二地域居住が変える地方創生の新しい形 移住しなくても地域を支える時代へ

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人口減少と高齢化が進む日本では、地方創生のあり方が大きな転換点を迎えています。

これまで地方自治体は、都市部からの移住者を増やし、定住人口を確保することに力を注いできました。しかし、全国的に人口が減少するなかで、自治体同士が限られた移住希望者を奪い合う政策には限界があります。

そこで注目されているのが、都市部と地方の双方に生活拠点を持つ「二地域居住」です。

2026年8月末時点で、全国二地域居住等促進官民連携プラットフォームに参画する自治体は813自治体となり、5年間で約3割増加しました。

二地域居住は、単なる週末の田舎暮らしではありません。地方の人手不足を補い、空き家の活用を進め、地域経済に新しい需要を生み出す可能性を持っています。

今回は、二地域居住が広がる背景と自治体の先進事例を整理しながら、地方創生、地域経済、不動産市場、そして人生100年時代の暮らし方に与える影響を考えます。

二地域居住とは何か

二地域居住とは、主な生活拠点とは別に、特定の地域にも生活拠点を設け、継続的に行き来する暮らし方です。

例えば、平日は東京で働き、週末は地方の住宅で生活するケースが考えられます。

また、リモートワークを活用して、月の半分を都市部、残りの半分を地方で過ごす働き方もあります。

退職後に都市部の自宅を維持しながら、地方で農業や地域活動に参加する暮らし方も二地域居住の一つです。

従来の移住政策との大きな違いは、住民票を移すことや完全に生活拠点を移転することを必ずしも前提としない点です。

移住には、仕事、住宅、教育、医療、家族関係など、さまざまな制約があります。

一方、二地域居住であれば、現在の仕事や生活基盤を維持しながら地方との関係を深めることができます。

つまり、移住するかしないかという二者択一ではなく、都市部と地方の双方に関わる第三の選択肢が生まれたのです。

二地域居住を国が後押しする理由

政府は2024年、二地域居住の促進に向けて関連法制度を整備しました。

具体的には、自治体が二地域居住の促進計画を策定し、住宅や仕事の環境を整備しやすくする仕組みが導入されています。

空き家の改修や活用を進めるほか、一定の条件のもとで住居専用地域へのコワーキングスペースの設置を認める特例も設けられました。

こうした制度整備の背景には、地方の人口減少があります。

人口が減少する地域では、商店、医療機関、交通機関などの生活サービスを維持することが難しくなっています。

さらに、農業、観光業、地域行事などを支える人材も不足しています。

従来の定住人口を増やす政策だけでは、こうした課題を解決することは容易ではありません。

そこで、住民票の所在地にかかわらず、地域を訪れ、働き、消費し、活動する人を増やす政策へと転換が進んでいるのです。

重要なのは、人口そのものを増やすことだけではなく、地域に関わる人の活動量を増やすという考え方です。

全国813自治体が参加する二地域居住の取り組み

2026年8月末時点で、全国二地域居住等促進官民連携プラットフォームに参画する自治体は813自治体となりました。

都道府県別では、栃木県が県を含む全26自治体の参画を実現しています。

和歌山県の参画割合は83.9%、富山県は81.3%となっています。

関東・山梨では351自治体のうち148自治体が参画し、割合は42.2%です。

これらの数字から、二地域居住が一部の観光地だけの取り組みではなく、全国的な地域政策として広がっていることが分かります。

もっとも、プラットフォームへの参画自治体数と、実際に二地域居住を行っている人数は異なります。

自治体が制度に参加しただけで、地域経済が活性化するわけではありません。

重要なのは、二地域居住者が地域を繰り返し訪れ、住民との交流を深め、地域活動に参加する仕組みを整えることです。

栃木県那須町に見る二地域居住の経済効果

二地域居住の先進事例として注目されるのが栃木県那須町です。

那須町は首都圏からのアクセスが比較的良く、観光地や別荘地として知られています。

しかし、近年は商店の減少など、地域経済の課題も抱えています。

こうした地域で、二地域居住者が新たな事業の担い手となる動きが生まれています。

東京で産業医として働く女性が、2023年に那須町でカフェを開業しました。

当初は週3日程度の営業でしたが、その後、週5日まで営業日を増やしました。

これは、二地域居住が地域経済に与える効果を考えるうえで重要な事例です。

二地域居住者は、単に地方で消費するだけの存在ではありません。

都市部で培った知識、経験、人脈、資金などを地方に持ち込み、新しい事業を生み出すことができます。

新たな店舗が開業すれば、地域住民の利便性が高まり、地域内の消費も増える可能性があります。

地方創生において、二地域居住者は消費者であると同時に、事業者や地域活動の担い手にもなり得るのです。

デジタル技術で地域との関係を継続する

那須町では、二地域居住者との関係を継続するため、デジタル技術を活用しています。

伊藤忠テクノソリューションズと連携して開発した「ふるさとアプリ」がその一例です。

町外に住民票を置く利用者が、町内の飲食店やスーパーなどの協力店舗を訪問し、店頭の2次元コードを読み取るとポイントがたまります。

ポイントに応じて商品やサービスなどの特典を受けられる仕組みです。

コワーキング施設の利用料金を半額にする特典も用意されています。

登録者は3,000人近くとなり、2029年度末までに1万人へ増やす計画です。

この取り組みで注目したいのは、地域への訪問を継続的な行動につなげようとしている点です。

観光客は通常、旅行が終われば地域との関係が途切れます。

しかし、ポイント制度や地域サービスを通じて再訪の動機を生み出せば、継続的な関係を構築できます。

自治体にとっては、登録者数だけでなく、再訪率、地域内消費額、地域活動への参加状況などを把握することが重要になるでしょう。

和歌山県白浜町は仕事と滞在を組み合わせる

和歌山県白浜町では、南紀白浜空港を活用した二地域居住の促進に取り組んでいます。

白浜町は観光地としての知名度が高く、都市部から航空機でアクセスできることが強みです。

宿泊事業者などと連携し、テレワーク設備を備えた滞在施設の整備を進めています。

観光と仕事を組み合わせるワーケーション需要を取り込む狙いです。

南紀白浜空港の搭乗者数については、2029年度に30万人とし、2024年度比で約3割増やす目標が掲げられています。

この取り組みは、地方への移住を促すだけでなく、都市部の仕事を維持したまま地方に滞在できる環境を整備するものです。

企業にとっても、従業員の働き方の選択肢を広げる効果が期待されます。

ただし、ワーケーション施設を整備するだけでは十分ではありません。

安定した通信環境、交通手段、医療体制、生活用品の購入環境など、長期滞在を支える生活基盤も必要です。

観光地としての魅力を、暮らす場所としての魅力へと発展させられるかが重要になります。

山梨県丹波山村は教育を通じて家族を呼び込む

山梨県丹波山村は、人口500人未満の小規模自治体です。

村の面積の97%を山林が占める一方、東京方面から比較的アクセスしやすい立地を生かして、二地域居住の促進に取り組んでいます。

2025年7月には特定居住促進計画を策定し、2028年度までに新規の二地域居住者を累計16人増やす目標を掲げました。

特徴的なのは、教育を通じて子育て世帯を呼び込む政策です。

2026年度からは、ドイツ発祥のイエナプラン教育を地域の実情に合わせて取り入れた「丹波山式ゆるイエナ」を掲げています。

子どもの個性や自主性を尊重する教育環境を整え、親子で地方生活を体験できる仕組みを推進しています。

子育て世帯にとって、移住の大きな障壁の一つが教育環境の変化です。

二地域居住型の教育制度が広がれば、住民票や生活基盤をすぐに移さなくても、地方での教育を経験する選択肢が増えます。

人口規模が小さい自治体でも、教育という独自の魅力を生かして都市部との関係を深めることができるのです。

群馬県富岡市は空き家を移住体験住宅に活用

群馬県富岡市では、空き家を改修した「まちなか移住体験住宅」を活用しています。

世界文化遺産の富岡製糸場から徒歩約10分の場所にある住宅を整備し、二地域居住や移住を検討する人に貸し出しています。

2018年度から2025年度までの利用実績は、新型コロナウイルス禍による休止期間を含めて累計45件、103人でした。

このうち4組9人が移住・定住につながっています。

利用者全員が移住したわけではありませんが、地方での生活を実際に経験できる仕組みとして意味があります。

住宅購入や長期賃貸契約を結ぶ前に、地域の暮らしを体験できるためです。

自治体にとっても、空き家の有効活用と地域への人の呼び込みを同時に進められます。

ただし、空き家を改修するには費用がかかります。

建物の老朽化、耐震性、断熱性能、維持管理費なども考慮しなければなりません。

公的資金を投入する場合には、利用者数だけでなく、地域経済への波及効果や施設の維持費を含めた費用対効果を検証する必要があります。

二地域居住は地方の担い手不足を補えるか

地方では、人口減少によって地域活動を支える人材が不足しています。

農業の繁忙期、祭りの運営、地域施設の管理など、地域住民だけでは対応が難しい活動も増えています。

広島県庄原市では、農作業や地域行事を体験できる「庄原さとやま留学」などを通じて、地域外の人が活動に参加する機会を設けています。

二地域居住者が農作業や地域行事に継続的に参加すれば、地域の人手不足を補う効果が期待できます。

ただし、無償の手伝いに過度に依存する仕組みには限界があります。

継続的な労働力として期待する場合には、適切な報酬や労働条件を整えることも必要です。

また、地域住民との信頼関係を築くことも欠かせません。

短期間だけ訪れる人に地域運営の重要な役割を任せるには、責任分担や情報共有の仕組みが求められます。

二地域居住者を一時的な人手として扱うのではなく、地域を共に支える人材として受け入れることが重要です。

二地域居住が不動産市場に与える影響

二地域居住の拡大は、地方の住宅市場にも変化をもたらす可能性があります。

人口減少が進む地方では、空き家の増加が深刻な課題となっています。

住宅の需要が減少すれば、売却や賃貸が難しくなり、管理されない空き家が増える恐れがあります。

一方、二地域居住の需要が高まれば、これまで利用されていなかった住宅に新しい需要が生まれます。

例えば、空き家を短期滞在住宅や月単位の賃貸住宅として活用する方法があります。

複数の利用者で住宅を共同利用する仕組みも考えられます。

住宅所有者にとっては、売却以外の選択肢が増えることになります。

ただし、地方の空き家がすべて二地域居住に適しているわけではありません。

交通利便性、医療機関へのアクセス、通信環境、建物の状態などによって需要は大きく異なります。

また、二地域居住を目的とする住宅取得では、固定資産税、維持管理費、修繕費、交通費などの継続的な負担が発生します。

不動産価格が安いという理由だけで購入すると、結果的に高い維持費を負担することにもなりかねません。

二地域居住を検討する際には、住宅取得費だけでなく、長期的な総費用を把握することが重要です。

二地域居住と税制の関係

二地域居住を考えるうえでは、税制や行政サービスの問題も見逃せません。

原則として、個人住民税は1月1日時点の住所地において課税されます。

二地域居住をしているからといって、両方の自治体で同じ個人住民税が二重に課税されるわけではありません。

ただし、住民票のある自治体とは別の自治体に住宅を所有または賃借し、事務所、事業所、家屋敷に該当する場合には、一定の条件で個人住民税の均等割が課されることがあります。

また、住宅を所有すれば、所在地の自治体で固定資産税などが課税されます。

税負担の判断には、住宅の利用実態や自治体の条例などが関係します。

一方、二地域居住者は滞在先の道路、ごみ処理、消防、地域施設などの行政サービスを利用します。

そのため、住民票を置かない人が増えた場合、自治体の行政サービスに必要な財源をどのように確保するかという課題が生じます。

二地域居住の拡大に合わせて、行政サービスの費用負担や自治体間の財政調整を検討する必要性も高まるでしょう。

人生100年時代の新しい暮らし方

二地域居住は、現役世代だけでなく、定年後の生活設計にも大きな可能性があります。

従来は、定年退職後に地方へ完全移住するという選択肢が注目されてきました。

しかし、高齢期には医療、介護、家族との関係などを考慮する必要があります。

都市部の住宅を手放して地方へ移住すると、医療機関へのアクセスや家族の支援などに不安が生じる場合があります。

その点、二地域居住であれば、都市部の生活基盤を維持しながら地方生活を楽しむことができます。

例えば、60代は都市部で働きながら週末に地方で過ごし、70代は地方での滞在期間を増やし、健康状態や家族の事情に応じて生活拠点を調整する方法が考えられます。

また、地方で農業、地域活動、オンライン業務などに参加すれば、退職後も社会とのつながりを維持できます。

人生100年時代において重要なのは、住む場所を一度決めたら変えないことではありません。

年齢、健康状態、働き方、家族構成に応じて、生活拠点を柔軟に選択できることです。

二地域居住は、こうした柔軟な人生設計を可能にする仕組みの一つといえます。

二地域居住の普及に向けた課題

二地域居住には多くの可能性がある一方、解決すべき課題も残されています。

第一に、経済的な負担です。

住宅を2か所維持する場合、住居費、光熱費、通信費、交通費などが増加します。

第二に、交通手段の確保です。

地方では自家用車が必要になる地域も多く、高齢になって運転が難しくなった場合の生活手段を考えておく必要があります。

第三に、医療や介護の問題です。

滞在先で急病になった場合の対応や、将来介護が必要になった場合の生活設計を事前に検討することが重要です。

第四に、地域社会との関係です。

二地域居住者が地域に受け入れられるためには、地域の慣習や生活環境を理解し、住民との信頼関係を築く必要があります。

第五に、自治体の財政負担です。

滞在施設や交流施設の整備には費用がかかります。

登録者数だけを成果指標にすると、実際の地域経済への貢献が見えにくくなる恐れがあります。

二地域居住政策では、地域内消費、事業創出、空き家活用、地域活動への参加など、具体的な成果を継続的に検証することが求められます。

結論

二地域居住の広がりは、日本の地方創生政策が新しい段階に入ったことを示しています。

これまでの地方創生は、都市部から地方へ人を移住させ、定住人口を増やすことに重点が置かれてきました。

しかし、人口減少が全国的に進むなかで、すべての自治体が定住人口を増やし続けることは現実的ではありません。

これから重要になるのは、住民票の所在地にかかわらず、地域を継続的に訪れ、働き、消費し、地域活動に参加する人を増やすことです。

栃木県那須町の事業創出、和歌山県白浜町のワーケーション、山梨県丹波山村の教育、群馬県富岡市の空き家活用など、自治体ごとに異なる取り組みが進んでいます。

これらに共通するのは、地域の特性を生かしながら、都市部との継続的な関係を築こうとしている点です。

ただし、二地域居住者の登録者数を増やすだけでは、地域の持続可能性は高まりません。

地域経済への貢献、住民との交流、行政サービスの費用負担、住宅や交通の整備などを総合的に考える必要があります。

そして、人生100年時代を迎える個人にとっても、二地域居住は重要な選択肢になります。

働く場所と住む場所を必ずしも一致させる必要がなくなり、年齢や健康状態に応じて生活拠点を柔軟に変えることができるからです。

これからの地方創生は、移住者の数を競う時代から、地域との関係の深さを高める時代へと変わっていくでしょう。

二地域居住の本質は、住む場所を2つ持つことではなく、人生の選択肢と地域を支える人のつながりを増やすことにあります。

参考

日本経済新聞 2026年10月掲載 データで読む地域再生「二地域居住」気軽に地方体験、推進自治体は3割増 担い手不足も解消

日本経済新聞 2026年10月掲載 データで読む地域再生 関東・山梨「関東・山梨の二地域居住、都市との近さ武器 山村留学やお試し滞在」

国土交通省 二地域居住等の促進に関する制度資料

総務省 ふるさと住民登録制度に関する資料

全国二地域居住等促進官民連携プラットフォーム 2026年8月末時点の参画自治体情報

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