人生100年時代を迎え、60歳以降の生き方が大きく変わろうとしています。
かつて60歳は定年退職を迎え、仕事から離れて老後の生活を始める年齢と考えられていました。
しかし、現在では65歳まで働くことが一般的になりつつあり、70歳まで働くことや、70歳以降も仕事を続けることが現実的な選択肢になっています。
こうした長い人生を支えるためには、金融資産の準備だけでなく、健康状態を維持することが重要になります。
スポーツ庁が2026年10月に公表した2025年度の体力・運動能力調査によると、60代から70代の男女の体力は、約25年前と比較して大きく向上しました。
2001年度の体力合計点を100%とした場合、2025年度の60代男性は114.1%、女性は118.2%となっています。
70代でも男性109.8%、女性114.7%と改善しています。
一方、30代から40代の働く世代では体力低下が確認されました。
この結果は、60歳以降の健康管理に新たな可能性があることを示す一方、現役時代から運動習慣を身につける必要性も浮き彫りにしています。
人生100年時代では、60歳からの30年、40年をどのように過ごすかが重要になります。
今回は、これまでのシリーズの総まとめとして、60歳から始める運動習慣、70歳まで働くための健康管理、老後の資産形成、健康寿命、人生100年時代の生活設計について考えてみます。
60歳は老後の終わりではなく新しい人生の始まりになる
人生100年時代では、60歳を迎えても、その後に長い人生が残されています。
60歳から90歳まででも30年間あります。
100歳まで生きる場合には、40年間です。
この期間をどのように過ごすかによって、人生全体の充実度は大きく変わります。
例えば、60歳以降も仕事を続ける人がいます。
一方、早期に退職して趣味や旅行、地域活動などを楽しむ人もいます。
また、60歳以降に新たな資格を取得したり、独立開業したりする人もいます。
重要なのは、年齢だけで人生の選択肢を限定しないことです。
ただし、どのような生活を選ぶ場合でも、健康状態は重要な条件になります。
健康状態を維持できれば、働くことや趣味、旅行、社会参加など、さまざまな活動を続けやすくなります。
反対に、健康状態が悪化すれば、十分な金融資産があっても生活の自由度が制限される場合があります。
そのため、60歳以降の生活設計では、金融資産と健康資産の両方を準備することが重要です。
高齢者の体力向上が示す人生100年時代の可能性
スポーツ庁の2025年度調査では、60代から70代の男女の体力が長期的に向上していることが明らかになりました。
2001年度の体力合計点を100%とした場合、2025年度の60代男性は114.1%、女性は118.2%となっています。
70代でも男性109.8%、女性114.7%と改善しています。
特に60代女性では18.2%の向上となりました。
この結果は、高齢者の身体機能が以前の同年代と比較して改善していることを示しています。
ただし、今回の調査は同じ人を25年間追跡したものではありません。
2001年度と2025年度に調査された同年代の集団を比較した結果です。
そのため、個人の体力が加齢とともに向上したという意味ではありません。
また、体力向上の背景には、世代ごとの運動経験や生活習慣、健康意識など、さまざまな要因が関係している可能性があります。
それでも、高齢者全体の体力水準が長期的に改善していることは、超高齢社会の日本にとって重要な変化です。
健康状態を維持できる高齢者が増えれば、就労や地域活動、趣味などへの参加機会が広がる可能性があります。
今後は、この変化を健康寿命の延伸や社会参加の拡大につなげることが重要になるでしょう。
60歳からの運動習慣は決して遅くない
運動習慣というと、若い頃から継続していなければ効果がないと考える人もいるかもしれません。
しかし、60歳以降でも、適切な運動を継続することで身体機能の維持や改善が期待できます。
特に重要なのが、有酸素運動、筋力トレーニング、バランス運動を組み合わせることです。
有酸素運動には、ウォーキングや自転車などがあります。
こうした運動は、心肺機能の維持や健康管理に役立ちます。
筋力トレーニングは、立ち上がる、歩く、階段を上るといった日常動作に必要な筋力の維持につながります。
また、バランス運動は転倒予防に役立つ場合があります。
世界保健機関は、成人に対して週150分から300分の中強度の有酸素性身体活動などを推奨しています。
さらに、高齢者に対しては、筋力強化活動に加えて、バランス能力を重視した多要素の身体活動を週3日以上行うことを推奨しています。
ただし、これらは一般的な推奨水準です。
運動習慣がない人や持病がある人が、最初から同じ運動量を目指す必要はありません。
重要なのは、現在の体力や健康状態に応じて、無理なく運動を始めることです。
少しずつ運動量を増やし、継続できる習慣をつくることが望まれます。
毎日の15分が長期的な健康づくりにつながる
運動習慣を身につけるためには、特別な時間を確保しなければならないと考える必要はありません。
日常生活の中で、短時間の運動を積み重ねる方法があります。
例えば、朝15分、夜15分の運動を行えば、1日30分になります。
これを週5日続ければ、合計150分です。
運動の強度が中強度に相当する場合には、世界保健機関が推奨する有酸素性身体活動の下限に相当する時間になります。
ただし、ストレッチや軽い体操など、運動強度が低い活動をすべて中強度の運動時間として計算できるわけではありません。
運動の種類や強度を考慮する必要があります。
例えば、朝はウォーキングを行い、夜は筋力トレーニングやストレッチを組み合わせる方法があります。
また、通勤や買い物で自転車を利用することも、身体活動量を増やす手段になります。
週末には、スポーツクラブなどで筋力トレーニングや有酸素運動を行う方法も考えられます。
重要なのは、短期間に大量の運動を行うことではありません。
日常生活の中に運動を組み込み、長期間継続することです。
特に60歳以降では、けがを防ぎながら無理なく続けることが重要になります。
筋力の維持が70歳以降の生活を支える
高齢期の健康管理では、筋力の維持が重要です。
加齢に伴って筋肉量や筋力が低下すると、日常生活に必要な動作が難しくなる場合があります。
例えば、椅子から立ち上がる、階段を上る、買い物の荷物を運ぶといった動作には、一定の筋力が必要です。
筋力が低下すれば、外出する機会が減少する可能性があります。
その結果、身体活動量がさらに減少し、筋力低下が進むという悪循環が生じる場合があります。
こうした状態を防ぐためには、適切な筋力トレーニングが重要になります。
例えば、椅子からゆっくり立ち上がる運動があります。
また、壁や手すりを利用しながら、無理のない範囲で下半身の筋力を鍛える方法もあります。
スポーツクラブでは、トレーニングマシンを利用することもできます。
ただし、筋力トレーニングでは、運動の強度や姿勢に注意する必要があります。
特に持病がある人や運動経験が少ない人は、医療専門職や運動指導者などに相談することが望まれます。
重要なのは、若い頃と同じ運動能力を維持することではありません。
日常生活に必要な身体機能を、できるだけ長く保つことです。
70歳まで働くためには健康管理が重要になる
日本では、60歳以降も働く人が増えています。
高年齢者雇用安定法では、企業に65歳までの雇用確保措置が義務付けられています。
また、70歳までの就業機会確保措置は努力義務となっています。
こうした制度の下で、60歳以降の働き方は多様化しています。
定年後の再雇用、継続雇用、転職、独立開業など、さまざまな選択肢があります。
特に税務、会計、金融、法務、経営相談などの専門分野では、長年の知識や経験が重要な価値を持ちます。
そのため、60歳以降も専門性を生かして働くことが可能な場合があります。
しかし、知識や経験が豊富でも、健康状態が悪化すれば就労継続が難しくなる可能性があります。
例えば、慢性的な疲労や睡眠不足が続けば、集中力や判断力に影響する場合があります。
また、身体機能の低下によって、通勤や長時間の勤務が負担になることも考えられます。
そのため、70歳まで働くことを考える場合には、健康管理を生活設計の中心に位置づける必要があります。
ただし、健康状態だけで就労継続が決まるわけではありません。
勤務条件や仕事内容、本人の希望なども重要です。
健康を維持することの価値は、必ず働き続けなければならないということではなく、働くかどうかを選択できる可能性が広がることにあります。
長く働くことが老後の金融資産を守る
健康状態を維持して働く期間を延ばせれば、老後の家計にも影響します。
例えば、60歳から65歳まで年間300万円の給与収入を得られれば、5年間の額面収入は1,500万円になります。
さらに65歳から70歳まで同じ水準で働けば、追加で1,500万円の収入を得られます。
60歳から70歳までの10年間では、合計3,000万円の額面収入となる計算です。
もちろん、実際の手取り収入は税金や社会保険料などによって異なります。
また、公的年金の受給状況や勤務条件によっても家計への影響は変わります。
それでも、勤労収入を得られる期間が長くなれば、金融資産の取り崩しを抑えられる可能性があります。
また、厚生年金に加入して働く場合には、加入期間や報酬に応じて将来の年金額が増えることもあります。
ただし、在職老齢年金による支給調整など、働き方と年金受給には注意すべき制度があります。
そのため、老後の生活設計では、給与収入、年金収入、税金、社会保険料、金融資産の取り崩しを総合的に考える必要があります。
健康を維持することは、単に医療費を抑えるためだけではありません。
長く働く選択肢を確保し、老後の金融資産を守ることにもつながる可能性があります。
健康資産と金融資産の両方を育てる
人生100年時代の資産形成では、金融資産と健康資産の両方を考えることが重要です。
金融資産には、預貯金、株式、投資信託、債券などがあります。
こうした資産は、老後の生活費や医療費、介護費などに備えるために必要です。
一方、健康資産は、身体機能や健康状態を維持するための生活習慣によって支えられます。
例えば、運動、食事、睡眠などが重要な要素になります。
金融資産が十分にあっても、健康状態が悪化すれば、旅行や趣味などを楽しむことが難しくなる場合があります。
反対に、健康状態が良好でも、金融資産が不足していれば、希望する生活を実現することが難しくなる可能性があります。
そのため、両方の資産をバランスよく維持する必要があります。
例えば、毎月一定額を積立投資に回すことと同じように、毎日一定の時間を運動に充てる方法があります。
金融資産の積立では、長期間継続することが重要です。
健康づくりでも、短期間の努力だけでなく、生活習慣として継続することが重要になります。
ただし、健康は金融資産のように収益率や残高で評価できるものではありません。
また、運動習慣があれば必ず健康を維持できるというわけでもありません。
それでも、健康づくりに継続的に取り組むことは、長い人生の生活の質を支える重要な投資と考えることができます。
スポーツクラブは健康と人間関係を育てる場所になる
人生100年時代では、健康だけでなく、人間関係を維持することも重要です。
特に定年退職後は、職場を通じた人間関係が減少する場合があります。
そのため、家庭や職場以外に、定期的に通える場所を持つことが望まれます。
スポーツクラブは、こうした第三の居場所になり得ます。
例えば、毎週決まった曜日にスポーツクラブへ通うことで、顔なじみの利用者や指導者との交流が生まれます。
また、グループレッスンなどに参加すれば、共通の趣味を持つ人と交流する機会が増えます。
スポーツ庁の2025年度の世論調査では、複数人で行うスポーツを実施する人ほど、幸福度が高い傾向が確認されました。
幸福度を10点満点で尋ねたところ、テニスは7.51点、ゴルフは7.32点、バドミントンは7.30点でした。
一方、ウォーキングは6.74点、サイクリングは6.78点、筋力トレーニングは6.99点でした。
ただし、この結果だけで複数人で運動することが幸福度を高めると断定することはできません。
それでも、運動を通じた交流には一定の価値があります。
健康資産、金融資産、人間関係という3つの資産を育てることが、人生100年時代の生活設計では重要になるでしょう。
60歳からの健康戦略には生活習慣全体の見直しが必要になる
健康づくりでは、運動だけでなく、食事や睡眠などの生活習慣も重要です。
例えば、筋力を維持するためには、適切な運動とともに、必要な栄養を摂取することが求められます。
また、睡眠不足が続けば、疲労回復や日中の活動に影響する場合があります。
そのため、健康管理では、運動、食事、睡眠を組み合わせて考える必要があります。
特に60歳以降では、若い頃と同じ生活習慣が必ずしも適切とは限りません。
体力や健康状態の変化に応じて、運動の内容や生活時間を調整することが重要です。
例えば、朝早く起床する生活習慣がある場合には、十分な睡眠時間を確保する必要があります。
また、食事量を減らしすぎると、必要な栄養を十分に摂取できない場合があります。
高齢期では、体重だけでなく、筋肉量や栄養状態にも注意することが望まれます。
さらに、定期的な健康診断や必要な医療機関の受診も重要です。
健康投資は、特定の運動だけを行うことではありません。
生活習慣全体を整え、無理なく継続できる健康管理の仕組みをつくることです。
60歳から70歳までの10年間をどう過ごすか
人生100年時代の生活設計では、60歳から70歳までの10年間が重要な期間になります。
この時期には、働き方や家族構成、生活時間などが大きく変化する場合があります。
例えば、60歳以降も現在の仕事を続ける人がいます。
一方、65歳で退職し、その後は趣味や地域活動を中心に生活する人もいます。
また、65歳や70歳で独立開業することを考える人もいます。
こうした選択肢を実現するためには、健康状態を維持することが重要です。
例えば、60歳から65歳までの期間には、現在の仕事を続けながら運動習慣を定着させることが考えられます。
65歳から70歳までの期間には、働き方の変化に応じて、運動や健康管理に使う時間を調整する方法があります。
さらに70歳以降は、身体機能の維持や介護予防を重視した運動へと重点を移すことも考えられます。
ただし、年齢によって一律に運動内容を決めることは適切ではありません。
健康状態や運動経験には個人差があるためです。
重要なのは、60歳、65歳、70歳といった節目ごとに、自分の健康状態と生活設計を見直すことです。
金融資産の運用方針を定期的に見直すのと同じように、健康管理の方法も生活環境に応じて調整する必要があります。
人生100年時代の健康戦略を継続するための考え方
健康づくりで最も難しいのは、運動を始めることよりも、継続することかもしれません。
最初は意欲的に運動を始めても、仕事や家庭の事情によって続けられなくなる場合があります。
また、体調不良やけがなどによって、一時的に運動を休む必要が生じることもあります。
そのため、健康戦略では、完璧な運動計画を立てることよりも、生活の中で継続できる仕組みをつくることが重要です。
例えば、毎朝決まった時間にウォーキングを行う方法があります。
また、週末にスポーツクラブへ通うことを生活習慣に組み込む方法もあります。
仕事が忙しい日には、短時間の運動に切り替えることも考えられます。
重要なのは、運動できなかった日があっても、そこで習慣を終わらせないことです。
健康状態や生活環境に応じて、無理なく再開できる仕組みを整えることが望まれます。
また、運動の成果を体重や歩数だけで判断しないことも重要です。
例えば、階段を上りやすくなった、疲れにくくなった、外出する機会が増えたといった変化も、生活の質を考えるうえで意味があります。
健康づくりの目的は、特定の数値を達成することだけではありません。
自分らしい生活を長く続けられる状態を維持することです。
結論
人生100年時代では、60歳以降の30年、40年をどのように過ごすかが重要になります。
スポーツ庁の2025年度調査では、60代から70代の男女の体力が、約25年前と比較して大きく向上していることが明らかになりました。
一方、30代から40代の働く世代では体力低下が確認されています。
この結果は、現役時代から運動習慣を身につける必要性と、60歳以降も健康づくりを続けることの重要性を示しています。
健康状態を維持できれば、70歳まで働くことや、70歳以降も社会参加を続けることが可能になる場合があります。
また、働く期間が長くなれば、勤労収入を得られる期間が延び、金融資産の取り崩しを抑えられる可能性があります。
ただし、健康を維持する目的は、必ずしも長く働くことだけではありません。
旅行や趣味、家族との時間、地域活動など、自分が希望する生活を楽しむことも重要です。
そのため、人生100年時代の生活設計では、金融資産だけでなく、健康資産と人間関係の維持にも目を向ける必要があります。
運動習慣は、特別な設備や多額の費用がなければ始められないものではありません。
毎日のウォーキングや短時間の筋力トレーニングなど、身近な方法から取り組むことができます。
重要なのは、無理なく継続することです。
また、健康状態には個人差があり、運動だけですべての疾病や介護リスクを防げるわけではありません。
必要に応じて医療専門職などの助言を受けながら、自分に合った健康管理を続けることが望まれます。
人生100年時代において、60歳は決して遅い年齢ではありません。
むしろ、その後の長い人生をどのように過ごすかを考える重要な出発点です。
金融資産を増やすための資産形成と同じように、健康を維持するための生活習慣づくりにも継続的に取り組む必要があります。
60歳からの健康投資は、70歳、80歳、90歳になっても、自分らしい生活を続けるための重要な準備です。
長く働ける身体づくりと、豊かな老後を楽しめる健康づくりを両立させることが、人生100年時代の最も重要な生活戦略の一つになるのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年10月12日朝刊 進むスポーツクラブ離れ、休みは運動よりスマホ 働く世代の女性顕著
スポーツ庁 2025年度体力・運動能力調査
スポーツ庁 2025年度スポーツの実施状況等に関する世論調査
厚生労働省 2024年 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023
厚生労働省 高年齢者雇用安定法に関する制度資料
世界保健機関 2020年 身体活動及び座位行動に関するガイドライン