上場企業には、投資家へさまざまな情報を開示することが求められています。
売上高や利益などの財務情報だけではありません。
事業の状況。
経営上のリスク。
サステナビリティに関する情報。
役員や株式に関する情報。
コーポレートガバナンスに関する情報。
企業によっては、重要な契約や事業再編などについて情報を開示することもあります。
こうした情報開示で重要なのは、
「正しい情報を出す」
ことだけではありません。
必要な情報を集める。
内容を確認する。
重要性を判断する。
必要な承認を受ける。
決められた期限までに開示する。
この一連の仕組みが必要になります。
これが開示統制です。
今回、金融庁が検討している有価証券報告書の確認書の厳格化でも、正確な有価証券報告書を作成し、開示するための社内手続きが重要になります。
経営者が完成した有価証券報告書を最後に読むだけではなく、必要な情報が正確に集まり、適切に開示される会社の仕組みそのものに責任を持つ方向へ進んでいるのです。
開示統制とは何か
開示統制とは、企業が外部へ開示すべき情報を適切に収集し、内容を確認し、必要な判断や承認を経て、正確かつ適時に開示するための社内の仕組みです。
上場企業では、会社の中に膨大な情報があります。
営業部門には売上に関する情報があります。
経理部門には決算情報があります。
法務部門には訴訟や契約に関する情報があります。
人事部門には従業員や役員に関する情報があります。
経営企画部門には事業計画や投資案件に関する情報があります。
子会社にもさまざまな情報があります。
問題は、会社のどこかに重要な情報が存在しているだけでは投資家へ伝わらないことです。
その情報を必要な部署へ集め、
「これは開示する必要があるのか」
と判断し、
内容を確認したうえで外部へ公表する必要があります。
この情報の流れを会社の仕組みとして整えるのが開示統制です。
正しい情報だけでは足りない
企業の情報開示では正確性が重要です。
売上高が1兆円なのに9000億円と開示すれば問題です。
しかし、正しい情報であれば、いつ公表してもよいわけではありません。
投資判断に重要な情報が社内では判明しているのに、必要な開示が遅れれば、投資家の判断に影響する可能性があります。
つまり情報開示には、
正確性。
完全性。
適時性。
などが重要になります。
必要な情報が漏れていないか。
数字や説明は正しいか。
決められた時期に開示できているか。
こうした条件を満たすために開示統制が必要になります。
情報を集める仕組みが重要
大企業になるほど、経営トップが会社のすべての情報を直接把握することは難しくなります。
国内に多数の事業所があるかもしれません。
海外にも子会社があるかもしれません。
そこで重要になるのが、情報を下から上へ上げる仕組みです。
たとえば海外子会社で大きな問題が発生したとします。
現地の担当者は知っています。
現地の経営者も知っています。
しかし、本社へ報告されなければ、本社の経営トップは知ることができません。
その結果、本来なら有価証券報告書などで検討すべき重要な情報が開示されない可能性があります。
そこで、
どのような事象が発生したら本社へ報告するのか。
誰に報告するのか。
何日以内に報告するのか。
誰が開示の必要性を判断するのか。
といったルールを作ります。
開示統制の出発点は、重要な情報が必要な場所まで届く仕組みを作ることなのです。
開示するかどうかを判断する
会社で起きたことをすべて投資家へ公表するわけではありません。
毎日の取引を一件ずつ開示することは現実的ではありません。
そこで、
「この情報は投資家の判断にとって重要なのか」
を考える必要があります。
たとえば非常に小さな取引であれば、会社全体への影響はほとんどないかもしれません。
一方、会社の業績に大きな影響を与える出来事であれば、重要性が高くなります。
この判断を現場の担当者一人だけに任せるのは危険です。
そのため、経理、法務、経営企画、IRなど複数の部門が関与し、必要に応じて経営陣へ報告して判断する仕組みを作ります。
何を開示するかを判断するプロセスも開示統制の重要な部分です。
開示内容を確認する
開示することが決まったら、次は内容を確認します。
数字は正しいか。
説明は事実と一致しているか。
財務諸表と本文の数字に食い違いがないか。
過去に開示した情報と矛盾していないか。
必要な事項が抜けていないか。
こうした確認を行います。
有価証券報告書の場合、一つの部署だけで作成するとは限りません。
経理部門が財務情報を作成します。
人事部門が人的資本などに関する情報を提供する場合があります。
法務部門が訴訟などに関する情報を確認することもあります。
経営企画部門が経営方針などの記載に関与する場合もあります。
複数の部署が作った情報を一つの有価証券報告書へまとめるため、全体として整合しているかを確認する必要があります。
誰が承認するのかを決める
開示統制では、情報を外部へ出す前の承認も重要です。
担当者が自由に有価証券報告書の内容を書き換え、そのまま提出できる状態では問題があります。
そこで会社は、
誰が原稿を作成するのか。
誰が内容を確認するのか。
誰が最終的に承認するのか。
という役割を決めます。
重要な開示については、経営会議や取締役会などが関与する場合もあります。
ここでも職務分掌の考え方が使われます。
作成する人と確認する人を分けることで、誤りや不適切な記載を発見しやすくします。
内部統制とは何が違うのか
開示統制も広い意味では会社の内部管理の仕組みです。
そのため、内部統制と密接に関係します。
ただし、財務報告に係る内部統制と開示統制では、焦点が少し違います。
財務報告に係る内部統制では、
「正しい財務報告を作るための仕組み」
が中心になります。
たとえば売上が正しく計上されているか。
在庫が正しく記録されているか。
決算処理が適切に行われているか。
といった仕組みです。
これに対して開示統制では、
「開示すべき情報を集め、確認し、適切な時期に外部へ出す仕組み」
が中心になります。
財務情報を正しく作るだけではなく、その情報を含めて開示すべき情報を適切に公表するところまで考えるのです。
財務情報だけではない理由
有価証券報告書には、財務諸表以外にも多くの情報が記載されています。
たとえば事業等のリスクがあります。
会社に重大なリスクが発生していても、その情報が経理部門へ自動的に集まるとは限りません。
法務部門や事業部門が把握している可能性があります。
サステナビリティや人的資本などに関する情報も、経理部門だけでは作れません。
人事部門やサステナビリティを担当する部署などから情報を集める必要があります。
つまり、有価証券報告書全体の信頼性を高めるには、
「会計数字が正しく作られる仕組み」
だけでは足りません。
非財務情報についても、正しい情報を集めて確認する仕組みが必要になります。
ここに開示統制の重要性があります。
子会社からの情報収集も重要になる
企業グループでは、親会社だけの情報を集めればよいわけではありません。
子会社で発生した出来事がグループ全体に重大な影響を与えることがあります。
特に海外子会社の場合、本社との距離が遠く、言語や商習慣も違います。
現地では重大な問題だと認識されていても、本社へ十分に伝わらない可能性があります。
そこで、
重要な問題が発生したら本社へ報告する。
一定金額以上の損失が見込まれれば報告する。
重大な訴訟や法令違反があれば報告する。
といった情報収集のルールを作ります。
本社の経営者が知らなかったという事態を防ぐには、経営者自身がすべての子会社を監視するのではなく、重要な情報が自動的に上がってくる仕組みを作ることが重要なのです。
開示統制が機能しているとはどういうことか
会社に立派な開示規程があれば、それだけで開示統制が機能しているわけではありません。
たとえば、
「重要な問題が発生した場合は本社へ報告する」
という規程があったとします。
しかし、現場の社員がそのルールを知らなければ意味がありません。
報告しても上司のところで情報が止まれば、経営トップまで届きません。
情報が届いても、開示の必要性を誰も判断しなければ公表されません。
つまり、
ルールが存在すること。
社員がルールを理解していること。
実際に情報が報告されていること。
必要な部署へ情報が届くこと。
開示の要否が判断されること。
期限までに正しく公表されること。
ここまで動いて初めて開示統制が機能しているといえます。
今回の確認書厳格化との関係
金融庁が検討している確認書の厳格化では、開示統制という考え方が重要になります。
これまでの確認書では、有価証券報告書の記載内容が金融商品取引法令に基づいて適正に記載されていることを経営者が確認した旨などを記載しています。
今回の見直しでは、それに加えて、正確な有価証券報告書を作成し開示するための手続きが社内で整備されていることや、そのチェック体制が実際に機能しているかを経営者自身が点検したことを記載する方向です。
つまり、
「出来上がった有価証券報告書は正しいと思います」
という確認から、
「正しい有価証券報告書が作られ、適切に開示される会社の仕組みがあり、その仕組みが機能していることも確認しました」
という方向へ経営者の責任を明確にすることになります。
経営者がすべての情報を確認するわけではない
大企業の社長が、有価証券報告書に使われるすべての情報を一件ずつ確認することは現実的ではありません。
重要なのは、
必要な情報が集まる仕組みがあるか。
適切な人が内容を確認しているか。
重要な問題が経営トップまで上がってくるか。
開示するかどうかを適切に判断できるか。
決められた期限までに開示できるか。
という仕組みを経営者が把握することです。
経営者に求められるのは、すべての開示資料を自分一人で作ることではありません。
正しい情報が正しい経路を通って投資家へ届く会社を作ることなのです。
結論
開示統制とは、企業が外部へ開示すべき情報を適切に収集し、内容を確認し、必要な判断や承認を経て、正確かつ適時に公表するための仕組みです。
財務報告に係る内部統制が、正しい財務情報を作る仕組みを中心に考えるのに対し、開示統制では、その情報を含めて必要な情報を適切に外部へ届けるところまで考えます。
有価証券報告書には財務情報だけでなく、多くの非財務情報も掲載されています。
そのため、経理部門だけでなく、法務、人事、経営企画、IR、事業部門、国内外の子会社などから重要な情報を集める仕組みが必要です。
そして今回検討されている確認書の厳格化では、こうした作成や開示の手続きが整備され、実際に機能していることを経営者自身が確認する方向です。
重要なのは、
「社長が会社のすべてを知っていること」
ではありません。
社長が知らなければならない重要な情報が、確実に社長まで届く仕組みを作ることです。
正しい情報を作る。
必要な情報を集める。
正しく確認する。
必要な時期に投資家へ届ける。
この一連の流れを会社の仕組みとして支えるのが開示統制なのです。
参考
日本経済新聞 2026年8月29日 朝刊 会計、経営者自ら確認 不正防止へ「宣言」義務付け 金融庁