2026年6月に成立した改正法によって、法定後見制度は大きく変わります。
現在の後見、保佐、補助という3種類を補助に一本化し、本人に必要な権限を個別に設定する仕組みになります。
さらに支援の必要がなくなったと家庭裁判所が判断すれば、制度を終了できるようになります。
改正法は2028年12月までに施行される予定です。
これだけ大きな制度改正が予定されているなら、認知症対策も2028年まで待った方がよいと思うかもしれません。
しかし、認知症の財産管理で最も重要なのは制度改正の時期ではありません。
本人が自分で判断できる時期です。
制度が変わるのを待っている間に判断能力が低下すれば、現在選べる選択肢を失ってしまう可能性があります。
制度改正と認知症の進行は別問題
法律の施行時期は決まっています。
しかし認知症になる時期は決められません。
2028年まで元気でいられるかもしれません。
その前に判断能力が低下する可能性もあります。
さらに認知症だけが問題ではありません。
脳卒中などによって突然意思表示が難しくなることもあります。
財産管理対策を「認知症になってから考える問題」と捉えていると、準備できる時期を逃す可能性があります。
重要なのは年齢ではなく、自分で契約内容を理解して判断できる間に準備することです。
元気なうちだから選べる制度がある
認知症対策には、本人の判断能力が低下した後でも利用できる制度と、元気なうちでなければ準備できない仕組みがあります。
法定後見制度は、判断能力が低下した後に利用することができます。
一方、任意後見は本人が十分な判断能力を持っている間に契約しておく必要があります。
家族信託も同様です。
本人が信託契約の内容を理解し、自分の意思で契約できなければなりません。
金融機関の予約型代理人サービスについても、基本的には本人が自分で代理人を指定できる段階で準備します。
つまり元気な時期には複数の選択肢がありますが、判断能力が低下すると選択肢が狭くなるのです。
最初に財産を一覧にする
認知症対策というと、すぐ家族信託や任意後見を考える人がいます。
しかし最初に行うべきなのは、自分の財産を把握することです。
銀行口座。
証券口座。
自宅。
賃貸不動産。
生命保険。
借入金。
クレジットカード。
定期的に支払っている費用。
こうした情報を整理します。
財産の全体像が分からなければ、どのような管理体制が必要なのか判断できません。
複数の金融機関に少額の預金が分散しているなら、口座を整理するだけでも将来の管理負担を減らせます。
銀行口座の将来を考える
認知症になったときに家族が困りやすいのが銀行口座です。
本人の判断能力が低下すると、金融機関が本人の意思を確認できず、家族が希望する取引を進められないことがあります。
そこで元気なうちに、自分が利用している金融機関にどのような代理人制度があるのか確認しておくことが重要です。
予約型代理人サービスなどを提供している金融機関であれば、将来の代理人をあらかじめ指定できる場合があります。
ただし金融機関によって対象者や利用条件、代理できる取引の範囲は異なります。
口座を持っているだけで安心せず、自分の銀行ではどのような制度があるのか確認しておく必要があります。
実家をどうするか決めておく
財産管理で特に問題になりやすいのが不動産です。
例えば将来介護施設へ入居した場合、自宅をどうするのでしょうか。
そのまま残す。
子どもが住む。
賃貸する。
売却して施設費に充てる。
選択肢はいくつもあります。
しかし本人の判断能力が低下してから売却しようとすると、本人自身による契約が難しくなります。
法定後見制度などによる対応が必要になる可能性があります。
将来自宅を売却する可能性が高いのであれば、元気なうちに家族信託などを検討する余地があります。
賃貸不動産はさらに早い準備が必要
賃貸不動産を所有している人は、より早い準備が必要です。
賃貸経営は本人が認知症になったからといって止まりません。
家賃が入ります。
修繕が発生します。
入居者との契約があります。
管理会社とのやり取りがあります。
固定資産税なども支払います。
本人が判断できなくなった後、誰がこれらを行うのでしょうか。
家族信託などによって管理できる体制を作っておく方法があります。
不動産を持つ人の認知症対策は、自分自身の生活だけでなく賃貸事業の継続という視点も必要です。
任意後見で将来の支援者を決める
財産だけではなく、自分自身の生活を誰に支援してもらうかも考える必要があります。
介護サービスに関する契約。
介護施設への入居。
生活費の管理。
住居に関する手続き。
こうした法律行為について将来支援してほしい人を決めておく方法が任意後見です。
任意後見では本人が元気なうちに、自分で任意後見人になる人を選びます。
法定後見のように判断能力が低下してから家庭裁判所に支援者を選んでもらう仕組みとは違います。
誰に任せたいのかという本人の意思を反映できることが大きな特徴です。
家族と話しておくこと自体が対策になる
制度を準備することだけが認知症対策ではありません。
家族との話し合いも重要です。
認知症になったらどこで暮らしたいのか。
できる限り自宅で暮らしたいのか。
介護施設へ入ることも考えているのか。
自宅は残したいのか。
売却して介護費用に使ってよいのか。
どの財産から生活費を支払うのか。
本人が元気なうちなら、自分の希望を言葉で伝えられます。
判断能力が低下した後では、家族が「本人ならどう考えただろう」と推測しなければならなくなります。
相続より前の財産管理を見る
高齢者の財産について家族が考えるとき、どうしても相続に目が向きます。
誰が自宅を相続するのか。
相続税はいくらになるのか。
生前贈与をした方がよいのか。
もちろん重要な問題です。
しかし相続が発生する前に、認知症になってから10年、20年と生活する可能性があります。
その間にも介護費、医療費、生活費が必要です。
自宅の管理も必要です。
本人の財産を本人の生活のためにどう使うのか。
相続対策より先に考えるべき問題があるのです。
改正後の制度は必要になれば利用できる
2028年までに法定後見制度が変わるからといって、今すべての人が何らかの契約を結ばなければならないわけではありません。
財産が比較的単純で、家族関係にも問題がなく、特別な財産管理の必要性がない人もいます。
将来支援が必要になれば、その時点の法定後見制度を利用するという考え方もあります。
大切なのは、制度改正を待つか待たないかという二者択一ではありません。
今の自分にどのような準備が必要なのかを確認することです。
何も必要なければ、それを確認できること自体に意味があります。
2028年までにやるべきことは契約だけではない
認知症対策というと、何らかの制度を利用しなければならないと思いがちです。
しかし準備には段階があります。
財産を把握する。
不要な銀行口座を整理する。
重要書類の保管場所を家族に伝える。
自宅を将来どうするか考える。
信頼できる人と話し合う。
金融機関の代理人制度を調べる。
そのうえで必要なら任意後見や家族信託を検討します。
制度を利用することが目的ではありません。
自分が判断できなくなっても生活や財産管理が止まらない状態を作ることが目的です。
結論
2026年6月に成立した改正法によって、法定後見制度は2028年12月までに大きく変わります。
必要な支援を必要な範囲で利用し、必要がなくなれば終了できる制度へ転換します。
しかし認知症対策を2028年まで待つ必要はありません。
むしろ重要なのは、本人に判断能力がある今です。
元気なうちなら、銀行の代理人制度、任意後見、家族信託など複数の選択肢を検討できます。
そして制度を利用する前に、財産を整理し、自宅の将来を考え、自分の希望を家族へ伝えることができます。
制度は待つことができます。
しかし自分で判断できる時間がいつまで続くかは分かりません。
人生100年時代の認知症対策で最も貴重な財産は、実は預金や不動産ではありません。
自分の将来を自分で決められる時間なのです。
参考
日本経済新聞 2026年9月30日夕刊 マネー相談 黄金堂パーラー 認知症と財産管理 上 変わる法定後見 必要なとき利用 解任も可能
日本経済新聞 2026年9月30日夕刊 改正法待たず早めに準備を