国税滞納9,847億円の実態――税収増加の陰で進む徴収行政の課題

税理士
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国税の滞納残高が増加しています。

国税庁によると、2025年度末の滞納整理中の国税は、全税目合計で9,847億円となり、前年度より133億円、1.4%増加しました。

2026年11月2日付の「税のしるべ」に掲載された国税庁徴収部長・山下和博氏へのインタビューでは、徴収決定済額が過去最高となったことなどを背景に、新規発生滞納額が整理済額を上回ったことが説明されています。

国税の滞納は、単に税金を納めない納税者が存在するという問題ではありません。

企業の資金繰り、個人事業主の経営状況、税務行政の効率性、納税者間の公平性など、さまざまな問題と関係しています。

特に、税収規模が拡大する中で滞納残高が増加していることは、今後の徴収行政を考えるうえで重要な論点です。

国税滞納残高9,847億円の意味

国税庁が公表する滞納整理中の額とは、納期限までに納付されなかった国税のうち、年度末時点で滞納整理が完了していないものの金額です。

2025年度末の滞納整理中の額は9,847億円となりました。

前年度の9,714億円から133億円増加しています。

増加率は1.4%です。

ここで注意したいのは、滞納残高と新規発生滞納額は異なるということです。

新規発生滞納額は、その年度に新たに発生した滞納の金額です。

一方、滞納整理中の額は、過年度から繰り越された滞納も含め、年度末時点で整理が完了していない金額です。

滞納残高の増減を理解するためには、新規発生滞納額と整理済額の関係を確認する必要があります。

新規発生滞納額と整理済額の関係

滞納残高は、基本的に前年度末の滞納残高に新規発生滞納額を加え、整理済額を差し引くことで変動します。

例えば、前年度末の滞納残高が1,000億円、新規発生滞納額が500億円、整理済額が400億円であれば、年度末の滞納残高は1,100億円になります。

新規発生滞納額が整理済額を上回れば、滞納残高は増加します。

反対に、整理済額が新規発生滞納額を上回れば、滞納残高は減少します。

2025年度については、徴収決定済額が過去最高となったことなどを背景に、新規発生滞納額が整理済額を上回りました。

その結果、年度末の滞納整理中の額が増加しています。

ただし、滞納残高の増加だけで、徴収行政の成果が低下したと判断することは適切ではありません。

新規発生滞納額の規模や整理済額、税収全体との関係などを総合的に確認する必要があります。

税収規模の拡大と滞納額の関係

国税の徴収決定済額が増加すると、一定の割合で納付が遅れた場合でも、新規発生滞納額が増加する可能性があります。

例えば、徴収決定済額が50兆円の場合と80兆円の場合を比較します。

仮に新規発生滞納額の割合がいずれも1%であれば、前者は5,000億円、後者は8,000億円になります。

納付が遅れる割合が変わらなくても、徴収決定済額が増加すれば、滞納額の絶対額は大きくなります。

したがって、滞納額の増減を分析する際には、金額だけでなく、徴収決定済額に対する割合なども確認することが重要です。

また、税収の増加が企業収益の改善によるものなのか、物価上昇による名目金額の拡大によるものなのかによっても、納税者の資金繰りへの影響は異なります。

税収が増加していることと、すべての納税者の資金繰りが改善していることは同じではありません。

消費税滞納が重要な課題となる理由

国税庁は、消費税滞納を含む滞納事案の確実な処理を重視しています。

消費税は、事業者の日常的な資金繰りと密接に関係する税目です。

事業者は、売上代金に含まれる消費税相当額を受け取りますが、その資金を他の事業資金と区分せずに管理している場合があります。

売掛金の回収遅延や仕入代金の支払いなどによって資金繰りが悪化すると、納税時期に十分な資金を確保できないことがあります。

特に、利益が少ない事業者や赤字の事業者でも、課税売上げと課税仕入れ等の状況によっては消費税の納付が必要になります。

法人税と異なり、会計上の利益が赤字であることだけを理由に、消費税の納付義務がなくなるわけではありません。

このため、消費税については、日頃から納税見込額を把握し、資金を確保しておくことが重要です。

中小企業の資金繰りと滞納発生

中小企業では、売上高や利益が増加していても、資金繰りが悪化する場合があります。

例えば、売上高が増加しても、売掛金の回収が遅れれば現預金は増加しません。

また、設備投資や借入金返済によって、多額の資金が流出することがあります。

企業が税金の納付を後回しにして、仕入代金や人件費の支払いを優先する場合も考えられます。

しかし、税金の納付が遅れれば、原則として延滞税が発生するほか、督促や滞納処分の対象になる可能性があります。

資金繰りの悪化が予想される場合には、納期限直前まで対応を先送りしないことが重要です。

月次決算や資金繰り表を活用し、納税見込額と必要資金を早期に把握する必要があります。

納税コールセンターによる早期対応

国税庁は、滞納の早期解消に向けて、納税コールセンターによる催告を実施しています。

納税コールセンターでは、新規発生滞納事案を幅広く取り扱い、電話などによって納付を促しています。

滞納が発生してから長期間が経過すると、納税者の資金繰りがさらに悪化する可能性があります。

また、滞納額が累積すれば、納付が一層困難になることも考えられます。

そのため、滞納発生後の早い段階で納税者に連絡し、納付状況や事情を確認することが重要です。

単純な納付忘れであれば、早期の催告によって解消できる場合があります。

一方、資金不足が原因であれば、納税者の実情を確認し、必要に応じて納税相談につなげることが求められます。

大口・悪質滞納と一般的な滞納の区別

滞納事案には、さまざまな性質があります。

一時的な資金不足によって納付できない事業者と、十分な資産を保有しながら意図的に納税を回避する者では、対応を区別する必要があります。

国税庁は、大口・悪質な滞納事案や処理困難事案について、国税局や税務署が重点的に対応する方針を示しています。

必要に応じて財産の捜索、差押え、公売などの滞納処分を実施します。

また、財産を隠蔽して滞納処分を免れようとする悪質な事案については、滞納処分免脱罪による告発も視野に入れています。

こうした厳正な対応は、期限内に納税している納税者との公平性を確保するために必要です。

一方で、資金繰りの悪化などによって納付が困難な納税者については、個々の事情を踏まえた適切な対応が求められます。

納税の猶予制度と早期相談の重要性

国税には、一定の要件を満たす場合に、納税の猶予や換価の猶予などが認められる制度があります。

例えば、災害や事業上の著しい損失など、法令で定められた事情によって納付が困難になった場合には、納税の猶予が認められることがあります。

また、一定の要件のもとで、換価の猶予が認められる場合もあります。

これらの制度では、納付を一定期間猶予したり、分割納付が認められたりすることがあります。

ただし、制度の適用には要件があり、申請すれば必ず認められるわけではありません。

また、猶予制度の利用に当たっては、申請期限や必要書類などにも注意が必要です。

納税資金の不足が予想される場合には、早期に税務署へ相談し、利用できる制度を確認することが重要です。

AIを活用した滞納整理の効率化

国税庁は、滞納整理の効率化に向けてAIの活用も進めています。

滞納者の過去の接触履歴、申告書データ、業種などの情報を分析し、電話、訪問、文書のうち、接触できる可能性が高い方法を予測しています。

また、電話催告について、応答する可能性が高い曜日や時間帯を予測するモデルも構築しています。

こうした取組によって、限られた職員数の中でも、効率的に滞納整理を進めることが期待されます。

さらに、生成AIを活用して滞納事案の整理記録を要約し、担当者間の引継ぎや優先順位の判断を支援する取組も進めています。

ただし、AIによる予測や要約には誤りが生じる可能性があります。

納税者の事情を適切に把握し、法令に基づいて判断することが引き続き重要です。

企業経理と税理士に求められる滞納予防

滞納の未然防止は、国税庁だけの課題ではありません。

企業経理や税理士にとっても、納税資金の準備と納期限管理は重要な業務です。

企業では、法人税、消費税、源泉所得税などの納税予定額を把握し、資金繰り計画に反映させる必要があります。

また、納税予定表を整備し、申告期限、納期限、納付方法、納付結果などを管理することが重要です。

税理士についても、申告書の作成や税額計算だけでなく、納税見込額の早期把握や資金繰りへの助言が求められます。

特に中小企業では、決算終了後に納税額を把握するのではなく、月次決算や決算予測を通じて計画的に納税資金を確保することが望まれます。

滞納が発生してから対応するのではなく、滞納を発生させない仕組みを整えることが重要です。

結論

2025年度末の国税滞納残高は9,847億円となり、前年度より133億円増加しました。

背景には、徴収決定済額が過去最高となり、新規発生滞納額が整理済額を上回ったことがあります。

ただし、滞納残高の増加だけをもって、納税者の納税意識や徴収行政の成果を判断することはできません。

税収規模、経済環境、企業の資金繰り、新規発生滞納額、整理済額などを総合的に分析する必要があります。

国税庁は、キャッシュレス納付の普及、納税コールセンターによる早期催告、AIを活用した滞納整理などを通じて、滞納の未然防止と早期解消を進めています。

一方で、大口・悪質な滞納事案には厳正に対応し、納税者間の公平性を確保する方針です。

これからの徴収行政では、滞納額を減らすことだけでなく、滞納が発生する原因を分析し、納税者が期限内に納付できる環境を整えることが重要になります。

企業や個人事業主にとっても、納税資金の計画的な準備と納期限管理を徹底することが、安定した経営を維持するための基本となります。

参考

税のしるべ 2026年11月2日「令和8年国税庁の幹部に聞く/徴収部長・山下 和博」

国税庁「令和7年度租税滞納状況」

国税庁「キャッシュレス納付のご案内」

国税庁「納税に関する総合案内」

国税庁「納税の猶予制度」

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