企業が巨大地震に備える方法として、保険は重要な役割を果たします。
建物や設備が壊れれば修復費用がかかります。
工場が停止すれば売上や利益にも影響します。
こうした損失に備えて保険を利用することには大きな意味があります。
しかし、十分な保険に加入していれば巨大地震への備えは完了なのでしょうか。
必ずしもそうではありません。
保険金を受け取ることができても、工場がすぐに復旧するとは限らないからです。
従業員、取引先、物流、電力、通信などが同時に被害を受ければ、自社の建物が無事でも事業が停止する可能性があります。
巨大地震への備えでは、保険と事業継続を分けて考える必要があります。
巨大地震では同時に多くのものが被災する
通常の工場火災であれば、被害が一つの事業所に限定される場合があります。
他の工場で生産を代替できるかもしれません。
近隣の物流網や電力設備も通常通り利用できる可能性があります。
巨大地震は事情が異なります。
広い地域で工場、倉庫、道路、港湾、鉄道、電力、通信などが同時に被災する可能性があります。
自社の設備だけを復旧すれば事業を再開できるとは限りません。
地域全体の機能が停止することを想定する必要があります。
保険で建物を直しても生産は再開できないことがある
例えば、地震によって工場の一部が損壊したとします。
保険契約の対象となっていれば、契約条件に従って保険金を受け取れる場合があります。
その資金を使って工場を修復できます。
しかし、必要な部品が届かなければ設備を修理できません。
電力が復旧していなければ機械を動かすこともできません。
従業員が出勤できなければ生産できません。
取引先が被災して原材料が届かない場合もあります。
つまり、資金があることと事業を再開できることは別の問題です。
事業停止による損失もある
企業が被る損失は、壊れた建物や設備の修復費だけではありません。
工場が停止すれば製品を出荷できなくなります。
売上が減少します。
一方で、人件費や一定の固定費などは発生し続ける場合があります。
設備そのものの損害より、長期間の事業停止による損失の方が大きくなることも考えられます。
そのため企業の保険を考える場合には、資産の損害だけでなく、事業停止によってどのような経済的損失が生じるのかも考える必要があります。
取引先の被災でも事業は止まる
自社の工場が無傷でも、事業が止まる場合があります。
重要な部品を供給している取引先が被災した場合です。
例えば、一つの部品が届かないだけで完成品を製造できなくなることがあります。
特定の企業だけが生産している部品であれば、短期間で代替先を見つけることは難しいかもしれません。
巨大地震では、自社だけでなくサプライチェーン全体を見る必要があります。
どの部品が止まると生産できなくなるのか。
その部品はどこで生産されているのか。
代替調達先はあるのか。
こうした情報を平時から把握しておくことが重要です。
保険金を受け取れない損失もある
巨大地震によって発生する損失のすべてが、保険で補償されるわけではありません。
保険契約には補償対象や支払限度額などの条件があります。
企業が想定している損失と、実際に契約で補償される損失が一致しているとは限りません。
また、顧客を失ったことによる将来の売上減少や、市場シェアの低下などは、保険だけでは取り戻せない場合があります。
事故後に企業の信用が低下する可能性もあります。
保険に加入しているから大丈夫と考えるのではなく、何が補償され、何が企業自身のリスクとして残るのかを確認する必要があります。
BCPとは何か
こうした事業停止に備えるために重要になるのがBCPです。
BCPは事業継続計画と呼ばれます。
大規模災害などが発生したときに、重要な事業をできるだけ早く再開するための計画です。
どの事業を最優先で復旧するのか。
誰が意思決定するのか。
従業員とどのように連絡を取るのか。
代替拠点はあるのか。
必要なデータを別の場所に保存しているのか。
こうした事項を事前に決めておきます。
保険が損失を資金面から補う仕組みだとすれば、BCPは事業そのものを継続するための仕組みです。
復旧まで何日耐えられるのか
BCPを考えるときには、時間の視点が重要です。
工場が1日停止した場合。
1週間停止した場合。
1カ月停止した場合。
3カ月停止した場合。
企業への影響は大きく異なります。
どの時点から資金繰りが厳しくなるのか。
どの時点から顧客が他社へ移るのか。
どの時点までに生産を再開しなければ事業そのものが危険になるのか。
企業が耐えられる停止期間を把握し、それより早く復旧するための対策を準備する必要があります。
拠点を分散するという方法もある
巨大地震では、特定地域への集中が大きなリスクになります。
本社、工場、物流倉庫、データセンターなどが同じ地域に集中していれば、一つの災害で複数の機能が同時に停止する可能性があります。
そこで生産拠点を分散する方法があります。
重要なデータを別地域でも保存します。
複数の物流拠点を確保します。
重要部品について複数の調達先を持つ方法もあります。
こうした対策にはコストがかかります。
しかし、巨大災害による事業停止リスクを抑える効果があります。
保険とBCPはどちらか一方ではない
保険があればBCPは不要ということではありません。
反対に、BCPを整備すれば保険が不要になるわけでもありません。
巨大地震によって建物や設備が損壊すれば、復旧には大きな資金が必要です。
その資金を確保するために保険が役立ちます。
一方、保険金を受け取っても、代替工場や調達先がなければ事業再開には時間がかかります。
保険とBCPは役割が異なります。
両方を組み合わせることが重要です。
企業内代理店にも新しい役割が求められる
企業内代理店も、単に地震に関する保険を手配するだけでは十分ではなくなる可能性があります。
どの工場にリスクが集中しているのか。
最大でどの程度の損失が発生する可能性があるのか。
保険でどこまで補償されるのか。
企業自身が負担する部分はいくらなのか。
こうした情報を企業側へ示すことが重要になります。
さらに、企業のリスク管理部門などと連携し、保険とBCPを一体的に考えることができれば、企業内代理店の専門性を高めることにもつながります。
結論
巨大地震に対して保険は重要な備えです。
建物や設備が損壊すれば、復旧に必要な資金を保険で確保できる場合があります。
しかし、保険金を受け取ることと事業を継続できることは同じではありません。
道路が使えない。
電力が止まる。
従業員が出勤できない。
取引先から部品が届かない。
こうした状況では、自社の設備を修復できても事業を再開できない可能性があります。
そのため巨大地震への備えでは、保険による資金面の対策とBCPによる事業継続の対策を組み合わせる必要があります。
どのリスクを保険へ移転するのか。
どのリスクを企業自身で負担するのか。
そして事故が起きたときに、どのように事業を再開するのか。
企業のリスク管理では、保険に入っているかどうかではなく、巨大災害が起きても企業活動を続けられるかどうかまで考えることが重要になります。
参考
日本経済新聞 2026年9月29日朝刊 企業内代理店の自立促す 保険販売、金融庁が特例廃止へ カルテルの土壌にメス