企業の価値を考えるとき、売上高や利益、保有する資産などの財務情報は重要な判断材料になります。
しかし、会社を動かしているのは資金や設備だけではありません。そこで働く人も重要な経営資源です。
参考記事では、労務の世界でも情報の数値化や可視化が進み、上場企業では人的資本や多様性に関する情報開示が求められるようになったことが取り上げられています。
人に関する情報を経営から切り離すのではなく、企業の状態を考えるための情報として捉える動きが広がっているのです。
人的資本とは何か
人的資本という言葉は、人が持っている知識や能力などを企業にとって重要な資源として考えるときに使われます。
会社が事業を成長させようとすれば、それを実行できる人が必要です。
新しい事業へ進出するのであれば、新しい分野に対応できる人材も必要になります。
参考記事でも、新しいジャンルに挑戦するとき、必要な能力を持つ人材が社内にいなければ、外部から即戦力を採用するのか、社内の人材に能力を身につけてもらうのか、外部企業との連携を利用するのかといった判断が必要になるとされています。
一見すると事業戦略の問題ですが、その多くは人の問題でもあります。
人材をどのように確保し、どのように活用するかは経営そのものなのです。
なぜ人材に関する情報が重要になるのか
会社が将来どれだけ成長できるのかを考えるには、現在の利益だけを見ても十分ではありません。
事業計画を実行できる人材がいるのかという問題もあります。
たとえば会社が新規事業を計画していても、既存社員がすでに大量の仕事を抱えているのであれば、新しい仕事まで担当できないかもしれません。
人材が不足しているのであれば、新たに採用する必要があります。
必要な能力を持つ人がいなければ、人材育成も必要です。
人に関する情報は、会社の将来の事業遂行能力を考えるうえでも重要な材料になります。
人に関する情報の見える化が進んでいる
労務の難しさの一つは、財務と比べて状態が見えにくいことです。
財務には売上高や利益など、経営者と担当者が共有できる数字があります。
一方、労務については共通言語となる数字が十分に経営へ結びついていないことがあります。
参考記事では、近年は労務の世界にも見える化が求められるようになり、情報の数値化や可視化が進んでいると説明されています。
人に関する状態を数字で把握できるようになれば、経営者も労務を経営課題として議論しやすくなります。
上場企業では情報開示も求められている
参考記事では、上場企業について、人的資本や多様性に関する情報開示が求められるようになっていることにも触れています。
これは、人に関する情報が人事部門だけの内部情報ではなくなってきたことを意味します。
企業を見る側にとっても、人材は企業の将来を考えるうえで無視できない存在です。
どれほど優れた事業計画があっても、それを実行する組織が疲弊していれば計画通りに進まない可能性があります。
逆に、必要な人材が定着し、組織に余力があれば、新しい事業へ挑戦できる可能性も高まります。
人材に関する情報は、企業の持続的な経営を考える材料の一つになるのです。
多様性も人に関する情報の一つ
参考記事では、人的資本とともに多様性に関する情報にも触れています。
企業にはさまざまな人が働いています。
その人材をどのように組織の中で生かしていくのかは、人事だけではなく経営にも関わる問題です。
重要なのは、情報を開示すること自体を目的にしないことです。
数字を公表するためだけに集めるのではなく、自社の人材や組織について考える材料として活用する必要があります。
外部へ説明する数字と、内部の経営判断に使う数字を切り離して考えないことが大切です。
外部への開示だけでは十分ではない
参考記事が特に重要な点として示しているのが、外部への情報開示と社内の労務リスク管理は同じではないということです。
人的資本に関する情報を開示していても、それだけで社内の問題を把握できるとは限りません。
経営者にとって重要なのは、現在の組織がどのような状態なのかを知ることです。
残業が増えていないか。
人材が定着しているか。
組織に余力があるか。
こうした情報を把握して、経営判断に利用する必要があります。
外部に見せるための見える化だけでなく、経営者自身が会社を見るための見える化が必要なのです。
人的資本情報を経営管理に使う
人的資本に関する情報を経営に生かすためには、数字を並べるだけでは十分ではありません。
数字から会社の状態を読み取る必要があります。
たとえば残業時間が継続的に増えているのであれば、組織の余力が小さくなっている可能性があります。
人材の定着に問題があれば、事業を継続するために必要な人員を確保できなくなる可能性があります。
その状態で新規事業を始めるべきなのか。
まず人材を確保するべきなのか。
社内の人材を育成するべきなのか。
こうした判断へつなげて初めて、人に関する情報が経営情報になります。
経営者と労務担当者の共通言語になる
人的資本の見える化には、もう一つ重要な意味があります。
経営者と労務担当者が同じ土俵で話すための共通言語をつくることです。
労務担当者が専門的な制度や法律の説明だけをしても、経営者には経営との関係が伝わりにくい場合があります。
そこで人に関する状態を数字で示し、
現在の組織にはどれくらい余力があるのか。
事業拡大に必要な人材を確保できるのか。
どこに人材面のリスクがあるのか。
という形で伝えます。
そうすることで、労務の問題を経営課題として議論しやすくなります。
結論
人的資本の情報開示が重要になっている背景には、人材を単なるコストとしてではなく、企業経営を支える重要な資源として捉える考え方があります。
会社が成長するためには、事業計画だけではなく、それを実行する人材が必要です。
そのため、人に関する情報を見える化することには大きな意味があります。
ただし、数字を外部へ開示するだけで終わってはいけません。
その数字を自社の経営にも利用し、組織の状態を把握することが重要です。
人的資本の情報を外部への説明資料としてだけではなく、経営者が会社の現在と将来を判断するための情報として使う。
そこまで進んだとき、人的資本の見える化は情報開示から経営管理へと変わっていくのです。
参考
企業実務 2026年9月号 経営を縛るのではなく経営判断に資する労務を目指せ