かつて運転免許は、若者にとって大人になる過程で取得するものの1つでした。
高校を卒業したら教習所に通う。大学生のうちに免許を取る。就職するまでには運転できるようにしておく。
こうした考え方が当たり前だった時代があります。
しかし現在では、運転免許を取らないという選択をする若者が増えています。
背景にあるのは少子化だけではありません。
公共交通機関の充実、自動車を所有するコストの上昇、生活スタイルの変化、そして自動車教習所そのものの減少など、複数の変化が重なっています。
若者の免許保有者は実際に減っている
若者の免許離れは数字にも表れています。
警察庁の運転免許統計によると、24歳以下の運転免許保有者数は2021年末から2025年末までの間に約36万7,000人減少しました。
減少率は6.7%です。
さらに、第1種普通免許を保有する19歳以下に限ると、同じ期間に約8万8,000人減少しています。
減少率は12.3%です。
もちろん、この背景には少子化があります。
若者そのものが減っているため、免許保有者が減るのはある程度当然ともいえます。
しかし、それだけでは説明できない変化も起きています。
免許は必ず取るものではなくなった
以前は、自動車を所有する予定がなくても、とりあえず運転免許だけは取っておくという人が少なくありませんでした。
就職活動で必要になるかもしれない。
将来仕事で運転するかもしれない。
家族を持ったら自動車が必要になるかもしれない。
こうした将来への備えとして運転免許を取得していたのです。
ところが、現在では免許を持つこと自体の必要性を考えてから取得する若者が増えています。
特に都市部では、鉄道やバスを使えば日常生活の多くを完結できます。
自動車を使う機会がほとんどないのであれば、時間とお金をかけて免許を取得する必要性を感じにくくなります。
運転免許が必需品から選択肢の1つへ変わりつつあると考えられます。
クルマを持たなくても生活できる
若者の免許離れを考えるうえで重要なのが、生活環境の変化です。
特に大都市では、自動車がなくても生活しやすい環境があります。
鉄道や地下鉄、バスを利用すれば、通勤や通学だけではなく買い物やレジャーにも行くことができます。
スマートフォンを使えばタクシーなどを呼ぶこともできます。
旅行など一時的に自動車が必要になれば、レンタカーやカーシェアを利用する方法もあります。
自動車を所有することと、自動車を利用することが必ずしも同じではなくなったのです。
こうした環境では、まず自動車を所有し、そのために免許を取るという従来の順序そのものが変わってきます。
自動車を所有するには多くのお金がかかる
自動車は購入して終わりではありません。
車両の購入費用に加えて、自動車税、保険料、車検費用、ガソリン代、整備費用などが継続的に発生します。
都市部では駐車場代も大きな負担になります。
一方、公共交通機関を中心に生活し、必要なときだけレンタカーやカーシェアを使えば、自動車にかかる固定費を抱える必要はありません。
自動車を利用する頻度が少ない人ほど、所有しないことの経済的なメリットは大きくなります。
若者のクルマ離れは、単純に自動車への興味がなくなったという問題ではなく、家計から見た合理的な選択という面もあります。
免許を取ることにも時間とお金がかかる
自動車を所有する前に、そもそも運転免許を取得するための負担があります。
教習所に通うには教習料金が必要です。
さらに、学科教習や技能教習を受けるための時間も確保しなければなりません。
学生であれば授業やアルバイト、社会人であれば仕事との調整が必要になります。
免許を取得した後に頻繁に運転するのであれば、その負担には意味があります。
しかし、免許を取得してもほとんど運転しないのであれば、費用と時間をかける意味を感じにくくなります。
免許取得そのものについても費用対効果を考える時代になっているのです。
教習所の減少が免許離れを加速させる可能性もある
さらに興味深いのが、自動車教習所の減少です。
若者が減れば、教習所の利用者も減ります。
利用者が減れば教習所の経営が厳しくなり、閉校する教習所が増えます。
すると、免許を取得したい人にとっても教習所が遠くなります。
仕事や学校の帰りに通える教習所がなくなれば、免許取得の負担はさらに大きくなります。
その結果、免許取得を諦める人が出てくる可能性があります。
若者の減少によって教習所が減り、教習所の減少によって免許取得者がさらに減るという循環が生まれる可能性があるのです。
地方では事情が大きく異なる
ただし、若者の免許離れを全国一律に考えることはできません。
東京や大阪など公共交通機関が発達した地域と、鉄道やバスの少ない地方では自動車の必要性が大きく違うからです。
地方では通勤や通学、買い物などに自動車が必要な地域があります。
就職先によっては運転免許が事実上必要になる場合もあります。
つまり、若者の免許離れには大きな地域差があります。
都市部では免許を持たない生活が現実的になっている一方、地方では依然として免許が生活や就職に必要なインフラになっています。
この違いは、今後の教習所の経営にも大きく影響することになります。
若者のクルマ離れという言葉だけでは見えない
若者のクルマ離れという言葉からは、若者が自動車に興味を失ったような印象を受けます。
しかし実際には、社会の側が大きく変化しています。
若者の人口が減りました。
公共交通機関が充実している都市部では自動車を所有する必要性が低下しました。
自動車を所有すれば継続的な費用がかかります。
そして、必要なときだけ自動車を利用するという選択肢も広がっています。
こうした環境のなかで、若者が免許を取得する必要性を改めて考えるようになったと見ることもできます。
単なる価値観の変化ではなく、人口、交通、家計、生活スタイルの変化が重なった結果なのです。
結論
若者が運転免許を取らなくなっている背景には、少子化だけではない構造的な変化があります。
特に都市部では公共交通機関が充実し、自動車を所有しなくても生活できる環境が整っています。
自動車には購入費用だけではなく、駐車場代、保険料、税金、車検費用などの継続的な負担があります。
さらに免許取得そのものにも時間とお金が必要です。
その結果、運転する機会が少ない若者にとって、免許を取らないことが現実的な選択肢になっています。
一方、地方では自動車が依然として重要な生活インフラです。
これから考えるべきなのは、若者がクルマから離れたということだけではありません。
人口減少と生活環境の変化によって、運転免許そのものの社会的な位置付けが変わり始めているということではないでしょうか。
参考
日本経済新聞 2026年9月28日 「車免許『要らない』 消えゆく教習所 若者の車離れ鮮明、シニアと外国人中心に」
日本経済新聞 2026年9月28日 「高齢者向け再教育の拡充を」