「近くの病院が閉院する」「新しい病院が建設される」といったニュースを耳にすると、「なぜその場所なのだろう」と疑問に思うことはありませんか。病院は、それぞれの医療機関が自由に設置されているように見えますが、実際には地域全体の医療需要を踏まえた計画のもとで整備が進められています。
その基本となる考え方が「医療圏」です。医療圏は、住民が必要な医療を適切に受けられるよう、病院や診療所の配置を考えるための地域区分です。
今回は、医療圏とはどのような仕組みなのか、その役割や課題について解説します。
医療圏とは
医療圏とは、住民が日常生活の中で必要な医療を受けられるように設定された地域の単位です。
都道府県が医療計画を策定する際の基本となる考え方であり、人口や交通事情、医療機関の配置などを踏まえて区分されています。
医療圏を設定することで、地域ごとの医療需要を把握し、必要な医療体制を計画的に整備できるようになります。
病院をどこに設けるか、どのような医療機能を持たせるかを考える土台となる仕組みです。
三つの医療圏がある
医療圏は、提供する医療の内容に応じて大きく三つに分けられます。
一次医療圏は、風邪や軽いけがなど日常的な診療を受ける地域です。主に診療所や地域のクリニックが中心となります。
二次医療圏は、入院や一般的な手術など比較的高度な医療を担う地域です。多くの総合病院がこの役割を担っています。
三次医療圏は、高度救命救急センターや大学病院などが対応する高度で専門的な医療を提供する地域です。
病気の内容によって受診する医療機関が異なるように、医療圏も役割ごとに分かれています。
なぜ医療圏が必要なのか
もし病院が自由に建設されるだけであれば、都市部には病院が集中し、人口の少ない地域では医療機関が不足する可能性があります。
また、同じ地域に同じような病院が集まり、別の地域では必要な医療が受けられないという偏りも生じかねません。
医療圏という考え方があることで、地域ごとの人口や年齢構成に応じた医療資源の配分がしやすくなります。
限られた医師や医療設備を効率よく活用するためにも重要な仕組みです。
高齢化で役割が変わってきた
高齢化が進んだことで、医療圏に求められる役割も変化しています。
以前は急性期医療を中心に考えられていましたが、現在では在宅医療や回復期医療、介護との連携も重視されています。
そのため、病院だけでなく、診療所や訪問看護ステーション、介護施設なども含めた地域全体で医療を支える体制づくりが進められています。
医療圏は「病院の配置」を考えるだけでなく、「地域全体の医療の仕組み」を考える単位へと変わりつつあります。
地域によって課題は異なる
都市部では人口が多く、医療機関も比較的充実しています。
一方で、地方では人口減少や医師不足により、必要な医療体制を維持することが難しくなっている地域もあります。
また、山間部や離島では、病院まで長時間かかるケースも少なくありません。
そのため、それぞれの地域の実情に合わせて医療圏のあり方を見直し、オンライン診療や地域連携など新しい方法も取り入れられています。
地域医療構想との関係
医療圏は、地域医療構想を進める上でも重要な基盤となっています。
将来の人口や高齢化率を予測し、「どの地域にどのような病床が必要か」「どの医療機関がどの役割を担うか」を検討する際も、医療圏を単位として考えられます。
つまり、医療圏は地域医療構想を具体化するための「地図」のような役割を果たしているのです。
安心して医療を受けられる地域を目指して
医療圏は、住民にとって普段あまり意識する機会の少ない仕組みかもしれません。
しかし、救急医療を受けられるか、適切な病院へ紹介してもらえるか、在宅医療を利用できるかなど、私たちの暮らしと深く関わっています。
高齢化や人口減少が進む中でも、誰もが必要な医療を受けられる環境を維持するためには、地域の実情に合わせた医療圏の整備が今後ますます重要になるでしょう。
結論
医療圏とは、住民が必要な医療を適切に受けられるように病院や診療所を計画的に配置するための地域区分です。一次、二次、三次と役割を分けることで、日常診療から高度医療まで切れ目のない医療提供体制を支えています。
超高齢社会では、病院だけでなく在宅医療や介護との連携も重要になっています。医療圏は地域医療構想とともに、将来にわたって安心して医療を受けられる地域づくりを支える基盤となる仕組みといえるでしょう。
参考
日本経済新聞 2026年7月25日 朝刊
社会保障費の膨張止まらず、自然増は0.4兆円 来年度の概算要求基準 改革姿勢、与党内に濃淡