中古マンションを購入してリノベーションするとき、建物の構造上は可能な工事であっても、実際には施工できないことがあります。
その理由の一つがマンションの管理規約です。
マンションは一戸建てと違い、多くの区分所有者が一つの建物で生活しています。一戸の工事が騒音や振動、漏水などを通じてほかの住戸へ影響する可能性があります。
そのため、マンションでは管理規約や使用細則によって、リフォームやリノベーションについて独自のルールを設けていることがあります。
築古マンションを購入してから希望する工事が禁止されていることに気づかないためにも、購入前に管理規約や使用細則を確認することが重要です。
管理規約とは何か
管理規約とは、マンションの管理や使用について定めた基本的なルールです。
分譲マンションでは、一つの建物を多数の区分所有者が共同で所有しています。
専有部分はそれぞれの区分所有者が所有しますが、廊下、階段、エレベーター、外壁などの共用部分は区分所有者全員で管理します。
そのため、誰がどの部分を管理するのか、共用部分をどのように利用するのか、管理費や修繕積立金をどのように負担するのかといったルールが必要になります。
管理規約は、いわばそのマンションで生活し、建物を共同管理するための基本ルールです。
リフォームについても、工事を行う際の手続きなどが管理規約に定められていることがあります。
使用細則とは何が違うのか
管理規約とは別に、使用細則などが設けられているマンションがあります。
管理規約がマンション管理の基本的なルールであるのに対し、使用細則は日常生活や施設利用などについて、より具体的なルールを定めるものです。
例えば、駐車場や駐輪場の利用方法、ペット飼育、ゴミ出し、共用施設の利用方法などが定められることがあります。
リフォームについても、工事可能な曜日や時間、管理組合への申請方法、工事業者の出入り、使用できる床材などについて具体的なルールが設けられる場合があります。
マンションによっては、リフォーム工事に関する独立した細則を設けていることもあります。
したがって、管理規約だけを読めば十分とは限りません。
リノベーションを考えている場合には、関連する使用細則なども含めて確認する必要があります。
専有部分でも自由に工事できるとは限りません
マンションの住戸内部には、区分所有者が所有する専有部分があります。
前回取り上げたように、壁紙や室内設備などは一般的に専有部分です。
しかし、専有部分だからといって、所有者が無条件で好きな工事をできるわけではありません。
例えば床材を変更したことで階下への騒音が大きくなれば、ほかの住民の生活に影響します。
水回りを変更したことで漏水が発生すれば、階下の住戸に損害を与える可能性があります。
マンションでは、一つの専有部分で行われる工事が建物全体やほかの住戸へ影響する可能性があるため、管理規約などによって一定の制限を設けているのです。
床材には遮音性能が求められることがあります
リノベーションで特に注意したいのが床です。
築古マンションでは、古いカーペットや畳をフローリングへ変更したいという希望もあるでしょう。
しかし、床材を変更すると階下へ伝わる音が変わる可能性があります。
歩く音、椅子を動かす音、物を落としたときの音などが問題になることがあります。
そのため、マンションによってはリフォームで使用する床材について一定の遮音性能を求めています。
見た目が気に入ったフローリング材があったとしても、そのマンションが定める基準を満たさなければ使用できない場合があります。
床は自分の住戸の中にあるから自由に選べる、と単純には考えられないのです。
土間への変更が問題になることもあります
近年のリノベーションでは、玄関から室内の一部までをコンクリートやモルタルなどで仕上げ、広い土間として利用する設計もあります。
自転車やアウトドア用品を置いたり、作業スペースとして利用したりできるため、魅力を感じる人もいるでしょう。
しかし、硬い床は衝撃を吸収しにくく、物を落としたときなどの音が階下へ伝わりやすくなることがあります。
実際に築古マンションでは、土間を設けた住戸から発生する音を巡って住民間のトラブルとなり、その後、管理組合が細則を見直してモルタル打ちの施工を禁止した事例もあります。
構造上施工できることと、マンションとして認められていることは別の問題なのです。
工事前に管理組合への申請が必要な場合があります
マンションのリフォームでは、工事を始める前に管理組合などへの申請を求められることがあります。
工事内容や工事期間、施工業者などを記載した書類を提出し、必要な承認を受けてから工事を始める仕組みです。
大規模なリノベーションでは、壁や床を解体する際に大きな音や振動が発生します。
工事業者や資材の搬入によってエレベーターや共用廊下を使用することもあります。
そのため、工事可能な時間帯や曜日を定めたり、共用部分を養生することを求めたりするマンションがあります。
工事内容によっては、図面や仕様書などの提出を求められる場合もあります。
リノベーション会社と契約して工事日程を決める前に、どのような申請手続きが必要なのか確認しておくことが重要です。
管理組合の承認があれば何でもできるわけではありません
管理組合から工事の承認を得れば、どのような工事でもできるというわけでもありません。
建物の柱や梁、耐力壁などの共用部分を勝手に変更することはできません。
建築関係の法令に適合することも必要です。
さらに、承認された工事内容と実際の施工内容が異なれば問題になります。
管理組合への申請は、リノベーションを自由にするための許可ではなく、その工事がマンション全体に問題を生じさせないか確認するための手続きと考える必要があります。
マンションごとにルールが違います
中古マンション選びで難しいのは、リノベーションのルールがすべてのマンションで同じではないことです。
あるマンションでは認められている床材が、別のマンションでは使用できないことがあります。
ペット飼育などと同じように、マンションごとに管理規約や使用細則が異なるからです。
さらに、同じマンションでもルールが将来変わることがあります。
騒音や漏水などの問題が繰り返し発生すれば、管理組合がルールを見直し、新たな制限を設けることも考えられます。
築古マンションでは長い年月の間にさまざまな問題が発生し、その経験が細則などに反映されている場合もあります。
細かい規制が多いことを単純に悪いことと考える必要もありません。
住民間のトラブルを防ぎ、建物を適切に維持するためにルールが整備されている可能性もあるからです。
購入前に管理規約を確認することが重要です
リノベーションを前提として中古マンションを購入する場合、管理規約や使用細則を確認する時期が重要です。
物件を購入した後ではなく、できるだけ購入前に確認します。
例えば、無垢材のフローリングにしたい、広い土間を設けたい、水回りを大きく移動したいといった具体的な希望があるなら、その工事が認められるか確認しておく必要があります。
仲介会社などを通じて管理規約や使用細則を確認するとともに、必要に応じてリノベーション会社や建築士などの専門家に見てもらう方法もあります。
希望する工事ができないことが購入後に判明すれば、リノベーション計画そのものを変更しなければならなくなるからです。
管理規約はマンションの管理状態を見る材料にもなります
管理規約や使用細則を確認することには、もう一つ意味があります。
そのマンションがどのように管理されているのかを知る材料になることです。
騒音やリフォーム工事などについて明確なルールがあり、必要に応じて見直されているマンションであれば、管理組合が建物や住環境の維持に取り組んでいることを知る手掛かりになります。
中古マンションでは、住戸内部の状態だけではなくマンション全体の管理状態が重要です。
特に築40年、50年と建築から長い年月が経過したマンションでは、これまでどのように管理されてきたかが今後の住みやすさや建物の維持に大きく関係します。
管理規約を読むことは、単に禁止事項を探すためだけではないのです。
結論
マンションの管理規約とは、多くの区分所有者が一つの建物を共同で所有し、生活していくための基本的なルールです。
さらに使用細則などによって、リフォーム工事の方法や床材の遮音性能、工事時間、管理組合への申請方法などが具体的に定められている場合があります。
重要なのは、建物の構造上施工できる工事であっても、マンションのルール上は認められない場合があることです。
特に床材の変更や土間の設置などは、階下への騒音につながる可能性があるため注意が必要です。
築古マンションをリノベーションする場合には、物件を購入してから管理規約を確認するのではなく、購入前に確認することが重要です。
建物には「構造上変えられないもの」があります。
そしてマンションには「ルール上変えられないもの」もあります。
この両方を確認したうえで物件を選ぶことが、希望するリノベーションを実現し、購入後のトラブルを防ぐための重要なポイントになります。
参考
日本経済新聞 2026年8月18日 夕刊 築古物件 リノベ不可の盲点
日本経済新聞 2026年8月18日 夕刊 耐震性、地盤の固さも重要