スポーツクラブのビジネスモデルが変わる 低価格ジム拡大と総合型施設の未来

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日本のスポーツクラブ市場で、大きな構造変化が進んでいます。

スポーツ庁の調査によると、成人男女のスポーツクラブ加入率は、2001年度と比較して2025年度に低下しました。

特に35歳から39歳の女性では、加入率が30.3%から10.1%へと減少しています。

45歳から49歳の女性でも、32.2%から15.5%へと低下しました。

一方、国内のスポーツ施設数は増加しています。

2021年度から2024年度にかけて、スポーツ施設は約6,400施設増えました。

また、大手15社の店舗数は、この10年間で約2.3倍に拡大しています。

スポーツクラブに加入する人の割合が低下する一方で、施設数は増加しているという、一見すると矛盾した現象が起きています。

その背景には、従来の総合型スポーツクラブから、低価格で利用できる小規模ジムや24時間営業の施設へと、業界のビジネスモデルが変化していることがあります。

ただし、施設数の増加と加入率の低下だけで、市場全体の利用者数や売上高が減少していると判断することはできません。

施設の規模や会員構成、利用頻度、収益構造が変化している可能性があるためです。

今回は、スポーツクラブ業界の構造変化を整理するとともに、低価格ジムの収益モデル、総合型施設の生き残り戦略、高齢化と健康経営が生み出す新たな需要について考えてみます。

スポーツクラブ加入率が低下する一方で施設数は増加している

スポーツ庁の2025年度体力・運動能力調査では、スポーツクラブへの加入率が長期的に低下していることが確認されました。

特に働く世代の女性で減少幅が大きくなっています。

35歳から39歳の女性では、2001年度の30.3%から2025年度の10.1%へと、20.2ポイント低下しました。

45歳から49歳の女性でも、32.2%から15.5%へと、16.7ポイント低下しています。

こうした変化の背景には、仕事や家事、育児などによる時間的制約があると考えられます。

一方、スポーツ施設の供給は増加しています。

2021年度から2024年度にかけて施設数は約6,400増加し、大手15社の店舗数も10年間で約2.3倍になりました。

この現象を理解するためには、施設数と会員数を分けて考える必要があります。

例えば、従来型の総合スポーツクラブでは、プール、スタジオ、トレーニングジムなどを備えた大規模な施設が一般的でした。

一方、近年増えている小規模ジムでは、限られたスペースにトレーニング機器を設置し、少人数のスタッフで運営する形態があります。

そのため、同じ会員数を受け入れる場合でも、小規模施設の方が店舗数は多くなる可能性があります。

また、加入率の調査と施設数の統計では、対象範囲や集計方法が異なる場合があります。

施設数の増加だけで業界全体が成長していると判断するのではなく、会員数、売上高、施設規模、利用頻度などを総合的に確認する必要があります。

低価格ジムが拡大する背景

近年のスポーツクラブ市場では、低価格で利用できるジムが存在感を高めています。

従来の総合型スポーツクラブでは、プールやスタジオ、浴室など、多様な設備を利用できることが特徴でした。

しかし、その分だけ施設の建設費や維持管理費、人件費などが大きくなる傾向があります。

一方、低価格ジムでは、サービスを絞り込むことで運営コストを抑える仕組みが採用されています。

例えば、トレーニングマシンを中心とした設備構成にすることで、プールなどの大型設備を設けずに済みます。

また、スタッフの常駐時間を短縮したり、入退館管理をデジタル化したりすることで、人件費を抑えることも可能です。

こうした仕組みによって、比較的低い月額会費を設定しやすくなります。

利用者にとっては、運動に必要な機能だけを低価格で利用できることが魅力になります。

特に仕事や家庭の都合で利用時間が限られる人にとって、短時間でも気軽に通える施設には一定の需要があります。

ただし、低価格であることだけが利用者の満足度を決めるわけではありません。

設備の清潔さ、安全性、混雑状況、立地条件なども重要です。

価格競争が進む中では、低価格とサービス品質をどのように両立させるかが経営課題になります。

24時間営業のジムは時間的制約に対応する

低価格ジムとともに拡大しているのが、24時間営業のスポーツ施設です。

従来の総合型スポーツクラブでは、営業時間が決まっていることが一般的でした。

そのため、仕事が長引いた場合や、家庭の事情によって予定が変わった場合には、施設を利用できないことがありました。

一方、24時間営業のジムでは、早朝や深夜など、自分の生活時間に合わせて利用できます。

例えば、出勤前に30分だけ運動する方法があります。

また、仕事が終わった後に短時間の筋力トレーニングを行うこともできます。

働く世代にとって、営業時間の自由度は重要な要素です。

特に共働き世帯や育児中の人では、決まった時間に運動することが難しい場合があります。

そのため、時間を選ばず利用できる施設には一定の価値があります。

ただし、24時間営業には課題もあります。

深夜や早朝にスタッフが常駐していない場合、安全管理や緊急時の対応が重要になります。

また、利用者が自分で運動内容を判断する必要があるため、初心者にとっては適切な運動方法が分かりにくい場合もあります。

24時間営業のジムが拡大する中では、利便性だけでなく、安全性と利用者支援の充実が求められます。

低価格ジムの収益構造は固定費管理が重要になる

低価格ジムのビジネスモデルを理解するうえで重要なのが、固定費と会員数の関係です。

スポーツクラブでは、家賃、設備の減価償却費、リース料、水道光熱費、人件費など、一定の固定費が発生します。

一方、収入の中心となるのは月額会費です。

そのため、会員数を安定的に確保できるかどうかが収益性を左右します。

例えば、月額会費3,000円のジムに1,000人の会員がいれば、月間会費収入は300万円になります。

年間では3,600万円です。

一方、会員数が700人に減少すれば、月間会費収入は210万円、年間では2,520万円になります。

会員数が300人減ることで、年間収入は1,080万円減少する計算です。

もちろん、実際には入会金やオプション料金などの収入がある場合もあります。

また、会費収入は消費税を含む表示かどうかによって、会計上の売上高と異なります。

それでも、月額会費を低く設定するビジネスモデルでは、会員数の変化が収益に大きく影響します。

そのため、低価格ジムでは新規会員の獲得だけでなく、既存会員の継続率が重要になります。

価格競争によって会費を引き下げても、会員数が十分に増えなければ収益が悪化する可能性があります。

低価格ジムの経営では、固定費を抑えることと、安定した会員基盤を維持することが重要です。

会員数よりも継続率が重要になる

スポーツクラブの経営では、新規会員の獲得に注目が集まりがちです。

しかし、長期的な収益を考えると、既存会員がどれだけ継続して利用するかが重要になります。

例えば、毎月100人が新規入会しても、同じ月に100人が退会すれば、会員数は増加しません。

一方、新規入会者が100人で退会者が50人であれば、会員数は50人増加します。

この違いは、長期的な収益に大きく影響します。

そのため、スポーツクラブでは退会率の管理が重要になります。

退会の背景には、仕事や家庭の事情、転居、健康状態の変化、利用頻度の低下など、さまざまな要因があります。

特に運動習慣が定着していない人は、入会後しばらくして利用しなくなる場合があります。

こうした利用者に対して、運動を継続しやすい仕組みを提供することが重要です。

例えば、初心者向けの運動プログラムや、利用状況に応じた適切な案内などが考えられます。

ただし、利用者の行動履歴や健康情報を活用する場合には、個人情報保護への配慮が必要です。

また、退会手続きを不当に複雑にして会員数を維持することは、利用者の信頼を損なう可能性があります。

長期的には、利用者が納得して継続できるサービスを提供することが、安定した経営につながります。

総合型スポーツクラブには独自の強みがある

低価格ジムが拡大する中で、従来型の総合スポーツクラブは厳しい競争に直面しています。

プール、スタジオ、浴室などの設備を備える施設では、維持管理費や人件費が大きくなる傾向があります。

そのため、低価格ジムと同じ水準まで会費を引き下げることは容易ではありません。

しかし、総合型スポーツクラブには、低価格ジムにはない強みがあります。

その一つが、幅広い運動プログラムを提供できることです。

例えば、筋力トレーニングだけでなく、水泳やスタジオプログラムなどを組み合わせることができます。

また、専門の指導者による運動指導を受けられる施設もあります。

運動経験が少ない人や、健康状態に応じた運動を希望する人にとって、こうしたサービスには価値があります。

さらに、総合型スポーツクラブでは、利用者同士の交流が生まれやすい場合があります。

定期的なグループレッスンなどを通じて、顔なじみの利用者が増えることもあります。

そのため、総合型施設では、単に運動設備を提供するだけでなく、健康づくりや人間関係の形成を支援することが重要になります。

価格だけでは比較できない価値を提供できるかどうかが、今後の競争力を左右するでしょう。

高齢化がスポーツクラブに新たな需要を生み出す

日本では高齢化が進む一方で、高齢者の体力が長期的に向上しています。

スポーツ庁の2025年度調査では、2001年度の体力合計点を100%とした場合、2025年度の60代男性は114.1%、女性は118.2%となりました。

70代でも男性109.8%、女性114.7%と改善しています。

この結果は、スポーツクラブ業界にとっても重要です。

健康状態を維持する高齢者が増えれば、運動や趣味、社会参加への需要が広がる可能性があります。

特に60歳以降は、仕事の時間が減少することで、運動に使える時間が増える人もいます。

一方、70歳まで働く人も増えており、高齢者の生活時間は一様ではありません。

そのため、スポーツクラブには多様な利用形態への対応が求められます。

例えば、平日昼間に利用できる高齢者向けプログラムがあります。

また、仕事を続ける高齢者にとっては、早朝や夜間の利用も重要です。

さらに、筋力維持や転倒予防など、健康状態に応じた運動指導への需要も考えられます。

ただし、高齢者向けの運動プログラムでは、安全管理が重要になります。

持病や身体機能の違いを考慮し、無理のない運動内容を提供する必要があります。

高齢化はスポーツクラブ業界に新たな需要を生み出す可能性がありますが、その需要を取り込むためには、専門性と安全性の確保が欠かせません。

スポーツクラブは孤独対策の拠点にもなり得る

スポーツクラブの価値は、身体機能の維持だけではありません。

人との交流や社会参加を支える役割にも注目する必要があります。

スポーツ庁の2025年度の世論調査では、複数人で行うスポーツを実施する人ほど、幸福度が高い傾向が確認されました。

幸福度を10点満点で尋ねたところ、テニスは7.51点、ゴルフは7.32点、バドミントンは7.30点でした。

一方、ウォーキングは6.74点、サイクリングは6.78点、筋力トレーニングは6.99点でした。

ただし、この結果だけで複数人で運動することが幸福度を高めると断定することはできません。

それでも、スポーツを通じた交流には一定の価値があります。

特に退職後は、職場を通じた人間関係が減少する場合があります。

そのため、家庭や職場以外に定期的に通える場所があることは、生活の充実につながる可能性があります。

総合型スポーツクラブでは、グループレッスンやイベントなどを通じて、利用者同士の交流を促すことができます。

一方、低価格ジムでも、利用者が希望する場合には交流の機会を設けることが考えられます。

重要なのは、すべての利用者に交流を求めることではありません。

一人で運動したい人もいれば、仲間と運動したい人もいます。

利用者の希望に応じて選択できるサービスを提供することが、スポーツクラブの価値を高めることにつながります。

企業の健康経営が新たな顧客市場になる

スポーツクラブ業界にとって、企業の健康経営も重要な市場になる可能性があります。

日本では人手不足が深刻化する中、従業員の健康維持を経営戦略として位置づける企業が増えています。

スポーツ庁は2027年度から、従業員の運動習慣づくりに取り組む企業への支援を強化する方針です。

こうした動きは、スポーツクラブ業界に新たな事業機会を生み出す可能性があります。

例えば、企業と契約して従業員向けの運動プログラムを提供する方法があります。

また、法人会員制度を通じて、従業員が複数の施設を利用できる仕組みも考えられます。

さらに、オンラインで運動指導を提供することも可能です。

企業にとっては、自社で運動施設を整備するよりも、外部の専門事業者を活用する方が効率的な場合があります。

一方、スポーツクラブにとっては、個人会員だけでなく、法人契約による収入を確保できる可能性があります。

ただし、企業向けサービスでは、単に利用料金を割り引くだけでは十分ではありません。

従業員の参加状況や満足度、運動習慣の定着などを確認し、企業の健康経営に役立つサービスを提供することが重要です。

また、従業員の健康情報を企業へ提供する場合には、個人情報保護への十分な配慮が必要になります。

デジタル技術がスポーツクラブの収益構造を変える

スポーツクラブ業界では、デジタル技術の活用も進んでいます。

例えば、スマートフォンを利用した入退館管理があります。

また、会員登録や会費決済、予約管理などをオンラインで行う仕組みもあります。

こうした技術を活用すれば、受付業務などの負担を軽減できる可能性があります。

さらに、利用者の運動記録を管理し、継続的な運動を支援するサービスも考えられます。

例えば、運動頻度やトレーニング内容を記録することで、本人が運動習慣を確認しやすくなります。

また、オンラインの運動指導を組み合わせれば、施設へ通えない日にも運動を続けることができます。

ただし、デジタル化によってすべての利用者の満足度が高まるわけではありません。

高齢者やデジタル機器の操作に慣れていない人にとっては、利用が難しくなる場合もあります。

そのため、デジタル化と対面での支援を適切に組み合わせることが重要です。

また、利用者の運動履歴や健康情報を取り扱う場合には、情報管理体制を整える必要があります。

デジタル技術は運営効率を高める手段ですが、利用者の信頼を維持することが前提になります。

スポーツクラブ経営では設備投資と減価償却費が重要になる

スポーツクラブの経営を財務面から考えると、設備投資と減価償却費が重要になります。

特に総合型スポーツクラブでは、プールや浴室、空調設備、トレーニング機器など、多額の設備投資が必要になる場合があります。

こうした設備は、取得時に支出が発生する一方、会計上は耐用年数などに応じて減価償却費として費用計上されます。

そのため、損益計算書上の利益と、実際の資金収支が一致するとは限りません。

例えば、新たなトレーニング機器を1,000万円で取得した場合、支出は取得時に発生します。

一方、会計上の費用は、適用される会計処理や耐用年数などに応じて複数年度に配分されることがあります。

また、設備の更新時には、再び資金支出が必要になります。

そのため、スポーツクラブの経営では、営業利益だけでなく、設備投資後のキャッシュフローを確認することが重要です。

特に低価格ジムでは、会費収入を低く設定しているため、過大な設備投資を行うと投資回収が難しくなる可能性があります。

一方、総合型スポーツクラブでは、老朽化した設備の更新費用が経営課題になる場合があります。

今後の業界再編を考える際には、店舗数や会員数だけでなく、設備投資負担や資金繰りにも注目する必要があります。

低価格ジムと総合型施設は共存できるのか

今後のスポーツクラブ市場では、低価格ジムと総合型スポーツクラブの競争が続くと考えられます。

ただし、両者が必ずしも同じ利用者を奪い合うとは限りません。

例えば、短時間で筋力トレーニングを行いたい人には、低価格ジムが適している場合があります。

一方、水泳やスタジオプログラム、専門的な運動指導を希望する人には、総合型スポーツクラブが適している場合があります。

また、運動を通じて人との交流を楽しみたい人にとっては、グループプログラムが充実した施設に価値があります。

つまり、利用者の目的によって、求められるサービスは異なります。

今後は、すべての利用者に同じサービスを提供するのではなく、顧客層ごとに異なる価値を提供することが重要になります。

低価格ジムでは、価格、立地、営業時間、利用の手軽さなどが競争力になります。

一方、総合型スポーツクラブでは、専門的な運動指導、幅広いプログラム、交流機会などが重要になります。

また、高齢者向けの健康づくりや企業の健康経営など、新たな市場への対応も求められます。

価格競争だけに依存するのではなく、利用者の目的に応じたサービスを提供できる企業が、長期的な競争力を維持する可能性があります。

結論

日本のスポーツクラブ市場では、加入率が長期的に低下する一方で、施設数が増加するという構造変化が進んでいます。

特に働く世代の女性では、スポーツクラブ加入率の低下が顕著になっています。

一方、低価格ジムや24時間営業の施設が拡大し、スポーツクラブのビジネスモデルは多様化しています。

低価格ジムでは、設備やサービスを絞り込み、固定費を抑えることで低い会費を実現しています。

ただし、低価格であるほど会員数や継続率の変化が収益に影響しやすくなります。

そのため、新規会員の獲得だけでなく、既存会員が継続して利用できる仕組みが重要です。

一方、総合型スポーツクラブには、幅広い運動プログラムや専門的な指導、人との交流など、低価格ジムとは異なる強みがあります。

今後は、高齢化や企業の健康経営の普及によって、新たな需要が生まれる可能性があります。

また、デジタル技術の活用によって、施設運営の効率化や運動習慣の定着支援も進むと考えられます。

ただし、スポーツクラブの経営では、会員数や店舗数だけでなく、設備投資負担、減価償却費、キャッシュフローなどにも注目する必要があります。

人生100年時代において、スポーツクラブは単に身体を鍛える場所ではありません。

健康寿命を延ばし、人間関係を築き、長く働くための身体づくりを支える場所としても重要になります。

これからのスポーツクラブ業界では、低価格だけを追求するのではなく、利用者が運動を継続できる価値をどのように提供するかが問われます。

低価格ジムと総合型スポーツクラブが、それぞれの強みを生かして多様な需要に対応することが、業界全体の発展につながるのではないでしょうか。

参考

日本経済新聞 2026年10月12日朝刊 進むスポーツクラブ離れ、休みは運動よりスマホ 働く世代の女性顕著

スポーツ庁 2025年度体力・運動能力調査

スポーツ庁 2025年度スポーツの実施状況等に関する世論調査

スポーツ庁 スポーツ施設に関する調査資料

経済産業省 健康経営の推進に関する資料

厚生労働省 2024年 健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023

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