企業価値担保権で何が担保になるのか 不動産を持たない会社にも広がる融資の可能性

経営

銀行融資における担保と聞けば、土地や建物を思い浮かべる人が多いでしょう。

そのため、不動産をあまり持っていない会社では、「うちは担保に出せるものがないから、大きな融資は難しい」と考えることがあります。

しかし、企業の価値は不動産だけで決まるものではありません。

長年築いてきた顧客基盤。

独自の技術や知的財産。

取引先との契約関係。

ブランドやノウハウ。

こうしたものも、事業が利益やキャッシュフローを生み出す重要な源泉です。

企業価値担保権は、このような価値を含めた事業全体を捉える新しい融資の枠組みです。

企業価値担保権は不動産担保と何が違うのか

従来の融資では、不動産など個別の資産が担保として利用されてきました。

土地や建物であれば、その資産自体を確認しやすく、一定の評価を行うこともできます。

一方、企業価値担保権では、企業の総財産を担保として捉えます。

対象となるのは不動産だけではありません。

機械設備、在庫、売掛金などの有形資産に加え、知的財産、顧客基盤、契約関係、ブランド、ノウハウなども含め、事業を構成する価値全体が評価対象になります。

重要なのは、個々の資産だけを見るのではなく、それらを組み合わせて事業がどれだけの価値を生み出しているのかを見ることです。

顧客基盤も会社の重要な価値になる

長年にわたり安定した取引を続けている顧客がいる会社を考えてみましょう。

顧客基盤は土地や建物のように目で見ることはできません。

しかし、継続的な受注につながっているのであれば、将来の売上やキャッシュフローを生み出す重要な源泉です。

企業価値担保権では、このような顧客基盤も事業全体の価値を考える際の対象になります。

ただし、「優良顧客がたくさんいます」と説明するだけでは十分ではありません。

主要顧客との取引状況。

継続取引の割合。

顧客別の売上。

今後の受注見通し。

こうした情報を整理することで、顧客基盤がどのように収益につながっているのかを説明しやすくなります。

技術や知的財産も評価対象になる

製造業などでは、独自技術が競争力の源泉になっている場合があります。

特許などの知的財産を持っている会社もあります。

従来の不動産担保中心の考え方では、このような価値を担保として直接捉えることには限界がありました。

企業価値担保権では、知的財産を含めた事業全体の価値が評価対象となります。

もっとも、特許を持っているという事実だけで企業価値が決まるわけではありません。

その技術が顧客から選ばれる理由になっているのか。

競合との差別化につながっているのか。

売上や利益を生み出しているのか。

将来もキャッシュフローを生み出すことが期待できるのか。

こうした事業とのつながりを説明することが重要になります。

ブランドやノウハウも見えない資産

ブランドやノウハウも同じです。

長年の事業活動によって築いたブランドがあることで、顧客が自社の商品を選んでいるかもしれません。

独自の製造方法や営業方法、サービス提供の仕組みなどが、競争力につながっている会社もあります。

これらは決算書の資産として、その価値がそのまま表れているとは限りません。

しかし、事業を継続し、利益を生み出すうえでは重要な役割を果たします。

企業価値担保権によって評価対象が広がることは、こうした見えにくい価値を持つ企業にとって大きな意味があります。

不動産を持たない会社にも可能性が広がる

企業価値担保権の特徴が表れやすいのが、不動産をあまり持たない企業です。

資料では、不動産を持たないスタートアップや事業承継を控えた企業でも、事業全体の価値を将来キャッシュフローや収益力を踏まえて評価することで、担保余力や融資判断の材料が広がる利点が示されています。

たとえば、成長企業には大きな顧客基盤や独自技術があっても、土地や建物をほとんど所有していない場合があります。

これまでであれば、事業の成長性と担保の不足が別の問題として存在していました。

企業価値担保権では、企業が持つ事業そのものの価値を融資の枠組みの中で捉えることになります。

資金調達の選択肢を広げる可能性があるわけです。

何でも高く評価される制度ではない

ここで注意したいのは、「無形資産があれば融資を受けやすくなる」と単純に考えないことです。

金融機関にとって重要なのは、事業価値が最終的にどのようなキャッシュフローを生み出すのかという点です。

ブランドがある。

技術力がある。

ノウハウがある。

顧客基盤がある。

これらは重要ですが、それだけで借入金を返済できるわけではありません。

その価値によって、どのように顧客を獲得し、売上を生み、利益を確保し、キャッシュフローにつなげるのか。

ここまで説明する必要があります。

事業性評価の基本である返済可能性が重要であることは、企業価値担保権になっても変わりません。

会社自身が事業価値を説明する必要がある

企業価値担保権を活用するうえで、企業側に求められる重要な準備があります。

それは、自社の事業価値を説明できる状態にしておくことです。

資料では、企業が事業性評価融資や企業価値担保権に対応するためには、金融機関に自社の事業価値を説明できる状態にすることが大切だとされています。

自社の強み。

収益構造。

資金使途。

投資効果。

将来キャッシュフロー。

これらを事業計画書などを通じて整理しておく必要があります。

「銀行が会社の価値を見つけてくれる」と考えるのではなく、企業側から価値を説明することが重要になります。

借入によって企業価値がどう高まるのか

企業価値担保権では、現在の企業価値だけを説明すればよいわけではありません。

借りた資金によって、将来の企業価値がどう変わるのかも重要です。

たとえば設備投資を行う場合、

生産能力が高まる。

受注できる仕事が増える。

売上が増える。

利益が増える。

キャッシュフローが増える。

企業価値が高まる。

という流れを説明できれば、資金使途と企業価値の向上がつながります。

資料の実践チェックリストでも、借入によって企業価値や担保余力がどのように高まるのかを説明できるかが確認項目となっています。

「いくら借りるか」だけでなく、「借りることで会社がどう変わるか」が重要なのです。

融資後も金融機関との対話が続く

企業価値担保権は、融資を受けるときだけ企業価値を評価して終わる仕組みではありません。

事業価値を維持し、向上させていくためには、融資後の継続的な管理も重要になります。

資料では、事業計画と実績との差異、主要KPI、資金繰り、業績悪化の予兆などを継続的に確認する必要があるとされています。

企業側にも、試算表や資金繰り表などを共有しながら金融機関と対話することが求められます。

通常の不動産担保融資以上に、企業と金融機関との継続的な関係が重要になる制度といえるでしょう。

債務不履行時の考え方も異なる

企業価値担保権には、通常の不動産担保とは異なる特徴があります。

不動産担保であれば、債務不履行が発生した際に不動産を売却して回収するという考え方があります。

一方、企業価値担保権では、事業価値をできるだけ毀損させない形で、事業譲渡やM&Aに近い手法による回収が想定されています。

そのため金融機関側にも、事業価値を見極める力だけでなく、買い手候補を探すネットワークなどが必要になります。

企業価値担保権は、単に「担保になるものを増やした制度」ではないことがわかります。

事業そのものを価値あるものとして捉える考え方が根底にあります。

結論

企業価値担保権によって、銀行融資における担保の考え方は大きく広がります。

不動産。

機械設備。

在庫。

売掛金。

これらに加えて、顧客基盤、知的財産、契約関係、ブランド、ノウハウなどを含む事業全体の価値が評価対象になります。

これは、不動産を多く持たない企業にとって、資金調達の可能性を広げる制度といえます。

ただし、見えない企業価値を持っているだけでは十分ではありません。

その価値がなぜ存在するのか。

どのように売上や利益を生み出しているのか。

将来どのようなキャッシュフローにつながるのか。

借入によって、その企業価値がどう高まるのか。

企業側がこれらを説明できる状態にしておく必要があります。

企業価値担保権の本質は、「不動産がなくても借りられる」という単純な話ではありません。

土地や建物だけでは測れなかった会社の事業そのものを、融資判断の中でどう評価していくのか。

その意味で、企業側にも「自社の本当の価値は何なのか」を改めて整理することが求められる制度なのです。

参考

企業実務 2026年10月号 金融機関はあなたの会社をこう見ている「事業性評価」の本音と建前

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