自動車教習所は、これから大きな再編期を迎える可能性があります。
最大の理由は、運転免許を取得する中心世代である若者が減少していくことです。
指定自動車教習所の普通免許卒業者は2025年に約103万人でした。
しかし、少子化による18歳人口の減少が続けば、卒業者は2030年前後に100万人を下回り、2050年には約68万人まで減少するとの試算があります。
教習所の数も2025年末の1,277校から、2050年には約840校まで減少する可能性があります。
現在ある教習所の約3校に1校が姿を消す計算です。
なぜこれほど大きな縮小が予想されるのでしょうか。
教習所を支えてきたのは若者だった
自動車教習所の主要な顧客は、長い間、初めて普通免許を取得する若者でした。
高校卒業前後や大学在学中に教習所へ通い、普通免許を取得するという流れです。
つまり、教習所にとって18歳前後の人口は市場規模を左右する重要な数字です。
この年齢層が減少すれば、免許を取得する人も基本的には減っていきます。
これまで教習所は毎年新しい若者が一定数入ってくることを前提として経営することができました。
その前提が少子化によって崩れ始めています。
18歳人口は100万人を割り込む
リクルート進学総研が文部科学省の学校基本調査をもとにまとめた予測では、18歳人口は2025年の約110万人から2030年には約106万人へ減少します。
2035年には約98万人となり、100万人を下回る見通しです。
教習所の市場を考えるうえでは非常に大きな変化です。
仮に若者が免許を取得する割合が変わらなかったとしても、対象となる若者そのものが減れば教習生は減少します。
さらに都市部を中心に免許を取得しない若者が増えれば、人口減少以上のペースで教習生が減る可能性があります。
少子化と免許離れが同時に進むことが、教習所にとって大きな問題なのです。
2050年には普通免許卒業者が約68万人になる可能性
指定自動車教習所の普通免許卒業者は2025年に約103万人でした。
18歳人口の将来予測に業界再編の加速を織り込んだ試算では、卒業者数は2030年前後に100万人を下回るとされています。
さらに2050年には約68万人まで減少する可能性があります。
2025年と比較すると約35万人の減少です。
約25年間で市場が大幅に縮小することになります。
教習所は教習車、教習コース、校舎など一定規模の設備を必要とする事業です。
利用者が減ったからといって、簡単に固定費を減らせるとは限りません。
この点が、教習生の減少を経営問題へ直結させます。
教習所は2025年末に1,277校ある
2025年末時点で指定自動車教習所は1,277校あります。
しかし、今後の需要減少を考えると、すべての教習所が現在のまま存続することは難しくなります。
試算では、2050年には約840校まで減少する可能性があります。
1,277校から840校ですから、約437校の減少です。
現在の教習所の約34%に相当します。
おおむね3校に1校が姿を消す規模です。
もちろん、これは将来予測であり、2050年に必ず840校になるという意味ではありません。
それでも、若年人口が長期的に減少する以上、教習所業界が縮小圧力を受けるという大きな方向性は変わりにくいと考えられます。
教習所は利用者が減っても維持費がかかる
教習所経営が難しい理由の1つは、一定の設備を維持しなければならないことです。
教習コースがあります。
教習車があります。
校舎があります。
そして教習を担当する指導員も必要です。
利用者が多少減ったとしても、これらをすぐ半分にすることはできません。
教習生が減少すると、1人当たりで負担する固定費が大きくなります。
さらに、教習車の更新や設備改修、デジタル化への投資なども必要です。
利用者減少と設備投資負担が同時に進めば、規模の小さな教習所ほど経営が厳しくなる可能性があります。
都市部では土地の価値という別の問題もある
教習所の閉校は地方だけの問題ではありません。
東京都内でも閉校する教習所が出ています。
都市部では利用者減少に加えて、土地の価値という問題があります。
自動車教習所には広い教習コースが必要です。
地価の高い地域では、その広大な土地を教習所として利用し続けるより、住宅や商業施設など別の用途に転換した方が経済的な価値が高くなる場合があります。
少子化によって将来の教習生が減る一方で、土地には別の利用価値があります。
その結果、地方とは異なる理由で都市部の教習所が姿を消す可能性があります。
教習所が減ればさらに利用しにくくなる
教習所の減少には、もう1つ注意すべき点があります。
教習所が減れば、残った利用者の利便性も低下する可能性があることです。
これまで自宅や学校、勤務先の近くに教習所があった人が、より遠い教習所まで通わなければならなくなります。
移動時間が長くなれば、学校や仕事と教習を両立することが難しくなります。
その結果、免許取得そのものを諦める人が出てくる可能性があります。
教習生が減るから教習所が減る。
教習所が減るから免許を取りにくくなる。
免許を取りにくくなることで、さらに教習生が減る。
こうした循環が生じる可能性があります。
すべての教習所が同じように減るとは限らない
一方、教習所の需要そのものがなくなるわけではありません。
これから重要になるのが高齢者です。
70歳以上の人が免許更新時に受ける高齢者講習の需要は、高齢化によって増加する可能性があります。
外国人ドライバーの教育という新しい需要もあります。
物流などの人手不足を背景に外国人ドライバーが増えれば、日本の交通ルールや運転方法を学ぶ場が必要になります。
さらに、合宿免許によって全国から教習生を集めることもできます。
地域の18歳人口だけに依存する教習所と、高齢者、外国人、合宿免許など複数の利用者を取り込める教習所では、将来の経営状況が大きく異なる可能性があります。
教習所業界でも再編が進む
市場が縮小する業界では、一般的に企業の再編が起こりやすくなります。
教習所も例外ではありません。
経営が難しくなった教習所が閉校するだけではなく、資金力のある企業や大手教習所グループの傘下に入るケースが増える可能性があります。
大手グループであれば、予約システムなどのIT投資を複数の教習所で共有できます。
広告や集客を一体化することもできます。
外国人向けサービスや合宿施設への投資も行いやすくなります。
これからの教習所業界では、単純な閉校だけではなくM&Aによる集約も重要な動きになると考えられます。
2050年の教習所は今とは違う施設になる
2050年に教習所が約840校まで減ったとしても、残った教習所が現在と同じ姿で営業しているとは限りません。
若者に普通免許を取得させることだけが中心業務ではなくなる可能性があります。
高齢者への再教育を行う。
外国人ドライバーを育成する。
企業の安全運転研修を行う。
地域住民への交通安全教育を担う。
こうした役割が大きくなることが考えられます。
利用者の中心が変われば、教習所のビジネスモデルそのものも変わることになります。
結論
自動車教習所は、人口減少の影響を直接受ける業界の1つです。
18歳人口は2025年の約110万人から2035年には約98万人へ減少すると予測されています。
指定自動車教習所の普通免許卒業者も、2025年の約103万人から2050年には約68万人まで減少するとの試算があります。
その結果、2025年末に1,277校ある教習所が2050年には約840校となり、現在の約3校に1校が姿を消す可能性があります。
しかし、これは単純に教習所という業界が縮小して終わる話ではありません。
高齢者講習、外国人ドライバー教育、合宿免許、企業向け安全運転教育など、新しい需要もあります。
これから起こるのは教習所の消滅というより、教習所の選別と再編なのかもしれません。
2050年まで生き残る教習所には、若者の免許取得だけに依存しない新しい役割が求められることになりそうです。
参考
日本経済新聞 2026年9月28日 「車免許『要らない』 消えゆく教習所 若者の車離れ鮮明、シニアと外国人中心に」
日本経済新聞 2026年9月28日 「高齢者向け再教育の拡充を」