中小企業の経営者にとって、株主総会は重要であると理解していても、実際に開催することを負担に感じる場合があります。
特に同族会社では、株主が社長とその配偶者、子供など少数の親族に限られることも珍しくありません。
日常的に家族間で経営方針を話し合っているため、改めて株主総会を開催する必要はないと考える経営者もいるでしょう。
しかし、株式会社である以上、取締役の選任や解任、定款変更などについては、会社法に従った意思決定が必要です。
そこで活用したいのが、会社法319条に定められた株主総会決議の省略制度です。
一般に「みなし決議」や「書面決議」と呼ばれる制度で、一定の要件を満たせば、実際に株主総会を開催しなくても有効な決議を成立させることができます。
今回は、みなし決議の仕組み、具体的な手続き、電子メールの活用方法、議事録の作成、税務や事業承継との関係について解説します。
みなし決議とは何か
会社法319条第1項は、株主総会の決議を省略できる制度を定めています。
取締役または株主が株主総会の目的事項について提案し、その事項について議決権を行使できる株主全員が書面または電磁的記録によって同意した場合、株主総会で提案を可決する決議があったものとみなされます。
つまり、株主全員が一定の方法で同意すれば、実際に会議を開催する必要がありません。
例えば、父親が代表取締役を務め、母親と長男が株主となっている会社を考えてみます。
株主構成は次のとおりです。
父親が60%、母親が25%、長男が15%の議決権を保有しているとします。
この会社で取締役を新たに選任する場合、通常は株主総会を開催して決議します。
しかし、3人全員が取締役の選任議案に書面または電磁的記録で同意すれば、株主総会を開催しなくても決議が成立します。
重要なのは、株主総会の開催を省略しても、法律上は株主総会決議が成立したものとして扱われることです。
単に家族間で話し合っただけの場合や、社長が一方的に決めた場合とは異なります。
法律が定める要件を満たしていることが必要なのです。
過半数の株式を持っていても全員の同意が必要
みなし決議を利用する場合、最も注意したいのが株主全員の同意です。
通常の株主総会では、議案の種類に応じて普通決議や特別決議などの決議要件が定められています。
例えば、取締役の選任については、原則として普通決議によって決定します。
普通決議では、定款に別段の定めがある場合などを除き、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数による賛成が必要です。
ただし、取締役の選任については、定款で定足数を緩和する場合にも一定の下限があります。
一方、みなし決議では、議決権の過半数を持っているだけでは足りません。
議案について議決権を行使できる株主全員の同意が必要です。
先ほどの例で、父親が60%の議決権を保有していても、母親または長男が反対すれば、みなし決議は成立しません。
仮に父親が90%、長男が10%を保有している場合でも同様です。
父親が圧倒的な議決権を保有しているからといって、長男の同意を省略することはできません。
ここが通常の株主総会決議との大きな違いです。
みなし決議は、少数株主の意思を無視して迅速に決定する制度ではありません。
株主全員が同意している場合に、会議の開催を省略できる制度なのです。
電子メールでもみなし決議は成立する
みなし決議では、書面だけでなく電磁的記録による同意も認められています。
そのため、電子メールなどを利用することも可能です。
例えば、会社が取締役選任の議案を電子メールで株主全員に送信し、各株主が議案に同意する旨を返信する方法が考えられます。
ただし、単に電子メールを送信しただけでは同意したことになりません。
株主本人が議案の内容を理解し、同意したことを確認できる必要があります。
また、返信がなかった場合に、反対していないから同意したものと扱うこともできません。
会社法319条が求めるのは、議決権を行使できる株主全員の明確な同意です。
実務では、議案の内容、対象となる取締役の氏名、就任予定日などを具体的に記載することが重要です。
例えば、取締役の選任について同意を求める場合には、誰を、どのような議案によって選任するのかを明示します。
電子メールによる同意を受けた場合には、送受信記録を保存し、後日確認できるようにしておくことが望まれます。
特に親族間で経営方針に対立がある場合には、電子メールだけでなく、署名のある同意書などを取得することも検討すべきでしょう。
みなし決議の具体的な手続き
みなし決議を利用する場合、実務上は次のような流れになります。
まず、会社が決議したい事項を明確にします。
例えば、取締役の選任、定款変更、剰余金の配当などです。
次に、取締役または株主が具体的な議案を提案します。
その際、株主が判断できるように、議案の内容や必要な資料を提示することが重要です。
続いて、その議案について議決権を行使できる株主全員から、書面または電磁的記録による同意を取得します。
全員の同意がそろった時点で、会社法319条に基づく決議が成立します。
その後、会社は法令に従って株主総会議事録を作成します。
みなし決議の場合も、議事録の作成は必要です。
議事録には、決議があったものとみなされた事項の内容、提案者、決議があったものとみなされた日など、法令で定められた事項を記載します。
さらに、同意書や電子メールなどの同意を示す記録については、会社法に基づく保存義務があります。
会社法319条第2項では、株主の同意を示す書面または電磁的記録を、決議があったものとみなされた日から10年間、本店に備え置くことが求められています。
単に議事録だけを保存すればよいわけではありません。
同意を示す原資料の保存も重要なのです。
定時株主総会にも活用できる
みなし決議は、臨時株主総会だけでなく、定時株主総会の決議事項についても利用できます。
例えば、取締役の選任や剰余金の配当など、定時株主総会で決議すべき事項について、所定の要件を満たせば決議を省略できます。
ただし、定時株主総会には、決議事項だけでなく報告事項もあります。
会社法320条には、株主総会への報告を省略する制度が設けられています。
取締役が株主全員に対して報告事項を通知し、株主全員がその事項について株主総会への報告を要しないことに書面または電磁的記録で同意した場合、報告があったものとみなされます。
つまり、決議の省略と報告の省略は別の制度です。
例えば、定時株主総会で事業報告の内容を報告する必要がある場合、決議事項について全員の同意が得られていても、それだけで報告事項まで省略できるわけではありません。
決議事項には会社法319条、報告事項には会社法320条という違いを理解する必要があります。
また、計算書類の承認が必要かどうかについても、会社の機関設計や監査の状況などによって取扱いが異なります。
中小企業では、税務申告のために決算書を作成しただけで、会社法上の承認手続きまで完了したと考えてしまうことがあります。
税務申告と会社法上の決算承認は別の手続きであることに注意が必要です。
役員変更登記との関係
みなし決議は、取締役の選任や解任にも利用できます。
ただし、株主総会決議が成立したことと、役員変更登記が完了したことは別の問題です。
取締役の就任については、株主総会で選任されたことに加えて、本人による就任承諾が必要です。
また、取締役の変更が生じた場合には、原則として変更から2週間以内に本店所在地で変更登記を申請する必要があります。
登記申請では、株主総会議事録、就任承諾書、株主リストなど、変更内容に応じた書類が必要になります。
みなし決議の場合も、適切に作成された議事録などを添付して登記を申請します。
ここで注意したいのは、登記が受理されたことによって、決議の適法性が全面的に保証されるわけではないという点です。
例えば、実際には株主全員の同意が得られていないにもかかわらず、みなし決議が成立したとして登記を行った場合、後日、決議の不存在などが争われる可能性があります。
会社の内部手続きと登記の両方を適切に行うことが重要です。
みなし決議と事業承継の関係
みなし決議は、事業承継を進める中小企業でも有効な手段となります。
例えば、創業者から後継者へ経営を移す際には、取締役の選任、代表取締役の変更、定款変更など、さまざまな手続きが必要になります。
株主が少数の親族に限られ、全員が経営方針に同意している場合には、みなし決議によって迅速に手続きを進めることができます。
しかし、株式が複数の相続人に分散している場合には注意が必要です。
例えば、創業者が死亡し、配偶者と3人の子供が株式を相続したとします。
相続後、株主間で経営方針が一致していなければ、みなし決議を利用することが難しくなります。
また、相続によって株式が共有状態になっている場合には、共有株式の権利行使者の指定など、別の法律問題も生じます。
そのため、事業承継では、単に後継者を決めるだけでなく、株式の保有関係を整理しておくことが重要です。
後継者が安定的に経営できる議決権を確保し、他の株主との関係も適切に調整する必要があります。
みなし決議を利用しやすい環境を整えることは、円滑な事業承継にもつながるのです。
税務上も重要となる株主総会の記録
株主総会の議事録は、会社法上の手続きだけでなく、税務上も重要になることがあります。
例えば、役員報酬の改定です。
法人税法では、役員給与について損金算入が認められる範囲が定められています。
定期同額給与に該当するかどうかを判断する際には、報酬改定の時期や内容などが重要になります。
株主総会や取締役会など、会社の機関設計に応じた適切な決定手続きを行い、その内容を記録しておくことが望まれます。
また、役員退職慰労金を支給する場合にも、会社法上の報酬等に関する決定手続きや、税務上の適正額の判断が問題となります。
さらに、非上場株式の贈与や相続が行われた場合には、株主構成の変化が事業承継税制の適用関係に影響することがあります。
ただし、株主総会議事録を作成すれば、それだけで税務上の損金算入や特例適用が認められるわけではありません。
会社法上の手続きと税法上の要件を、それぞれ確認する必要があります。
みなし決議を利用する際の注意点
みなし決議は便利な制度ですが、利用に当たっては慎重な対応が求められます。
特に重要なのは、同意の真正性を確保することです。
家族だからという理由で、本人の確認をせずに同意書を作成することは許されません。
また、過去に経営判断へ反対しなかったことを理由に、将来の議案について同意したものと扱うこともできません。
大阪府内の不動産会社を巡る裁判例でも、父親は長男らが経営判断に異議を唱えてこなかったことなどを理由に、同意があったと主張しました。
しかし、裁判所はその主張を認めませんでした。
みなし決議を成立させるためには、個々の提案について法律上必要な同意を取得する必要があります。
さらに、同意を取得した後に議案の内容を変更する場合にも注意が必要です。
変更後の議案について、改めて必要な同意を取得することが原則となります。
経営者にとって手続きが簡単であることと、法律上の要件が緩和されることは同じではありません。
結論
株主総会のみなし決議は、中小企業にとって非常に有用な制度です。
株主が少数で、全員が議案に同意している場合には、実際に会議を開催することなく、会社法上有効な決議を成立させることができます。
電子メールなどの電磁的記録を利用できるため、遠方に住む株主がいる場合にも活用しやすい仕組みです。
ただし、議決権の過半数を保有しているだけでは利用できません。
議案について議決権を行使できる株主全員の同意が必要です。
また、議事録の作成や同意記録の保存など、法令に定められた手続きを守ることも欠かせません。
同族会社では、社長が実質的に経営を支配していることを理由に、株主総会を省略してしまうことがあります。
しかし、適法なみなし決議と、株主総会を無断で省略することは、まったく異なります。
重要なのは、会社法の手続きを負担として避けるのではなく、自社の実情に合った制度を正しく活用することです。
みなし決議を適切に利用することは、経営の効率化だけでなく、株主間の紛争予防や事業承継の円滑化にも役立ちます。
中小企業こそ、株主総会の仕組みを理解し、簡便でありながら法的に確実な意思決定体制を整えることが求められるのです。
参考
日本経済新聞 2026年10月20日 役員務める長男、知らぬ間に解任 「一人で経営」父が株主総会開かず
会社法第298条 株主総会の招集の決定
会社法第319条 株主総会の決議の省略
会社法第320条 株主総会への報告の省略
会社法第329条 役員の選任
会社法第339条 役員の解任
会社法施行規則第72条 株主総会の議事録
法人税法第34条 役員給与の損金不算入