70歳まで働く人と60歳で引退する人の老後資金はどれだけ違うのか

FP
ブルー ベージュ ミニマル note ブログアイキャッチ - 1

人生100年時代を迎え、何歳まで働くかという選択が老後の経済状況を大きく左右するようになっています。

かつては60歳で定年退職し、その後は退職金と年金、貯蓄を活用して生活することが一般的でした。しかし、平均寿命が延び、物価上昇が続く現在、60歳で完全に仕事をやめることには、以前よりも大きな経済的リスクがあります。

一方、65歳や70歳まで働き続ければ、給与収入を確保できるだけでなく、老後資金の取り崩しを遅らせることもできます。

2026年10月11日付の日本経済新聞では、作家の林真理子氏が70代の働き方について語り、経済的に余裕があっても働き続けることの意義を指摘しています。

実際、70代まで働くことは、単なる収入確保にとどまらず、資産寿命の延長や生活の安定にもつながります。

今回は、60歳、65歳、70歳で退職する3つのケースを比較し、働く期間の違いが老後資金にどの程度の影響を与えるのかを具体的に考えてみます。

60歳で退職すると老後生活は40年間続く可能性

人生100年時代における最大の問題は、退職後の生活期間が長期化することです。

60歳で完全退職し、100歳まで生きるとすれば、退職後の生活期間は40年間になります。

65歳で退職する場合は35年間、70歳で退職する場合でも30年間です。

もちろん、すべての人が100歳まで生きるわけではありません。しかし、老後資金を考える際には、長生きする可能性に備えておく必要があります。

例えば、毎月の生活費が30万円、年間360万円の世帯を考えてみます。

60歳から65歳までの5年間、公的年金を受給せず、給与収入もない場合には、生活費だけで1,800万円が必要になります。

65歳から70歳までの5年間についても、年金収入だけでは生活費を賄えなければ、貯蓄を取り崩す必要があります。

つまり、60歳で退職する場合には、公的年金の受給開始前から相当額の資金を準備しなければならないのです。

退職金が2,000万円あったとしても、60歳から65歳までの生活費だけで大部分を使ってしまう可能性があります。

これに対し、65歳や70歳まで働くことができれば、退職金や貯蓄を温存しやすくなります。

働く期間を延ばすことは、老後資金を増やすだけでなく、資産を使い始める時期を遅らせる効果があるのです。

60歳退職と70歳退職では収入に大きな差が生まれる

具体的なモデルケースで比較してみましょう。

60歳時点の金融資産を3,000万円、年間生活費を360万円と仮定します。

公的年金は65歳から年間240万円を受給するものとし、給与収入は税金や社会保険料を差し引いた手取り額で考えます。

また、60歳以降に働く場合の年間手取り収入を300万円と仮定します。

まず、60歳で完全退職するケースです。

60歳から65歳までの5年間は、年金収入がないため、生活費として1,800万円を取り崩します。

65歳から70歳までの5年間は、年間360万円の生活費に対して年金収入が240万円あるため、年間120万円、5年間で600万円を取り崩します。

したがって、70歳までの累計取り崩し額は2,400万円になります。

60歳時点の金融資産3,000万円は、70歳時点で600万円まで減少する計算です。

次に、65歳まで働くケースです。

60歳から65歳までの5年間は、年間300万円の手取り収入があるため、生活費との差額は年間60万円です。

5年間の取り崩し額は300万円になります。

65歳から70歳までの5年間は、年金収入と生活費との差額として600万円を取り崩します。

累計取り崩し額は900万円となり、70歳時点の金融資産は2,100万円です。

最後に、70歳まで働くケースです。

60歳から65歳までの5年間は、年間60万円、合計300万円を取り崩します。

65歳から70歳までは、年間300万円の手取り給与と240万円の年金収入があるため、生活費360万円を差し引いても年間180万円の余剰が生まれます。

5年間では900万円の資金を積み増せる計算です。

この場合、70歳時点の金融資産は3,600万円になります。

ただし、ここでは運用損益、物価変動、臨時支出を考慮せず、年金についても在職老齢年金による支給停止が生じないと仮定しています。

この試算では、70歳時点の金融資産は、60歳退職で600万円、65歳退職で2,100万円、70歳退職で3,600万円となります。

60歳退職と70歳退職では、実に3,000万円の差が生まれるのです。

もちろん、これは一定の条件に基づく単純な試算ですが、働く期間が老後資金に与える影響の大きさを理解できます。

70歳まで働く最大のメリットは資産寿命の延長

70歳まで働くメリットは、給与収入を得られることだけではありません。

金融資産の取り崩しを遅らせることによって、資産寿命を延ばせる点が重要です。

例えば、65歳時点で金融資産が3,000万円あり、毎年120万円を取り崩す場合を考えます。

運用収益や物価変動を考慮しなければ、25年間で資産を使い切る計算になります。

つまり、90歳時点で金融資産がなくなることになります。

一方、65歳から70歳まで働き、その間は貯蓄を取り崩さずに生活できれば、70歳時点でも3,000万円を維持できます。

その後、年間120万円ずつ取り崩した場合、資産がなくなるのは95歳時点です。

働く期間を5年間延ばすことによって、資産寿命も5年間延びる計算になります。

さらに、働いている間に資産を積み増すことができれば、資産寿命は一段と延びる可能性があります。

ただし、実際には医療費や介護費、住宅修繕費などの臨時支出が発生します。

また、物価上昇によって生活費が増える可能性もあります。

そのため、単純な取り崩し計算だけでなく、複数のシナリオを想定した資金計画が必要です。

65歳以降の就労は年金額にも影響する

65歳以降も働き続ける場合には、公的年金との関係を理解しておく必要があります。

厚生年金に加入して働く70歳未満の人は、保険料を納めることで将来の老齢厚生年金額を増やすことができます。

例えば、65歳から70歳まで厚生年金に加入し、標準報酬月額30万円で5年間働いた場合を考えます。

賞与を考慮しない単純計算では、老齢厚生年金の報酬比例部分は年間約9万9,000円増加する計算になります。

これは生涯にわたって受け取る年金額の増加につながります。

仮に70歳から90歳まで20年間受給すれば、増加額の累計は約198万円になります。

ただし、実際の年金額は加入履歴や報酬、制度改定などによって異なります。

また、2026年4月からは在職老齢年金の支給停止調整額が月額65万円に引き上げられました。

これにより、一定の収入がある人でも、従来より老齢厚生年金の支給停止を受けにくくなっています。

一方、70歳以降は原則として厚生年金の被保険者ではなくなるため、通常は働いても新たな厚生年金の加入期間は増えません。

それでも、70歳以降の厚生年金適用事業所での就労については、一定の場合に在職老齢年金による支給調整の対象となります。

働き続ける場合には、給与と年金を合わせた手取り収入を確認することが重要です。

年金の繰下げ受給と就労をどう組み合わせるか

70歳まで働く人にとって、年金の繰下げ受給も重要な選択肢です。

公的年金は原則65歳から受給できますが、受給開始を遅らせることで年金額を増やすことができます。

繰下げによる増額率は1か月当たり0.7%です。

70歳まで繰り下げると42%、75歳まで繰り下げると84%増加します。

例えば、65歳時点で年間240万円の年金を受給できる人が、老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を70歳まで繰り下げ、全額が増額対象となる場合には、年間約341万円になります。

年間約101万円の増額です。

ただし、繰下げ期間中は年金を受け取れません。

65歳から70歳までに受給できたはずの年金総額は1,200万円です。

この金額を受け取らずに繰り下げるため、長生きしなければ累計受給額で不利になる場合があります。

また、加給年金額や振替加算額は繰下げによる増額の対象になりません。

繰下げ待機中に加給年金を受給できないこともあるため、年下の配偶者がいる場合には特に注意が必要です。

さらに、在職老齢年金によって支給停止となる老齢厚生年金の部分は、繰下げ増額の対象になりません。

したがって、70歳まで働く人が必ず年金を繰り下げるべきとは限りません。

65歳から年金を受給しながら働く方法と、給与収入で生活しながら年金を繰り下げる方法を比較することが重要です。

70歳まで働けば必ず得になるわけではない

ここまで、70歳まで働くことによる経済的なメリットを説明してきました。

しかし、働く期間を延ばせば必ず得になるわけではありません。

まず、健康状態の問題があります。

体力的な負担が大きい仕事を続けることで、健康を損なってしまえば、医療費や介護費が増える可能性があります。

また、長時間労働によって趣味や家族との時間が失われることも考えられます。

さらに、給与収入が増えれば、所得税や住民税、社会保険料の負担が増える場合があります。

働き方によっては、年金の一部が支給停止になる可能性もあります。

そのため、給与の額面だけを見て判断することは適切ではありません。

重要なのは、働くことで得られる手取り収入と、健康や自由時間への影響を総合的に評価することです。

例えば、70歳まで週5日働くことが難しい場合には、週3日勤務に変更する方法があります。

専門知識を生かした相談業務やオンライン講師など、身体的な負担が比較的小さい仕事に移行することも考えられます。

働くか引退するかという二者択一ではなく、自分に合った働き方を選択することが大切です。

60代から準備すれば70代の選択肢が広がる

70歳まで働き続けるためには、60代からの準備が重要になります。

特に、長年会社員として働いてきた人は、勤務先を離れた後も収入を得られる仕組みを考えておく必要があります。

例えば、経理や税務、金融、人事、法務などの専門知識を持つ人であれば、企業の相談役や専門家として活動することが考えられます。

また、オンライン相談や執筆、講師業などであれば、自宅を中心に仕事を続けることも可能です。

ただし、専門資格が必要な業務については、法律上の業務範囲を確認しなければなりません。

重要なのは、退職してから突然新しい仕事を探すのではなく、現役時代から自分の経験や知識を整理しておくことです。

60代前半から専門分野の情報発信や学習を続けていれば、65歳以降の仕事につながる可能性があります。

さらに、会社以外の人間関係を広げておくことも大切です。

退職後の仕事は、これまで築いてきた信頼関係や人脈から生まれる場合もあります。

ただし、副業が禁止されている勤務先では、在職中の有償活動に制限があるため、就業規則を確認する必要があります。

在職中は知識の整理や情報発信、資格学習などに取り組み、退職後に事業化するという方法も現実的です。

老後資金の計画は夫婦単位で考える

退職時期を考える際には、本人だけでなく配偶者の年齢や働き方も重要になります。

特に、夫婦の年齢差が大きい場合には、配偶者が長期間にわたって生活する可能性を考慮する必要があります。

例えば、夫が70歳、妻が55歳の場合、夫が90歳になった時点でも妻は75歳です。

夫婦の老後資金は、夫の平均寿命だけでなく、妻がその後も生活する期間を含めて考えなければなりません。

また、夫婦それぞれの年金受給額や、遺族年金の見込み額も確認する必要があります。

夫が70歳まで働くことで金融資産を温存できれば、配偶者の将来の生活資金にも余裕が生まれる可能性があります。

一方で、仕事を優先しすぎて夫婦で過ごす時間が不足することにも注意が必要です。

老後資金を増やすことだけを目的とするのではなく、夫婦がどのような生活を送りたいのかを話し合うことが大切です。

結論

60歳で退職する人と70歳まで働く人では、老後資金に大きな差が生まれる可能性があります。

今回のモデルケースでは、70歳時点の金融資産は、60歳退職で600万円、65歳退職で2,100万円、70歳退職で3,600万円となりました。

退職時期の違いによって、最大3,000万円の差が生じる計算です。

もちろん、実際の結果は給与水準、年金額、生活費、健康状態、資産運用などによって異なります。

しかし、働く期間を延ばすことで、給与収入を確保し、金融資産の取り崩しを遅らせ、資産寿命を延ばせることは重要なポイントです。

また、働き続けることには、経済面だけでなく、社会とのつながりを維持できるというメリットもあります。

一方で、健康や家族との時間を犠牲にしてまで働き続ける必要はありません。

人生100年時代に求められるのは、60歳で完全退職するという従来の固定観念から離れ、自分に合った退職時期と働き方を選択することです。

65歳まで働く方法もあれば、70歳まで働く方法もあります。

70代になってから勤務日数を減らし、仕事と余暇を両立することも可能です。

大切なのは、働く期間を自分自身で設計できるように準備しておくことです。

そのためには、60代から専門知識を磨き、健康を維持し、会社以外の人間関係を築いておくことが重要になります。

老後資金を十分に確保することは、人生の選択肢を増やすことにつながります。

そして、70代になっても働くことを選べる環境があれば、経済的な安心感だけでなく、社会に必要とされる喜びも得られるでしょう。

人生100年時代の老後設計では、いくら貯蓄するかという視点に加えて、何歳まで、どのように働くかという視点が欠かせません。

70歳まで働くという選択は、単なる老後資金対策ではなく、人生後半をより自由で豊かなものにするための重要な戦略なのです。

参考

日本経済新聞 2026年10月11日付 「70代こそ働くのをやめるな 作家・林真理子氏『卒婚も選択肢に』」

内閣府 令和6年度高齢者の経済生活に関する調査

日本年金機構 在職老齢年金制度

日本年金機構 年金の繰下げ受給

厚生労働省 高年齢者雇用安定法の概要

タイトルとURLをコピーしました