都道府県や市区町村が道路や学校、防災設備などを整備するために発行する地方債。
私たちの暮らしに身近な自治体が発行している金融商品ですが、実際に地方債を保有している個人は非常に少ないのが現状です。
2024年度末の地方債の証券残高は69兆4,000億円に上ります。
ところが、個人の保有額は約980億円です。
割合にすると、わずか0.14%です。
地方債の大部分を購入しているのは銀行などの金融機関をはじめとする機関投資家です。
なぜ、自分たちが暮らしている地域の地方債を個人はほとんど保有していないのでしょうか。
2027年4月に始まるデジタル地方債の狙いを理解するためにも、現在の地方債市場の姿を知っておく必要があります。
地方債市場は巨大な市場
地方自治体はさまざまな事業のために地方債を発行しています。
道路や橋を整備する。
学校や公共施設を建設する。
防災設備を整える。
老朽化したインフラを更新する。
こうした事業には多額の資金が必要です。
その資金調達を支えているのが地方債です。
地方債協会によると、2024年度末の地方債の証券残高は69兆4,000億円に達しています。
個人にはあまりなじみがなくても、地方債は日本の金融市場において大きな規模を持つ債券なのです。
地方債を買う中心は機関投資家
では、その地方債を誰が買っているのでしょうか。
中心となるのは金融機関などの機関投資家です。
銀行などの金融機関は、預金などで集めた大量の資金を運用する必要があります。
すべてを企業への融資に回すわけではありません。
国債や地方債などの債券も重要な運用先になります。
地方債は自治体が発行する債券であり、金融機関にとって大きな資金を運用する選択肢の一つになっています。
そのため地方債市場は、個人よりも機関投資家を中心として発展してきました。
個人保有は約980億円
これに対して、個人による地方債の保有は極めて少ない状態です。
2024年度末の地方債の証券残高69兆4,000億円に対して、個人の保有額は約980億円です。
割合は0.14%です。
仮に地方債が100万円あるとすれば、個人が保有しているのは1,400円程度という計算になります。
地方自治体は私たちにとって身近な存在です。
それにもかかわらず、地方債という金融商品になると個人との距離が一気に広がっていることが分かります。
個人向け地方債がないわけではない
個人が地方債を購入できないわけではありません。
個人向けには住民参加型市場公募地方債があります。
一般にはミニ公募債と呼ばれます。
資金の使い道を示したうえで、地域住民や地域への通勤者などに販売する地方債です。
2000年代には人気を集めました。
ピークとなった2006年度には、ミニ公募債の発行額が3,500億円を超えています。
しかし、その後は発行額が減少し、2025年度には約320億円まで縮小しました。
個人が地方債を購入する市場そのものが小さくなってきたわけです。
最大の理由の一つは長く続いた低金利
個人向け地方債が縮小した背景として大きいのが、長期にわたる低金利です。
債券を購入する大きな目的の一つは利息を受け取ることです。
ところが市場金利が低下すれば、地方債の利回りも低くなります。
特に2016年に日本銀行がマイナス金利政策を導入すると、日本の金利は極めて低い状態になりました。
地方債を購入しても十分な利息を期待しにくい環境では、個人が積極的に購入する理由も弱くなります。
機関投資家には資金運用上の必要性がありますが、個人は購入しないという選択ができます。
この違いも地方債の保有構造に影響します。
個人向け国債という選択肢もある
個人が債券へ投資するときには、地方債以外の選択肢もあります。
その代表が個人向け国債です。
国が発行する債券であり、個人向けの商品として広く販売されています。
銀行や証券会社などで取り扱われ、商品としての知名度も高くなっています。
個人が「安全性を重視して債券を購入したい」と考えた場合、まず個人向け国債を思い浮かべることも多いでしょう。
一方、地方債については、自分が住んでいる自治体がどのような地方債を発行しているのか知らない人も少なくありません。
商品そのものを知ってもらう機会の差もあります。
地方債は投資先として分かりにくい
株式であれば、企業名を見れば何に投資しているのか比較的イメージしやすいでしょう。
自動車会社の株式を買えば、その会社に投資している。
銀行株を買えば、その銀行に投資している。
地方債でも本来は同じように考えることができます。
東京都の地方債なら東京都にお金を貸す。
ある県の地方債なら、その県にお金を貸す。
しかし、地方債で調達したお金が具体的に何に使われるのかまで意識して購入する機会は多くありません。
個人から見ると「自分のお金が何につながっているのか」が分かりにくいことも、距離を感じる理由の一つでしょう。
購入者の高齢化という問題もある
現在の個人向け地方債では、購入者の高齢化も課題になっています。
東京都の場合、2025年度の都債発行額は約6,000億円です。
そのうち個人向け都債は豪ドル建てで100億円相当にとどまります。
さらに個人購入額の約80%を60歳以上が占めています。
地方債を個人に広げるといっても、現在のままでは比較的金融資産を多く保有する高齢層に偏ってしまいます。
若い世代をどう取り込むのかが重要になります。
デジタル地方債で個人を呼び戻せるか
そこで期待されているのが、2027年4月から解禁されるデジタル地方債です。
デジタル地方債は、住民参加型地方債の一種として商品化される予定です。
特徴の一つが小口化です。
1万円単位などで購入できる商品をつくりやすくなれば、まとまった金融資産を持っていない若い世代にも参加の可能性が広がります。
さらに、自治体が地方債の保有者を把握しやすくなるという特徴があります。
従来の地方債よりも、自治体と個人投資家との距離を縮められる可能性があります。
金利以外の価値をつくれるか
個人に地方債を広げるためには、金利だけで勝負することには限界があります。
個人向け国債、銀行預金、投資信託など、個人にはさまざまな資金の置き場所があるからです。
そこでデジタル地方債では、地域への投資という価値が重要になります。
例えば、
豪雨対策のための地方債。
学校整備のための地方債。
地域交通を守るための地方債。
太陽光発電設備を整備するための地方債。
こうした形で資金使途を明確にすれば、単なる利回り比較とは違う判断基準が生まれます。
自分が必要だと思う地域事業にお金を出すという選択です。
0.14%が変わることの意味
個人保有比率0.14%という数字は、逆に考えれば個人向け地方債には大きな余地が残っているともいえます。
もちろん、69兆4,000億円という地方債市場の大部分を個人が保有する必要はありません。
機関投資家は今後も地方債市場を支える重要な存在です。
しかし、個人が地域の地方債を少額でも購入するようになれば、資金調達先が多様になります。
それ以上に重要なのは、地域住民が自治体の財政や事業に関心を持つきっかけになることです。
地方債の購入を通じて、
自治体は何にお金を使っているのか。
なぜ借金が必要なのか。
その事業は地域に何を残すのか。
といったことを考える人が増える可能性があります。
結論
2024年度末の地方債の証券残高は69兆4,000億円に上りますが、個人の保有額は約980億円、わずか0.14%です。
地方債市場の中心は銀行などの金融機関をはじめとする機関投資家です。
個人向けにはミニ公募債もありますが、発行額は2006年度の3,500億円超から2025年度には約320億円まで縮小しました。
長期間の低金利、個人向け国債など他の金融商品の存在、地方債そのものの分かりにくさなど、さまざまな要因があります。
さらに東京都の個人向け都債では、購入額の約80%を60歳以上が占めています。
そこで2027年4月から始まるデジタル地方債では、1万円単位などへの小口化や、具体的な資金使途を示すことによって若い世代を含む新しい投資家を呼び込むことが期待されています。
地方債を機関投資家だけの金融商品から、個人も参加できる地域投資へ変えられるのか。
現在わずか0.14%という個人保有比率が今後どう変化するのかは、デジタル地方債の可能性を測る一つの指標になりそうです。
参考
日本経済新聞 2026年9月29日朝刊 「デジタル地方債の可能性 地域に投資、裾野広げる 個人の購入、増やす契機」