高齢者の住まいを誰が守るのか 居住サポート住宅が普及しない理由と今後の課題

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高齢化が進む日本で、住まいの確保が新たな社会問題になっています。

特に深刻なのが、一人暮らしの高齢者が賃貸住宅を借りようとしても、年齢を理由に入居を断られる問題です。

こうした状況を改善するため、2025年10月に始まったのが「居住サポート住宅」制度です。

しかし、制度開始から1年が経過しても、2026年9月末時点の認定戸数は全国でわずか402戸にとどまり、16県では認定住宅が1戸もありません。

政府が掲げる「10年間で10万戸」という目標とは大きな隔たりがあります。

なぜ、高齢者の住まいを支える制度が普及しないのでしょうか。

今回は、居住サポート住宅の仕組み、普及を妨げる要因、税制改正の方向性、そして高齢者の住まいを確保するために必要な対策について考えます。

居住サポート住宅とは何か

居住サポート住宅は、2025年10月に施行された改正住宅セーフティネット法によって創設された制度です。

対象となるのは、住宅の確保に配慮が必要な人たちです。

具体的には、単身高齢者、障害者、ひとり親家庭、低所得者などが想定されています。

一般的な賃貸住宅との大きな違いは、住宅の提供に加えて、入居者の生活を見守る仕組みが設けられていることです。

大家や管理会社と居住支援法人が連携し、入居者に対して安否確認や見守りを実施します。

主な支援内容は次の3つです。

第一に、1日1回以上の安否確認です。

第二に、月1回以上の訪問などによる見守りです。

第三に、入居者の心身の状態が不安定になった場合、必要な福祉サービスにつなぐ支援です。

つまり、居住サポート住宅は単に部屋を貸す制度ではありません。

住宅と福祉を結びつけることで、高齢者などが安心して生活できる環境を整える制度なのです。

政府目標10万戸に対して認定は402戸

政府は制度開始から10年間で10万戸の居住サポート住宅を確保する目標を掲げています。

単純平均では、年間1万戸の供給が必要になります。

ところが、制度開始から約1年が経過した2026年9月末時点の認定戸数は402戸でした。

年間1万戸という平均的な供給ペースに対して、わずか4.02%です。

さらに、全国16県では認定戸数がゼロという状況です。

最も認定戸数が多い福岡県でも84戸にとどまっています。

もちろん、新しい制度が定着するまでには一定の時間が必要です。

しかし、現状の供給ペースが続けば、10年間で約4,000戸程度にしか達しません。

これは単純計算であり、今後の普及加速を考慮した予測ではありませんが、制度の抜本的な改善が必要であることを示しています。

大家が高齢者への賃貸をためらう理由

制度が普及しない最大の要因の一つは、大家にとっての経済的なメリットが乏しいことです。

高齢者への賃貸では、一般的に次のようなリスクが懸念されます。

孤独死が発生する可能性、家賃滞納、認知機能の低下、緊急時の対応、死亡後の残置物処理などです。

これらは高齢者全員に当てはまるものではありませんが、大家が入居審査で慎重になる背景となっています。

居住サポート住宅では見守り体制が整備されるため、こうした不安の一部を軽減できます。

しかし、大家から見れば、通常の入居者に貸す場合と比較して、制度への参加に伴う手間や費用が発生する可能性があります。

その負担に見合う経済的な利益がなければ、積極的に参加する理由は生まれません。

東京都世田谷区で居住支援法人が運営する認定住宅7戸は、募集開始から3カ月で満室になりました。

この事例は、入居希望者の需要が存在することを示しています。

問題は需要がないことではなく、需要に応える住宅の供給が進まないことなのです。

古い賃貸住宅ほど制度を利用しにくい矛盾

居住サポート住宅には、建物の安全性に関する認定基準があります。

その一つが新耐震基準への適合です。

新耐震基準は1981年6月に導入されました。

それ以前の旧耐震基準で建築された住宅では、現行の認定基準を満たすために耐震診断や耐震改修が必要になる場合があります。

ところが、家賃の安い古いアパートほど、高齢者が入居しやすいという現実があります。

比較的所得の低い高齢者にとって、新築や築浅の賃貸住宅は家賃負担が重くなりがちです。

一方、古いアパートを居住サポート住宅として認定してもらうには、多額の改修費用が発生する可能性があります。

大家にとっては、改修費用を家賃収入で回収できるかという問題が生じます。

結果として、本来活用したい低家賃住宅ほど制度の対象にしにくいという矛盾が生まれています。

もちろん、耐震性の確保は入居者の生命を守るために欠かせません。

したがって、認定基準を安易に緩和するのではなく、耐震改修への支援を充実させることが重要です。

見守りを担う居住支援法人の経営問題

居住サポート住宅を支える重要な存在が居住支援法人です。

居住支援法人には、社会福祉法人やNPO法人などが多く含まれています。

これらの団体は、高齢者や生活困窮者の住まい探し、生活相談、福祉サービスとの連携などを担っています。

しかし、慢性的な人手不足や資金不足に直面している団体も少なくありません。

居住サポート住宅では、毎日の安否確認や定期的な見守りが求められます。

例えば、100戸の住宅を支援する場合、1日1回の安否確認だけでも年間3万6,500回の確認業務が発生します。

実際には電話やICT機器などを活用して効率化できますが、異常が確認された場合には人による対応が必要になります。

さらに、月1回の訪問や福祉サービスとの連携も求められます。

こうした継続的な業務には安定した財源が不可欠です。

ところが、見守り活動そのものに対する国の直接的な補助金がないことが、普及の障害になっています。

制度を拡大するためには、住宅の整備費用だけでなく、見守りサービスを継続するための運営費用にも目を向ける必要があります。

2027年度税制改正で何が変わるのか

国土交通省は、2027年度の税制改正要望に居住サポート住宅への税負担軽減措置を盛り込みました。

具体的には、2027年度から2029年度までの不動産取得税と固定資産税の軽減を求めています。

不動産取得税は、不動産を取得した際に課される都道府県税です。

固定資産税は、土地や建物などの所有者に毎年課される市町村税です。

これらの税負担が軽減されれば、居住サポート住宅を供給する大家の経済的な負担を抑えられる可能性があります。

例えば、賃貸住宅を取得して居住サポート住宅として活用する場合、不動産取得税の軽減は初期費用の削減につながります。

また、固定資産税の軽減は、住宅保有期間中の収益改善に寄与します。

ただし、税制改正要望は制度の実施が決定したことを意味しません。

具体的な適用要件や軽減内容については、今後の税制改正議論を確認する必要があります。

さらに、税負担の軽減だけで十分な供給増加につながるかは不透明です。

大家が抱える孤独死や家賃滞納などへの不安を解消する仕組みと組み合わせることが重要になります。

2050年には単身高齢者が1,084万世帯に

高齢者の住まいの問題が深刻なのは、今後も単身高齢者世帯の増加が見込まれるためです。

国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、65歳以上の単身世帯は2050年に1,084万世帯に達する見通しです。

高齢者が一人で生活すること自体が問題なのではありません。

問題は、単身であることによって住宅の確保や生活上の支援を受けにくくなることです。

特に、配偶者との死別、持ち家の売却、施設からの退去、子どもとの別居などをきっかけに、新たな住まいを探さなければならない場合があります。

年金収入だけで生活する高齢者にとって、家賃の負担は大きな課題です。

また、保証人を頼める親族がいない場合には、賃貸借契約そのものが難しくなることもあります。

今後は、介護施設への入居だけでなく、一般の賃貸住宅で暮らし続ける高齢者をどのように支援するかが重要になります。

高齢者自身が準備しておきたい住まいの対策

高齢期の住まいについては、行政や大家の対応を待つだけでなく、本人も早めに準備することが大切です。

第一に、老後の住居費を長期的に試算することです。

例えば、家賃が月8万円の場合、年間96万円、20年間では1,920万円になります。

更新料や共益費、引っ越し費用などを含めれば、さらに負担は増加します。

第二に、緊急連絡先や身元保証の問題を整理しておくことです。

親族に頼れない場合には、自治体の相談窓口や居住支援法人、家賃債務保証サービスなどを確認する方法があります。

第三に、認知機能が低下した場合の財産管理を検討することです。

任意後見制度や財産管理等委任契約などについて、判断能力が十分なうちに検討しておくことが有効です。

第四に、地域の福祉サービスや見守り制度を調べておくことです。

居住サポート住宅の認定がない地域でも、自治体や社会福祉協議会などが独自の支援を実施している場合があります。

老後の住まいは、年金や金融資産と同じように、長期的な生活設計の重要な要素なのです。

普及に必要なのは住宅政策と福祉政策の一体化

居住サポート住宅の普及には、住宅政策だけでなく、福祉政策との連携が不可欠です。

大家が住宅を提供し、居住支援法人が見守りを行い、自治体が福祉サービスにつなぐという役割分担が必要になります。

しかし、現在は関係機関を結ぶ居住支援協議会の設置地域が、人口カバー率で4割程度にとどまっています。

つまり、制度を運営するための地域ネットワークそのものが十分に整っていません。

今後は、自治体、賃貸住宅管理会社、居住支援法人、社会福祉協議会などの連携を強化することが求められます。

また、ICTを活用した安否確認の効率化、見守り費用への公的支援、家賃債務保証の充実、死亡後の残置物処理に関する契約の整備なども重要です。

福岡県で比較的認定が進んでいる背景には、居住支援協議会の活動や関係団体の連携があります。

こうした先行事例を他の自治体に広げることが、普及を進める一つの方法になるでしょう。

結論

居住サポート住宅は、高齢化が進む日本にとって重要な制度です。

しかし、制度開始から約1年が経過しても認定戸数は402戸にとどまり、政府が掲げる10年間で10万戸という目標の実現には大きな課題があります。

普及が進まない背景には、大家の経済的なメリットの不足、耐震基準への対応費用、居住支援法人の資金不足、自治体と関係機関の連携不足があります。

2027年度税制改正で検討される不動産取得税や固定資産税の軽減は、供給を促す一つの手段になる可能性があります。

ただし、税制優遇だけで問題が解決するわけではありません。

住宅を貸す大家、生活を支援する居住支援法人、福祉サービスを提供する自治体のそれぞれが、持続可能な形で役割を果たせる制度設計が必要です。

今後、単身高齢者世帯が1,000万世帯を超える時代を迎える中で、住まいの確保は個人の問題だけではなく、社会全体で取り組むべき課題になります。

高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられる社会を実現するためには、住宅と福祉を一体化した支援体制の整備が欠かせません。

居住サポート住宅の普及状況は、日本の高齢社会への対応力を測る重要な指標になると考えます。

参考

日本経済新聞 2026年10月23日朝刊「高齢者支援住宅、開始1年でも16県ゼロ 『10年10万戸』目標遠く」

国土交通省 住宅セーフティネット制度に関する資料

国立社会保障・人口問題研究所 日本の世帯数の将来推計

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