同族会社が親族や関係会社との間で取引を行う場合、税務上どのような点に注意する必要があるのでしょうか。
例えば、社長が所有する不動産を会社に貸し付ける場合や、親会社が子会社に経営指導料を請求する場合です。
これらの取引は、通常の企業活動として行われることがあります。
しかし、取引条件が著しく不合理で、その結果として法人税の負担が不当に減少する場合には、税務上の否認が問題になることがあります。
このような問題に対応するため、法人税法第132条には、同族会社等の行為又は計算の否認に関する規定が設けられています。
同族会社では、経営者と株主の関係が密接であるため、独立した第三者間では通常成立しにくい取引条件を設定できる場合があります。
もっとも、同族会社であるという理由だけで、取引が否認されるわけではありません。
重要なのは、取引の経済合理性と、法人税の負担を不当に減少させる結果になるかどうかです。
今回は、税法基本判例の講義資料で取り上げられている同族会社の判定基準と行為計算否認の仕組みを踏まえ、企業が注意すべき税務リスクについて考えてみます。
同族会社とは何か
同族会社とは、少数の株主やその関係者によって支配されている会社をいいます。
法人税法第2条第10号では、一定の株主等とその同族関係者による株式や出資の保有状況などに基づいて、同族会社を判定する仕組みが定められています。
基本的には、株主等の3人以下とその同族関係者によって、発行済株式の総数または出資金額の50%を超える部分が保有されている場合などが問題になります。
例えば、社長が株式の40%、配偶者が20%、子どもが20%を保有している会社を考えてみます。
この場合、親族関係を踏まえると、同族会社に該当することになります。
同族関係者には、配偶者や子どもなどの親族だけでなく、一定の特殊な関係にある個人や法人も含まれます。
したがって、株主名簿上の人数だけで判断することはできません。
また、同族会社であること自体は、違法でも不適切でもありません。
日本の中小企業には、創業者やその親族が株式の大部分を保有する会社が数多く存在します。
問題になるのは、同族会社という組織形態ではなく、その支配関係を利用した取引や計算によって、法人税の負担が不当に減少する場合です。
なぜ同族会社には特別な否認規定があるのか
通常、独立した企業同士の取引では、それぞれが自社の利益を確保しようとします。
例えば、不動産の賃貸借契約では、貸主はできるだけ高い賃料を希望し、借主はできるだけ低い賃料を希望することが一般的です。
その結果、交渉を通じて一定の合理的な取引条件が形成されます。
一方、同族会社とその株主や親族との取引では、当事者の利害が実質的に一致している場合があります。
例えば、社長が会社の意思決定を支配していれば、自分が所有する不動産を会社に貸し付ける際の賃料を、比較的自由に設定できる可能性があります。
また、親会社が子会社を支配している場合には、経営指導料や資産の売買価格などを、グループ内で決定できる場合があります。
このような関係を利用して、通常の取引では考えにくい条件を設定し、法人税の負担を不当に減少させることが問題になります。
法人税法第132条は、こうした事態に対応するための規定です。
ただし、同族会社間の取引条件が第三者間の条件と異なるというだけで、直ちに否認されるわけではありません。
具体的な取引内容や合理性を検討する必要があります。
法人税法第132条の基本的な仕組み
法人税法第132条は、同族会社等の行為または計算を容認した場合に、法人税の負担を不当に減少させる結果になると認められるとき、税務署長がその行為または計算にかかわらず、課税標準や税額等を計算できる旨を定めています。
ここで重要なのは、単に法人税が減少したというだけでは足りないことです。
法律は、不当に減少させる結果になることを問題にしています。
例えば、会社が通常の事業活動に必要な設備を購入し、その減価償却費を計上した場合を考えてみます。
減価償却費の計上によって法人税の負担が減少しても、それだけで行為計算否認の対象になるわけではありません。
一方、同族関係を利用して、通常の経済取引として不自然または不合理な条件を設定し、法人税の負担を不当に減少させた場合には、否認規定の適用が問題になります。
したがって、税負担の減少と、その減少が不当であることは区別して考える必要があります。
経済合理性が重要な判断基準になる
同族会社の行為計算否認を理解するうえで、重要なのが経済合理性です。
判例では、問題となる行為または計算が、経済的かつ実質的な見地から不自然、不合理なものといえるかどうかが重要な判断要素とされています。
例えば、企業が関連会社に対して通常より高い価格で資産を購入した場合を考えてみます。
価格が高いという事実だけでは、直ちに不合理な取引とはいえません。
その資産に特別な利用価値がある場合や、取引条件に合理的な理由が存在する場合もあります。
また、取引価格の比較に当たっては、資産の状態、取引時期、契約条件などを考慮する必要があります。
一方、取引条件に合理的な説明がなく、通常の経済活動として著しく不自然な場合には、税務上の問題が生じる可能性があります。
重要なのは、取引の結果だけではなく、取引を行った理由や当時の状況を確認することです。
社長所有の不動産を会社に貸し付ける場合
同族会社で問題になりやすい取引の一つが、社長と会社の間の不動産賃貸借です。
例えば、社長が所有する事務所を会社に貸し付け、会社が年間600万円の賃料を支払っている場合を考えてみます。
周辺の類似物件の賃料が年間300万円程度だったとします。
この場合、会社が支払っている賃料の合理性が問題になる可能性があります。
ただし、単純に周辺物件の平均賃料と比較するだけでは十分ではありません。
建物の立地、面積、設備、築年数、契約期間、修繕費の負担などによって、適正な賃料は異なります。
また、会社が特殊な設備を利用できることや、事業運営上の重要な場所であることなど、合理的な事情が存在する場合もあります。
したがって、税務上の判断では、具体的な取引条件を確認する必要があります。
会社としては、賃料の算定根拠を記録しておくことが重要です。
近隣物件の賃料情報、不動産鑑定評価、契約条件の比較資料などが、合理性を説明する材料になります。
なお、賃料が過大である場合には、役員給与などの個別規定による税務上の取扱いが問題となることもあります。
すべての問題を法人税法第132条だけで判断するわけではありません。
親会社と子会社の経営指導料
親会社と子会社の間で支払われる経営指導料も、税務上の検討が必要になる取引です。
例えば、親会社が子会社に対して年間2,000万円の経営指導料を請求している場合を考えてみます。
実際に経営戦略の策定、財務管理、人事制度の整備などの業務を提供していれば、その対価として経営指導料が発生すること自体は不自然ではありません。
しかし、具体的な役務提供がほとんど行われていないにもかかわらず、多額の経営指導料を支払っている場合には、税務上の問題が生じる可能性があります。
また、実際に役務提供が行われていても、報酬額の算定方法が合理的かどうかを確認する必要があります。
例えば、親会社の担当者が子会社の業務に従事した時間や、提供したサービスの内容に基づいて報酬を算定する方法が考えられます。
重要なのは、取引の実在性と金額の合理性を区別して検討することです。
実際の役務提供が存在しない場合には、架空経費などの事実認定が問題になることがあります。
一方、役務提供が存在する場合には、その金額や取引条件の合理性が問題になります。
税務上の否認を検討する際には、どの法律上の規定が適用されるのかを明確にする必要があります。
関連会社間の資産売買
同族会社間で不動産や有価証券などを売買する場合にも、取引価格が重要になります。
例えば、親会社が子会社に対して、時価1億円と評価される土地を5,000万円で売却した場合を考えてみます。
この場合、売却価格と時価との差額について、税務上の問題が生じる可能性があります。
ただし、このような低額譲渡については、法人税法第22条の益金に関する規定や寄附金に関する規定など、個別の税法規定による判断が重要になります。
また、完全支配関係がある法人間では、グループ法人税制による特別な取扱いが問題になる場合もあります。
したがって、関連会社間の低額譲渡だからという理由だけで、直ちに法人税法第132条を適用するわけではありません。
まず、取引の法律関係と適用される個別規定を確認する必要があります。
そのうえで、必要に応じて行為計算否認規定の適用を検討することになります。
合理的な事業目的があれば否認されないのか
同族会社の取引について、合理的な事業目的が存在すれば、必ず税務上の否認を免れるのでしょうか。
必ずしもそうとは限りません。
例えば、関連会社間で資産を移転する際に、事業運営の効率化という目的が存在したとします。
その目的自体には合理性があっても、取引価格や契約条件が著しく不合理であれば、税務上の問題が残る可能性があります。
一方、税負担を軽減する目的が存在することだけで、直ちに行為計算否認が認められるわけでもありません。
企業は、税負担を含めた経済的な条件を考慮して経営判断を行います。
そのため、税負担軽減の目的と事業上の目的が併存することもあります。
重要なのは、取引全体を客観的に評価し、法律上の否認要件を満たしているかどうかを判断することです。
単に節税目的があるかどうかという二者択一の判断ではありません。
最高裁判例が示した経済合理性の考え方
同族会社の行為計算否認を考えるうえで重要な判例の一つが、2022年4月21日の最高裁判決です。
この事件では、同族会社による外国子会社からの借入れに伴う支払利息について、法人税法第132条の適用が問題になりました。
いわゆるユニバーサルミュージック事件です。
最高裁は、同族会社の行為または計算が、経済的かつ実質的な見地から不自然、不合理なものといえるかどうかを検討しています。
この事件では、借入れを含む一連の取引の目的や経緯、取引条件などが問題となりました。
最高裁は、問題となった借入れについて、法人税法第132条による否認を認めませんでした。
この判決から重要な示唆が得られます。
第一に、多額の借入れや支払利息が存在することだけで、当然に行為計算否認の対象になるわけではありません。
第二に、税負担の軽減効果が存在する場合でも、取引の経済合理性を具体的に検討する必要があります。
第三に、税務当局が否認規定を適用する場合には、その法律上の要件を満たしていることが必要です。
企業にとっては、取引の目的や経緯を客観的な資料によって説明できることが重要になります。
税務調査で行為計算否認を指摘された場合
税務調査で法人税法第132条の適用を指摘された場合には、まず、税務当局がどの行為または計算を問題としているのかを確認する必要があります。
例えば、関連会社間の貸付金利が問題なのか、不動産の賃料が問題なのか、資産の売買価格が問題なのかによって、検討すべき事項は異なります。
次に、その取引によって法人税の負担がどのように減少したとされているのかを確認します。
さらに、税務当局が不自然、不合理と考えている具体的な理由を整理する必要があります。
そのうえで、企業側としては、取引の目的、経緯、条件、経済的な効果などを説明します。
例えば、資金調達であれば、資金需要、調達先の選定理由、借入条件、返済計画などが重要になります。
不動産賃貸借であれば、賃料の算定根拠や契約条件などが重要です。
税務当局の指摘に対しては、感覚的に反論するのではなく、客観的な資料に基づいて説明することが求められます。
中小企業が注意すべき日常的な取引
同族会社の行為計算否認は、大企業の複雑な取引だけの問題ではありません。
中小企業でも、社長や親族、関連会社との間でさまざまな取引が行われています。
例えば、社長所有の不動産を会社に貸し付ける取引があります。
また、社長から会社への貸付け、会社から役員への貸付け、親族が所有する資産の売買などもあります。
これらの取引では、当事者間の関係が密接であるため、取引条件の合理性が問題になる場合があります。
もっとも、税務上の問題が生じた場合でも、必ず法人税法第132条が適用されるわけではありません。
役員給与、寄附金、受贈益、低額譲渡などの個別規定によって判断される場合もあります。
したがって、同族会社の取引では、まず個別の税法規定を確認することが重要です。
そのうえで、行為計算否認規定の適用可能性を検討する必要があります。
経営者が整備すべき税務リスク管理
同族会社の税務リスクを減らすためには、取引の合理性を事前に確認することが重要です。
例えば、関連会社間で資産を売買する場合には、価格の算定根拠を明確にする必要があります。
役員や親族との不動産賃貸借では、周辺相場や契約条件を確認することが望まれます。
関連会社間の経営指導料では、提供する業務の内容や報酬の算定方法を明確にする必要があります。
また、取引を実行する際には、契約書だけでなく、取締役会議事録、稟議書、事業計画書などを保存しておくことも有効です。
特に重要なのは、取引を行った時点での判断理由を記録することです。
税務調査が数年後に行われた場合、当時の経営判断を説明することが難しくなる可能性があります。
そのため、取引の目的や条件を後から説明するのではなく、事前に記録しておく必要があります。
同族会社であること自体は問題ではない
同族会社の行為計算否認を考える際に、誤解してはならないことがあります。
それは、同族会社であること自体が税務上問題になるわけではないという点です。
同族会社は、日本の中小企業に広く見られる組織形態です。
創業者やその親族が経営を支え、長期的な視点で事業を運営している企業も数多く存在します。
また、親族間や関連会社間で取引を行うこと自体が禁止されているわけでもありません。
問題となるのは、取引条件が著しく不合理で、その結果として法人税の負担が不当に減少する場合です。
したがって、同族会社に求められるのは、親族や関連会社との取引を避けることではありません。
取引の目的や条件を合理的に説明できる状態を整えておくことです。
結論
同族会社の行為計算否認は、少数の株主やその関係者による支配関係を利用して、法人税の負担を不当に減少させる行為や計算に対応するための制度です。
法人税法第132条は、一定の要件のもとで、税務当局がその行為または計算にかかわらず課税標準や税額等を計算することを認めています。
しかし、同族会社であるという理由だけで、取引が否認されるわけではありません。
また、税負担が減少したという事実だけでも、否認の根拠として十分ではありません。
重要なのは、取引が経済的かつ実質的な見地から不自然、不合理なものといえるかどうかです。
その判断では、取引の目的、経緯、条件、事業上の必要性などを具体的に検討する必要があります。
企業としては、関連会社間取引や役員との取引について、契約内容と実際の取引を一致させ、価格や条件の合理性を説明できる資料を整備することが重要です。
また、税務上の問題が生じた場合には、まず適用される個別の税法規定を確認し、必要に応じて行為計算否認規定の適用を検討する必要があります。
同族会社の税務リスク管理で重要なのは、税負担を減らすことができるかどうかだけではありません。
その取引が、独立した経済主体の合理的な経営判断として説明できるかどうかという視点です。
取引の合理性を事前に確認し、その判断過程を記録しておくことが、同族会社の安定した経営と適正な税務処理を支えることになるのです。
参考
税法基本判例 講義資料 同族会社の判定基準及び行為計算否認に関する解説
法人税法第2条第10号 同族会社の定義
法人税法第22条 各事業年度の所得の金額の計算
法人税法第132条 同族会社等の行為又は計算の否認
法人税法施行令第4条 同族関係者の範囲
最高裁判所 2022年4月21日判決 同族会社の行為計算否認に関する事件