、関係法令や国際的な取決めに基づく条件があります。

また、海外資産の保有や国際取引があることだけで、査察の対象になるわけではありません。

重要なのは、取引の実態と申告内容に照らして、意図的な不正行為が存在するかどうかです。

企業と個人が確認すべき海外資産管理

海外資産や国際取引に関する税務リスクを軽減するためには、日常的な管理が重要です。

第一に、海外に保有する金融口座や不動産、株式などの資産を正確に把握することです。

第二に、海外資産から生じる利子、配当、譲渡益、賃貸収入などについて、日本での課税関係を確認することです。

第三に、外国で納付した税金がある場合には、外国税額控除などの適用関係を確認することです。

第四に、国外財産調書や財産債務調書などの提出義務を確認することです。

第五に、海外法人との取引について、契約内容や価格設定の根拠を記録することです。

海外資産や国際取引では、国内取引とは異なる税務上の判断が必要になる場合があります。

そのため、取引を開始する段階から税務上の影響を確認し、必要に応じて専門家へ相談することが望まれます。

結論

2026年10月の全国国税局調査査察部長会議では、査察における国際化への対応が重要な議題となりました。

企業活動や個人の資産運用が国際化する中で、租税条約などに基づく情報交換制度の重要性が高まっています。

CRSによる金融口座情報の自動的情報交換や、国外財産調書制度などによって、海外資産に関する情報を把握する仕組みも整備されています。

ただし、海外に資産を保有することや国外法人と取引すること自体が問題なのではありません。

重要なのは、海外資産や国際取引に関する税務上の義務を正しく理解し、適正な申告・納税を行うことです。

企業や個人には、海外資産の状況を把握し、取引の実態や税務判断の根拠を説明できる管理体制が求められます。

国際情報交換の仕組みが充実する中で、国内外を通じた正確な記録管理と税務コンプライアンスの重要性は、今後ますます高まると考えられます。

参考

税のしるべ 2026年10月26日「令和8年10月・調察部長会議、調査ノウハウを組織全体に還元、特別国税査察官の効果的運用で意見交換」

国税庁「租税条約等に基づく情報交換」

国税庁「共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換」

国税庁「国外財産調書制度」

国税庁「財産債務調書制度」

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