人生100年時代を迎え、定年退職後の働き方が大きく変わろうとしています。
かつては60歳で定年を迎え、その後は年金と退職金を活用しながら悠々自適に暮らすことが理想とされていました。しかし、平均寿命が延び、物価上昇が続く現在、60歳や65歳で完全に仕事をやめることが必ずしも最善の選択とは限りません。
2026年10月11日付の日本経済新聞では、作家の林真理子氏が70代の働き方について語り、経済的な余裕があっても仕事や社会活動を続けることの重要性を指摘しています。
特に注目したいのは、70代を単なる老後ではなく、これまでの経験を生かして新しい仕事に挑戦できる時期と捉えていることです。
一方で、65歳になってから突然新しい仕事を始めようとしても、簡単に収入を得られるとは限りません。
会社員時代の肩書や人脈がそのまま通用するとは限らず、自分の経験や専門知識をどのように仕事に結びつけるかが重要になります。
今回は、65歳から第二の仕事を始め、70代になっても無理なく収入を得るために必要な準備について考えてみます。
65歳からの仕事は現役時代の延長で考えない
65歳から第二の仕事を始める際に重要なのは、現役時代と同じ働き方を再現しようとしないことです。
会社員として長年働いてきた人は、組織の中で役職や権限を持ち、多くの部下や取引先と関わってきたかもしれません。
しかし、退職後は会社の看板や肩書がなくなります。
それまでの地位や権限を前提とした仕事の進め方では、新しい環境に適応できない可能性があります。
例えば、大企業で経理部長を経験した人が、中小企業の経理相談を受ける場合を考えてみます。
大企業では専門部署が分業し、税務、財務、会計、内部統制などをそれぞれ担当していることがあります。
一方、中小企業では、経営者や少人数の経理担当者が幅広い業務を担っています。
そのため、大企業の仕組みをそのまま導入するのではなく、企業規模や経営実態に合わせた助言が求められます。
重要なのは、過去の肩書ではなく、相手が抱える問題を解決できるかどうかです。
65歳以降の仕事では、組織内での評価よりも、顧客から直接信頼される能力が重要になります。
第二の仕事はこれまでの経験を棚卸しすることから始まる
65歳から新しい仕事を始める場合、必ずしも未経験の分野に挑戦する必要はありません。
むしろ、長年積み重ねてきた経験や専門知識を生かす方が、比較的少ない初期投資で仕事を始められる可能性があります。
例えば、経理部門で働いてきた人であれば、決算書の読み方、資金繰り、予算管理、内部統制などについて助言できるかもしれません。
金融機関で勤務していた人であれば、企業の資金調達や金融機関との付き合い方について経験を生かせます。
人事部門の経験者であれば、人材育成や評価制度、組織運営について相談を受けることが考えられます。
営業経験が豊富な人であれば、顧客開拓や営業体制の構築などを支援できるでしょう。
ただし、経験があることと、その経験を商品として提供できることは別の問題です。
例えば、経理業務を30年間経験していても、顧客が求めているのは経歴の説明ではありません。
自社の経理業務を改善する方法や、資金繰りの問題を解決するための具体的な考え方です。
そのため、経験を整理する際には、自分が何をしてきたかだけでなく、どのような問題を解決できるかという視点が必要になります。
第二の仕事を成功させるためには、経験を顧客にとっての価値に変えることが重要なのです。
65歳から始めやすい仕事には共通点がある
65歳以降の仕事では、体力的な負担や初期投資を抑えられることが重要になります。
特に、70代まで継続することを考えると、長時間の移動や肉体労働を前提とした仕事は、年齢とともに負担が大きくなる可能性があります。
その点、専門知識や経験を活用する仕事には一定の利点があります。
例えば、企業の顧問や相談役として経営上の課題について助言する方法があります。
また、オンラインで専門分野の相談を受けることも考えられます。
メールやオンライン会議を活用すれば、移動時間を抑えながら仕事を進めることができます。
さらに、専門知識を文章にまとめて情報発信する方法もあります。
ブログや専門サイト、電子書籍などを通じて情報を提供し、読者との信頼関係を築くことができます。
オンライン講師として、これまでの経験を若い世代に伝えることも選択肢の一つです。
ただし、税務相談や税務書類の作成、法律事務など、専門資格が必要な業務については注意が必要です。
税理士資格がない人が個別具体的な税務相談を業として行うことは、原則として認められていません。
一般的な制度解説や経営管理に関する助言と、資格が必要な独占業務の境界を確認する必要があります。
第二の仕事では、自分の経験を生かすことと、法律上認められた業務範囲を守ることの両立が欠かせません。
70代まで働くなら固定費の小さい事業が適している
65歳から独立して仕事を始める場合、事業の固定費を抑えることが重要です。
例えば、事務所を借りて事業を始めると、毎月の家賃や光熱費、通信費などが発生します。
従業員を雇用すれば、人件費や社会保険料などの負担も生じます。
現役世代であれば、売上を拡大するために設備投資や人材採用を進める方法も考えられます。
しかし、65歳以降の事業では、必ずしも規模の拡大を目指す必要はありません。
むしろ、少ない固定費で安定した収入を確保できる仕組みの方が、長期的に継続しやすい場合があります。
例えば、自宅を拠点としてオンライン相談を行う場合、専用の事務所を借りる必要性は低くなります。
顧客との連絡をメール中心にすれば、移動時間や交通費も削減できます。
また、資料作成や情報管理にクラウドサービスを活用すれば、大規模な設備投資を行わなくても業務を進められます。
ただし、情報セキュリティーや個人情報保護への対応は必要です。
固定費を抑えることは、売上が一時的に減少した場合の経営リスクを小さくすることにもつながります。
70代まで無理なく働くためには、売上の最大化よりも、利益と自由時間のバランスを重視することが大切です。
年間300万円の収入を得るにはどの程度の仕事が必要か
第二の仕事を考える際には、具体的な収入目標を設定することが重要です。
例えば、年間300万円の売上を目指す場合を考えてみます。
月額5万円の顧問契約を5社と締結できれば、月間売上は25万円、年間売上は300万円になります。
月額3万円の契約であれば、9社と契約することで月間27万円、年間324万円になります。
一方、単発相談を中心とする場合には、1件2万円の相談を毎月13件受ければ、月間26万円、年間312万円になります。
もちろん、これらは単純な売上計算です。
実際には、顧客開拓、資料作成、契約管理、事務作業などの時間が必要になります。
また、売上から通信費やシステム利用料などの経費を差し引く必要があります。
さらに、所得税、住民税、国民健康保険料などの負担も考慮しなければなりません。
したがって、年間売上300万円が、そのまま年間手取り300万円になるわけではありません。
ここで重要なのは、収入目標から逆算して必要な顧客数や業務量を考えることです。
70代で年間300万円の収入を得たい場合でも、週5日働く必要があるとは限りません。
専門性が高く、顧客から継続的に評価されるサービスを提供できれば、比較的少ない業務量で収入を確保できる可能性があります。
ただし、顧客数や単価は市場の需要によって左右されるため、開業前に実現可能性を検証することが必要です。
単発収入だけでなく継続収入を確保する
65歳以降の仕事では、毎月の収入を安定させる仕組みも重要になります。
単発の相談業務だけでは、依頼件数によって月々の売上が大きく変動する可能性があります。
例えば、ある月は相談が20件あっても、翌月は5件しかないということも考えられます。
こうした収入の変動が大きいと、生活費の計画を立てにくくなります。
そこで考えられるのが、継続契約を中心とした事業モデルです。
例えば、月額契約によって一定の範囲で質問を受け付ける方法があります。
年間契約によって、定期的な情報提供や経営課題の整理を支援する方法も考えられます。
一方で、継続契約には注意点もあります。
顧客数が増えすぎると、問い合わせへの対応に追われ、自由時間が失われる可能性があるためです。
そのため、対応時間や相談範囲、回答期限などを契約時に明確にしておく必要があります。
特に70代まで働くことを想定する場合には、無制限の相談対応を引き受けることは避けた方がよいでしょう。
継続収入を確保しながら、業務量を適切に管理できる仕組みが重要になります。
60代からの情報発信が将来の顧客基盤になる
65歳から新しい仕事を始める場合、最大の課題の一つが顧客の確保です。
会社員時代には勤務先の信用や営業基盤を利用できても、独立後は自分自身の信用を築く必要があります。
そのため、退職前から専門分野の情報発信を続けることには意味があります。
例えば、経理や税務、金融に関する制度改正や実務上の注意点を継続的に解説する方法があります。
読者にとって有益な情報を提供し続けることで、専門分野に対する理解や経験を伝えることができます。
ただし、記事を数多く公開すれば、自動的に顧客が増えるわけではありません。
重要なのは、情報の正確性と独自性、読者の問題解決に役立つ内容です。
また、情報発信を仕事につなげるためには、対象となる顧客を明確にする必要があります。
例えば、中小企業経営者向けなのか、経理担当者向けなのか、個人の資産形成に関心がある人向けなのかによって、提供すべき情報は異なります。
対象を明確にすることで、専門性が伝わりやすくなります。
なお、勤務先が副業を禁止している場合には、情報発信と営利活動の関係について就業規則を確認する必要があります。
在職中は知識の蓄積や一般的な情報発信を中心とし、退職後に有償サービスを開始するという段階的な方法も考えられます。
65歳から70歳までの5年間を事業の育成期間にする
65歳から第二の仕事を始める場合、最初から大きな収入を目指す必要はありません。
むしろ、65歳から70歳までの5年間を事業の育成期間と考えることが現実的です。
例えば、65歳の時点では、提供するサービスを絞り込み、少数の顧客に対応することから始めます。
66歳から67歳にかけては、顧客の反応を踏まえてサービス内容や料金体系を見直します。
68歳から69歳には、継続契約を増やし、収入の安定化を図ります。
そして70歳以降は、無理に顧客数を増やすのではなく、既存顧客との関係を維持しながら、業務量を調整していくことが考えられます。
このような段階的な事業運営であれば、急激な設備投資や過大な営業活動を避けやすくなります。
また、体力や健康状態に応じて仕事の量を調整することも可能です。
70代まで働き続けるためには、短期間で大きく稼ぐことよりも、長く続けられる事業を育てるという発想が重要です。
第二の仕事では人脈より信頼関係が重要になる
独立後の仕事では、人脈が重要だといわれます。
しかし、単に知り合いが多いだけでは、継続的な仕事につながるとは限りません。
重要なのは、相手から信頼される関係を築いているかどうかです。
例えば、企業の相談業務では、顧客の問題を正確に理解し、適切な助言を提供することが求められます。
分からないことを無理に回答せず、必要に応じて専門家を紹介する姿勢も重要です。
また、回答内容を文書として残し、根拠となる資料を明示することは、顧客との認識の違いを防ぐうえでも役立ちます。
相談内容によっては、税理士、弁護士、司法書士などの専門家との連携が必要になります。
すべての問題を自分一人で解決しようとするのではなく、適切な専門家につなぐことも顧客への価値提供になります。
65歳以降の仕事では、過去の実績だけでなく、現在の顧客に対して誠実に対応できることが重要です。
長年の経験に裏付けられた判断力と、相手の立場に立つ姿勢が、第二の仕事を支える基盤になります。
70代の仕事はやめ方まで考えておく
第二の仕事を始める際には、仕事をいつまで続けるかだけでなく、どのように終了するかも考えておく必要があります。
70代では、健康状態や家庭環境が変化する可能性があります。
自分自身が元気でも、配偶者や家族の介護が必要になる場合もあるでしょう。
そのため、事業を始める段階から、仕事を縮小したり終了したりできる仕組みを整えておくことが重要です。
例えば、長期間の履行義務を伴う契約を避け、契約期間や解約条件を明確にしておく方法があります。
また、顧客に提供する資料や相談履歴を適切に整理し、必要に応じて他の専門家に引き継げる状態にしておくことも大切です。
個人情報や機密情報の管理についても、事業終了時の取り扱いをあらかじめ定めておく必要があります。
仕事を続ける自由だけでなく、無理なく仕事をやめられる自由を確保することが、70代以降の事業運営では重要になります。
結論
65歳から第二の仕事を始め、70代まで収入を得ることは、人生100年時代における有力な選択肢です。
ただし、長年会社員として働いてきた経験があっても、それだけで独立後の収入が保証されるわけではありません。
重要なのは、これまでの経験や専門知識を整理し、顧客が必要とするサービスに変えることです。
そのためには、60代から準備を始めることが望ましいでしょう。
専門分野の知識を更新し、情報発信を継続し、会社以外の人間関係を築いておくことが、将来の仕事につながる可能性があります。
また、65歳以降の仕事では、売上規模を追求するよりも、固定費を抑え、継続収入を確保し、無理なく働ける仕組みを整えることが重要です。
例えば、年間300万円の売上を得る場合でも、顧客数や料金体系を工夫することで、比較的少ない業務量で実現できる可能性があります。
一方で、収入だけを重視して仕事を増やしすぎれば、健康や家族との時間を犠牲にすることになります。
70代まで働く目的は、現役時代と同じように忙しく働くことではありません。
自分の経験を社会に還元しながら、経済的な安心と自由な時間を両立することです。
そのためには、65歳から70歳までの5年間を、第二の仕事を育てる期間として活用することが有効です。
最初は小さく始め、顧客の信頼を積み重ね、70歳以降は健康状態や生活環境に応じて業務量を調整していく。
このような働き方であれば、年齢を重ねても自分の能力を発揮し続けることができます。
人生100年時代において、65歳は仕事人生の終着点とは限りません。
むしろ、これまで培ってきた知識や経験を、自分自身の裁量で生かす新しい仕事人生の出発点になり得ます。
70代になっても働く場所があり、社会から必要とされることは、経済的な豊かさだけでは得られない価値を持っています。
第二の仕事を成功させる鍵は、いかに大きく稼ぐかではなく、いかに長く、無理なく、自分らしく働き続けられるかという点にあるのではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年10月11日付 「70代こそ働くのをやめるな 作家・林真理子氏『卒婚も選択肢に』」
内閣府 令和6年度高齢者の経済生活に関する調査
厚生労働省 高年齢者雇用安定法の概要
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