大学進学に必要な教育費を誰が負担するのかは、多くの家庭にとって重要な問題です。
子どもの将来を考えれば、できるだけ奨学金を借りずに進学させたいと考える親は少なくありません。しかし、教育費を親が全額負担することが、必ずしも家族全体にとって最善の選択とは限りません。
特に、親が50代以降の場合には、子どもの大学進学と自分たちの老後資金の準備が重なることがあります。
日本経済が金利のある世界に移行するなか、教育費の負担方法を考える重要性は一段と高まっています。
日本学生支援機構の有利子奨学金である第2種奨学金では、2026年夏に利率固定方式の利率が上限の3%に達しました。
一方、親が教育費を負担する場合には、預貯金の減少や老後資金の不足という問題が生じる可能性があります。
さらに、祖父母からの教育資金援助を考える場合には、贈与税や相続税の取扱いにも注意が必要です。
今回は、親が教育費を負担する場合と子どもが奨学金を借りる場合を比較し、家計管理、老後資金、教育資金贈与、相続対策の観点から、家族全体にとって合理的な教育資金計画を考えます。
大学進学費用は家計にとって大きな負担
大学進学には、授業料や入学金だけでなく、教材費、通学費、生活費などが必要です。
国立大学では、従来の標準額を用いると、入学料28万2,000円と年間授業料53万5,800円の4年間の合計は約243万円になります。
ただし、実際の授業料は大学によって異なり、標準額を上回る大学もあります。
私立大学では、文系と理系によって費用が異なり、施設設備費などを含めると4年間で数百万円の負担になります。
さらに、自宅外通学の場合には、家賃や食費などの生活費が必要です。
例えば、生活費を毎月10万円と仮定すると、年間120万円、4年間では480万円になります。
授業料などと合わせれば、大学4年間で800万円以上の資金が必要になる場合もあります。
子どもが2人いれば、教育費の総額はさらに大きくなります。
重要なのは、教育費を単年度の支出として考えるのではなく、家族全体の長期的な資金計画の中で位置づけることです。
親が教育費を全額負担する場合
まず、親が子どもの大学進学費用を全額負担する場合を考えます。
例えば、大学4年間の教育費と生活費の合計を800万円とします。
親が預貯金から800万円を支出すれば、子どもは奨学金を借りずに卒業できます。
卒業時点で教育費に関する借金がないことは、子どもにとって大きな利点です。
就職後の給与を生活費や貯蓄、資産形成などに充てることができます。
また、奨学金の返還がないため、結婚や住宅購入などの資金準備も進めやすくなります。
一方、親の金融資産は800万円減少します。
例えば、親の金融資産が2,000万円だった場合、教育費800万円を負担すると、残額は1,200万円になります。
この1,200万円で老後生活に必要な資金を十分に確保できるかどうかが問題です。
親が現役で働いており、今後も安定した収入が見込める場合には、教育費の負担を吸収できる可能性があります。
しかし、退職が近い場合には、教育費の支出によって老後資金が不足するリスクがあります。
親が教育費を負担することは、子どもの将来を支援する一方で、親自身の資産形成を減らすことでもあるのです。
子どもが奨学金を借りる場合
次に、子どもが奨学金を利用して教育費を負担する場合を考えます。
例えば、大学4年間で400万円の奨学金を借りるとします。
親は残りの400万円を負担し、教育費の総額800万円を親子で分担する形です。
この場合、親の金融資産の減少を400万円に抑えられます。
一方、子どもは卒業後に400万円の奨学金を返還する必要があります。
仮に利率3%、返還期間20年間の元利均等返済とすると、毎月の返済額は約2万2,200円、返済総額は約532万円になります。
利息負担は約132万円です。
なお、これは金利負担を比較するためのモデル計算であり、日本学生支援機構の実際の返還額は貸与条件などによって異なります。
親は400万円の資金を手元に残せますが、子どもには長期間の返還負担が発生します。
つまり、奨学金を利用することは、教育費の負担を親から子どもへ移転する側面があります。
家族全体で考えれば、単に借入れによって教育費が安くなるわけではありません。
むしろ、有利子奨学金では利息負担が追加されることになります。
親の老後資金と教育費はどちらを優先すべきか
教育費と老後資金の関係を考える際には、支出時期の違いが重要です。
教育費は、子どもが大学に進学する時期に集中して発生します。
一方、老後資金は、退職後の長い生活を支えるために必要です。
例えば、親が55歳で子どもが大学に進学する場合を考えます。
子どもが4年間で大学を卒業すると、親は59歳になります。
その後、60歳で退職する予定であれば、教育費の支出が終わった直後に給与収入が減少する可能性があります。
この場合、教育費のために預貯金を大きく取り崩すことは、老後生活の安定を損なうおそれがあります。
一方、65歳や70歳まで安定した給与収入を得られる場合には、教育費を負担した後に老後資金を積み増す期間を確保できる可能性があります。
ただし、将来の就労継続を確実なものとして資金計画を立てることには注意が必要です。
健康状態や勤務先の経営環境によって、予定より早く退職する可能性もあります。
教育費の負担額を決める際には、退職時期、年金見込額、退職金、金融資産、住宅ローン残高などを総合的に確認する必要があります。
子どもの教育費を優先するあまり、親自身の老後生活が不安定になることは避けなければなりません。
教育費800万円を支出することの機会費用
教育費を考える際には、機会費用という考え方も重要です。
機会費用とは、ある選択をしたことによって、別の選択で得られた可能性のある利益を失うことです。
例えば、親が教育費として800万円を支出する場合を考えます。
仮に、その800万円を年率3%で20年間運用できたとすると、約1,445万円になります。
教育費として支出することによって、将来の資産形成に利用できた可能性のある資金を失うことになります。
ただし、年率3%の運用成果は保証されません。
実際には運用損失が発生する可能性もあります。
また、教育費を支出することによって、子どもの将来所得が増える可能性もあります。
したがって、教育費を支出することと金融資産を運用することを、単純な利回りだけで比較することは適切ではありません。
教育は、金融資産とは異なる価値を持つ投資です。
重要なのは、教育費の支出によって親の老後資金がどの程度減少するのかを把握し、無理のない負担額を決めることです。
教育費を親が負担すると贈与税はかかるのか
親が子どもの教育費を負担する場合には、贈与税の取扱いも重要です。
相続税法では、扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産のうち、通常必要と認められるものについて、贈与税を課さない取扱いが設けられています。
親と子どもは扶養義務者に該当します。
そのため、親が子どもの大学の授業料や入学金、通常必要な生活費などを負担する場合には、原則として贈与税は課されません。
例えば、親が大学の授業料100万円を直接支払う場合、通常必要な教育費であれば贈与税の課税対象にはなりません。
また、下宿している子どもに対して、生活費として毎月必要な金額を送金する場合も、通常必要な範囲であれば非課税となります。
ただし、教育費という名目で多額の資金を一括して渡し、その資金を預貯金や株式投資などに利用した場合には、贈与税の課税対象となる可能性があります。
重要なのは、教育費として必要な都度、実際に教育費や生活費に充てることです。
親が子どもに資金を渡す場合には、使途を明確にしておくことが望まれます。
祖父母からの教育資金援助と贈与税
教育費の負担を考える際には、祖父母からの援助も選択肢になります。
祖父母と孫も、相続税法上の扶養義務者に該当します。
そのため、祖父母が孫の通常必要な教育費を、その都度負担する場合には、原則として贈与税は課されません。
例えば、祖父母が孫の大学授業料を直接支払う場合、通常必要な教育費であれば非課税となります。
一方、祖父母が孫にまとまった資金を一括して贈与する場合には、別の検討が必要です。
教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置では、一定の要件のもとで、直系尊属からの教育資金の贈与について受贈者1人当たり1,500万円まで非課税とする制度が設けられてきました。
ただし、この制度には適用期限や所得要件、金融機関を通じた管理などの条件があります。
2026年10月時点では、従来の非課税措置について新規適用期限が2026年3月31日とされていたため、現在の新規利用の可否は最新の法令と経過措置を確認する必要があります。
また、既に制度を利用している場合には、契約終了時の残額や贈与者死亡時の取扱いが問題となることがあります。
教育資金の一括贈与制度は、通常必要な教育費をその都度負担する場合の非課税取扱いとは異なります。
祖父母から教育費の援助を受ける場合には、両者の違いを理解することが重要です。
教育資金贈与は相続対策にも関係する
祖父母が孫の教育費を負担することは、相続対策の観点からも注目されています。
例えば、祖父母が保有する金融資産から孫の大学授業料を負担すれば、その分だけ祖父母の金融資産は減少します。
通常必要な教育費をその都度負担する場合には、贈与税が課されないため、結果として将来の相続財産を減らす効果が生じることがあります。
ただし、相続税の負担軽減だけを目的として、必要以上の資金を孫に移転することには注意が必要です。
教育費として非課税となるのは、通常必要と認められる範囲の支出です。
また、祖父母自身の老後生活や介護費用を十分に確保する必要があります。
例えば、金融資産3,000万円を保有する祖父母が、孫2人の教育費として合計1,000万円を負担する場合を考えます。
支出後の金融資産は2,000万円になります。
この2,000万円で今後の生活費や医療費、介護費用を賄えるかどうかを確認する必要があります。
相続税の節税効果だけに注目して資金を移転すると、祖父母自身の生活資金が不足する可能性があります。
教育資金贈与は、相続対策と老後資金管理の両面から慎重に検討することが重要です。
奨学金と親の援助を組み合わせる方法
教育費の負担方法は、親が全額負担するか、子どもが全額借りるかという二者択一ではありません。
親の援助と奨学金を組み合わせることもできます。
例えば、大学4年間の総費用を800万円とします。
親が400万円を負担し、子どもが無利子の第1種奨学金で240万円を借り、残り160万円を給付型奨学金などで賄う方法が考えられます。
ただし、実際に給付型奨学金や第1種奨学金を利用できるかどうかは、所得要件や学業要件などによって異なります。
また、給付型奨学金と第1種奨学金を併用する場合には、貸与月額が調整されることがあります。
このため、上記の組合せは資金計画の考え方を示す例であり、すべての家庭で実現できるわけではありません。
重要なのは、返済不要の支援を優先的に確認することです。
次に、無利子の奨学金を検討し、それでも不足する場合に有利子の奨学金を利用するという順序が合理的です。
親の金融資産をすべて取り崩すのではなく、老後資金を確保しながら子どもの借入負担も抑える方法を検討する必要があります。
親が子どもの奨学金を後から返済する場合の税務
大学卒業後、親が子どもの奨学金返還を支援する場合もあります。
例えば、子どもが400万円の奨学金を借りて卒業した後、親がその返還を肩代わりするケースです。
この場合には、贈与税の問題が生じる可能性があります。
親が子どもの債務を代わりに返済することは、原則として子どもが経済的利益を受ける行為に当たります。
そのため、贈与税の課税対象となる可能性があります。
例えば、親が子どもの奨学金残高300万円を一括返済した場合、通常は子どもに300万円相当の経済的利益が移転したものとして、贈与税の検討が必要になります。
暦年課税の基礎控除額は年間110万円ですが、他の贈与の有無なども含めて判断する必要があります。
一方、子どもが生活に困窮しており、扶養義務者である親が通常必要な生活費を負担する場合には、別の取扱いが問題となります。
ただし、奨学金の返済資金を親が負担すれば、必ず生活費として非課税になるわけではありません。
教育費を在学中に直接負担する場合と、卒業後に子どもの借金を返済する場合では、税務上の判断が異なります。
親が奨学金の返還を支援する際には、贈与税の取扱いを事前に確認することが重要です。
家族全体の資産形成から教育費を考える
教育費の負担方法を決める際には、親と子どもの資産を別々に考えるだけでは不十分です。
家族全体の資産形成という視点が重要になります。
例えば、親が800万円の教育費を全額負担した場合、子どもは借金を抱えずに社会人生活を始められます。
一方、親の金融資産は800万円減少します。
子どもが400万円の奨学金を借り、親が400万円を負担した場合には、親の金融資産の減少を抑えられますが、子どもに返還義務が残ります。
さらに、有利子奨学金であれば利息負担が発生します。
どちらが合理的かは、親の年齢、所得、金融資産、退職時期、子どもの将来所得などによって異なります。
例えば、親が高齢で退職後の収入が年金中心となる場合には、老後資金を優先する必要性が高まります。
一方、親が今後も長期間安定した給与収入を得られる場合には、教育費を多めに負担できる可能性があります。
また、子どもが卒業後に高い所得を得られる見込みがある場合には、一定額の奨学金を利用することも合理的な選択肢になります。
ただし、将来の所得は確実ではありません。
教育資金計画では、収入が想定より低くなった場合や、親が予定より早く退職した場合なども考慮する必要があります。
結論
子どもの大学進学費用を親が負担するか、子どもが奨学金を借りるかは、家族全体の資産形成に関わる重要な問題です。
親が教育費を全額負担すれば、子どもは奨学金の返還負担を抱えずに社会人生活を始められます。
しかし、その分だけ親の金融資産は減少し、老後資金が不足する可能性があります。
一方、子どもが奨学金を利用すれば、親の資産を維持できますが、子どもには卒業後の返還義務が残ります。
特に、金利のある世界では、有利子奨学金の利息負担も無視できません。
そのため、教育費の負担方法を決める際には、親の老後資金と子どもの将来の返還能力を総合的に考える必要があります。
また、親や祖父母が通常必要な教育費をその都度負担する場合には、原則として贈与税が課されない仕組みがあります。
一方、卒業後に子どもの奨学金を親が肩代わりする場合には、贈与税の課税対象となる可能性があります。
教育費の負担時期や資金の渡し方によって、税務上の取扱いが異なることにも注意が必要です。
教育資金の準備では、給付型奨学金、無利子奨学金、親の援助、祖父母からの支援などを適切に組み合わせることが重要です。
子どもの将来を支えることと、親自身の老後生活を守ることは、どちらも欠かすことのできない課題です。
教育費を親が全額負担することが愛情の大きさを示すわけではありません。
また、子どもに奨学金を借りさせることが、必ずしも不合理な選択というわけでもありません。
重要なのは、家族それぞれの経済状況と将来の生活を見据え、無理のない負担方法を選ぶことです。
人生100年時代において、教育資金と老後資金は別々の問題ではなく、家族全体の長期的な資金計画として考える必要があるのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年10月12日 朝刊 「日本の奨学金、『金利ある世界』どう生きるか 識者『利率上限下げも』」
国税庁 扶養義務者から生活費や教育費の贈与を受けた場合の贈与税の取扱いに関する公表資料
国税庁 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度に関する公表資料
日本学生支援機構 給付奨学金及び貸与奨学金に関する公表資料
文部科学省 高等教育の修学支援新制度に関する公表資料