高配当株投資は高齢者に不利になるのか――配当収入と社会保険料の新しい関係

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2029年8月から、75歳以上の後期高齢者医療制度に株式や投資信託の売却益、配当などの金融所得を反映する新たな仕組みが始まる予定です。

この制度変更によって、老後の生活資金を確保するために高配当株を保有している人は、投資方針を見直す必要があるのでしょうか。

高配当株投資は、株式を売却せずに定期的な配当収入を得られることから、年金生活者にとって魅力的な資産運用方法の一つです。

しかし、今後は課税口座で受け取る配当金が、所得税・住民税だけでなく、後期高齢者医療制度の保険料や医療費の窓口負担割合にも影響する可能性があります。

一方、NISA口座で受け取る非課税配当は、今回の金融所得反映の対象外とされています。

そのため、同じ高配当株を保有していても、課税口座かNISA口座かによって、老後の手取り収入に差が生じる可能性があります。

今回は、高配当株投資のメリットと注意点、配当所得と売却益の違い、分配型投資信託との比較などを通じて、金融所得を反映する新制度が高齢者の資産運用に与える影響を整理します。

高配当株投資が年金生活者に選ばれる理由

高配当株投資とは、株価に対して比較的高い配当金を支払う企業の株式に投資する方法です。

例えば、株価100万円に対して年間4万円の配当金を受け取る場合、配当利回りは4%です。

1,000万円を配当利回り4%の株式に投資すれば、年間40万円の配当収入が期待できます。

ただし、配当金は企業の業績や配当方針によって変動し、減配や無配となる場合もあります。

高配当株投資の特徴は、保有株式を売却しなくても定期的な現金収入を得られることです。

年金収入だけでは生活費が不足する場合、配当金を生活費の補填に充てることができます。

また、株式を売却する必要がないため、保有株数を維持しながら収入を得られる点もメリットです。

しかし、2029年からの制度変更によって、課税口座で受け取る配当金については、社会保険負担への影響を考慮する必要が生じます。

配当金100万円で医療保険料はどの程度増えるのか

例えば、75歳以上の年金生活者が課税口座で年間100万円の配当金を受け取る場合を考えます。

上場株式の配当金には、原則として20.315%の所得税・住民税が課税されます。

100万円の配当金に対する税額は20万3,150円となり、税引後の受取額は79万6,850円です。

さらに、新制度では対象となる配当所得が後期高齢者医療制度の保険料算定に反映される予定です。

2026年度の全国平均所得割率10.42%を使用した単純計算では、100万円の金融所得に対応する所得割額は10万4,200円となります。

ただし、これは実際の保険料増加額を示すものではありません。

年金収入、均等割の軽減制度、保険料の賦課限度額などによって負担は異なります。

また、金融所得の反映によって医療費の窓口負担割合が変わる場合には、保険料以外の負担増も考えられます。

配当金の額面だけでなく、税金と社会保険負担を考慮した手取り収入を確認することが重要です。

配当収入は毎年継続して発生する

高配当株投資と株式の売却益では、金融所得が発生するタイミングが異なります。

株式の売却益は、原則として株式を売却したときに発生します。

そのため、投資家は売却時期をある程度選択できます。

一方、配当金は企業が配当を実施すれば、株式を保有している投資家に支払われます。

課税口座で高配当株を長期間保有している場合、毎年継続的に配当所得が発生することになります。

例えば、年間100万円の配当収入が10年間続けば、配当収入の合計は1,000万円です。

新制度では、こうした継続的な金融所得が毎年の社会保険負担に影響する可能性があります。

これに対し、値上がり益を中心とする株式や投資信託では、売却するまで譲渡益が実現しないため、金融所得の発生時期を調整できる場合があります。

ただし、株価や基準価額は変動するため、売却時期を自由に選べることが必ずしも有利とは限りません。

高配当株と無分配型投資信託の違い

高配当株と比較したいのが、分配金を原則として支払わず、運用収益をファンド内で再投資する無分配型投資信託です。

高配当株では、企業から支払われる配当金が投資家の所得になります。

一方、無分配型投資信託では、投資先企業から受け取った配当などがファンド内で再投資されても、それだけで投資家本人に配当所得が発生するわけではありません。

投資家が投資信託を売却し、利益を確定させた場合に、原則として譲渡所得等が発生します。

例えば、1,000万円で購入した無分配型投資信託の時価が1,400万円になっても、売却しなければ400万円の評価益は今回の金融所得反映の対象にはなりません。

一方、課税口座で毎年40万円の配当を受け取る高配当株では、その配当所得が毎年の判定対象になる可能性があります。

この違いは、高齢期の社会保険負担を考えるうえで重要です。

ただし、無分配型投資信託でも売却時には利益が発生します。

また、投資対象や運用コスト、価格変動リスクが異なるため、社会保険負担だけで優劣を判断することは適切ではありません。

分配型投資信託の普通分配金と特別分配金

投資信託には、定期的に分配金を支払う商品もあります。

ここで重要なのが、普通分配金と元本払戻金である特別分配金の違いです。

普通分配金は、投資家にとって課税対象となる利益部分です。

一方、特別分配金は、投資家が投資した元本の一部を払い戻す性質を持つため、原則として非課税です。

例えば、毎月分配型投資信託から年間60万円の分配金を受け取っていても、その全額が普通分配金とは限りません。

普通分配金と特別分配金の内訳によって、税務上の所得金額は異なります。

新制度で金融所得が反映される場合も、分配金の総受取額だけでなく、課税対象となる所得の性質を確認する必要があります。

ただし、特別分配金は運用によって新たに得られた利益ではなく、投資元本の払い戻しです。

特別分配金が多い商品を、社会保険負担が少ないという理由だけで選択することは適切ではありません。

元本の減少や基準価額の推移を含めて判断する必要があります。

NISA口座の高配当株は社会保険負担を抑えられる

高配当株投資を続ける場合、NISA口座の活用は重要な選択肢になります。

NISA口座で保有する上場株式の配当金について、所定の非課税要件を満たせば、所得税・住民税は課税されません。

また、NISA口座で得た非課税所得は、2029年からの新たな金融所得反映の対象外とされています。

例えば、NISA口座で1,000万円の高配当株を保有し、年間40万円の配当金を受け取る場合です。

国内上場株式の配当金について非課税要件を満たしていれば、40万円をそのまま受け取ることができます。

一方、課税口座で同じ40万円の配当金を受け取る場合、原則として8万1,260円の税金がかかります。

さらに、75歳以降は社会保険負担にも差が生じる可能性があります。

ただし、NISA口座で国内上場株式の配当金を非課税にするには、原則として株式数比例配分方式を選択する必要があります。

配当金を銀行口座などで受け取る方法を選択している場合には、NISA口座で保有する株式であっても課税されることがあるため注意が必要です。

NISAの投資枠には限度がある

NISAには年間投資枠と非課税保有限度額があります。

年間投資枠は、つみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円の合計360万円です。

非課税保有限度額は1人当たり1,800万円で、そのうち成長投資枠の上限は1,200万円です。

個別の上場株式は、原則として成長投資枠で購入することになります。

そのため、例えば課税口座で3,000万円の高配当株を保有していても、その全額を短期間でNISAに移すことはできません。

また、課税口座の株式をNISA口座へ直接移管することはできず、一度売却して買い直す必要があります。

売却益が発生すれば所得税・住民税が課税されます。

したがって、NISAへの移行を検討する場合には、現在の含み益、売却時の税負担、年間投資枠、将来の社会保険負担軽減効果を比較する必要があります。

高配当株投資には減配と株価下落のリスクがある

高配当株投資を考える際には、配当利回りの高さだけで判断しないことが重要です。

例えば、株価が1,000円で年間配当が50円の場合、配当利回りは5%です。

しかし、企業の業績が悪化して株価が500円に下落した場合、年間配当が50円のままであれば、見かけ上の配当利回りは10%になります。

この場合、配当利回りが高くなった理由は、企業の収益力が向上したからではなく、株価が下落したためです。

さらに、企業が減配を決定すれば、将来の配当収入も減少します。

高齢期の生活費を高配当株の配当金に大きく依存している場合、減配によって家計収入が不安定になる可能性があります。

また、特定の業種や企業に投資が集中すると、業績悪化による影響を受けやすくなります。

社会保険負担を考える以前に、資産運用の安全性と分散投資を重視する必要があります。

配当収入を生活費に充てる場合の考え方

高齢期には、公的年金だけでは生活費を十分に賄えない場合があります。

そのため、配当収入を生活費の補填に利用すること自体は合理的な選択肢です。

例えば、公的年金収入が年間180万円で、生活費が年間240万円必要な場合、年間60万円の不足が生じます。

この不足分を配当収入で補う方法があります。

一方、無分配型投資信託を必要な金額だけ売却して生活費に充てる方法もあります。

前者は定期的な現金収入を得られる点が特徴です。

後者は、売却時期や売却金額をある程度調整できる点が特徴です。

ただし、投資信託を売却する場合には、相場が下落している時期でも生活費のために売却が必要になる可能性があります。

どちらの方法にもメリットとデメリットがあります。

重要なのは、配当収入と資産売却を対立する選択肢として考えるのではなく、生活費の必要額や資産構成に応じて組み合わせることです。

税理士・FPの視点から考える高配当株投資

2029年からの制度変更を踏まえると、高配当株投資の評価には新たな視点が必要になります。

これまでは、配当利回りや税引後の配当収入が主な判断材料でした。

今後は、課税口座で受け取る配当金が医療保険料や窓口負担割合に与える影響も考慮する必要があります。

特に、現在の所得が1割負担と2割負担、あるいは2割負担と3割負担の判定基準に近い人では、金融所得の増加によって負担区分が変わる可能性があります。

一方、金融所得が少ない人や、既に保険料が賦課限度額に達している人では、影響が限定的な場合もあります。

そのため、高配当株投資が高齢者全員に不利になるわけではありません。

NISA口座の活用、課税口座の配当収入、無分配型投資信託との組み合わせなどを、個々の所得状況に応じて検討することが重要です。

また、金融所得を抑えるためだけに高配当株を売却すると、売却益への課税や将来の配当収入の減少につながる場合があります。

社会保険料の軽減効果と資産運用全体の収益性を比較する必要があります。

結論

2029年8月から始まる金融所得の後期高齢者医療制度への反映によって、高配当株投資の社会保険上の取り扱いは大きく変わる可能性があります。

課税口座で受け取る配当金は、所得税・住民税だけでなく、医療保険料や医療費の窓口負担割合にも影響する場合があります。

一方、NISA口座で得た非課税配当は、今回の新たな金融所得反映の対象外です。

また、無分配型投資信託では、運用収益がファンド内で再投資されても、投資家本人に直ちに配当所得が発生するわけではありません。

そのため、高齢期の資産運用では、配当収入を得る方法と、必要に応じて資産を売却する方法を比較することが重要になります。

ただし、高配当株投資が一律に不利になるわけではありません。

配当収入の安定性、投資リスク、税負担、社会保険料、生活費の必要額などを総合的に考える必要があります。

人生100年時代の資産管理では、配当利回りの高さだけでなく、税金と社会保険負担を差し引いた後に、実際に生活費として使える金額を重視することが求められます。

参考

日本経済新聞 2026年10月31日 朝刊「金融所得を高齢者医療に反映 NISAは対象外、資産売却時期で負担変化」

厚生労働省「後期高齢者医療制度」

厚生労働省「後期高齢者医療制度における金融所得の公平な反映」

金融庁「NISAを知る」

国税庁「配当所得の課税方法」

国税庁「上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度」

日本証券業協会「NISAの概要」

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