中小企業の多くは、創業者やその親族が株式の大部分を保有する同族会社です。経営者自身が大株主であり、取締役も親族で構成されている場合、重要な経営判断を社長一人で決めることも珍しくありません。
しかし、同族会社であっても株式会社である以上、会社法に定められた手続きを守る必要があります。
特に株主総会は、取締役の選任や解任、定款変更など、会社の基本的な事項を決定する重要な機関です。
2026年10月20日の日本経済新聞では、大阪府内の同族会社で、株主総会を開催しないまま長男を取締役から解任したことが問題となった裁判例が紹介されました。
この事例は、社長が長年にわたり独断で経営してきた会社であっても、株主の権利を無視することは許されないという重要な教訓を示しています。
今回は、同族会社における株主総会の必要性と、社長の独断経営が招く法律リスクについて解説します。
同族会社でも会社法の適用は変わらない
同族会社とは、一般に少数の親族などが株式を保有し、経営を支配している会社を指します。
税法上は、株主等の3人以下とその特殊関係者によって、発行済株式等の50%超を保有するなど、一定の要件を満たす会社が同族会社に該当します。
国税庁の2024年度の統計によると、資本金1億円以下の会社の9割以上が同族会社です。
つまり、日本の中小企業の大部分は、同族会社として経営されていることになります。
同族会社では、所有と経営が一体化しやすい特徴があります。
例えば、創業者が株式の80%を保有し、代表取締役を務めている場合、株主総会を開催しても創業者の意向が決議に大きく反映されます。
そのため、わざわざ株主総会を開催する必要はないと考える経営者もいるでしょう。
しかし、会社法は同族会社だからという理由で、株主総会の開催義務を免除していません。
株式会社は、毎事業年度の終了後、一定の時期に定時株主総会を招集する必要があります。
また、取締役の選任や解任など、株主総会の決議が必要な事項については、適法な手続きを踏まなければなりません。
社長が株式の過半数を保有していることと、株主総会の手続きを省略できることは、まったく別の問題なのです。
長男を知らぬ間に解任した同族会社の裁判例
大阪府内の不動産会社では、創業者である父親が長年にわたり経営を担っていました。
会社は1982年に設立され、株式は少数の親族が保有していました。
父親は将来的に長男へ会社を承継させることを考え、2004年以降、自身が保有する株式の一部を長男に贈与しました。
2006年時点では、長男の持株比率は40%を超えていました。
また、父親の妻も増資に際して20万株を引き受けていました。
ところが、父親と長男の関係は次第に悪化します。
長男は別会社で事業を営んでおり、父親との接触が途絶えるようになりました。
その後、父親は2014年1月、臨時株主総会で長男を取締役から解任したとする議事録を作成し、解任登記を行いました。
しかし、実際には株主総会を開催していませんでした。
長男と妻には招集通知も送られておらず、解任について説明もされていませんでした。
2019年、長男と妻は会社などを相手取り、株主総会決議が存在しないことの確認を求めて提訴しました。
父親は、これまで長男らが経営判断に異議を唱えてこなかったことなどを理由に、黙示の同意があったと主張しました。
しかし、大阪地方裁判所は2021年1月、株主総会決議は存在しないと判断しました。
長男と妻が合計で80%近い株式を保有していたことや、議案の説明も総会開催への同意もなかったことが重視されました。
控訴審でも父親側の主張は認められず、判決は確定しました。
この裁判例は、同族会社であっても株主の意思を無視して経営判断を進めることには重大な法律リスクがあることを示しています。
株主総会の決議が必要となる重要事項
株式会社では、会社の機関設計に応じて、株主総会で決議すべき事項が定められています。
特に重要なのが、取締役の選任と解任です。
取締役は株主総会の決議によって選任されます。
また、取締役を解任する場合も、原則として株主総会の決議が必要です。
代表取締役が自分の判断だけで他の取締役を解任することはできません。
このほか、定款変更、一定の組織再編、会社の解散などについても、株主総会の決議が必要となります。
取締役会を設置していない会社では、株主総会の権限がさらに広くなります。
会社法295条は、取締役会を設置していない株式会社の株主総会について、会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項を決議できると定めています。
一方、取締役会設置会社では、株主総会の決議事項は会社法や定款で定められた事項に限られます。
したがって、自社が取締役会設置会社なのか、取締役会非設置会社なのかによっても、必要な手続きは異なります。
中小企業の経営者は、まず自社の機関設計と定款を確認することが重要です。
株主総会を開催しない場合の法律リスク
株主総会を適法に開催しなかった場合、さまざまな問題が発生します。
第一に、決議の効力が争われる可能性があります。
例えば、株主総会を実際には開催していないにもかかわらず、開催したことにして議事録を作成した場合、決議不存在確認の訴えが提起されることがあります。
決議が存在しないと判断されれば、その決議に基づく役員の選任や解任などの法律関係にも影響が及びます。
第二に、商業登記の問題があります。
取締役の変更登記には、原則として株主総会議事録などの添付が必要です。
しかし、登記が完了したからといって、その前提となる株主総会決議が当然に有効になるわけではありません。
第三に、事業承継や金融取引への影響です。
株主総会の手続きに問題がある会社では、後継者の地位や経営権が争われる可能性があります。
また、金融機関からの融資、企業買収、株式譲渡などの場面で、過去の議事録や株主構成が確認されることもあります。
その際、株主総会の開催記録が不十分であれば、会社の管理体制に疑問を持たれるおそれがあります。
第四に、親族間の対立が長期化する可能性です。
同族会社では、会社の経営問題と家族関係が密接に結び付いています。
経営者の独断による意思決定が、株主としての権利侵害と受け止められれば、親族間の対立が訴訟に発展することもあります。
株主総会は必ずしも会議を開く必要はない
株主総会の重要性を理解していても、中小企業では開催の負担を感じることがあります。
株主が遠方に住んでいたり、高齢で出席が難しかったりする場合もあるでしょう。
しかし、会社法には、株主総会の運営負担を軽減する仕組みが設けられています。
代表的なのが、会社法319条に定める株主総会決議の省略です。
取締役または株主が株主総会の目的事項について提案し、議決権を行使できる株主全員が書面または電磁的記録によって同意した場合、その提案を可決する株主総会決議があったものとみなされます。
これが、いわゆるみなし決議です。
例えば、株主が父親、母親、長男の3人である会社を考えてみます。
取締役の選任について3人全員が書面などで同意すれば、実際に会議を開催しなくても決議を成立させることができます。
ただし、議決権を行使できる株主全員の同意が必要です。
父親が70%の議決権を保有していても、残り30%を保有する株主が同意しなければ、みなし決議は成立しません。
また、みなし決議の場合も、法令に従って議事録を作成し、保存する必要があります。
この制度を活用すれば、会社法を遵守しながら、株主総会の運営負担を軽減できます。
中小企業が実践したい株主総会の管理方法
株主総会を適切に運営するためには、日常的な管理体制の整備が重要です。
まず、株主名簿を最新の状態に保つことです。
株式の贈与、譲渡、相続、増資などがあった場合には、株主の氏名や保有株式数などを適切に管理する必要があります。
特に同族会社では、過去の株式贈与が十分に記録されていないことがあります。
次に、定款を確認することです。
株主総会の招集手続き、議決権、取締役の任期などについて、自社の定款がどのように定めているかを把握する必要があります。
さらに、株主総会の議案、招集通知、議事録、同意書などを体系的に保存することも重要です。
電子メールや電子ファイルを利用する場合も、後日、誰が何に同意したのかを確認できるようにしておくことが望まれます。
また、親族間で意見が分かれる重要事項については、事前に十分な説明を行うことが必要です。
法律上の決議要件を満たすことと、親族間の信頼関係を維持することは、必ずしも同じではありません。
適法な手続きを踏みながら、経営方針について丁寧に説明する姿勢が求められます。
結論
同族会社では、創業者や代表取締役の強いリーダーシップが経営の原動力となることがあります。
しかし、経営者が会社を長年支えてきたことと、会社法上の手続きを自由に省略できることは別問題です。
特に株主総会は、株主の権利を保障し、会社の重要事項を決定するための基本的な仕組みです。
今回の裁判例では、父親が長年にわたり会社を経営していたにもかかわらず、株主総会を開催せずに長男を解任したことが問題となりました。
経営者が自分一人で会社を動かしてきたという認識を持っていても、他の株主の権利を無視することはできません。
一方、会社法には、みなし決議など、中小企業の実情に配慮した制度も設けられています。
重要なのは、形式的に会議を開催することではなく、法律上必要な意思決定手続きを適切に履行し、その記録を残すことです。
同族会社にとって、株主総会の適正な運営は、単なる法令遵守にとどまりません。
将来の事業承継、親族間紛争の予防、経営の透明性確保にもつながります。
経営者の独断に依存する体制から、株主の権利を尊重する経営体制へ移行することが、会社の長期的な存続を支える重要な条件になるのです。
参考
日本経済新聞 2026年10月20日 役員務める長男、知らぬ間に解任 「一人で経営」父が株主総会開かず
会社法第295条 株主総会の権限
会社法第296条 株主総会の招集
会社法第319条 株主総会の決議の省略
会社法第329条 役員の選任
会社法第339条 役員の解任
国税庁 2024年度会社標本調査